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REMEMBRANCE

全体公開 TRPG 4472文字
2023-07-13 17:14:37

CoC【誰がロックを殺すのか】自陣のお話。ネタばれ含むため、未通過・現行✖


バタバタと、大きな布が風にはためく音がする。差す日の色はやや黄色味を帯び、吹く風に時折冷たさを覚える。
肌に感じる秋の気配。広場になった屋上のベンチに一人腰かける人影は、膝に置いたノートPCのキーボードを叩く手を止め、空を見上げた。

―――今から約ひと月前。開催されていた音楽フェスで起きた竜巻事故。当時出演していた【Lahney Laas】の演奏中に発生し、多くの出演者や観客が突然の竜巻により被害を受けたというもの。

だが、あれが自然災害などではなく、人知の及ばぬ存在によるものであることを知っているのは、元凶たる【悪意ある音の塊】トルネンブラと対峙した彼らだけであった。

その時にメンバーも傷つき病院へと担ぎ込まれたが、中でもリーダーである璃央が【なぜか致死量に等しい血液が全身から失われた状態】で倒れ、意識を取り戻すのにも一番時間が掛った。
集中治療室を出た後も大量に体内から血液が消失していた原因を突き止めるための検査に追われ、病室から自由に出ることもままない状態だったが、先日ようやっと軟禁状態から解放されたのだった。
その開放感からか大きく伸びをするその背後から聞きなれた声が呼びかけてくる。

「リオ。やっと閉じ込めらずに済むようになったのかよ」

振り返るとギターケースを背負うすらりとしたスレンダーな姿が、缶コーヒーを二つ手にして笑みを向けてくる。名を呼ばれた方はそのまま此方へと歩いてくる彼女に向かってため息交じりの苦笑いを零した。

「んぁー。みょーかか。やーっと自由に出してもらえるようになってさ。検査室との往復だけって日々から解放されたって感じだな。もう、みんなは退院してるんだろ?」
「まぁね。リオが一番重体だったし。しゃーねーわ。……あー、メグとヨシコの事、聞いた?」
「ああさっきななさんから聞いた。……二人とも、ショックっつーか気落ちとかしてね?」

先ほど、見舞いに来たマネージャーの菜々緒から言い出しにくそうに告げられた事を思いだし、璃央は眉根を寄せる。
なんでも、キーボード担当のよし子は事故のショックからか今までのように弾けなくなり、ドラム担当の恵は、以前患っていた難聴が急に再発、悪化し、完全に耳が聞こえなくなったという。

「んーー……二人とも、表には出そうとしてないけど、多分、ね。ほい、コーヒー。別に飲み食いするもんに制限はかけられてないんでしょ?」

璃央は差し出された缶コーヒーに礼を述べつつ受け取ると、膝に置いたノートPCを閉じ、隣に腰かけようとする彼女のためのスペースを作る。背負っていたギターケースをベンチの背に立てかけ、明日歌は璃央が空けたスペースに並んで腰を下ろした。

そっか……多分、トルネンブラがいなくなったからだろうな
どうしてそう思うわけ?」
「ほら、ミューフェスの前にみょーかが自分が本物の42mpだって言ってきたとき、偽物の方から連絡あったろ?その時に偽物が言ってた【お友達も、愛されているお友達も。過去に愛されたお友達も】ってセリフ。【愛されているお友達】は間違いなくよしこちゃんだ。【過去に愛されたお友達】ってーのは、おそらく恵からのファンレターを読んだタカハシがどうにかしてやりたい、と思った結果トルネンブラによって難聴が治った事を指してんじゃねーかってさ。二人とも、あのはがきの文字が読めてたからさ。本人が望む望まざるに関わらず、トルネンブラとの関りや加護を得ていたんだろうな

飽くまでも自分の考えに過ぎないが、と付け加えて手にした缶コーヒーのプルタブを起こせば、カシュッ、という小気味いい音を立てて飲み口が開く。

「ほーん意外にちゃんと考えてるんじゃん。ま、あの二人から直で聞いたわけじゃないし、真偽は謎のままだけどさ。……あたしもそう考えてる」
「ははっ、意外に、は余計だろーよ。ただ、恵の難聴が酷くなった、てのは気になるな。加護がなくなったから、以前の状態に戻ったとかならわかるんだが」

しばらく考え込む璃央だったが、お手上げ、といった感じで顔を上げる。

「いくら考えても分からねーもんは仕方ないか。あー、そーいやここに俺がいるって、ななさんに聞いたのか?」
「そ。さっきアンタの部屋に行く途中ですれ違ってさで、原因って判ったわけ?謎の大量失血ってやつ」
ま、結局原因不明で終了ってとこ。……なぁ、俺もあれは夢かなんかだったのかって、思っちまうんだけどさみょーかは、どう思ってる?」

開けた缶を口をつけることなく手元に握りこんだまま身を屈め、視線を隣に座る明日歌に向けて、ワントーン声を落として問う。

あれってリオが、倒れた時の?」

明日歌の問いに璃央は頷く。
タカハシが残した曲を完成させ抵抗しても、どれだけ相手にダメージを与えているか分からないまま音の刃でズタボロにされていく。中でも明らかに後のないほどに傷ついた璃央が「今が命の賭け時だ」と笑って、譲り受けていた音響石と呼ばれる石をステージの上で掲げ、石から発生した高い音と共に内側から身が裂け、血を全身から噴き出し、倒れ、同時に悪意ある音の塊を退散せしめることができた。
到底夢とは思えない記憶と感覚が脳裏にまざまざと蘇るが、しかし実際に起きた事なのかと考えると現実味が薄く。何より世間ではただ倒れただけ、とされている事に本当に起きた事だったのか、自分一人が見た幻なのでは、と璃央は不安を感じていた。

……隣であんなシーン見せられたあたしが忘れられるワケあるか」

めったに見せることのない彼の不安そうな姿に、明日歌は冷たいコーヒーを喉に流し込み、大きくため息を吐く。
全身にいくつも大きく深く開いた裂け目から噴水のごとく血を噴出して倒れる様を、頬に飛んだ彼の血の生温かさを思いだし眉間に皺を寄せた。
その様子に、自分だけの思い違いではなかったという安堵感と、酷いものを見せてしまった申し訳なさに璃央はガリガリと頭を掻く。

悪ぃ、嫌なこと思い出させちまったな」
「分かったら、今度なんか奢れよな。でも正直、あたしもあの時ダメだと思った」
「だよな。あの時、ああ、死ぬってこういう事なんだなって感じたし、多分、本当に死んだんだと、思う」
………

繰り返し思いだすあの瞬間。
―――全身いたるところに大きく開いた、骨が見えるほどの裂傷と裂けた喉笛、勢いよく噴出し、急速に体内から消失していく血液のあまりにも生々しい感覚。そして【死】というものをその身に覚えた瞬間。素人目に見ても助かるはずのないダメージだ。
それが、なぜ。
二人とも同じ疑問を抱いているのは間違いなく。だがそれを追求しようとすればジワリと滲む深淵のごとき不安と恐怖に飲み込まれる。

なぜ、生きている?
そして、なぜ、それが【なかった事】になっている?

戸惑うような声音で呟く璃央の、缶を持つ手にわずかに力がこもる。そんな様子のリーダーに一瞬押し黙るも、明日歌は握りこんだ拳で隣に座る彼の二の腕を軽く小突く。

「ぁ痛った!」
「ばーか。今こうしているんだから死んでるわけないだろ。ほら、もっと生きてる実感させてやろうか」
「いていて、わぁーかったって!」

薄い身体ながらもしっかりと筋肉の付いた璃央の腕に、女である明日歌の戯れ程度の軽いパンチなど痛いはずもないが、お互いに沸き上がった不安と疑問を敢えて、気づかない振りをしようと互いに心に決め。振り払うようにふざけて、笑う。
明日歌のその手が、不意に止まり、視線をそらして居住まいをただす。

あの、さ。……無理、させてごめん。多分、あたしがリオの立場なら、きっと同じことしてた。そもそも、あたしがやり返してやろう、なんて言わなかったらこんな目には遭ってなかったんじゃないかって。だからごめん」
ばーか。俺は無茶はするけど無理はしねーよ。それに、みょーかの言葉がなくてもどの道やらなきゃならなかったのは変わらないしな。でも、自分が俺の立場なら同じ事してたっていうのは分かる。なんだかんだ、責任感強いもんな。みょーかも」

先ほど向けられた言葉を小さく笑いながらそのまま返して。璃央は手にした缶コーヒーに口をつける。その横顔に安堵を覚えつつ、一つ、心に決めたことを明日歌は告げる。

「あー、そーだ。あたしさ、一個でかい目標立てたんだよ。ラーラーでさ、天下取ってやるって」
「へぇ。随分大きい目標立てたもんだな。リーダーの俺としてはめっちゃ嬉しいけど。でも、どーしてだよ」
……あの時、めちゃめちゃ悔しかったんだ。みんなの頑張りに追い付けなかった自分が。あれだけやってやるー!って思ってたのにさ

ぐ、と煽って空になったコーヒーの缶に視線落として弄びながら、独白にも似た呟きを零す。

「だから、もっともっと練習して、世界の音楽シーンのトップ取ってやって、『どーだ!これがLahney Laasのロックだ!』って中指立ててやりたいなって。あたしらを馬鹿にしたあの偽物と音楽の神様とやらにさ。そのためにもとっとと退院してきなよ。あたしも、メグもヨシコも、あんたがいなきゃ張り合いがないんだからさ。リーダー」

そう告げる明日歌の表情は決意に満ちていて。リーダーへと握った拳を掲げてみせる。璃央も同じように掲げた拳を手首で打ち付けあい、お互いに顔を見合わせて笑みを浮かべた。

「ああ、絶対に見返してやろう。そのためにもとっとと戻ってリハビリしたいところだけど練習方法もいろいろ考えなきゃなんないだろうし。はは。ここにいる間にもやる事たくさんだな」
「退院の目途が立ったら速攻教えろよな。その日にもうスタジオ押さえとくからさ。あ。そうそう。菜々緒さんがリオからの頼まれもの持ってくるときにメグとヨシコと一緒に来るって。二人ともあんたに腹パンかますって息巻いてたから覚悟しなよ」
「望むところだって怖!パンチされるのは身に覚えはあるけど!怖!」
「ははは。諦めな」

おどけて脅えて見せる璃央に笑って答えると、明日歌はベンチから立ちあがると立てかけてあったギターケースを背負いなおす。

「んじゃ、あたしはこれからスタジオ行ってくる。リオも体冷やさないうちに部屋戻りなよ」

じゃ、と手を振り屋内へと続く扉に姿を消す明日歌を見送れば、再び膝の上のノートPCを開いてキーボードを叩き始める。
画面に映るのはすでに演奏しなれた自分たちの定番曲のコードだ。それの低音部をメインにピックアップし音と譜面とをリンクさせ、いわゆる音ゲーのようにドラムを叩くリズムを音が聞こえずとも視覚と体感とで覚えさせるためのツールとして新たに書き起こしプログラミングしていく。
せめて自分にできることをと、打ち込む姿は陽が傾き始める頃までその場から動くことはなかった。


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