反転ドラヒナで母の日ネタ…といいますか。話を書くのを、本編→反転→Δで回していたら、母の日が反転になって困ってしまって、カーネーションの花言葉で逃げた、という感じです。
反転なのに不穏要素が少ないのは、両思いになったヒナイチくんが、監視任務について間がないツンデレ時代を思い出して語っているからです。
ヒナイチくんがオレンジのカーネーションをあげた後、ロナルドくんも合流して、反転みっぴきがわちゃわちゃするシーンを追加しました。反転ヒヨシ兄ちゃんは、謙虚でおどおどしてるキャラだったと思うので、真面目に弟達を育てたんじゃないかな。
2023/05/17に上げました。
@kw42431393
妙に静かだな…そろそろドラルクが屋根裏の私を呼びに来てもいい頃だ。
「いや、何を待ってるんだ。私は…。」
思わず、独り言が出る。
『ヒナイチくん、クッキーが焼けたよ。降りておいで。』
その言葉を期待して…そんなはずがない。頭を振って、否定する。
ドラルクの監視員となって、数ヶ月が経った頃だろうか。その頃には、任務で城へ行けない時以外は、三食とおやつはドラルクの手製の物を振る舞われる様になっていたと思う。私はすっかり胃袋を掴まれて、他の何を食べても物足りなく感じる様になっていたのだ。
それに、私が外食してくるとあいつの表情が能面の様に変わる事があって…妙にゾッとしたのを覚えている。それで、よけいに他の料理を食べなくなったかもしれない。ダンピール程ではないが、彼らも嗅覚が敏感なのだ。嘘をついてもバレてしまう事が多かったな。
今になって考えると、この頃にはあいつの中で、既に私への執着心は芽生えていたのだと思う。だから、着くのが遅くなりそうだったり、行けない日は予め、ドラルクにRINEを入れておく。料理が無駄になってしまうし、あいつが不機嫌になるからだ。
扉を開けて、下を見る。やっぱり、あいつはいない様だ。まさか、私がいない間に…外へ?早く探さなければ…。
あっ、ヒナイチくん。いらっしゃいヌ。
扉が開いて、部屋にアルマジロのジョンが姿を現した。これから、テーブルにクッキーと紅茶を並べようとしてくれていたらしい。
「ああ、こんばんは。ジョン、お前のご主人は?」
部屋に降り立つと、私は周りを見回した。近くにドラルクの気配は感じない。
ドラルク様なら、庭園にいるヌ。先にお茶を…
「ありがとう、ちょっと見てくるぞ。」
背後で聞こえる困った様なため息を無視して、私は庭園へと向かう。不覚だった、私はあいつの監視員だ。知らない間に、勝手に外に出て事件でも起こしていたら…いや、意外とそんな事はないのだが。
この前、ドラルクもジョンも城におらず、目撃情報のあった食料品店に向かうと、精算済みの大量の買い物袋を念動力で浮かせたまま出てきたり、周囲の目を気にせず書店で立ち読みをしていたりと…危険度Aの吸血鬼である自覚が、怪しい行動が目立つのだ。
引きこもってた期間が長いので浮世離れしてしまって…と、ジョンが苦笑いをしていたのも納得する。
『今日日、歯ごたえのある人間もいないからね。問題を起こすのもつまらない…いや、一人だけ。』
以前、そう耳元で囁かれて、背筋が凍る思いがしたものだ。
『君だったらあるいは…私の退屈を終わらせてくれるかもしれないと、思っている。』
ふざけるな!そう思って、繰り出した拳は避けられてしまった。
『それも悪くはないねえ。』
何を考えているか分からない。嬉しそうに笑いながら、言われるのが不愉快だった。
もっと強くなっておくれ、私を楽しませておくれ、と呪文の様に言う。
自分の命を別に大事とは思っていない、と言うのも理解出来なかった。
庭園に入ると、あちこちで季節の花が私を出迎えた。いつの間にか、初夏に入っていたのだ…と実感する。
我々、吸対の仕事は夜が多い。未だに続く吸血鬼と人間の抗争は、一昔前の様な目に見える全面戦争ではなく、どちらかというとテロリズムに移行している。反人間派の者達の犯罪は巧妙化しており、昼間もこんな風にじっくり見たりはしない。皮肉な事に、吸血鬼の居城に通う様になって実感する様になったのだ。
庭園にいるという事は…トレーニングなら私を呼ぶ。となると…この時期に必要な管理をする植物の場所にいると想定される。この時期か…そういえば。
私は心当たりのある一角に向かう。ああ、やっぱり…柵に無造作にかけられたマントがはためいていた。
「ドラルク、ここにいたのか。」
腕捲りをして、上着とマントを脱いだ後ろ姿に声をかける。鋏を持ったあいつが振り返った。
「おや、ヒナイチくん。いらっしゃい。お菓子は、ジョンに頼んであったはずだがね?」
横にある籠には、色とりどりのカーネーションが入っていた。しかし、最後の台詞は取り消してくれ。お菓子を貰いに来ているのではないのだぞ?
「…母の日か?」
あいつの問いを無視して、質問する。いる場所が分かった理由がこれだ。
忙しさに忘れていたが、明日は母の日だったのだ。だから、庭園にいるとすれば、カーネーションを植えている一角ではないかと思ったのだ。
「フフ。散々心配かけてきた放蕩息子だが、このぐらいしても罰は当たらないだろう?」
折角、趣味で育てた花だから…と彼は続ける。
報告書と問わず語りで察するに、再生能力を持たないドラルクは、かなり両親から甘やかされて育ってきた様だ。
竜の血族は吸血鬼の世界でも最大の勢力を誇り、彼はその嫡孫である。祖父の竜公は絶大なカリスマを有しているが、性格が破天荒だと聞いている。
実質、ドラルクの父親の竜子公が、親の有する財団や傘下にある会社の運営をしている訳だ。彼らは長命種だし、いつか跡を継ぐのは父親だろう。それを差っ引いても、彼が幼い頃、特に母親は心配したに違いない。
「君も贈ってあげてはどうかね?孝行したい時には…とは、昼の子達の諺だろう。」
「確かにそうだが。それは、お前にも言えるのではないか?」
それを聞いた彼は、クスクス笑う。何だかバカにされた様でムッとしてしまった。
「なんだ?おかしいか?」
いやいや…と手を振りながら、何でもなく笑う。
「ククク…残念ながら。両親と違い、私は不死身ではない。私の方が先に亡くなる可能性が、高いのでね。」
それを聞くと、ゾッとした。言葉の端々から、両親に対してさほど悪い感情はなさそうだ。
なのに、何故反人間派に属して抗争に参加したのだ。何故、心配させる様な事をしたんだ…私に殺されるのも悪くないなんて、平気な顔で…気持ち悪い、理解出来ない。
「なあ、ドラルク…」
言おうとした言葉を飲み込んだ。私が気にする事じゃない。私は監視員だ…こういう非常識な吸血鬼は、何をするか分からないから。
「ん?それより、どれがいいかね?やはり、赤とピンクは決定として…」
動揺している私の都合など、気づきもせずに籠を差し出してくる。
赤は『母への愛』、ピンクは『感謝』だと言っていた…あとは?いつも一人で道場を守ってくれている母…心配してるだろうな。やはり、私を連想させる色に…。
白のカーネーションに手を伸ばす。赤とピンクの配色もいいだろう。しかし、それはドラルクに取られてしまった。
「おっと、白はやめた方がいい。黄色もね。あと、斑の花も良くない。」
首を傾げると、フッと笑ってドラルクは私の耳に白いカーネーションをかけた。
「君がつける分には、構わないのだがね。この赤い髪によく映える。白いカーネーションは、亡き母親に贈るものでもあるのだよ。」
「…!?」
まただ…この笑い方をされると、胸が苦しくなる。さっきまで、理解しがたい言動をしていて、なんで…父親みたいに優しい顔をするんだ。
「…さっきからどうかしたかね、お嬢さん?」
「っ…!お、お嬢さんはよせ!じゃあ、これ。」
続いて、オレンジの花に手を伸ばす。私の髪と同じだから。しかし、それも彼に取られてしまった。
「なんだ、これもダメか?」
今まで鍛練ばかりしてきた私には、どうも分かりかねるものが多いらしい。
「ダメではないが…」
からかう様な口調…何だろう。あの後、妙な言葉が彼の口から漏れた。母国のルーマニア語かもしれない。
『O vreau.』
その時の私は、何故だか子供扱いされた様に感じて…青いカーネーションを指差すと、ジョンが待ってる部屋に逃げ帰ってしまったっけ。
その後、宅配で母に贈った花束は好評だった。私は代金をドラルクに払おうとしたが、やはり拒否されてしまった。
「明日も、君が私の手料理を食べに来てくれれば、それでいい。」
「…あ、あくまで任務だ。私は決して…。」
「ウフフ、餌付けされているだろう?」
今だから、その言葉が何と言っていたのか知っている。紆余屈折あって、将来あいつの血を受け入れ、永遠に一緒にいる約束を交わした今だからこそ。
「私が欲しいんだよ。」
そういう意味の言葉だったのだ。オレンジのカーネーションの花言葉は、純粋な慕情と熱烈な愛。
「ドラルク、これ。」
「おや、上手に育てたじゃないか。」
今の私が育てたカーネーション。赤とピンクは母に贈る。でも、一番綺麗に咲いたオレンジのカーネーションは、お前に贈ろう。

「おこんばんは。あら、どうなさったのかしら?」
「おや、ロナルドくん。いらっしゃい。」
嬉しそうですわね、と続ける友人に、思わず顔を逸らしてしまう。つい顔に出ていたのだろう。
「…押し花の栞を作ろうかと思ってね。」
そう言って、辞書を上に乗せる。丁寧に水分を抜いて、後で綺麗に張り付けて、箔押しもしてみようか。
さっき、ヒナイチくんと花壇の世話に行っていたのだ。一人で作業に没頭するのも悪くはないが、かつて誘っても『監視しているだけだ。興味はない。』と言っていた彼女が、隣で『切り返しはここでいいのか?』とか『もう少しで咲きそうだな。』と言ってくれる様になったのは、嬉しいものだ。
何より一年前に『君からこの花が欲しい』と匂わせて、気づいても貰えなかったオレンジのカーネーション。今なら、意味を知った上で私にくれたのだろう?記念に一輪栞にして、読書の際に使いたいと思うのは当然だ。
「フフ、いい事があったのでしょうね。後ろのは、カーネーションのお花束ですわね。母の日ですの?」
「あぁ、実家とヒナイチくんの実家に持って行こうと思って。君もどうかね?」
庭いじりは私の趣味だ。凝り性なので、種類も多い。摘み取った花は、結構な量となるのだ。城に飾った花の残りは、実家を通して学校や施設に寄贈している訳だが、友人に使って貰えると尚更助かる。
「そうですわね。それでは、この白いカーネーションをお母様に頂きましょうか。」
「そうだったね。ロナルドくんのご両親は、幼い頃に…。」
籠から、白のカーネーションを取り出す。私はそれをシンプルな包装紙で包むと、リボンを結んだ。
「あら、包むのは自分でやろうと思っていたのですけど。」
それはやめた方がいい。花が何本あっても足りなくなる。
「アハハ、ロナルドがやると握り潰してしまうからな。」
「ヌフフ。」
その時、後ろから肩にジョンを乗せたヒナイチくんも入ってきた。あの頃は、君のこんな笑顔を見れるなんて思っていなかったものだが。
「もう、ヒナイチさんまでお酷いですわ。あと、赤とピンクと緑のカーネーションも頂けませんこと?」
「赤とピンクに緑…あ、そうか。」
「そうだね。頼りない男だが、こんな素晴らしい友人と過ごせるのは、彼のおかげだ。」
緑のカーネーションの花言葉は「癒し」「純粋な愛情」。
幼いロナルドくんと妹さんを、退治人をしながら育て上げたヒヨシ隊長。ロナルドくんにとって両親とは、むしろ彼を指すのだろう。
私達は、ロナルドくんと出会えた事で今のこの生活を手に入れた。
だから、私からも感謝の意味も込めてカーネーションを包ませて貰おう。