X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

これから

全体公開 創作話 3267文字
2023-07-17 05:45:57

理央と壱樹。東風八百万事務所報告書3部の説明話。

Posted by @lianmiso

 スマホを取り、画面を連打する。
「何か嬉しいことでもあったのか?」
「霧凍から珍しくRAINが来たんだ。あいつが外に出かけるなんていいことだよ。」
「そうか。」
 壱樹の報告に目の前の人間は赤い眼を煌めかせ、肘をついて煙管の火皿に結晶をザラザラと詰めてライターで先を炙る。匂いは机向かいの壱樹の鼻にまで届いた。スーッとしたミントの香りの中に微かな甘さが含まれる。
「やばい奴じゃねーだろうな?覚醒剤とか。」
 疑いを持って煙管を見る壱樹にカラカラと笑って理央はそれを口に運ぶ。
「まさか。薄荷だよ。正真正銘北見産の日本薄荷さ。」
 北見の後に瀧の字を付ければ誰かの苗字だな、と彼女は煙管の先を見た。
「正式名称は薄荷脳という。要するに日本のミントの結晶さ。食品や化粧品、たばこ、歯磨き粉に使われ、酔い止めにも最適だ。結晶という質故に魔力も込めやすくてね。【私ら】のための医療品にもなる。」
 いるかい?という言葉に壱樹は大きく頷いた。理央は一粒壱樹の手の上に爪先程の結晶を置く。
「そのまま食べるより
「うぉおお!辛い!?いや苦い?スースーする!!!」 
「人の話は最後まで聞きたまえ。虫除けにもなるほど刺激が強いんだよ。今、飲み物を飲んでは
「冷える!口ん中と喉が冷える!!!胃まで!!!」
 理央の言葉は数秒遅くグラスに直に口付け、アイスティーをがぶ飲みした壱樹は喉や頬を押さえ、悶絶した。強烈なメンソールが口内を焼き、僅かな空気だけでも清涼感を超えた冷たさが襲う。身を捩っても逃れられない。
「まったく。変わらないなぁ。そんな君だから柳も比較的心を開いているんだろうし、湊くんや霧凍くんとよくやっていけているんだろう。」
「へへ、そーかなぁ。」
 涙目ながら壱樹が得意げに鼻を擦る。
「柳はどちらかと言うと君に対する心配が大きいがな。」
 少しは落ち着け、と理央が苦笑いをする。
「ゔっ努力します。」
「しなくていい。努力でどうにもなる部分じゃないし、君の長所だろう。ただし、頭には置いておけ。」
 うーん?と壱樹が腕組み、首を捻る。
「わかった。で?今日俺を呼んだのは説教だけじゃないだろ。」
「天文省、脅してきた。」
「えぇえ!?」
 仰け反る壱樹の反応に理央は満足そうに煙管を咥える。
 天文省。別名特殊自衛隊。過去、明治に解散させられた陰陽寮の意思を引き継ぐ部隊。
 政府直属で動く彼らは天を読み、災害を予測する一面もありながら魔具の回収、呪い、都市伝説の対処や怪奇現象、最近沸いて出る怪物の討伐などを担当する部署であり、その中にある【三十木】は壱樹と湊の古巣でもあった。
「脅したとは言い過ぎか。取り立てという奴だ。私はともかく雪宗、柳はもう少し何かあっていいだろう。」
「取り立て金か?」
 壱樹の脳裏に金の亡者霧凍が浮かぶ。奴なら容赦なく天文省から絞りとるだろう。以前にも壱樹と湊の残業代や未払いの給料を容赦なく請求し、2人へ渡していた。
 労働の対価は活躍した分、正当に払われるべきとのことで壱樹にも納得いくものだ。しかし、穏やかながら責めたてるやり口であるのに当時の状況などねちねち隅を鋭く突きながら同時に切り裂く言葉がポンポン出てくるので隣で湊と一緒に震えていた。電話先の相手が気の毒になる程だ。
 あんなの向けられたくもない。
 それを理央が?想像できない。
 拳で事務所の扉を叩き割り、経理部や財務部の襟首を引っ掴んだのか。それも勘弁だ。
 理央が咳払いする。壱樹が姿勢を正した。
「失礼な。暴力はいけない。」
「見破られた!?」
 理央が自分の唇を指す。
「口に出てる。金じゃなくて情報だよ。東響都、烏島を始め、どんどんと迷宮が見つかっている。世界が剥がれてきている、というのが正解か。」
「剥がれてきている?そんな、俺たちの住む世界の下に何かあったような言い方だな。」
「その通りなんだよ。壱樹くん。この世界は幾重の世界の上に成り立っている。」
 このミルフィーユのようにな。と理央がぺりぺりと生地を剥がした。剥がす派か。
「儀式が行われず、魔法、魔具、都市伝説等が大きく人の目に触れるたび、在ると認識されるたび、こちらの神秘は薄れ、世界は剥がれていく。自分たちに多く依頼が入るようにし、陰のトップになりたかった三条一族の願いは数年越しに叶いつつあるという訳だ。」
「皮肉なことに彼らはもうこの世にはいない。世の中というのはそんなものだ。」と理央は寂しげに右手の小指を撫でた。
「なんでそんなことわかるんだ?根拠はあるのか?」
「平安時代に真布津一族が彼らとコンタクトした記録があってね。三条一族が真布津一族を島送りにして何年かした後くらいか。」
 難しいことはわからないし、真布津回りはごたごたしすぎている。壱樹は曖昧に返事をした。が、一つ気になることがある。
「湊の住んでいた島を襲ったのはそこに住む人か?」
 「いや、また別だ」と理央は壱樹の言葉に首を横に振る。
「各世界にもう自分らしかいないから烏島に移住させてほしいという申し出と自分たちのいた世界を封印して欲しいという要望があったと記録されていた。湊がいた島―――高天島を襲ったのは滅びた世界で進化した何かだろう。人間を家畜扱いする奴らだ。滅ぼした張本人かもな。」
「そうか………
「世界も私らも変わりゆくだろうな。何年か私の作品も彼の歌、奴の収集品、いや、東風八百万事務所の作品の見方がガラリと変わる。それは楽しそうだがな。私らはその時いないだろう。」
「やっぱり体、良くないのか。」
 自分が不治の病と告げられたように暗い顔をする壱樹に「君が悲しそうな顔をするな。そんな顔、見たくない。」と理央は困ったように笑った。
「冰叉目さんが頑張ってくれているがこのままいけば長くはないな。」
 近年活躍した人間は精神的にも肉体的にも限界が来ている。有名な話で東風八百万事務所も例外ではなかった。元々体が弱かった雪宗、本来の歳を知らず未熟な体のまま戦場を駆け抜けた柳、そして、暴れる大百足を体に封じながら時折世のため解放した理央。
 3人には先がない。
 強すぎる能力のため、無理をした代価のために寿命が削られてしまった。
 ははは、と理央が呵呵大笑する。形の良い人差し指を立てる。
「迷宮があるだろう?湊くんがいた島の地下から未知の技術が現れ、新たなパワードスーツが開発された。じゃあ、他は?無限住宅は?他に発見されたところは?」
「そうか、迷宮なら何か方法がある!」
 壱樹が拳を握る。
「そうだ。まだ私たちが生き残る方法はあるさ。迷惑を掛けることはないと信じたいが一応耳に入れて置いてくれ。で、たまに役立てるといい。私らの悪評は知っているだろう?」
 ひひひ、と何処かの物語に出てくる悪役のような笑い方で理央が笑う。
「理央と柳は雪宗の巻き添え事故喰らっているようなもんだろ。」
「そうか?私はそんないい奴じゃないよ。柳もな。我儘だから2人を離したくないだけさ。雪宗は私らが焚き付けたようなものだからな。私の責任でもある。柳はま、色々あるんだよ。彼も私の責任だな。」
「まるで学級委員長だ。」
「好きでやってるんだ。立候補した訳じゃない。君らも好きに生きなさい。私らに構わずな。自分の人生は自分のものだ。それだけは忘れるなよ。着いてくるな。」
 ミルフィーユを平らげてから理央と別れ、壱樹は夜空を見上げる。黒々とした夜空に煌めく星々。
 俺はミルフィーユはフォークで縦に切る派なんだよな。
 最後に理央は言った。
『無論私たちが直接探検に行く。迷宮奥を探検すると気が狂う?そうだな。私らがおかしくなって人に迷惑を掛けるならその時は3人で地獄に落ちるよ。私が一緒に連れていくさ。』
 壱樹が首をブンブンと横に振る。
 そんな未来は嫌だ。
 今日出掛けた3人にどう話そうか考えながら壱樹は帰路を急いだ。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.