ふゆるさんのドラヒナキスの日企画に入れて頂いたお話です。
成立後のΔドラヒナで、ロナルドくんとジョンもちょろっと出ます。
隊長の女性遍歴については、Twitterでも多々議論されていますが、捏造でルーマニアにいた学生時代につき合っていた女性がいたけれども、さほど両方とも本気ではなく、日本に来てから忙しさもあって音信不通になって終わった…という設定にしてあります。
寝起きのドラヒナ夫妻のキスシーンを追加しました。
2023/05/22に上げました。
@kw42431393
貴方とは、幼い頃に出会った。連続吸血事件があった夏の森で。
当時20そこそこの隊長は、今よりもっと色白で、華奢でまだ顔に幼さが残っていたと思う。下等吸血鬼から助けて貰った私は、夜の山を下りるのは危険だったので、あの人の膝の上で一夜を明かしたのだ。
「いい子だね。夜が明けたらご家族の元に必ず連れていくよ。だから、安心しておやすみ。」
チュッと優しい音と柔らかい感触。吸対の白いコートに包まれて、私は安心して眠りに落ちた。
「あれが私のファーストキスだった、初恋だったんだ。」
「それはごめんね、こんなおじさんが貰ってしまって。」
それが夢だったからいいんだ。そして、ファーストキスも初恋も、初めて…も貴方のものになった。
少し嬉しそうな初恋泥棒…ドラルク隊長は、クスクス笑った。いつも通りの隊長室での、報告書提出という名目のお茶会。私の憩いの時間。そういえば、ロナルドが見当たらないな…先にクッキーを取り分けておくか。
隊長のクッキーは、魔性の味だ。理性がある内にしておかないと、吸い込んでしまう。
ヌフフ、ヒナイチくん。優しいヌね。
「アハハ、この前全部食べてしまったからな。」
笑いながら、湯気の立つコーヒーにジョンが、砂糖を入れてあげていた。その様子を眺めながら、クッキーに手を伸ばす。サクリと軽い感触に、いつものバターの香りがふわりと漂う。
「じゃあ…」
軽く周りを確認すると、隊長は私の側にやって来る。頬を触れ合わせると、軽いリップ音が聞こえた。隊長の祖国ルーマニアでは一般的な挨拶だが、日本人には少し照れ臭い。つき合った当初は、抵抗があったな。
そっと貴方の頬に手を添える。私からもお返しだ…今なら出来るんだぞ。
触れた皮膚の感触は、当時の様に柔らかいものではなく、虚弱だが、現場を駆け回った固い感触になっていた。
やがて、唇が塞がれる。ここが署である事を忘れるほどに、頭がふわふわする。
「…っふぅ。」
「これで何度目かな?」
絡ませていた舌を離す。間近に、からかう様な隊長の笑顔があった。照れ隠しに、軽く睨む。
「実は…言えるぞ。」
「…嬉しいよ。じゃあ…カウントを狂わせてあげようか?」
今日はキスの日だから、それもあり…だな。うん、そのつもりだったのに。
「そう、そのつもりだったんだよね。」
やっぱりな、隊長も気づいていたのだろうな。
『わー!?』
『惜しい。もう、いい所でしたのに。』
『…ってかバレてる~。折角、写メ撮ってやろうと思ってたのに~。』
背後でジョンが、ロナルド、フォン、マナーの三馬鹿トリオの覗いていた扉をガチャッと開けた。吸対もなかなか暇だな。
「甘いのだよ。つまらない事をしてないで、さっさと仕事に戻り給え。」
途中まで、隊長も人の事を言えなかっただろう?
「あと、ロナルドくんはおやつ抜き。」
「エーン、なんでそんな事言うんだよぉ!」
ジョンが横でクスクス笑う。いつも変わらないなあ…あと、ロナルドの分もクッキー食べていいかな。
『初めては全部隊長のものだから、最後のキスも隊長にしたいんだ。』
さっきそう言っていた君は、今私の隣でスヤスヤ眠っている。いじらしい言葉に、心臓がどうにかなりそうだったよ。
「でも、ちょっと置いててあげて。」
そう言って、眠っているヒナイチくんの頬に口づけを落とす。君は生真面目な子だから、釘をさしておかないと本気で実行しそうだもの。
「私は体が弱いし、君とは一回りも違うのだよ?」
ダンピールの私は、おそらく見た目は年老いるのが遅いだろう。それでも、寿命は人間とさほど変わらない。君を何年か寂しい思いをさせる確率の方が高いのだよ。でも…。
「きっと、君は皆に愛される可愛いお婆ちゃんになるね。そして、私達の孫やひ孫に大好きって言って貰って…」
最後は、小さな孫達に囲まれて、キスしてあげて、生を終える。それこそ、太陽の様な君にふさわしいと思うんだよ。だから、その子達の為にとっておいてあげてくれるかい?
でも…代わりといってはなんだけど。
「私の最後のキスは、君だと決めさせておくれ。」
私のファーストキスは、残念ながら君じゃなかった。でも、初恋は君だとはっきり言える。
その当時の私にとって、相手の女性は遊びではなかったはずなんだけど…何故だろうね。
今更言っても仕方ないけど…この年になって何度考えても、恋とか愛とか呼べるものでは、なかったんだよ。
だから、君には止めておいてなんだけど、せめて君にキスをして人生を終えたいと思っている。
ごめんね。半分彼らの血を引く私も、やっぱり我が儘なんだよ。
「隊長、おはよう!」
元気な声に意識が浮上する。
シャッというカーテンの開く音と、差し込む朝日の逆光が、ますます彼女を太陽の様に見せていた。
「あぁ、おはよう。ヒナイチくん。」
彼女とは年齢的にも体力的にも差がある事は知っている。それでも、ヒナイチくんがもうシャワーも済ませて、部屋に戻ってきているのに…男の私が疲れてすぐに起き上がれないのは、ちょっと情けない。
「待っててくれ給え。年かな、すぐ起きれな…。」
「…なぁ、隊長。」
少し甘えた様な声に見上げると、唇にチュッというリップ音と柔らかい感触。
不意打ちにフリーズしたままの私を置いて、彼女は部屋を出て行った。
「休んでいていいぞ。朝ごはん用意しておくからな!」
その一言を残して、軽やかに。
「フフ、先を越されてしまった。年上の面目丸つぶれだ。」
クスクス笑いながら、気だるい体をなんとか起こす。今日も8時頃には署に行かなければならない。
「クソッタレ、勤労勤労。」
こんな毎日が、これからもずっと続いていくのだろう。続かせる為にも、私達は今日も騒がしい街を駆けまわるのだ。