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一人にだけ今も続ける理由とは?

全体公開 本編ドラヒナ(両片思い期) 4913文字
2023-07-21 17:33:05

ふゆるさんのドラヒナキスの日企画に入れて頂いた2作目のお話です。
両片思い期の本編ドラヒナで、キャラソンの気障なキスネタになります。
あと、ちらっと師匠が出ます。ヒナイチくんに師匠がちょっかいを出す話、これで3回ぐらい書いてますね。クラージィさんの件以来、意外と師匠は安全な人間って知ってるんだけどなぁ。女道楽の師匠に警戒して、彼女をマントに隠してガルガルして欲しいんですね。
胸やけする程豪華な朝ごはんを食べている、ロナルドくん視点の二人と一匹のシーンを追加しました。
2023/05/25に上げました。

Posted by @kw42431393

 「これは美しいお嬢さん。」 

 そう言われたのは、生まれて初めてだった。子供の頃から、実家の道場で鍛練してたから周りの大人達と互角以上に渡り合ってきたから尊敬や憧れ、畏れの眼差しには慣れていた。
 だけど、誰も私を女の子扱いしてくれなかった。それでいいと思っていた。
 「この私に何かご用かな?」
 手を取られても呆然としていた、手に落ちる柔らかい感触、続くリップ音が鳴るまでは今思えば、あれが私の初恋だったのだろう。
 でも、強大な力を隠した吸血鬼と勘違いしていた当時の私は、お前がか弱いザコである事に気づいて幻滅した。八つ当たりもしたけれど、あのクッキーを食べて、頭に浮かんだ想像図2回目の恋もお前だった。
 全ての始まりが、手の口づけからだったんだ。
 「おい、ドラ公!調査にいくぞ!」
 「え~、私ゲームしてる所なのに。」
 いつもの事務所の風景。すぐに出される、ドラルクのクッキー。ソファに座って、ジョンと並んで食べながら、騒がしい夜が始まる。
 「じゃあ、俺達行くからな。」
 ロナルドが、ドラルクの首根っこを掴んで引きずっていく。ジョンが、泣きながら二人の後を追いかけた。
 さっき、事務所に依頼人が来ていたな。下等吸血鬼の巣が、出来ていて困っているという話だったはず。
 「分かった、クッキーを食べたら私も向かう。」
 大きなものなら、市民の避難誘導もあるかもしれない。
 「おいおい、クッキーの方が先かよ。」
 戸締まり頼むわと、呆れた顔のロナルドが先に飛び出して行った。私はクッキーを吸い込むと、カップと皿を台所に持っていく。簡単に片付けておこう。
 「ヒナイチくん。」
 後ろから呼ばれて、振り返る。いつの間にか、そこにはドラルクが立っていた。
 「どうした?早く行かないと、またロナルドに殺されてしまうぞ?」
 彼だからこそ言える冗談だ。しかし、彼は流れる様に私の手を取った。
 チュッというリップ音と柔らかい感触あの時と同じだ。
 「いってきます、を忘れて戻ってきたのだよ。折角の君との時間が無粋な事で中断されたのは、遺憾としか思えなくてね。」
 時間を置いて頬が熱くなっていく。またしても、口が言葉を紡いでくれない。パクパクしている私を尻目に、手に頬擦りしてから、彼はこう締めた。

 「仕事が終わったら、また来てくれ給えよ。また、追加で焼いてあげようじゃないか。」



 こいつは、人を誑かすのが得意な吸血鬼だ。他の女性にも同じ事をしているのだろう、そう思っていた。
 そう考えると、心がざわつく事があったけど、私達はあくまで監視対象と監視員だ。もっというと、餌付けし甲斐のあるハムスターとしか、思って貰えてないかもしれなかった。
 プライベートまで関わってはいけない、関わってはだから、みっぴきで、ただ騒がしい毎夜を過ごしてきた。そんなある日の事だった。

 初夏だというのに、凍る様に冷たい風が入ってきたのは。
 「おや、これは赤毛のお嬢さん。ご機嫌麗しゅう。」
 ロナルド達が留守の事務所。おやつ棚に置いててくれたクッキーを食べながら、待っていた私の前に現れたのは
 「氷笑卿か。」
 事務所には、私一人だ。知らずに警戒心が強くなる。その反面、ずっと聞いてみたいと思っていた事が、頭をもたげた。
 「そう身構えないで頂きたい。今回は、弟子に会いに来ただけなのでね。」
 それにしても、見れば見るほど彼と仕草が似ている。そもそも、私が初見でチャームに落ちたのは、彼を連想させたからだ。そうだと分かって向かい合えば、チャームには落ちないかもしれない。
 「ドラルクなら、しばらく帰ってこないぞ。」
 一応、伝えておく。『遅くなるから、先に食べて待ってて』とRINEが来たからだ。確か、ロナ戦の新刊イベントでサイン会をしていたはずファンの人達と撮った写メが添えられていた。
 「ええ、私も行ってきたのですよ。あいつも、そろそろ戻ってると思ったのだが。その場でお小言を言おうとしたら、キレられましてな。後ろの列が渋滞するのもまずいので、こちらに来たという訳だ。」
 確かに懐から文庫本が見えるもう付箋を付けるぐらい読んだのか。しかし、ドラルクでなくてもそれは怒ると思うぞ。
 「まあ、今度にしよう。しかし、偶然にもここで貴女に会えるとは
 「光栄ですよとでも言うのだろう。」
 あいつならそう言うはずだ。それに、毎回出かける前に、私の手や髪にキスをしたり、歯の浮く台詞を言ったりする。最近では、「いってらっしゃい」と「おかえり」にもする様になった。それが彼に仕込まれた作法なら、今回もファンの女性達にしているのだろうな。
 「フフ、ドラルクの行動をよく見てくれている。嫌ってはいるが、私が仕込んだ作法は、抜けないらしい。」
 「元々、人見知りする大人しい子供だったはずだが
 『儚げな美少年だった私がこんなになったのは、あのヒゲのせいだ。』と、言っていたな。
 「ご存じらしいですな。それをドラウスが甘やかして、私可愛いピスピスクソガキにしてしまった。そして、今もそれで通じると思っている。」
 なんだ、そんな事もなかったのか。お父上も罪深い事を
 「しかし、今回のイベントでその作法をしなかったのですよ。折角、県外から来てくれたファンのお嬢さんに、失礼とは思わないのか、と言ったらあの騒ぎだ。」
 しなかった?どういう事だ。
 「貴方の言う作法とはその」
 女性の手にキスをしたり、さっきの様な台詞を言う事か?
 「人間共とつき合っている間に、忘れてしまったらしいな。口も悪くなってきたあの退治人の影響か。」
 口が悪くなってきたのは認めるがどういう事だ?
 「しているだろう?毎晩、そんなはずは
 「ほう。では、お嬢さんにはしているのですな?毎晩
 目の前がグラリと歪む。しまった!墓穴を掘った、動揺してはいけなかったのに。



 『お嬢さんは分かっておられない様ですな?』
 「ちちん。」
 な、何が言いたいんだ?
 『女性への礼儀として、仕込まれたはずの事をしなくなった。いや。たった一人にだけ、今も続けている。』
 そんなはずは私の事は餌付けだっていつも。
 「ちん、ちち。」
 『男がそういう行動を取るのは、どんな想いでするのでしょうな?』
 
 もう、だめだ。視界が暗転する。
 冷たい手に触れられる直前に、柔らかい布とお仏壇の匂いに包まれた私が覚えているのはそこまでだ。
 そして、翌朝になって床下から顔を出すとやけに綺麗に掃除された事務所で、胸やけする程に豪華な朝食が用意されていた事しか、私には分からない。まだ、分からない方がいいのかもしれない。

 今のままでいたいなら。先に進む自信がないなら。

 



 「いや、ほんと今朝はお前がいてくれてよかったぜ。うめえけどよ。」
 「おいしい、おいしい。ケフッ、失礼。ちょっと、朝食べるには重いかな。」
 「ヌー。」
 
 昨日は散々だったぜ。いつになっても慣れないロナ戦新刊イベントのサイン会でさ。
 こいつとジョンと、ファンの人と握手したり、写真撮ったりしてたんだよ。むしろ、こいつは俺よりいつもノリノリでさ、緊張してる俺を煽ってきたりする訳。
 「まさか、あいつの師匠が来るとは思ってなくてさぁ。」

 あいつも事務的にサインすりゃいいものを、青筋立てて嫌味を言うだろ?後ろに他のファンの皆も並んでるんだよ、後にしろよって話だ。
 俺?いやぁ、ファンだって言われたらさあ。『毎回、楽しみに読ませて貰っている』って言われたらよ、悪い気はしないだろ?
 え、顔がにやけてる?チョロい奴だって?ヒナイチまでひでえな。
 まぁ、ちゃんと普段用、保存用、読み込み用に3冊も買ってくれてるし、ちゃんと並んでる訳だ。だから、あいつも最終的にはちゃんとサインしたよ。すげえ手がプルプルしてたけど。
 それにしても、列に並んでる最中もあのポーズなんだな。あのおっさん。
 「そうか。な、なぁ。」
 「どうした?」
 ヒナイチが、俯いて言いづらそうにする。お茶を啜った後、意を決した様にもう一度口を開いた。
 「ドラルクは、そのノ、ノースディンと他に何か揉めてなかったか?」
 「あー、あれな。」
 「ヌーン。」
 俺はジョンと顔を見合わせる。言ってもいいのかな。ドラルクもこいつも俺の事を5歳だの、ニブルドだの馬鹿にするが、ほとんど家族同様に過ごしているんだ。あいつがキレた理由を全く察していない訳じゃない。

 『ところで、ドラルク。』
 『な~んですかな。ノースディン師匠?』
 俺とジョンのサインも書き終わった所で、ノースディンが改めて口を切った。だから、後にしろよ。喫茶店でも行けやそう思って見ていたんだ。
 『さっきから、見ているとファンのお嬢さん達に挨拶をしていない様だが
 『挨拶?あぁ、あんな時代遅れのね。手にキスなんて、このご時世にホイホイやったらセクハラなんじゃないんですか?』
 いや、今もヒナイチにはしてるだろ。でも、あいつの事はハムスターって言ってるし、あいつも拒否らねぇから、セクハラにならないつもりかな。首を傾げている俺達を尻目に、氷笑卿が爆弾を投げやがったんだ。
 『今回はそれに当てはまらないだろう。お前のファンで、そういう性格だと知っていて来ているのだ。特にさっきサインを貰っていたお嬢さんは、わざわざ県外から来てくれていたのだ。失礼だとは思わんのか?』
 
 それからが、もうな。ノースディンは『じゃあ、事務所で待ってる』と言って飛んでいくし、あいつは「あの子が危ない!」って叫んで出ていってしまったんだ。
 俺達か?内容が内容だけに、俺達も追いかけたかったけどな、フクマさんが後ろにいるだろ?サイン会は、俺とジョンで終わらせたんだ。

 「そうか、お前もジョンも大変だったんだな。」
 「帰って来たら、事務所は埃一つもないぐらいピカピカ。青筋立てたドラルクが、ずっとキッチンに立ってるんだ。ジョンさえ、ドラルクに声をかけるのを遠慮してたよ。」
 帰って来てから、俺があいつとした会話なんて、「ヒナイチくんを床下に連れて行ってやってくれ給え」その一言だけだ。ソファでは、ドラ公のマントにくるまったお前がスヤスヤ眠ってる。何があったかなんて、聞けやしない。

 でもよ、こんな俺でも察しがついている事がある。
 確かにノースディンは、ドラルクの事をよく見ている。確かにここに来たばかりのあいつは、初めて会った女性にも気障な対応をしていた。でも、最近してねえのな。
 だけど、ハムスターのはずのお前にはしてる。どういう事かってよあれしかねえだろ?
 「ヒナイチ、こっから先聞く勇気あるか?」
 「……。」
 「なんとなく、だけどよ。俺も男だから、お前よりは分かるつもりなんだよ。でも
 「ヌン。」
 「今まで通りのみっぴきで、いられなくなるかも知れねえ。あいつの許可も取ってないしな。」
 ヒナイチは、そのまま黙っちまった。そして、食事を終えて軽く片付けると署に出勤して行った。



 なぁ、ジョン。なんとなくだけどドラルクは、変な所に真面目だからよ。
 『女性への当然の礼儀』をあいつにしかしない事であー、これなんて言うんだ?それだよ、それ!
 さすが、ジョン!古い言葉知ってるな。
 ヒナイチに操を立ててるつもりだと、思うんだ。
 ヒナイチも黙ってるって事は、満更ではないけど迷ってるんだよな。
 ヒナイチは、まだ19だ。ドラルクに至っては、いくらでも時間がある。だから、ゆっくり決めればいいと、俺は思うんだよ。
 
 そうだろ、ジョン。あの二人がどんな決断したってよ、俺達はずっと一緒だかんな。
 


 


 
  

 


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