ポケモンパロ
シナリオネタバレ微妙にあり
@popo_trpg_ss
つめたくて、せまいおりのなか。
へんなにおいのする、まずいごはん。
それが、ぼくのせかいのすべて。
ぼくの最初の飼い主さんは、うまれたぼくの顔を見てため息をついた。
おちこぼれ。失敗作。不良品。
たぶんそれが、ぼくの名前だったんだと思う。
おにいちゃんたちよりも体が小さいぼくは、上手にほのおが出せなかった。追いかけっこをしても、すぐにつかまってしまう。
にいちゃんたちはすぐに新しいご主人さまが見つかって、飼い主さんに温かく光る石をもらって、ウインディになって貰われていった。
ぼくも早く、ウインディになりたかった。
ぼくが生まれて1ヶ月が経った雨の日の朝、飼い主さんは「お前なんかいらない」と言ってぼくのことをお家から追い出した。
どれだけ鳴いてもとびらは開かなくて、仕方がないから町に出た。
けれど、ごはんの捕まえ方も、夜に寝る場所だって分からないぼくは、すぐに弱って動けなくなってしまって。
このままここで死んじゃうんだと思ったとき、ぼくのことを小さな手が抱えてくれたんだ。
「ガーディ…?」
ぼくの顔をじっと覗き込む小さな男の子。
綺麗なきいろのくりくりした目がぼくを見て、うれしそうに笑う。
「もう、だいじょうぶだからな。」
それから彼は、ぼくのことをお家に連れて帰った。
お風呂があたたかくて、ミルクがあまくて、ふわふわに包まれてねむってしまったぼくのことを、彼はお母さんと一緒に近くのセンターに運んでくれた。
「弱い個体を捨ててしまう悪質なブリーダーが、最近多いんですよね。」
お姉さんが困った顔でそういいながら、ぼくのことが書いてあるらしい紙を彼とお母さんに見せる。
「おそらくこの子は、進化してもあまり強い子には育たないと思います。お困りでしたら、センターでお預かりいたしましょうか?」
「そうなんですね…。お姉さんに預ける?あなたのパートナーは、また今度一緒にお店に探しに行きましょう?」
そうお母さんが男の子に話しかけた。
彼の腕の中で、ぼくはきつく目を閉じる。
ぼくはおちこぼれだ。失敗作の不良品だ。きっと優しいこの子だって、強いポケモンがほしいに決まってる。
それでも、いやだ。すてないで。
ぼくに、ここにいていいよって言ってよ。
「やだ。この子がいい。」
ぎゅうと、苦しいほどにぼくの体が抱きしめられた。驚いて顔を上げたら、すぐそばに今にも泣き出してしまいそうな男の子の瞳がある。
困った顔をしたお母さんに向かって首を横に振った彼は、きっぱりと言ったんだ。
「この子を、おれのあいぼうにする。」
それが、ぼくとかえるくんのはじめの一歩だった。
『帰代さんのガーディ』
帰代変くん。かえるくん。
ぼくの、新しいご主人さま。
彼はずっと警察になりたくて勉強を頑張っているらしい。ぼくはそんな彼の、最初のパートナーとして迎え入れられた。
かえるくんといっしょに、ぼくも毎日警察になるため特訓した。けれどどれだけ頑張っても、ぼくは炎を出すことができなかった。
それでもかえるくんは、絶対にぼくのことを怒らなかった。どうしてできないのかと呆れたりしなかった。炎を出すことだけが完璧じゃないと言って、笑って頭を撫でてくれた。
高校を卒業するまでの間に、かえるくんのポケモンは4体になった。
ケロマツくんと、ニャオハくんと、ラルトスくん。みんなかえるくんのことが大好きで、かえるくんの夢を応援している仲間たちだ。
たくさん特訓するうちに、みんなは姿がどんどん変わって、ぼくよりも大きくなった。ぼくより強くなったみんなを見れば見るほど、悔しくて、恥ずかしくて、はやく大きくなりたくて。
ぼくが大きくなるには、必要なものがある。たいようのいしがないと、ぼくは絶対に大きくなれない。
でもぼくは知っていた。かえるくんが暮らす町の周りには、このいしが手に入る場所はない。とても高価なもので、簡単には買えないものだった。
※
「警察学校には、お前と一緒に行きたいんだ。」
警察学校への入学が迫ったある日、かえるくんはぼくに向かってそう言った。
ぼくは驚いて、思わず食べていたごはんをひっくり返してしまった。わたわたとゲッコウガくんとエルレイドくんが片付けを手伝ってくれて、優しいマスカーニャくんがごはんを分けてくれる。
警察学校には、1体だけポケモンを連れて入ることができる決まりだ。ぼくはてっきり、ぼく以外の誰かがかえるくんと一緒に行くんだと思っていた。
「ガーディがもしよければだけど…」
毛についてしまったご飯を拭いながら、かえるくんは首を傾げる。
ぼくはというと、彼は本当にそれでいいのだろうかと困惑していた。
確かに警察官はガーディやウインディを連れている人が多い。けれどだからこそ、他よりも劣っているぼくがいることで、かえるくんが笑われてしまうんじゃないかと怖くなった。
ぼくがためらっていると、かえるくんはポケットから小さな首飾りを取り出す。ぼくの首に掛けたそれには、温かな光を放ついしが付いていた。
「もしお前が、ガーディのままはいやだと思ったら、これを使ってほしい。」
かえるくんの言葉に顔を上げる。
これはきっと、たいようのいしだ。
あとから知ったことだけれど、かえるくんはぼくにこのいしを贈るためにずっとお金を貯めていたらしい。
ぼくを拾った日から集めていたお金で、ようやくこの日手に入れたものだった。
「…でも俺は、ガーディのままだろうと、ウインディになろうと構わないよ。」
そう言ってかえるくんは、ぼくのことを抱きしめる。かえるくんの腕の中は、今となっては小さなぼくだけの特等席だ。
ぼくの頭に頬擦りをしたかえるくんは、優しい声で言い聞かせるように呟いた。
「何があっても、どんな姿でも…お前は俺の相棒だ。」
かえるくんはいつも、大きくなることだけが強さじゃないとぼくに聞かせてくれた。
大切なのは、心を強く持つこと。そう教わったぼくの弟たちも、ぼくより大きくなっても絶対にぼくのことを馬鹿にしたりしなかった。
弟たちがずるいと言いたげにかえるくんにのし掛かる。順番だから、そう言って彼はぼくのことをめいっぱいに抱きしめてくれた。
ずっとなりたくてたまらなかったウインディだけれど、せっかくかえるくんが贈ってくれたたたいようのいしを使うことが、急にもったいないような気がしたんだ。
首でゆらゆらと揺れる温かいいしの重さを噛み締めて、ぼくは大きく一つ鳴いて見せた。尻尾を振ってかえるくんに擦り寄れば、ぼくの気持ちを分かってくれたかえるくんが微笑む。
「…ありがとう。一緒に頑張ろうな。」
ぼくはこの日、ガーディのままでもいいと思えた。
だからぼくはぼくの意志で、ガーディのままでいることを選んだ。
首から下げたたいようのいしは、かえるくんがぼくにくれた大切なお守りだ。ガーディのままで強くなってみせるというぼくの意思表示だった。
警察学校は当然厳しい場所で、炎の出せないぼくのことを馬鹿にするひとやポケモンもたくさんいた。けれどそのたびに、かえるくんは相手を怒ってくれた。
やがていつの間にか、そんなぼくのことを可愛がってくれるひとにも出会えた。
てるてる坊主をおもちゃ代わりに遊んでくれたあの人の名前は確か、ジャノメくんだったっけ。
素敵な首飾りだねって笑ってくれたジャノメくんのことがぼくは好きだったし、かえるくんもぼくが褒められると嬉しそうにしていた。
そんな風に日々は過ぎて、かえるくんは警察学校を卒業した。
彼の配属が公安局に決まったのは、それから間も無くのことだった。
「帰代くん!!もうやめてよ…!!」
夕立が町を襲ったその日、地面を叩きつけるような雨音の中で、ジャノメくんはそう声を上げた。
彼の声にかえるくんは返事をしない。かえるくんを振り返って、ぼくはまだ戦えることを伝えるように唸り声を上げる。
その日かえるくんは、捜査一課に配属されたジャノメくんと協同で捜査を行なっていた。
ポケモンの異種交配とその取引を取り締まるために組織の制圧に乗り出した二人だったけれど、待ち構えていたたくさんの構成員たちに戦闘を強いられて、戦い続けたぼくたちはぼろぼろになってしまったのだ。
「ガーディ!インファイト!!」
唇を噛んでいたかえるくんは、やがて意を決したようにぼくに指示を飛ばす。相手に飛びかかってどうにか倒すことができたけれど、ぼくの体はその反動で動かなくなってしまった。
その場にぺたりとへたり込んだぼくを見下ろして、かえるくんは苦しげな表情でボールをかざす。
「…よくやった。戻ってくれ。」
ボールの中に戻ったけれど、治療を受けるまで傷が癒えることはない。ずきずきと体が痛むけれど、かえるくんの役に立てたことが嬉しくて、ぼくは誇らしく思った。
「帰代くん…なんで!」
ボールの外からジャノメくんの声がする。
彼の手の中から様子を伺えば、ジャノメくんが怒りの形相でかえるくんに詰め寄っていた。
「どうしてあんなひどいことをするの…?!みんなのことが大事なんじゃないの…!!」
かえるくんの連れていた仲間たちの中で、戦う気力を残していたのはぼくだけだった。弟たちはみんなやられてしまって、今はボールの中で眠っている。
公安局で立ち会う犯罪者たちは、強力なポケモンを護衛代わりに連れていることが多い。どれだけかえるくんが強くても、相手との相性が悪くて悪戦を強いられることもあった。
「…ここで勝ってポケモンたちを抑えないと、犯人を捕まえられない。」
「だからってあんな無茶な戦い方…!!」
「戦えるのは俺のポケモンだけだったんだ、仕方がないだろ。」
ジャノメくんのポケモンたちは、ぼくたちのサポートに徹して先に倒れてしまった。その助けがなかったら更に悪戦苦闘しただろう。
かえるくんの言葉は、ジャノメくんを冷たく突き放そうとしていて。それが許せない自身への怒りの八つ当たりだと、ぼくは知っていた。
「自分のポケモンが…傷ついても平気なの。」
そんなわけないよ。そんなこといわないで。
必死で声を上げるけれど、ぼくの声はジャノメくんには届かない。
握りしめた手のひらの力で、ぼくのボールが僅かに軋む。見上げたかえるくんは俯いて、血が滲むほど強く唇を噛んでいた。
「任務の遂行が最優先だ。」
かえるくんの言葉にわなわなと震えたジャノメくんは背を向けると、自分のポケモンたちのボールを抱えて駆け出す。
軽蔑の瞳を向けるジャノメくんに言い返すこともなく、息を吐いたかえるくんはボール越しにぼくらのことを強く抱きしめた。
「……ごめんな。」
ぽつりと呟く声は、震えている。
それが寒さのせいだけじゃないことを、ぼくらはよく知っていた。
居ても立っても居られなくなったぼくは、自力でボールの外へと飛び出す。危ないからダメだと禁止されていたことだけど、今はそんなことよりもかえるくんに想いを伝えなければならないと思った。
「っ、ガーディ!?」
雨に晒されて傷が痛むぼくを抱えて、かえるくんは慌ててきずぐすりを取り出そうとする。
そんな彼の腕の中で身を乗り出して、ぼくは彼の頬をそっと舐めた。
「な…う、んむ……っ」
ざらざらの舌で、かえるくんの顔を濡らしていた雨粒を丁寧に舐めとる。冷え切った彼の頬を温める方法が、ぼくにはこれしか思いつかなかった。
すりすりと何度も擦り寄って目を閉じる。尻尾を振ってかえるくんを見上げれば、それまで呆気に取られていたかえるくんが小さく笑った。
「…慰めてくれたのか?」
もちろん。かわいい弟たちに代わって、お姉さんのぼくが頑張らないと。
そう元気よく吠えて見せれば、かえるくんはぼくの頭を撫でてきつく抱きしめる。
ぼくらは知っていた。
ぼくらを守るために、かえるくんが最善の戦略を考え続けていたこと。かえるくんが誰よりも、ぼくらのことを愛してること。
でもかえるくんは、自分の気持ちをひとにはなかなか見せないから。ジャノメくんはきっと、かえるくんが傷ついたぼくたちを見て、ぼくたち以上に傷ついていることを知らないんだ。
「ごめん…」
もう一度かえるくんがぼくに呟く。
もう謝らないでほしいな。
だってぼくらは、かえるくんがぼくらにそうであったように、何があってもかえるくんのことが大好きなんだから。
かえるくんの頬を伝う雨は、すこしだけしょっぱかった。
あの一件から、また時間が流れた。
ぼくらは今日もかえるくんと一緒にお仕事に走り回って、時には国の外に出掛けることもあった。
お守りは今も、ぼくの首で揺れている。かえるくんの上司の伊角さんも、かっこいいものもらったなって褒めてくれた。
そんなぼくらがその日居合わせたのは、仕事とは別の事故だった。
移動中に上がる黒煙を見つけたかえるくんがその場に駆けつけると、小学校がごうごうと炎を上げて燃えていたのだ。
刑事のかえるくんはすぐにその場のひとたちを落ち着かせると、ぼくらを出して整備を始める。
消火を行うゲッコウガくんだけれど、火の勢いが強くて応援が来ないと鎮火はできそうになかった。切り替えたかえるくんが、ぼくらに子どもたちの誘導の指示を飛ばそうとしたときだ。
「まだひとり、子どもが中に…!!」
悲鳴を上げる先生の声に、かえるくんがぎくりと顔を強ばらせる。
あんな炎の渦の中に、まだひとり子どもが取り残されているらしい。
どうしてもっと早く気付かなかったんだと、他の先生たちが怒鳴っている。
仕方がないことだ。先生たちはきっと、こんな火事に慣れてなんかいないから。そんなはずないと何度も数え直しているうちに、報告が遅れてしまったんだろう。
「…あれか。」
炎の中に目を凝らしたかえるくんは、二階の窓に人影が見えたことに気がついた。
鎮火を待ってからでは、きっと間に合わない。かといって、助けにいくのも死と隣り合わせになる。
かえるくんはいつも言っていた。誰かを守るためには、まず自分のことを守らないといけないって。
拳を握って、炎の先を睨みつけて、耳の中では先生の悲鳴と、子どもの泣き声が木霊する。
かえるくんは、迷っていた。
だって君は立派な刑事だから。困ってる人を黙って見過ごせない、とても優しい人だから。
次の瞬間、かえるくんはその場から弾かれたように駆け出した。燃え盛る炎の中に飛び込むかえるくんを、ぼくは迷わず追いかけた。
弟たちにその場を任せて、ぼくはかえるくんをまだ炎の少ない場所を探して誘導する。
「げほ…っ!ガーディ、わるい…!!」
煙と熱が苦しいのか、身を低くしてそう声を上げるかえるくんの裾を引いて、ぼくは夢中で彼を子どもの場所に連れていった。
部屋の隅で泣いていた小さな女の子は、駆け付けたぼくとかえるくんを見て更に泣き出してしまう。
「いい子だ。もう大丈夫だから。」
子どもの頭を撫でて、頬についた煤を指で拭ったかえるくんは、女の子の体を抱えた。
その間にも炎は建物全体に巡っていて、ぎしぎしとあたりが軋み始めている。
はやくここから出ないと、ぼくはともかく、かえるくんと女の子は炎に耐えられない。
「ガーディ!退路を探してくれ!」
かえるくんの指示に頷いたぼくは、必死で熱や煙の少ない場所を嗅ぎ分けて走る。
行きに使った通路はほとんど焼け落ちていて、子どもを抱えたかえるくんが通るのは難しそうだ。
反対側の出口を目指そうとぼくが駆け出したとき、ぼくらのそばで柱ががらがらと音を立てて崩れ始めた。
「くそ…ッ」
かえるくんと女の子を目掛けて、大きな柱が倒れていく。
避けることは不可能だと判断したかえるくんは、せめて柱が女の子に当たらないようにきつく抱きしめて身構えた。
ぼくが飛び出しても、きっと小さなぼくでは柱を止められない。おちこぼれのぼくは、炎が使えないから。
あんなに大きな柱の下敷きになったら、かえるくんは助からない。分かっているはずなのに、かえるくんは女の子を庇うことを止めようとしなかった。
このままでいいと、かえるくんは言ってくれた。
かえるくんのおかげで、ぼくはガーディのことを好きになれた。
たくさんの大切なことを、かえるくんが教えてくれたから。ぼくのことを、いつでもかえるくんは守ってくれたから。
君を守れるくらい、ぼくも強くなれるかな。
ぼくは、ぼくになれるかな。
首から下げたお守りが光る。
地面を蹴ったぼくは、かえるくんたちの前に立ち塞がった。
「ガーディ…?!」
驚いて声を上げるかえるくんを守るように、毛を逆立てて低く唸り声をあげる。
喉の奥から熱い塊が込み上げた。長い尾がぼくを勇気づけるように頬を撫でる。
倒れる柱に向かって大きく吠えた瞬間、ぼくの喉から巨大な火柱が上がった。
炎は崩れかけた柱を一瞬で灰にする。
それでも止まらないぼくの炎は、周囲の炎を焼き尽くした。かえるくんと女の子のまわりに燃えるものがないことを確かめて、ようやくぼくは我に返る。
炎が出せた。かえるくんを守れた。
嬉しくなったぼくがかえるくんを振り返れば、かえるくんは目を丸くしてぼくを見上げていた。
かえるくんってこんなに小さかったっけ。
「ウインディ……」
ぽつりと呟いたかえるくんの言葉を聞いて、ぼくはまじまじと自分の体を見下ろす。
大きな尾に、長くてふかふかの毛。かえるくんより一回りも二回りも大きな体。かえるくんが小さくなったんじゃない、ぼくが大きくなったんだ。
急に大きくなってしまったぼくは、驚いておろおろとかえるくんの周りを回る。
「いで、っ」
小さい頃の癖で足に擦り寄ろうとしたら、かえるくんはその勢いに押されて女の子を抱えたまま背後に倒れ込んでしまった。
大丈夫かな、ごめんね、力加減がうまくできなくて。謝りたい一心で顔を舐めると、大きな舌がかえるくんの顔についていた煤を拭っていく。
そんなぼくの頭に両手を伸ばしたかえるくんは、ぎゅっとぼくを抱きしめて笑った。
「…よくやった。流石は、俺の……」
呟いたかえるくんの腕から力が抜ける。
疲れ果てて気を失ってしまったらしいかえるくんを前に、ぼくはどうしたらいいのか分からずおろおろと喉を鳴らした。
ぽつりと、雨が降る。
降り出した雨はみるみる激しくなり、学校に渦巻いていた炎を消していった。
「帰代くん!!」
聞こえた声にぱっと顔を上げれば、ジャノメくんがペリッパーくんを連れてこっちに走ってくる。彼が雨を降らせて炎を消したらしい。
ぼくは慌ててジャノメくんの元に駆け出すと、かえるくんの方へと服を引っ張った。
「わ、わっ…君、帰代くんのガーディ…?」
はやくはやくと急かすぼくに目を丸くしたジャノメくんは、すぐに倒れたかえるくんと抱えられた女の子に駆けつける。
彼によって現場は落ち着きを取り戻し、病院に運ばれたかえるくんもまもなく目を覚ました。
火傷だけで済んだかえるくんは、ベッドの上でジャノメくんから女の子の無事を聞くと、心底ほっとしたようにため息をついていた。
そうして、ぼくや外でみんなの避難を手伝っていた弟たちのことを、いっぱい褒めてくれたんだ。
かえるくんの腕に収まらないくらい大きくなってしまったぼくは、特等席を諦めることになったけれど、それでもいいと思えるくらい誇らしかった。
こうしてぼくは、ガーディからウインディになることを選んだんだ。
※
かえるくんより小さな手のひらが、ゆっくりと眠っていたぼくの頭を撫でる。
寝ぼけたまま顔を上げれば、そこにはにこにこと笑うようすけの姿があった。今日はお仕事で来ているんだっけ。
「おい嘉羽!!うちの子に変なことしたら承知しないからな!!」
「いやですね帰代さん、僕は罪のないポケモンに危害を与えるなんて非情な真似はしませんよ。」
彼はかえるくんが嫌いな人だから、本当は僕も嫌わなきゃならないんだけど、撫でるのは上手いしぼくらにも優しい。
複雑な表情で撫でられているぼくの喉を掻いていたようすけは、ぼくが下げている首飾りに目を瞬いた。
「おや、これは……」
彼の指がなぞる紐の先には、もう何もついていない。外そうとしたかえるくんに抵抗して、今でもお守りとしてぼくの首に結ばれているものだ。
ふんと鼻息荒くようすけにそれを見せつければ、彼は微笑ましいものをみるような表情でぼくの頭をもう一度撫でた。
「良いものを貰いましたね。」
どうやらようすけにも、この首飾りの価値がわかるらしい。
「…嘉羽、いい加減…にッ!?」
ふんふんと胸を張ったぼくを宥めようと腰を上げたかえるくんは、腰に突然抱きついてきた柔らかい感触に驚いた声を上げる。
振り返ればそこには、にこにこと笑みを浮かべるモココくんの姿があった。
「ま、まだついてきてたのかこいつ…」
「おや、新しい子ですか?僕に似て可愛いですね。」
「お前は可愛いくないだろ、ふざけんな。」
この子は、この前みんなでサンドイッチを作っていたら、いつの間にか席に座っていつの間にか食べていた不思議な子だ。
かえるくんがボールに入れたわけでもないのに、彼の後をついて言うことを聞いている。捕まえていないポケモンが言うことを聞くなんて、今までに聞いたこともなかった。
ようすけが手を伸ばして、モココくんの頭を撫でる。構われたことが嬉しい彼は、鳴き声を上げるとようすけに抱きついた。
ばちんと響いた静電気の音とようすけの悲鳴を背に、かえるくんは舌を出して歩き出す。
「…よし。行くぞ、ウインディ。」
「ウォン!!」
元気よく返事をしたぼくは、尻尾を振りながらかえるくんの隣に並んだ。ぼくの首のあたりを優しく撫でて、かえるくんは笑う。
そうしてぼくらは、今日も一歩を踏み出した。
今日も頑張ろうね、かえるくん!
終