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惚れた欲目にも程がある。

全体公開 Δドラヒナ 4 6117文字
2023-07-25 17:09:21

以前、文月さんとリプで「Δでは書かれるのは『ロナ戦』ではなく、『ヒナ戦』になるのでは?」とお話した事がありまして、そこから思いついたお話です。
さらに、Δなら『アニキ・サーガ』ならぬ『タイチョー・サーガ』かな、となりまして。エンディングは、評判がよくて嬉しかったですね。
おまけのエピローグを追加しました。二人の子供が出ます。捏造注意で願います。
2023/06/03に上げました。

Posted by @kw42431393

 「あの、隊長も。これ
 そう言ってヒナイチくんが、一冊の冊子を渡してきたウフフ、実はもう買ってるんだけどね。
 「ありがとう、第1巻刊行おめでとう。サイン貰ってもいいかね、ヒナイチ先生?」 
 「ヌフフ。」
 からかわないでくれ照れる君が持っている冊子には『ヒナイチ・ウォー・戦記』と書かれていた。
 「なになに?な~んだ、おやつじゃないのか。」
 私の後ろから、ロナルドくんも覗き込んでくる。呆れた顔で見返していると、思い付いた様にヒナイチくんが顔を上げた。
 「なあ折角だから、隊長もロナルドもジョンも、サインしてくれ。みっぴきで書いた様なものだから。」
 4冊の本を並べて、それぞれがサインペンを走らせる。几帳面な字、マジロの字、元気なお子様の字。
 これは私達の宝物だ。大事に飾っておかなければ。



 ロナルドくん達の大侵攻が終わって、少し経った頃だった。その戦いについて、大手柄を立てた退治人諸君の特集記事が組まれた。そして、その中でヒナイチくんへのインタビューが話題を呼んだのだ。
 『不覚を取った私が、評価されるのは皆に申し訳ない。』
 生真面目な君はそう言うが、真っ当な評価だよ。
 というより、ザックリ見てもケンくんのコメントはおふざけが多い、半田くんはロナルドくんの醜聞暴露、退治人キッスはイケメンとのロマンス談義唯一マトモなのは狙撃手サギョウくんだが、半田くんへの愚痴が目立つ。だから、彼女のコラムが観客の目を引くのは当然ではある。
 さらに、そこから退治人の日常、仕事ぶりが知りたいという市民の希望があり、オータム書店で企画されたのがさっきの『ヒナイチ・ウォー・戦記』略して『ヒナ戦』だ。
 ルーキー退治人ヒナイチの1日という感じの内容で、ほぼ日記に近い。普通ならさほど面白みもないだろうが、ここはシンヨコではある。
 ここでの日常は、他所の人間には面白い事ではあるらしい。
 『もう少しエンターテイメントを含ませれば、もっといい作品になりますよ。』
 そうオータム書店のフクマさんに言われたヒナイチくんは、困ってしまった。そして、報告書を提出しに来た際に私に相談したという訳だ。
 「フフ。こうして見ると、私達は奇妙な体験を日常的にしているのだね。」
 彼女の原稿を捲りながら、コーヒーの香りを楽しむ。本当は忙しいが、息抜きだって必要だ。それに、こういうのは嫌いではない。
 「嘘を書く訳にはいかないだろう。この前の事件と吸血鬼確保の一部始終を、そのまま書いただけだ。」
 私のお手製クッキーで、頬を膨らませたヒナイチくんが困った顔をする。リスの様で可愛らしいさらに追加で焼いてあったクッキーをテーブルに置いた。それもあっという間になくなる、それというのも。
 「なあなあ、俺の事も畏怖く書いてくれた?」
 横からロナルドくんが、クッキーを口に放り込みながら原稿を覗き込んだ。あの大侵攻で、我々を一番手こずらせた張本人で、私が監督している吸対の備品である。そして、彼女とジョンのおやつ仲間となった吸血鬼だ。
 「ヌフフフ。」
 「今回は、あの件だからなあ。あっ、ロナルド。それ私のだからな!」
 今回、吸血鬼セロリ大好きだったから、君はいい所はなかったね。卵だらけの吸血セロリに逃げ惑って、半田くんに撮影されるわ、泣きわめくわ、散々だった。
 「も~、なんだよ。これじゃあ、俺が子供みたいじゃねえか。」
 いや、子供だけどね。しかし、犯人を確保したのは、テンパって大暴れした彼の手柄なのだ。
 「嘘を書いてはいけないけど、あくまで『フィクションです』って前置きしてあるからね。」
 「どういう事だ?」
 彼女のアンテナが、くにゃりと?マークを描く。
 「これ、コピーとるよ。書き込みしていいかい?」
 仕事が遅れて、ミカエラくんに怒られたがそこからは楽しかった。つまり、『ちょっと盛ったり、言い方を変えた』訳だ。
 「ここの半田くんのイタズラを、敢えて作戦でしてたって事にしてだね。」
 線で消した上に、サラサラとペンを走らせる。ただの日常が、少し映画の様に格好いいものに変わっていくのは、不思議な感覚があった。
 「いいな、じゃあ。ここで、ロナルドが騒いだ時のセリフをもっとこう。」
 反対側から、慣れてきたヒナイチくんも書き込みを始めた。うんうん、なかなかいいじゃないか。
 「ヌヌヌヌ
 「おっ、ジョンも書いてくれんの?スゲー、俺カッコよくなってる。」
 ただのポンチとのトラブルが、街の平和をかけたチームΔの闘い、に変わる。
 「俺も書いていい?ここで、ドラ公を巨大化させてさ。ビームとか。」
 ペンを持ったロナルドくんの頭を小突く。やめんか、ダンピールがそんな事出来んわ。
 まあ、そうして出来たのが冒頭の『ヒナ戦1巻』だ。彼女が『みっぴきで書いた様なもの』と言ったのはそういう事だった。
 その後、続刊の予定が立ち、それを見て冷や汗をかくとは当時の私は知るよしもなかった。



 「隊長。ちょっと、見て貰ってもいいだろうか。」
 いつもの隊長室での、報告書の受け取り。もとい、私達の癒しの時間。当時と違い、結婚を前提でつき合っている私達だ。たまに、覗く連中がいる程度で文句を言う者はあまりいない。
 「ん?どうかしたかね?」
 いつも通りのジョンとロナルドくんも一緒の席で、おやつを取り合いしながら彼女が言った。
 「先日、ヒナ戦2巻を脱稿した所なんだが。」
 私達が手伝ってるのもあるが、この子は締め切りを落とさないのだ。彼女らしい。
 「出してから、考えたんだ。もっと書きたい事があったんじゃないかって。」
 ふむ、そういう事もあるかもしれない。作家らしさが身に付いてくると、こう心情の変化というか。
 「それが、分かった気がするんだ。プロットだけ書いてみた、隊長に一度見ていや。隊長だからこそ見て欲しいというか。」
 そう言って差し出してくる、原稿用紙を受け取った結構ずっしりあるな。しかし、彼女がそこまで言うのだ。これは気合いを込めて見てやらないと。
 「どれどれ
 「ヌンヌン?」
 え~っと。ヒナイチくん、ちゃんと寝てるよね?
 「ど、どうかな!ヒナイチ・ウォー・戦記 番外編タイチョー・サーガだ。」
 何て?ちょっと、待って待って。いきなり番外編とかないわああ、いや。しかし、彼女のキラキラした眼差しを否定する訳には。
 うん、ここは年上として、そこそこ誤魔化しつつ諭すしか。

 『吸血対策課ドラルク隊隊長ドラルクは、ルーマニアで産声を上げた。吸血鬼対策課の創始者の息子と、竜の血族の本家の女性との間に生まれた生まれながらにして聡明で優秀なダンピールであった。』
 なんか、もう冷や汗ダラダラなんですけど。いや、聡明で優秀なのは確かだからうん。
 『隊長は、素晴らしいお方だ。日本で出来たばかりの吸血鬼対策課で休みもなしに、市民の為に奮闘されている。』
 時々、ゲームしたりしてサボってるの、君も知ってるよね?
 『本部長から帰宅前に仕事の追加を申し渡されたりしても、文句一つ言わない。我々も見習わなくては。』
 そこ盛ってるでしょ。言ってる、いつも言ってる。
 『このままでは、優秀な人材が潰れてしまう。早急な勤務環境の整備と次世代の人材育成が急務であろう。』
 ありがとう!よく言ってくれた、こういうのはもっと言っておくれ。
 『それに、隊長は男性としても紳士的で魅力的な方なのだ。私の様な新参者が、こんな素敵な方とおつき合いできてよいのだろうか。』
 こうして読むと、チームの部下で、一回り年下に手を出してる私って
 改めてゴメン、君が高校の時から狙ってました!ロリコン不可避だろ、これ。
 あと、私の手とか肋とか萌えポイントを上げなくていいから昨夜何してたか、知り合いにバレちゃうじゃない。
 「ん~。そういや、ドラ公の肋によくキスマークついて痛っ!?」
 横から覗いていたロナルドくんが、ヒナイチくんの正拳を喰らって吹っ飛んだ。
 君、フォンくんとかにそれ喋ってないよな?変な知識つけてきて、心配なんだが。
 『戦闘能力も素晴らしい。血液錠剤を使ったとはいえ、先日の連続吸血事件の犯人を取り押さえたのはこの人なのだ。』
 ああ、あれね。私は体力ないから、先手を取るか、カウンターを狙う戦法を取ってるだけだよ。あの時は、相手がせっかちだったから、勝てた様なもんだ。待ちガイルしてただけだよ。
 「ここさあ、剣で戦うより竜に変身して火を吹くとかどうだ?」
 おい、このゴリラやめんか。
 「嘘はダメだぞ。」
 「でもさ、竜の血族ってドラゴンに変身できる奥義があるんだよ。皆のピンチに、お前の血を吸って一時的にとかカッコよくね?」
 「いいな。」
 やめてくれ給え。しかも、ヒナイチくんも何で乗り気なの?
 『司令官としての有能さは、折り紙付きだ。誰も彼の作戦に口答えする者なぞ誰もいない。だからこそ、吸対、退治人、吸血鬼連合チームΔが成立しているのだ。』
 いや、いるっちゃいるけど。こんだけ大所帯になれば。
 『私はこのチームの一員である事を誇りに思う。この輪が、世界中に広まって両種族の共生に貢献出来る事を願っている。』
 うん、ここは綺麗に締めたね。
 「え~っと。」
 「ヌヌヌ。」
 ジョンと顔を見合わせる。どうしよう読むだけでかなり精神削られたんたけど。
 「ど、どうたろうか?」
 「どうした?面白そうじゃん。これも傑作にしようぜ。」
 二人の視線が辛い。このままでは、私が巨大化したり、ビーム打ったり、邪神を封じ込めたりしそうだ。
 「よ、よく書けてるね。嬉しいよ。」
 惚れた欲目の恐ろしさをひしひしと感じる。そう、こんな感じに見ていてくれてたのか期待を裏切りたくない。普段の行動には気をつけないと、という気にさせられる。
 「そうか!じゃあ、ちゃんと清書して
 「ダメー!」
 「ヌヌー!」
 私達は必死に止めた。あんなデタラメ、世にだされたら恥そこまで考えて思い付く。焦っていて忘れていたが、真っ当に止められる理由あるじゃないか。
 「ヒナイチくん。気持ちは嬉しいが、落ち着いて聞いて欲しい。」
 「ん?どうしたんだ?」
 彼女のアンテナが、?マークを描く。肩に手を乗せて、あくまで言い聞かせる様に言う。
 「私は公務員なのだよ。」
 「うん、そうだな。」
 「公務員はね、業務内容に関わりそうな事を書籍にしたり、暴露してはいけないんだ。」
 「あ!?」
 よし、イケる。何故最初に思い付かなかったんだ。
 「そ、そうか。隊長のご迷惑になっては。」
 「つまんね~の。面白そうだったのに。」
 ちょっと、5歳は黙ってなさい。
 「そうか、残念だ。」
 シュンとした顔を見るのは辛いが、これで諦めてくれそうだ。それはそれとして
 「じゃあ、捨ててしまうか。」
 勿体ない気がするな。やっぱり、好きな人が自分を贔屓目に見てくれているというのは、嬉しい事だ。
 「これ、私が貰ってもいいかね?」
 君の気持ちだけは、よく伝わったからそれだけで十分だ。



 そんな訳で、ヒナ戦番外編『タイチョー・サーガ』は今も私の手元にある。たまにこうしてジョンと開いて、嬉し恥ずかしの気持ちでいっぱいになっている訳だ。ただ

 「隊長、どうしたんだ?」
 後ろから声をかけられる。ゆったりした服に身を包んだヒナイチくんに笑いかけると、私は少し目立ってきたお腹を撫でた。
 「ん。」
 「フフ、蹴ってる。ご機嫌だね。」

 さすがに、この子に読まれるのは恥ずかしい。名残惜しいが、こっそり処分しなければならないかな、と思っている。



 おまけ

 「あの~、おとうさま。おねがいしてもいいですか?」
 「ん?何かね?」
 新聞紙の向こうから、鈴を転がす様な子供の声が聞こえて、思わず頬が緩む。
 子煩悩と言われるが仕方ないよね。新聞を畳むと、向こうから赤毛のアンテナが、ピョコン!と跳ねた。
 「これをよんで、ほしいんです!」
 封筒を差し出してくる、元気な声。
 今年で8歳になる、可愛い息子だ。基本的にはヒナイチくん似だが、目元は私にそっくりとよく言われる。
 「勿論、いいよ。」
 折角の非番だもの、家族サービスはたくさんしてやりたい。両親とも職業柄、夜勤が多いし、この子が眠っている時間帯に帰宅は珍しくない、ジョンやロナルドくんもいるが、寂しい思いはさせていると思っている。
 それにしても、封筒?本じゃないんだな。
 「おとうさまのことをかいてる、ってききました。むずかしいかんじがおおいので
 「あ゛~~!」
 そこには、『タイチョー・サーガ』と書かれていた。そう、子供が大きくなって読まれるのは恥ずかしいから、処分しようと思いつつ、思い出深いので隠していたんだった!
 「えっ、えっとね。これは
 「ロナルドおにいさまに、きいたんです!おとうさま、かっこよかったし、つよかったんですってね!」
 あのゴリラー!今晩のご飯に、セロリ入れるぞ!
 「あ、アハハ。」
 「きょだいかしたり、ビームうったり!」
 そこから離れろ!どれだけ、巨大化とビーム好きなんだ! 
 「あと、ドラゴンにへんしんしたり!」
 お母様の血を受けて吸血鬼になったら出来るかもしれないが、それも今は無理。
 「そのすべてがここにかいてるって!ねえ、ぼくもみたいです!」
 「い、いやあそれは、ちょっともう。」
 キラキラした息子の眼差しに、冷や汗がダラダラ流れてくる。どうしよう、邪神を封印してるとか、任務中に大怪我して出来なくなったとか、言うしかないのかな。
 「何をしているんだ、二人共?」
 「ヌヌヌヌ?」
 すると、後ろからヒナイチくんとジョンが、やってきた。もうすぐ、二人目を出産する彼女は少し大儀そうだ。手を取ってソファに誘導しようとすると、「大袈裟だな」と苦笑いをされた。
 「おや、これはアハハ。懐かしいな。」
 ヒナイチくんが、『タイチョー・サーガ』を軽く撫でる。書いた本人には、また違う感覚があるのだろう。
 「おかあさま。おとうさま、ビームうつのみせてくれないんです。」
 パパのHPはもう0よ、本当に勘弁して。
 「ウフフ、それは駄目だぞ。」
 ヒナイチくんが、口元に人差し指を立てながらクスクス笑う。この収め方には、年上の私も負けたとしか言えない。こんなに、無敵のお嬢さんを娶れた私は果報者なのだろう。

 「お父様のすごい所を見ていいのは、お母様だけだからな。」
 
 
 
 
 
 
 
 


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