以前、文月さんとリプで「Δでは書かれるのは『ロナ戦』ではなく、『ヒナ戦』になるのでは?」とお話した事がありまして、そこから思いついたお話です。
さらに、Δなら『アニキ・サーガ』ならぬ『タイチョー・サーガ』かな、となりまして。エンディングは、評判がよくて嬉しかったですね。
おまけのエピローグを追加しました。二人の子供が出ます。捏造注意で願います。
2023/06/03に上げました。
@kw42431393
「あの、隊長も。これ…」
そう言ってヒナイチくんが、一冊の冊子を渡してきた…ウフフ、実はもう買ってるんだけどね。
「ありがとう、第1巻刊行おめでとう。サイン貰ってもいいかね、ヒナイチ先生?」
「ヌフフ。」
からかわないでくれ…照れる君が持っている冊子には『ヒナイチ・ウォー・戦記』と書かれていた。
「なになに?な~んだ、おやつじゃないのか。」
私の後ろから、ロナルドくんも覗き込んでくる。呆れた顔で見返していると、思い付いた様にヒナイチくんが顔を上げた。
「なあ…折角だから、隊長もロナルドもジョンも、サインしてくれ。みっぴきで書いた様なものだから。」
4冊の本を並べて、それぞれがサインペンを走らせる。几帳面な字、マジロの字、元気なお子様の字。
これは私達の宝物だ。大事に飾っておかなければ。
ロナルドくん達の大侵攻が終わって、少し経った頃だった。その戦いについて、大手柄を立てた退治人諸君の特集記事が組まれた。そして、その中でヒナイチくんへのインタビューが話題を呼んだのだ。
『不覚を取った私が、評価されるのは皆に申し訳ない。』
生真面目な君はそう言うが、真っ当な評価だよ。
というより、ザックリ見ても…ケンくんのコメントはおふざけが多い、半田くんはロナルドくんの醜聞暴露、退治人キッスはイケメンとのロマンス談義…唯一マトモなのは狙撃手サギョウくんだが、半田くんへの愚痴が目立つ。だから、彼女のコラムが観客の目を引くのは当然ではある。
さらに、そこから退治人の日常、仕事ぶりが知りたいという市民の希望があり、オータム書店で企画されたのがさっきの『ヒナイチ・ウォー・戦記』…略して『ヒナ戦』だ。
ルーキー退治人ヒナイチの1日…という感じの内容で、ほぼ日記に近い。普通ならさほど面白みもないだろうが、ここはシンヨコではある。
ここでの日常は、他所の人間には面白い事ではあるらしい。
『もう少しエンターテイメントを含ませれば、もっといい作品になりますよ。』
そうオータム書店のフクマさんに言われたヒナイチくんは、困ってしまった。そして、報告書を提出しに来た際に私に相談したという訳だ。
「フフ。こうして見ると、私達は奇妙な体験を日常的にしているのだね。」
彼女の原稿を捲りながら、コーヒーの香りを楽しむ。本当は忙しいが、息抜きだって必要だ。それに、こういうのは嫌いではない。
「嘘を書く訳にはいかないだろう。この前の事件と吸血鬼確保の一部始終を、そのまま書いただけだ。」
私のお手製クッキーで、頬を膨らませたヒナイチくんが困った顔をする。リスの様で可愛らしい…さらに追加で焼いてあったクッキーをテーブルに置いた。それもあっという間になくなる、それというのも。
「なあなあ、俺の事も畏怖く書いてくれた?」
横からロナルドくんが、クッキーを口に放り込みながら原稿を覗き込んだ。あの大侵攻で、我々を一番手こずらせた張本人で、私が監督している吸対の備品である。そして、彼女とジョンのおやつ仲間となった吸血鬼だ。
「ヌフフフ。」
「今回は、あの件だからなあ。あっ、ロナルド。それ私のだからな!」
今回、吸血鬼セロリ大好きだったから、君はいい所はなかったね。卵だらけの吸血セロリに逃げ惑って、半田くんに撮影されるわ、泣きわめくわ、散々だった。
「も~、なんだよ。これじゃあ、俺が子供みたいじゃねえか。」
いや、子供だけどね。しかし、犯人を確保したのは、テンパって大暴れした彼の手柄なのだ。
「嘘を書いてはいけないけど、あくまで『フィクションです』って前置きしてあるからね。」
「どういう事だ?」
彼女のアンテナが、くにゃりと?マークを描く。
「これ、コピーとるよ。書き込みしていいかい?」
仕事が遅れて、ミカエラくんに怒られたがそこからは楽しかった。つまり、『ちょっと盛ったり、言い方を変えた』訳だ。
「ここの半田くんのイタズラを、敢えて作戦でしてたって事にしてだね。」
線で消した上に、サラサラとペンを走らせる。ただの日常が、少し映画の様に格好いいものに変わっていくのは、不思議な感覚があった。
「いいな、じゃあ。ここで、ロナルドが騒いだ時のセリフをもっとこう…。」
反対側から、慣れてきたヒナイチくんも書き込みを始めた。うんうん、なかなかいいじゃないか。
「ヌヌヌヌ…」
「おっ、ジョンも書いてくれんの?スゲー、俺カッコよくなってる。」
ただのポンチとのトラブルが、街の平和をかけたチームΔの闘い、に変わる。
「俺も書いていい?ここで、ドラ公を巨大化させてさ。ビームとか。」
ペンを持ったロナルドくんの頭を小突く。やめんか、ダンピールがそんな事出来んわ。
まあ、そうして出来たのが冒頭の『ヒナ戦1巻』だ。彼女が『みっぴきで書いた様なもの』と言ったのはそういう事だった。
その後、続刊の予定が立ち、それを見て冷や汗をかくとは…当時の私は知るよしもなかった。
「隊長。ちょっと、見て貰ってもいいだろうか。」
いつもの隊長室での、報告書の受け取り。もとい、私達の癒しの時間。当時と違い、結婚を前提でつき合っている私達だ。たまに、覗く連中がいる程度で文句を言う者はあまりいない。
「ん?どうかしたかね?」
いつも通りのジョンとロナルドくんも一緒の席で、おやつを取り合いしながら彼女が言った。
「先日、ヒナ戦2巻を脱稿した所なんだが。」
私達が手伝ってるのもあるが、この子は締め切りを落とさないのだ。彼女らしい。
「出してから、考えたんだ。もっと書きたい事があったんじゃないかって。」
ふむ、そういう事もあるかもしれない。作家らしさが身に付いてくると、こう…心情の変化というか。
「それが、分かった気がするんだ。プロットだけ書いてみた、隊長に一度見て…いや。隊長だからこそ見て欲しいというか。」
そう言って差し出してくる、原稿用紙を受け取った…結構ずっしりあるな。しかし、彼女がそこまで言うのだ。これは気合いを込めて見てやらないと。
「どれどれ…」
「ヌンヌン?」
…え~っと。ヒナイチくん、ちゃんと寝てるよね?
「ど、どうかな!ヒナイチ・ウォー・戦記 番外編…タイチョー・サーガだ。」
何て?ちょっと、待って待って。いきなり番外編とかないわ…ああ、いや。しかし、彼女のキラキラした眼差しを否定する訳には。
うん、ここは年上として、そこそこ誤魔化しつつ諭すしか。
『吸血対策課ドラルク隊隊長ドラルクは、ルーマニアで産声を上げた。吸血鬼対策課の創始者の息子と、竜の血族の本家の女性との間に生まれた…生まれながらにして聡明で優秀なダンピールであった。』
なんか、もう冷や汗ダラダラなんですけど。いや、聡明で優秀なのは確かだから…うん。
『隊長は、素晴らしいお方だ。日本で出来たばかりの吸血鬼対策課で休みもなしに、市民の為に奮闘されている。』
…時々、ゲームしたりしてサボってるの、君も知ってるよね?
『本部長から帰宅前に仕事の追加を申し渡されたりしても、文句一つ言わない。我々も見習わなくては。』
そこ盛ってるでしょ。言ってる、いつも言ってる。
『このままでは、優秀な人材が潰れてしまう。早急な勤務環境の整備と次世代の人材育成が急務であろう。』
ありがとう!よく言ってくれた、こういうのはもっと言っておくれ。
『それに、隊長は男性としても紳士的で魅力的な方なのだ。私の様な新参者が、こんな素敵な方とおつき合いできてよいのだろうか。』
こうして読むと、チームの部下で、一回り年下に手を出してる私って…。
改めてゴメン、君が高校の時から狙ってました!ロリコン不可避だろ、これ。
あと、私の手とか肋とか萌えポイントを上げなくていいから…昨夜何してたか、知り合いにバレちゃうじゃない。
「ん~。そういや、ドラ公の肋によくキスマークついて…痛っ!?」
横から覗いていたロナルドくんが、ヒナイチくんの正拳を喰らって吹っ飛んだ。
君、フォンくんとかにそれ喋ってないよな?変な知識つけてきて、心配なんだが。
『戦闘能力も素晴らしい。血液錠剤を使ったとはいえ、先日の連続吸血事件の犯人を取り押さえたのはこの人なのだ。』
ああ、あれね。私は体力ないから、先手を取るか、カウンターを狙う戦法を取ってるだけだよ。あの時は、相手がせっかちだったから、勝てた様なもんだ。待ちガイルしてただけだよ。
「ここさあ、剣で戦うより竜に変身して火を吹くとかどうだ?」
おい、このゴリラやめんか。
「嘘はダメだぞ。」
「でもさ、竜の血族ってドラゴンに変身できる奥義があるんだよ。皆のピンチに、お前の血を吸って一時的に…とかカッコよくね?」
「…いいな。」
やめてくれ給え。しかも、ヒナイチくんも何で乗り気なの?
『司令官としての有能さは、折り紙付きだ。誰も彼の作戦に口答えする者なぞ誰もいない。だからこそ、吸対、退治人、吸血鬼連合…チームΔが成立しているのだ。』
…いや、いるっちゃいるけど。こんだけ大所帯になれば。
『私はこのチームの一員である事を誇りに思う。この輪が、世界中に広まって両種族の共生に貢献出来る事を願っている。』
うん、ここは綺麗に締めたね。
「…え~っと。」
「…ヌヌヌ。」
ジョンと顔を見合わせる。どうしよう…読むだけでかなり精神削られたんたけど。
「ど、どうたろうか?」
「どうした?面白そうじゃん。これも傑作にしようぜ。」
二人の視線が辛い。このままでは、私が巨大化したり、ビーム打ったり、邪神を封じ込めたりしそうだ。
「よ、よく書けてる…ね。嬉しいよ。」
惚れた欲目の恐ろしさをひしひしと感じる。そう、こんな感じに見ていてくれてたのか…期待を裏切りたくない。普段の行動には気をつけないと、という気にさせられる。
「そうか!じゃあ、ちゃんと清書して…」
「ダメー!」
「ヌヌー!」
私達は必死に止めた。あんなデタラメ、世にだされたら恥…そこまで考えて思い付く。焦っていて忘れていたが、真っ当に止められる理由…あるじゃないか。
「ヒナイチくん。気持ちは嬉しいが、落ち着いて聞いて欲しい。」
「ん?どうしたんだ?」
彼女のアンテナが、?マークを描く。肩に手を乗せて、あくまで言い聞かせる様に言う。
「私は公務員なのだよ。」
「うん、そうだな。」
「公務員はね、業務内容に関わりそうな事を書籍にしたり、暴露してはいけないんだ。」
「あ!?」
よし、イケる。何故最初に思い付かなかったんだ。
「そ、そうか。隊長のご迷惑になっては…。」
「つまんね~の。面白そうだったのに。」
ちょっと、5歳は黙ってなさい。
「そうか、残念だ。」
シュンとした顔を見るのは辛いが、これで諦めてくれそうだ。それはそれとして…。
「じゃあ、捨ててしまうか。」
…勿体ない気がするな。やっぱり、好きな人が自分を贔屓目に見てくれているというのは、嬉しい事だ。
「これ、私が貰ってもいいかね?」
君の気持ちだけは、よく伝わったから…それだけで十分だ。
そんな訳で、ヒナ戦番外編『タイチョー・サーガ』は今も私の手元にある。たまにこうしてジョンと開いて、嬉し恥ずかしの気持ちでいっぱいになっている訳だ。ただ…
「隊長、どうしたんだ?」
後ろから声をかけられる。ゆったりした服に身を包んだヒナイチくんに笑いかけると、私は少し目立ってきたお腹を撫でた。
「ん…。」
「フフ、蹴ってる。ご機嫌だね。」
さすがに、この子に読まれるのは恥ずかしい。名残惜しいが、こっそり処分しなければならないかな、と思っている。
おまけ
「あの~、おとうさま。おねがいしてもいいですか?」
「ん?何かね?」
新聞紙の向こうから、鈴を転がす様な子供の声が聞こえて、思わず頬が緩む。
子煩悩と言われるが…仕方ないよね。新聞を畳むと、向こうから赤毛のアンテナが、ピョコン!と跳ねた。
「これをよんで、ほしいんです!」
封筒を差し出してくる、元気な声。
今年で8歳になる、可愛い息子だ。基本的にはヒナイチくん似だが、目元は私にそっくりとよく言われる。
「勿論、いいよ。」
折角の非番だもの、家族サービスはたくさんしてやりたい。両親とも職業柄、夜勤が多いし、この子が眠っている時間帯に帰宅は珍しくない、ジョンやロナルドくんもいるが、寂しい思いはさせていると思っている。
それにしても、封筒?本じゃないんだな。
「おとうさまのことをかいてる、ってききました。むずかしいかんじがおおいので…」
「あ゛~~!」
そこには、『タイチョー・サーガ』と書かれていた。そう、子供が大きくなって読まれるのは恥ずかしいから、処分しようと思いつつ、思い出深いので隠していたんだった!
「えっ、えっとね。これは…」
「ロナルドおにいさまに、きいたんです!おとうさま、かっこよかったし、つよかったんですってね!」
あのゴリラー!今晩のご飯に、セロリ入れるぞ!
「あ、アハハ…。」
「きょだいかしたり、ビームうったり!」
そこから離れろ!どれだけ、巨大化とビーム好きなんだ!
「あと、ドラゴンにへんしんしたり!」
お母様の血を受けて吸血鬼になったら出来るかもしれないが、それも今は無理。
「そのすべてがここにかいてるって!ねえ、ぼくもみたいです!」
「い、いやあ…それは、ちょっともう。」
キラキラした息子の眼差しに、冷や汗がダラダラ流れてくる。どうしよう、邪神を封印してるとか、任務中に大怪我して出来なくなったとか、言うしかないのかな。
「何をしているんだ、二人共?」
「ヌヌヌヌ?」
すると、後ろからヒナイチくんとジョンが、やってきた。もうすぐ、二人目を出産する彼女は少し大儀そうだ。手を取ってソファに誘導しようとすると、「大袈裟だな」と苦笑いをされた。
「おや、これは…アハハ。懐かしいな。」
ヒナイチくんが、『タイチョー・サーガ』を軽く撫でる。書いた本人には、また違う感覚があるのだろう。
「おかあさま。おとうさま、ビームうつのみせてくれないんです。」
パパのHPはもう0よ、本当に勘弁して。
「ウフフ、それは駄目だぞ。」
ヒナイチくんが、口元に人差し指を立てながらクスクス笑う。この収め方には、年上の私も負けたとしか言えない。こんなに、無敵のお嬢さんを娶れた私は果報者なのだろう。
「お父様のすごい所を見ていいのは、お母様だけだからな。」