人魚姫ドラヒナでジューンブライド、のつもりで書いたお話なのですが、何故か不穏なお話になりました。最初は、続けるつもりがなかったのですが、「その後が気になる」と言われまして、やっとハッピーエンドのめどが見えてきたので、続きを書いています。
ロナルド王子は、助けてくれたと勘違いした隣国のサンズ姫と一足早くゴールインしております。そこはご安心ください。
人魚姫みっぴきを揃える方針でゆきますので、魔女ルクさんと合流する新婚ロナサン夫婦の前日譚を追加しました。
なんとなく、水深500~700mぐらいの岩場に住んでるイメージにしております。
2023/06/08に上げました。
@kw42431393
爽やかな初夏の日差しが、海中にも差し込む。今日は珊瑚礁を通って、陸に近い所を巡回する。いつも通りのパトロール日和だ。
えっ?人魚姫がパトロールと言ったらおかしいか?
人間達の考えている人魚姫っていうのは、お伽噺に出てくる様な綺麗で無邪気で、王子との恋が実らず消えていく儚い少女か?
それとも、嵐を呼んで船を難破させたり、歌で漁師を惑わす魔女だろうか?
そういう話も聞くな。陸の人間と同じだ、色々なんだ。深海の者も含めると、陸よりもっと千差万別かもしれん。
私の生まれた海中にある王国は、年の離れた兄カズサが治めていて、結構広大な領海を有している。勿論、王国騎士団にはハンダやサギョウ等、優秀な人材がいる。彼らに任せていいはずなんだが…どうも私はじっとしていられなくてな。ヒナイチ姫と呼ばれている私自ら、領海内を巡回しているという訳だ。
「あれ?何の音だ?」
何だろう、教会の鐘が鳴る音か?いつも鳴っている時間とは違うな。それに…
「大勢の人の声?」
海面にそっと顔を出す。岩影に隠れて、賑やかな海岸に目を凝らした。
リンゴーン!リンゴーン!
「ロナルド王子、おめでとうございます!」
「サンズ姫とお幸せに!」
小高い崖の教会を見上げると、楽しそうな人間達の笑顔、祝いの言葉、そして、教会から姿を現した…銀髪碧眼の赤い礼服に身を包んだ青年と、金糸銀糸に縫取りをした華やかな純白のドレスの女性の姿。
「あ、あいつか。それに隣のネコみたいな女性…。」
いつかの嵐の晩、パトロール中に海に投げ出された青年を助けた。それが、この国の王子だったらしい。
彼に心臓マッサージを施した所で、ピンクの髪をツインに結い上げた女性が通りがかった。だから、そのまま私は海に隠れたんだ。人間と関わった人魚はあまりロクな目に合わないし、住んでいる世界が違うんだ。そもそも関わってはいけない。
『ニャ!?あ、ああ…貴方は…ロナルド王子!』
まあ、彼女に任せておけばいいだろう。そう思って、私は彼らから離れたのだ。
「そっか、あの二人はあのまま結ばれたのだな。良かった。」
ふっと、ロナルド王子がこちらに顔を向けた。彼が首を傾げた様に見えたが、結構距離がある。おそらく、気のせいだろう。
『彼にもう一度会いたいなら、人間になる薬をやろう。』
そうだ。あいつに会ったきっかけは、ロナルド王子だったっけ。その時、フワリと風に乗って美味しそうな匂いが漂ってきた。二人が出会ったきっかけの海岸でパーティーが開かれているのだろう。その匂いが、ますますあいつを連想させた。
そろそろ時間だな。祝福の意味を込めて手を振ると、私は彼らに背を向けた。
陽光の差す鮮やかな珊瑚礁から、底へ底へ…光のない深海へ。
おおよそ、姫君と呼ばれる私に相応しくない場所…目指す先には人々を誑かすだの、阿漕な契約で魂を喰らうだのと、評判が悪いメンダコの魔女が住んでいる。
「今日は、どんなお菓子を出してくれるのだろうな。」
ヒナイチ姫、いらっしゃいヌ。
可愛いシャコ貝のジョンが、出迎えてくれる。扉の向こうからする、私を魅了するいい匂いに気づいた頃には、私は王子達の事をすっかり忘れていた。
「おや、残念ではないのかね?」
「何がだ?」
今宵も私の元へ可愛いお姫様がやって来た。毎日日替わりのお菓子を作ってあげる代わりに、毎日ここに来る様にという契約の元で…ヒナイチ姫は、なんの躊躇いもなくサインしたのだ。
「本当は、そこに並んで祝福されていたのは、ヒナイチ姫だったかもしれないのだよ。私が作った薬さえあれば。」
ロナルド王子は粗暴な所はあるが、心優しい男で、知っての通りの美青年だ。命を助けた彼女も心惹かれるであろう…そう思って、陸に興味の湧いた彼女に声をかけた。
『美しい声をくれるなら、人間になる薬を作ってやろう。でも、王子と結ばれなければ泡となって消えてしまうよ?』
最低、美しいその歌声だけでも自分のものに出来る…そんな下心だったのに。
『いらん。』
あっさり断られた。
今でも、勘違いで結ばれた隣国の王女との結婚式を見てもこんな具合だ。彼は彼女の好みではなかったのだろう。
『それより…お前が出してくれたこのお茶菓子は何と言うんだ?』
陸に興味を失った代わりに、私の作ったクッキーに心惹かれたお姫様に、私は別の契約を持ちかけた。それが、今も続いているお茶会だ。
「王妃様になればパトロールをせずとも、美味しい陸のお菓子が手に入るものを…こんな深海まで通って。」
「どうだろう?お菓子も美味しいが、お前と話をしたりゲームをするのも楽しいからな。な、ジョン?」
「ヌイヌン!」
それに、王国のシェフが作るお菓子もお前の作る物ほど美味しくないかもしれないじゃないか…そう無邪気に続けてくれる彼女に苦笑した。
ああ、そんな無邪気な顔をしないでおくれ…ますます君が欲しくなる。陽光の届く明るい世界に帰らないで欲しい。体の弱い私に行けない世界。だから…
「こんな子供っぽい契約をしたのだ。最初の契約も…本当はそのつもりだったのだから。」
ドラルク様、そんな事をしなくてもヒナイチ姫は…
今、お姫様は私の中に包まれてスヤスヤ眠っている。私が浅い場所に出ると具合が悪くなるように、強靭な力を有する彼女でも、深海に来ると疲れてしまうらしい。
いつもお腹が膨れて、ボードゲームをして、陸や深海の珍しい話に目を輝かせた後、あくびを始めるのだ。パトロールのついでに寄ってるのもある。
「この中においで。」
被膜を広げて呼びかける。かけたのだって、軽い魔法。彼女には、赤い目がチカっと光っただけとしか認識しなかったはずだ。
「う…ん。」
目を擦りながら、近寄って来た彼女を誘い込む。頬に手を添えて、軽く口づけを落とした。
触手がシュルシュルと首を、両手を、腰やヒレを拘束する…彼女のお臍の部分に私の嘴が当たっている。
「ふっ…ぁあ…くぅ…ん。」
今なら、どうにでも出来る…食べてしまえば、もう完全に私だけのものだ…わたし…だ、けの。
「ウフフ…。」
だけど、そう思って血を啜り、嘴で肉を抉ろうとする私に、ヒナイチ姫はいつもこう言うのだ。
「魔女、お前は…いい匂いだ、なあ。…きもち…いい、よ。」
そう言って、幸せそうに頬を擦り寄せて眠ってしまう。だから…
「うん、今宵も帰してあげる。だから、明日も来ておくれ。」
ヒナイチ姫はドラルク様が…
分かっているよ。でも、彼女は由緒ある王女なのだ。深海で力を持つ一族とは言え、彼女とは並べない。同じ世界に長くはいられない。それに…いつか彼女も相応しい血筋の人魚の王族と婚姻を結ばなければならない。
彼女は、ロナルド王子の好みでない事は知っていた。だから、どちらに転んでも彼女の一部だけでも得る契約を最初に持ちかけたのに。
「クスクス…明日…は何か…なあ。」
このお茶会はいつまでも続かない。この子が大人になる前に…
シュルリと触手が唇をなぞった。嘴が動こうとするのを押さえるのには、苦労する。
何か別の方法を…探さなければ。
「…ロナルド王子、どうかしましたか?」
おずおずと、緊張気味のサンズ姫が声をかけてくる。そろそろ、慣れて欲しいんだけどな。だって、もう…うん。
俺達、けっ、んんん゛…実感沸かないな。そ、そう…結婚したのにな。
彼女は、俺の命の恩人だ。まぁ、だからって訳ではないけど…うん、いい子だし。おっぱいもおっきくて…おれの好…いやいや。
『隣国との同盟の観点から言っても、反対する要素は一つもない。』
『それに、決めるのはお前じゃ。俺は何も言わんぞ?』
迷ってる俺に兄貴は、そう言ってくれた。サンズ姫は、出会う前から俺のファンだったらしい。俺、勉強とか政治とかはちんぷんかんぷんだけどよ、腕っぷしだけは自信あるんだ。
だから、国民や隣国の要請を受けて、手に負えない魔獣とか悪魔とか妖怪とか…まあ、人外の類いだな…を退治にかり出される事もある。地元メディアに記事にされたり、劇にされたりしてさ…ちょっと有名人だったりするんだよ。
「何でもないですよ、サンズ姫こそ疲れたんじゃないですか。ちょっと、思い出した事があって…。」
にゃ?と首を傾げる彼女は、本当に可愛い。それに、この国では珍しい着物もよく似合ってるんだよ。
「式の時、視線を感じてですね。見たら、海の方から…女の子が立ち泳ぎ?してて。」
何だろう、どこかで会った気がする。それに、あそこは潮の流れが早いんだ。あんな所で人間が泳げるはずがない。
「俺、視力がいいもんでしてね。その赤い髪の子は、俺達に手を振って潜って行っちゃったんですよ。」
「に゛ゃ~!ロナルド王子を盗み見るなんて、ふざけたヤローですよ!」
困ったなぁ…また、お部屋が壊れちゃうじゃないですか。そう思って見ていると、コンコンとノックの音がした。
「新婚夫婦の邪魔をしてすまんな。ロナルド、ちょっといいかの?」
俺達の部屋に兄貴が入ってきた。いつ見たって、威風堂々としてカッコいいよな。誰に対しても、優しくて平等で…俺が先に幸せになってよかったのかな。
「お、おう!大丈夫だぜ。」
「ふむ。そろそろ商人のドラルクが、食料や貴重な動植物のサンプル、繊維の類いを買いつけにくるはずじゃ。また、対応を頼めるか?奴さんらは、お前がお気に入りのようじゃの。」
ドラルクな。お気に入りっていうか…腐れ縁の間違いだろ。ジョンは可愛いけどな。
どこから来たのかは知らないが、相当な大金持ちらしくて、うちの国と交易をしている胡散臭いおっさんだ。タイミングが合えば俺の退治稼業に同行して、退治した相手の毛とか肉とか果実とかを『サンプルだ』と言って持ち帰ったりする。
男のくせに長いローブを着てるし、体も虚弱だから、場所が場所だとこっちがおぶってやったりしなければならない。世話の焼ける奴なんだよ。
「それにしても、兄貴。何で買い付けた商品は、決まった日時に全部海に放り込め、なんだろうな。」
「さあの?だが、奴から得られる利潤は計り知れん。貴金属類もそうじゃが、大量の石炭や鉄鉱石は、富国強兵に不可欠じゃ。我がシンヨコ王国に、産出量が少ないこれらの資源は奴に依存している所があるのでな。」
そういえば、俺が事故に遭ったのも、商品を海に輸送している間に天候が急変したからだっけ。部下達を先に救命ボートに乗せて脱出させたら、逃げ遅れちまってよ。
酷い目に遭ったもんだ。今度会ったら、「お前のせいだぞ」って毒づいてやろうか。
まぁ、そのおかげで俺はサンズ姫に会えたんだ。やっぱり、デコピン一発で勘弁してやろうとおもう。