反転ドラヒナで、連続通り魔事件の為に自分の監視任務にヒナイチくんが来れない事で、ドラルクさんがモヤる話です。
執着心が凝り固まって、拗らせて、ヒナイチくんに手を出す一歩手前の時期になります。
お嬢ルドくんが、やっと話題に上ります。
最後のページは吸血鬼と人間の抗争終結を目指す、反転みっぴきのわちゃわちゃで締めます。
通り魔の犯人とドラルクさんの戦闘シーンを追加しました。
2023/06/17に上げました。
@kw42431393
「もしもし、ドラルク。」
「ああ、ヒナイチくんかね?」
…もう、電話の向こうでも分かる。私がこの時間帯に電話をかけるのは、遅くなるか、監視任務に行けない時だ。相手の声も若干低くなっている。
「今夜も捜査がある。そちらに行けるか、分からない。」
「…そうかね。」
ギギッと、不機嫌そうな義眼の機械音が声に混ざる。
「これで、10日目じゃないか。随分と手こずっているらしいね?」
ここ最近続いている、同胞による通り魔事件だろう…と探る様な声に怖気が走った。
「しゅ…守秘義務がある。それは言えない。」
こちらの気持ちも知らないで、クククッと忍び笑いの後に聞き捨てならない台詞が続いた。
「蛇の道は蛇というだろう…犯人もやり口も知っているよ。だから、私の監視に戻っておいで。」
あれはドラルク様の言い方が悪いヌ。ヒナイチくんが怒るのも無理はないヌ。
彼女が私の監視に来る様になってから、すっかり馴染みとなった食料品店で、ジョンが盛大なため息をついた。
業務用の小麦粉や野菜、卵を次々とカートに積み込む。ウェイトコントロールしているジョンは、これらをさほど食べない。これは、ほぼ城にやって来るリスの餌付け用なのだ。
「はて、おかしいかね?今、起こっている通り魔事件は、30年ぶりだ。無分別のテッドの。」
私とジョンは、ニュースを見ていて、防犯カメラの映像で見てピンと来た。
彼は私とそう変わらない世代の吸血鬼で、異常な怪力と念動力を得意とする。我々吸血鬼は体毛が薄い者が多いが、彼は筋骨隆々とした…所謂、熊男の風貌だ。
彼のあだ名には、無分別と付いている。これは彼の行動の突飛さからきていて、原因は不明だが、数十年に一度、破壊衝動が高まるのだ。それが、10日間続く…出くわしたら人間だろうが同胞だろうか、容赦なく襲って出血死寸前まで吸血してくる。これが、彼のパターンだった。
『今夜で10日目だ。放っておき給え。それが終わると、毎度彼は行方不明になって、問題は起こさない。地震みたいなものだと思えばいいだろう?死者が出ても数人程度だ。』
我々ではそういう認識だが、これが彼女の逆鱗に触れた。
『知って…知っていたのか?何故教えてくれなかったんだ!?』
救急搬送先で、すでに一人死んでいるんだぞ!?と、怒声が電話ごしに響いた。
『理不尽な事を言うのだね。守秘義務と言っていたのは、君じゃないか。』
『う!!うぅ…。』
ぐうの音も出ないらしいが、私が気にしているのはそこではない。
『それより、君もこちらへ戻っておいで。ヒナイチくんに術の類いは効かないが、テッドはシンプルに力で押してくる。簡単に捕らえれる手合いではない。』
『ば、馬鹿を言うな!市民を守るのが、私の…』
『使命だ…か。なら、吸対と退治人で連携して、街中を外出禁止にする事だ。彼も吸血鬼だ、招かれなければ入れない。』
そこまでの助言はした。結局、彼女はヒヨシ隊副隊長殿としての責務の為、現在も街中を駆け回っている。私は彼女以外どうでもいいので、監視に戻ってこいと言ったのだが、逆効果だったらしい。
街中を外出禁止と言っても、私がこうやって呑気に買い物をしている事で分かるだろう。
「人間の愚かさは度しがたいね。彼女が必死になった所で、何も変わらない。」
周辺の買い物客を見回す。多少、顔色に不安はあるが、このぐらいの事件では日常は変わらないのである。
仕方ないヌ。突然言われても、対応出来ないヌよ。
「…吸血鬼ドラルクか?こんな所で何をしている?」
聞き覚えのある声に振り返ると、ヒナイチくんの部下で、ダンピールの半田くんが、大量の弁当やペットボトル飲料を抱えて立っていた。食事の買い出しに来ていたのだろう。
「私も買い出しだよ。意外と、外出禁止令は上手くいってないらしいね?」
「む…それを言われると辛いが。昨日事件があった近辺に、見回りを増やす程度しか出来ていないのだ。」
「前から思っていたが…この街で、吸対と退治人との連携は上手くいってないのではないかね?」
吸血鬼対策課は、退治人の監督も担っている。吸血鬼犯罪の防止や、対応という面では同じはずだが、関係としては微妙な地域も多い。
「実は、あまりよくないんだ。俺は、我々が外出禁止と住民の避難に徹して、退治人が犯人確保に動くべきだとは言ったのだが…」
退治人の方もこちらから指示されるのを厭う者も多くてな…と彼は顔を曇らせた。
「そうだと思った。ヒナイチくんが、まともに休めない訳だよ。」
肩でジョンが『それはドラルク様の監視任務のせいだヌ』とばかりに、薄い目で私を見ているが、気づかなかった事にする。
「ロナルドくんがいた頃は、こうではなかったんたが。」
「ロナルド…?はて、どこかで聞いた様な。」
「俺の同級生で、ヒヨシ隊長の弟なんだ。すべての吸血鬼と人間が友達になる時代を築きたいというのが、夢の退治人でな。」
『週刊バンパイアで一時期有名になっていた赤い服を纏った男』、その程度の認識だった…当時の私にとっては。
「ロナルドくんが、我々との仲立ちをしてくれていた時はよかった…それ以降は彼らとは対立ぎみで、仕事の回転も悪くなってしまったんだ。」
「ほう。その彼はどうしているのかね?」
その時、半田くんの携帯が鳴った。すまなそうに頭を下げながら、彼はレジへ走っていく。
「…あの中には、ヒナイチくんの食事も入っているのだろうね。」
事件のせいで、ここ数日ヒナイチくんは、私の監視に姿を見せていない。
『お前の料理が、たぶん…その…一番美味しいと、お、思うんだ。』
意地っ張りでいつも怒った様な顔が、私の料理を口にした瞬間、年相応の少女に戻る。あのアンテナが、くにゃりとハートマークを描くのだ。
それを見るのが楽しみなのに…その上、折角私の料理で作られた彼女の体が、以前の不健康な体に戻っていく様で不愉快だった。
困ったヌね。弁当にまで妬くんだヌ?
「…。」
ヒナイチくん、ドラルク様の好みのタイプだとは思ってたんだヌ。
確かに。よく見ればタイプの娘であった事は否定しない…しないが、別に顔で選んだ訳ではないはずだ。
初めは、彼女の戦闘力に目をつけたのだ…最高のスリルをくれる遊び相手を育てようとしただけ。
そのはずだったのに…夜が明けて、昼の世界に帰っていく彼女を見ると、心がざわつくのを自覚していた。
時折、上目遣いで私に甘えた様な顔をする事がある。それが、妙に私の庇護欲と独占欲を刺激してきて…籠に入れて手元に置きたい思う様になっていた。
私達もレジで精算を済ませて、店を出る。
「…ジョン。タクシーで先に帰っておくれ。荷物を頼むよ。」
キキキ…と義眼が音を立てる。ため息をついて、私を見送るジョンを尻目に、私は路地裏に向かった。
うちのお嬢さんが、そこに潜む気配と出くわす前に…。
「グルル…フー…フー…」
「悪いね…同胞。」
蒸し暑い夜に冷気が漂い、足元の水溜まりがバシッと音を立てて、凍りついた。
「グガァー!!」
奇声を上げて目の前の同胞が、突っ込んでくる。久方ぶりの殺気に、体が震えるのが分かった。手が習慣的に腰を探るが、そこには何もない。思わず、舌打ちをする。
私は、危険度A認定されている吸血鬼なのだ。だから、外を出歩く時に武器の携帯は許されていないのを忘れていた。
「まあ、いい!幸い…」
気温が高いのが残念だが、昨日からの雨のおかげて氷の材料となる水だけはふんだんにある。突っかかってきた彼を躱すと、周辺に氷の矢を作り出す。それらを念動力で、相手に飛ばした。
ドス!!ドス!!ブシュ!!
「おやおや。」
理性を失っている彼は避けようともしない。全ての矢は狂いなくテッドの肉体には、刺さった。しかし…
「グルルル…!」
…浅すぎる。やはり、武器がないと苦しいか?
直後、ゴミ箱や木屑がこちらに飛んできた。体を霧にして避けると、私は拳に氷を張らせて簡易的なメリケンサックを作った。
体術も師匠仕込みだ。ヒナイチくんとのトレーニングで使った事はないが。
「ガァ!!」
霧から戻った直後に、頭上が暗くなる。先回りしていたテッドが、拳を振り上げているのが見えた。ギリギリで避けて、思いっきり顎を殴りあげる。次で決まる…そう思った時。
「…がっ!?」
近づき過ぎたらしい。瞬間、足を掴まれ、振り回された私の体は壁に叩きつけられていた
「フ、フハハハ!アッハハハハ!!」
立ち上がろうとすると、右足に激痛が走る。右足首にビビぐらい入ったかもしれない。
だが、精神が高揚している。痛みがあっても、その程度だ。足元に転がっているモップに手を伸ばす。へし折ると、その先端に氷を纏わせた。
さあ、どう料理してやろうか…だが。
『副隊長、こちらで妙な物音がしましたよ!?』
『モエギ!私が確認に行く!この周辺を封鎖しろ!!』
聞こえてきたのは、愛しの姫君の声だ。勝負を急ごう。彼女に見られる訳にはいかない。監視対象が暴力沙汰を起こしていたなんて、ヒナイチくんの勤務査定に関わる。
…と、奴の目が遠くの小さな姿を捉える。ヒクヒクと鼻が動いていた。
それはそうだろう、まだ味わった事はないが…おそらく、私の手料理で仕立て上げられた極上の血を持つ少女だ。舌なめずりするのも無理はない…だが。
キイイ!!
「グガ!?キ、キサ…マ?」
バキバキと音を立てて、空気中の水分を氷にする。奴を地面に釘付けにする。もう少し、遊ぶつもりだったのに…だが、仕方がない。
「薄汚い目で見ないで貰いたい、同胞。あれは、私のモノだ。触れていいのは…私だけ。傷つけてよいのも私だけ…私だけ…の…。」
後に残ったのは、崩れた一塊の塵と、折られたモップの破片。その証拠も、下水路に流してやった。彼女が辿り着いた頃には、氷も溶けていたはずだ。
心配そうなジョンに迎えられて、シャワー室に入って、体中の泥と血を落とす。気が重いが、久方ぶりに『ケガトカスグナオール』を使うか。そう思っていたのだが…。
ドラルク様、あの…。
ジョンの怪訝そうな瞳が、上を向く。
「屋根裏の気配…ヒナイチくんが帰ってきたらしいね。」
ジョンに手伝って貰って、右足を添え木と包帯で固定すると、私はキッチンへ向かう。痛みはあったが、頬が緩むのを禁じ得なかった。
日付を越えた。ドラルクから聞いた情報を基に、出現しそうな場所を走り回ったが、奴は姿を現さなかった。
しかし、無駄だった訳じゃない。昨夜は誰も被害に遭わなかった。ドラルクが言う情報が正しければ、翌日からその『無分別のテッド』の被害者は出ないはずなのだ。
あの時は、思わずドラルクに電話で怒鳴り付けてしまったが、彼がくれた情報は有益だったはずだ。ちゃんと礼を言わなければ…。
『彼の事件は、数十年に一度だ。放っておき給え。』
冷静になった今なら、話を聞いておく事で、次回の犯罪を止められるかもしれない。
『放っておくだと!お前は、被害者の事を考えないのか!?』
『どうでもいい。それより、君も危ないのだ。避難の意味もある、私の監視に戻っておいで。』
さっきの電話のやり取りを思い出す。それにしても理解が出来ない、あいつは何を考えているんだ?
屋根裏の扉を開けて、部屋に降りる。
「ど、ドラルク…その。」
「おや、ヒナイチくん。いらっしゃい。無事で何より。」
「ヌヌッヌイ!」
さっきは情報提供を感謝する…そう続けたかったのだが、違和感を感じて言葉が続かなかった。
「…どうしたんだ?」
紅茶を淹れてくれた彼の歩き方がおかしかった…右足を庇う様な歩き方だ。
「…君が気にする必要はない。」
首を傾げながら、差し出されたクッキーを頬張る…私を見るあいつは、いつも通り満足気だった。
「ところで、お小言を言う様だがね。」
「む…。な、何だ?」
「スーパーで会った半田くんと話題になったのだ。どうも君が忙しい割に犯罪が減らないのは、退治人と連携を取らないからだとね。」
返事が出来ない。分かってはいるのだが…
「か、彼らを監督するのも我々だ。馴れ合いはしない。」
「馴れ合い…ね。当分、今夜の状態は続くだろう。」
今夜の様な事態がそんなにあって…そう言いたいが、昨今の状況を考えるとそうも言えない。
私以外にもそういう意見の者も多い、士気に関わる…いや、ヒヨシ隊長と半田の『退治人との結びつきを強めるべき』との意見の方が正しいのだろうか。
礼を言おう…と思ってた考えは、霧散してしまい、ムスっとした顔で私はクッキーを無心に詰め込んだ。
「半田くんの友人だという、ロナルドという退治人を頼ってはどうかね?」
「退治人ロナルドか。私が赴任する前に、彼は東欧に研修に行っている。だから、面識がないんだ。何でも一人でも、多くの吸血鬼と友人になる為の語学研修だとか…。」
「それはそれは…君も少しは見習うべきでは?」
あいつのからかいに言い返しも出来ない。
当時の私はクッキーを食べ終えると屋根裏に逃げてしまった。
「それでは、マリアさん達が◯◯地区のチスイアマガエルの駆除をしている間、我々が市民の避難を…」
署の会議室で、恒例の退治人達と吸対による合同駆除の打ち合わせをしていた時だった。クスクス笑いながらルリさんが、窓を指差してきたのは。
「ヒナイチさん、彼が来たわよ。」
ブッと吹き出しそうなのを押さえて、私は窓に近づくと、コウモリの羽を生やしたドラルクと、彼に掴まっているロナルドとジョンが窓を軽く叩いていた。
ガラリと窓を開けると、何でもない様に彼は中に入ってくる。背後の視線が恥ずかしくて、思わず声を荒げてしまった。
「お、お前は!恥ずかしいから、ちゃんと正面から入れと言ってるだろう!」
「そうですわよ、ドラルクさん。本当に、お野蛮なんですから。」
「ロナルドくん。人を飛行機代わりにしていて、酷くないかね?」
「ヌフフフ!」
大きい鞄を持っている。中から取り出したのは、オードブルと大量のクッキーだ。
「今日は打ち合わせで、帰りが遅くなると言っていたからね。皆と一緒に食べなさい。」
「そ、そうか…皆の分も作ってくれたんだな。すまん。」
変わったな…とつくづく思う。かつてのドラルクなら、私以外の分は作る事はなかったろうに。
「私達もこれから依頼人の元に向かいますの。それでは、ヒナイチさんごきげんよう。」
そう言って、彼らはまた夜空に飛びだって行った。なんだかくすぐったい気分のまま、オードブルの蓋を開ける。色とりどりの料理に、その場にいる全員が笑顔になる。
「折角だから、休憩にしよう。お茶を淹れてくるぞ。」
会議中に退治人達と食事会か…以前の私なら考えもしなかったな。
「ありがと~!それにしても、ドラドラちゃんのお弁当、最近映える盛り付けしてるね。ヒナちゃん、これSNSに上げていい?」
「たぶん、いいんじゃないか…どうも最近、時代についていこうと思って、色々やっているらしい。」
それにしても、『ドラドラちゃん』か。私同様、彼もロナルドを通じて、プライドを鼻にかけた横柄なイメージから、フランクに退治人や吸対職員とつき合う様になってきたのだ。
「吸血鬼の畏怖欲としては、甚だ遺憾としか思えん」と言いつつ、満更でもないらしい。
「メドキ、皆の割りばしとお皿どこだっけ?」
「え~、めんどくさい。手づかみでよくない?」
「サテツももっと食べて、食べて~。」
「マリア!そんなに食えねぇって、言ってんだろ!」
背後で宴会でも起こっている様な賑やかさに、私も浮かれそうになる。思わず鼻唄が漏れるのに苦笑しながら、お茶を持ってくる為に、私は給湯室に足を向けた。