@azisaitsumuri
モデルの兵隊さんは随分居心地が悪そうだ。しかしそれは、単に、自分が絵に成ることに慣れ無い、と言うだけの話では無いようだった。
「何か言いたいなら、仰ってくれて良いんですよ?」
描くために設けられた、静まった部屋に落ちた声に、相手は動揺したようだった。
「わたしはお喋りしながらでも絵が描ける質なので、ご遠慮なさらず。」
「おれは……」
「ええ。」
戸惑ったような男は、今だけを描けばとても兵士には見え無いかも知れ無い。
しかし、生存者と言う確かな事実をきちんと拾って、わたしならそれを描くことが出来る。
例え。
「おれは、そんな英雄みたいに呼ばれるような存在じゃ無い、生き残ってしまった、おれだけが。遺されてしまった。」
兵隊さんは自分のことをそう話した。
しかし。
「いいえ。」
きっぱりと否定する。
「おまえは奇跡の生還を果たした勇ましい兵士です。」
そうすれば、兵隊さんは心苦しそうな、てんでモデルに成ら無い、無様な顔を晒した。
「実際のおまえが、おまえがどう思って居るかは関係有りません。この絵に描かれたおまえは、英雄で、生還者なんです。」
絵の具の束を鷲掴んで男の方に放れば、兵士は鋭い目でそれを追い、はっきりと警戒した。
そう、そのツラだよ。
「実際がどうあれ、描かれたおまえの存在は、周りの人々が勝手に英雄像を語り継ぐのです。」
「……ずっと?」
「ええ。この絵と共にね。」
兵士は画板を見た。
「一緒なら、良いか。」
以降の兵隊さんは、最初より幾分かリラックスした様子でモデルをした。その顔はやはり無様なものだった。しかしそれで構わ無い、引き続き英雄像を描くことに問題は無い。
「だから、それ以外では、幾らでも情け無いお顔を晒して下さって結構です。」
そう言うことだ。
兵士は言葉通り、情け無い顔で笑った。