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指先で送る君へのメッセージ②(グエルside)

2023-08-11 18:06:16

グエスレ現パロ転生シリーズ②-2 バスでスレッタと出会った日の夜、父やラウダと共に暮らす家に帰宅したグエル。スレッタから届いたメッセージ、グエルは何を思うのか――。葛藤と、欲望。ラウダ登場。グエルside。

Posted by @CChacoru



月明かりの夜。
春の雨の後の、わずかに湿り気を含んだ、夜の冷たい空気。
敷地に入ると、石畳の両脇でフットライトが音もなく付く。
エントランスガーデンが光に浮かび上がる。
毎日見慣れた光景だ。我が家だからな。
それなのに。
今朝会った彼女のせいで、遠い昔の、別世界での景色とそれが重なる。
――お父さんは、大事ですよね。
――わかります。お父さん、好きなんですよね。私もお母さん、好きです。
……
鞄を持っていない方の手をポケットに突っ込んで、奥へ歩いてゆく。
玄関口のセキュリティロックに生体認証を通して、中へ踏み入れた。
ただいま」
声は、誰もいない空間に吸い込まれていった。
ラグジュアリーモダンとでも言うらしい。男ばかりの家はホワイトとグレーでまとまった、ほとんど無機質な内装だ。家政婦を雇っているから、綺麗に保たれてはいる。
この世界では、父さんは生きている。
弟のラウダも。ラウダとは今少し拗れているが
奥へ進むと、リビングの方から明かりが漏れていた。
家政婦さん、今日はまだ帰っていなかったのか。
「すみません、夕飯の支度なら――あ」
「おかえり」
「ラウダ帰ってたのか」
リビングに入ると弟の姿があった。
黒いシャツと制服姿。上着は脱いでいた。俺の姿を認めると、いつもの手癖で黒い前髪をいじり始めた。
普段は、この時間でさえラウダは家に居ないことが多い。夜の街で何処へ行っているのか。そうし始めた頃に問い詰めたこともあったが、結局弟を変えることは出来なかった。父さんは顔が合えば弟と言い合いになる。俺も、どう接していいのか正直なところわからなかった。
…………
「どうした、じっと見たりして」
「女?」
「っゲホッ、ゲホッ
なっ……なんだ……
ラウダはじっと目を細めて俺の顔を観察している。
その時、スマホのバイブが短く鳴った。
ドキッとした。
見れば」
ラウダに促されて取り出してみれば、思った通りの名前がそこにあった。
《スレッタ・マーキュリー》
彼女からのメッセージを告げる通知だった。
躊躇した。
今朝は勢いに飲まれて連絡先を教えてしまったが、彼女と関わりを持っては駄目だという思いが拭えない。
本当は嬉しいくせにな。
心の中で自分を嘲笑わらう。
彼女からのメッセージなら、どんな言葉でも大事にするに違いない。俺に関することでなくてもいい。ただ、お前の言葉一字一句を、拾いたい。
「コーヒー淹れるけど、いる?」
「あ、ああ。お前は食べたのか?」
「悪いけど」
「いや、いいんだ。俺は後で食べる。とりあえずコーヒー、貰う」
「わかった」
ラウダはキッチンの奥へと消えていった。
あいつと久々にこんなに話せた気がする。
「ラウダ、ありがとう」
俺はリビングのソファに腰掛けると、首のホックに手をかけて、白い学ランを脱いだ。シャツも首元のボタンをはずす。
もう一度画面を見る。
理性と、欲望に苛まれて、
俺は、
メッセージアプリを、
――開いた。

『今日の夕ご飯はなんですか』

思わず吹き出した。
脈絡のなさに、覚悟も何も吹っ飛んで。
ふっ」
何故そんな質問を送ってきたのかは分からないが、いや、だからこそ。
心がほぐされる気がした。
『いや、まだ食べていない』
気がつくと、そう打ち返していた。
既読がついて、すぐにメッセージが送られてきた。
『そうなんですか』
『遅いですぬ』
「くっふふっ」
また笑ってしまう。
可愛らしい間違いを眺めていると、しばらく経って、彼女からの追撃が来た。
『遅いですね、です』
『生徒会の仕事があったからな』
本当は生徒会の仕事だけでなくて、父さんの仕事場にも寄っていたからこんな時間になったんだが。
そのことは伝えなくてもいいだろう。
『お疲れ様です』
彼女からのメッセージが返ってくる。
これは夢なんだろうか。
彼女スレッタと、こんな他愛ないやりとりを自分がしていることが、信じられない。こんな日が来るなんて、かつての俺は聞いて信じるだろうか。だが、この送り主は間違いなく彼女だ。
画面に映った文字に、封じ込めていた愛おしさが溢れてくる。
お前は何を食べたんだ?、と打ち込んで、送信ボタンを押す前にはじめの二文字を書き換える。
『君は何を食べたんだ?』
送った後で、フワッと豆の薫りが鼻をくすぐる。
ラウダがマグカップを二つ持ってやって来た。
ローテーブルにコースターを並べると、その上に優しくカップを置いて、俺の向かいに座る。
「彼女?」
「あのなあ
さっきから何なんだ。
……違うな。気になる子でしょ」
……
昔からラウダには、誤魔化せない。元々隠すのは得意な方じゃないが。
だから精一杯の抵抗として、無言を貫く。
目の前は無視して、コーヒーだけいただく。
スマホを見ると返信が来ていた。
『今晩はカレーでした』
『いもうとと一緒に作ったんですよ』
この世界では、妹がいるのか。ふと、エリクトのことが頭をよぎる。
『料理得意なのか』
『はい』
『隠し味とか』
『今日はカレーにトマトを入れました』
「トマト
まさか。
前の世界での出来事を思い出す。
ミオリネの温室。
スレッタもあいつと同じように、あそこのトマトを大事にしていた。
『好きなのか?』
探りを入れようとそう送ったら、しばらく何も返って来なくなった。
ハッと気づく。
『トマトの話だ』
すると返信が来た。
『ふつうです』
遠慮のない表現にまた笑ってしまう。
普通、この会話の流れなら好きと答えるもんじゃないのか?
『グエルさんは』
名前を呼ばれてドキッとする。
『好きですか?』
………………
ああ、トマトの話か。
『普通だな』
『同じですね』
『私たち』
『そうだな』
「同じ、か
送り先の向こうも、俺と同じように画面を見て微笑んでいる気がするのは、うぬぼれだろうか。
向かいのラウダがすくっと立ち上がった。飲みかけのコーヒーを片手に持ったまま。
キッチンカウンターまで歩いていくとマグカップを置いて、そのまま中庭に面した大開口窓を開けに行った。
月を切り取った黒い大きな四角から、フワッと夜の風が舞い込む。
「ラウダ
その背に向けて声をかける。
何を考えて、夜空に耽っているのだろうか。
すると、またスレッタからメッセージの通知が来た。
一度暗くなった画面のロックを解除して、メッセージを見た。
何故だか心臓をギュッと鷲掴みにされたような気がした。

『また、会ってもいいですか』

二年前の、あいつらと約束を交わした日のことが甦る。

***

「僕たちはクワイエット・ゼロ計画によって世界そのものを一から創り変える。この先の世界はある意味僕たち三人のエゴでしかない」
「それでも構わない」
俺はエリクトにそう答える。
クワイエット・ゼロの最深部、計画が発動する前。
エアリアルのコックピットの前に、俺とミオリネは漂っていた。
エリクトの声はエアリアルから出ていた。
もしかしたら、世界そのものが消えてしまうかもしれないわ」
ここに来て怖気づいたのか、ミオリネは両手を胸の前で組んでうつむいた。
「俺がなんとかする」
「グエル
もしそうなったとして、俺がなんとかできる根拠などないが、それでもそう声をかけた。ミオリネもそれはわかっているようだったが、なんとか笑顔を返してきた。
「悲惨なこの世界をこのままにしておくくらいなら、新しい世界で全てをやり直したい。僕たちはそう願ったからここにいる」
「そうねエリクト」
ミオリネの表情から、陰りが消える。
エリクトは説明を続けた。
「新しい世界に着いたら、僕たちは今より二歳若くなる。二年前から再構成するからね。意識は今の僕たちのままだ。でも、あちらの世界で二年より前に生きてきた記憶も、持った状態でいると思う」
「つまり、二年を遡り、今の俺の記憶と、あちらで過ごした俺の記憶とが、混在するわけか」
「僕たち三人だけね。他の皆は、はじめから新しい世界で生活していた者として、生きる」
あの子は」
ミオリネが祈るように口を開いた。
「あの子には、新しい世界で何不自由なく生きてほしい。たとえ、そんな世界がなかったとしても。私たちの勝手だったとしても」
「ミオリネ
この計画の、俺たちの発端とも言える、スレッタ・マーキュリー。
彼女のために俺たちは集まったと言っても過言じゃなかった。
「僕たちは、スレッタには会わないようにしよう。僕たちは、もうあの子に関わっちゃいけない」
俺もミオリネも、異論はなかった。
大切だからこそ、彼女を守るために、けじめのために、俺たち三人はそう決めた。
そして俺たち自身も交わらない。再び悲劇を繰り返すことのないように――

***

忘れていたわけじゃない。
今朝だって。さっきだって。
いや、この二年間ずっと。
そう決めて、生きてきたのに。
「いいわけがない
……兄さん?」
風に揺られて何処からか、一片ひとひらの桜が舞い込んで、足元にそっと落ちた。

スレッタと、会っていいわけがないんだ。



――次話へ続く――


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