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審神者を辞めることにしました。【10/次郎太刀編】

全体公開 4 7736文字
2015-09-14 00:02:37

 お酒は苦手だ。飲むと頭がぐるぐるして自分を制御できない。身体がアルコールで火照るのに合わせて、涙腺からジワリと涙が押し出される。そして、悲しくもないにのボロボロと涙がこぼれ始めたらもう止まらない。ぐず、と鼻がなり、ひく、と喉がしゃくりをあげる。
 目の前で、呆れたような表情を作る男が全ての元凶だ。
「私だってみなさんに嫌われたくて嫌われてるわけじゃないですよおぉぉ!」
……あんた、泣き上戸なのね。」
 その通りです。

 まず、どうしてこんなことになったのか。
 夜も過ぎそろそろ寝ようかな、なんて考えているところにドスドスすごい足音が近づいてくるのが聞こえた。そんな足音を立てる刀剣なんて思い当たらなくて、思わず身構えて待ち受ければ、いきなりスパーン!と勢い良く障子が左右に開かれたのだ。
 まさか許可無くそんなことをされるとは思わず、咄嗟の反応ができずにいる私だが、そんな暴挙をしでかした刀剣の姿ははっきりと見て捉えることができた。
 大太刀で、男性なのに女性のような彼、次郎太刀がそこに立っていた。
 彼が何故ここに、とか、こんな時間に、とか、色々思うところはあったが、次郎太刀が私をみてニィと笑うのを見て、ふと冷静さが戻ってくる。
 ああ、この男また酔っているな。
「湿気た面してんじゃないわよ、主ぃ。」
……ご挨拶ですね。なにかご用事ですか?」
「ちょっとこっちいらっしゃいな。」
「ちょっきゃぁ!?」
 ずかずかと部屋に入り込んできたかと思えば、彼は片手で私を担ぎあげた。いきなり身体が宙に浮いた恐怖で彼にしがみつけば、そのまま次郎太刀は部屋を出てしまう。
「なっちょっと!?」
「はいはい暴れなーい。」
「まっ、な、どこ連れて行く気ですか!?」
「んー?」
 堂々と歩く彼が行き着いた先は大広間だ。すでにそこには誰もいない。だがある一角に、彼が呑んでいたのだとすぐに分かる場所があった。酒瓶が無造作に転がり、つまみが乗っていたのであろう小皿が数枚積まれている。
 呆れて抵抗も忘れた私をようやく下ろして、彼は定位置なのであろう場所へどかりと座った。
「付き合いなさいな。」
……私、お酒苦手なんですけど。」
「少しよ少し!」
 酔っぱらい独特の強引さを上手に断る技もない私は、もうどうにでもなれと腹をくくって彼から猪口を受け取った。なみなみとそこに注がれたお酒は、うすらと白く濁っている。ふわりと鼻をくすぐったのは甘い香りで、口の中に湧きでた唾液を一度飲み込んだ。美味しそうだからにじみ出た唾液ではない。緊張感から、口の中の乾きを解消するために出てきた唾液だ。
 次郎太刀をちらりと見る。彼は笑いながらこちらを見ていた。彼の手にもやはり、杯がある。ただ私に渡されたそれとは比べ物にならないくらいに大きい。それを彼は一つ煽り、空になってしまったそこにまた、お酒を注ぎ足した。
 飲むように急かしては来なかった。私が飲もうと思ったときに飲めばいい、と時間をくれているのかもしれない。手の中で揺れる乳白色の水面が、てらりと光を反射している。
 恐る恐る、お猪口の縁に唇をつけて、液体を口の中に招き入れる。少し変わった風味と、酸味、そしてぶわっと甘みが広がった。あ、飲みやすい、と思って嚥下した次の瞬間には、カッと喉が焼けて、鼻奥につんとアルコールの匂いが上ってくる。甘酸っぱくて口当たりはいいけれど後味は辛い。飲めないということはなかったけれど、知らずのうちに量を過ごしてしまいそうな恐ろしさがあった。
「どうだい?」
 ようやく、酒を口にした私に次郎太刀がそう声をかけてきた。私はお猪口から彼に再び目を戻す。
 戦衣装を身につけておらず、しかも化粧も取ってしまった彼はやはり普通の男性の姿だった。酒で少し枯れ気味の声だけれど、声も男性。言葉や普段の姿が「女性」なだけで、彼はやはり「男性」なのだとなんだかしみじみした。
 その次郎太刀が、私に酒の感想を求めている。こうして振る舞ってもらっているからには、思ったことを伝えるのが筋だろうと私は自分の言葉を探した。けれどそういう風に感想を言ったことなど殆ど無いから、結局味も素っ気もない言葉になってしまう。
……甘くて、美味しいです。」
「はは!そうだろう!」
 この酒はこの甘味がいいんだよ、と彼は楽しそうに笑う。その笑顔を見ながら、私はまた酒に口をつけた。
 私が飲み始めたのを皮切りに、次郎太刀がとにかく話題を絶やさなくなった。今日の収穫はこのくらいだった、この間短刀たちがどうだった、岩融と馬番をしたとき馬が面白かった。次から次へと繰り出される話題に、相槌を打ちながらちびりちびりと酒を舐める。酒に弱いのは本当のことで、職場の飲み会でもあまり飲んではいなかった。そのときだって度数の低いカクテル系ばかり飲んでいたのに、今飲んでいるのは日本酒だ。酔わないように酔わないようにと頑張ったところで、度数の高さと次郎太刀の飲ませ上手さに、段々と私の思考は熱っぽく霞がかかる。
 ああ、飲んでしまった。酔ってしまった。自覚のあるうちにもう飲まないようにしたかったのに、彼が至極自然な動作で猪口に酒を注いできた。彼も相当酒を飲んでいるはずなのに何も変わっていないように見えるのは、普段から酔っ払っているせいなのか、それとも酔っ払っているのはそういう「フリ」で本当は全然酔わなくて彼はいつもシラフなのか。ああ、もう思考がまとまらない。注がれたお酒に少しでもと口をつければ、またあの甘酸っぱい味がした。
ところでさぁ。」
 不意に、話題を切り替えるように次郎太刀が声色を変えた。少しだけ雰囲気を落とすような落ち着かせるような、そんな声だった。
 何か言われるのかもしれない。何かを話しだすのかもしれない。自然とそういう考えが頭を過るのに、心が何も準備出来ていないい。いつもならそういう雰囲気になったら真っ先に、何を言われてもいいような覚悟を決めるのに、今日はそれができていない。
 酒のせいだ。
「あんた、なんだってあんな風にみんなに避けられるようになったのさ。」
 スパン、と直球だった。
 言葉が脳を通りすぎて、心に直接落ちてくる。意味を理解した頭が言葉を返そうとした時、それが全部、別のものに変わって、流れ落ちた。
 そう、流れ落ちた。
「え、」
 次郎太刀が、目を見張っている。その姿が滲んだり、見えるようになったりを繰り返した。頬を熱い何かが通り過ぎて、ぱたた、と音を立てそうなほど大粒の水滴になって落ちていく。
 悲しいとか悔しいとか寂しいとか、そういう感情で流れた涙ではない。ただ、ブワッと何かが心から溢れでて、それが「涙」という形になって押し出てしまったのだ。そんな冷静な考えが、頭の片隅でメガホン持って叫んでいるのに、頭の大部分はそれを理解しようともせずに未だにぼんやりとした熱を孕んでいる。
「ちょっと、」
 ひっく、と、喉がシャクリ上げた。ぐず、と鼻が鳴る。
 あー、と、次郎太刀がなんともいえない声を出した。
 そして私は、自分の中にあふれたそれを、涙と一緒にさらけ出したのだ。
 冒頭のように。
「私だってみなさんに嫌われたくて嫌われてるわけじゃないですよおぉぉ!」
……あんた、泣き上戸なのね。」
 だから飲みたくなかったんだ。

 出陣の最中に拾われたらしい自分がここに来て、鍛刀部屋というところで初めて彼女と相まみえたときに、自分を見ているようで見ていないその目の色を気に食わない、と思ったことも記憶に新しい。ただそれでもそのうち見てくれるようになるだろう、と気楽に考えて本丸にいる他の刀剣たちとともに過ごしてきた。
 そうして自分も本丸の一員として加わった時には、すでに「そういう状態」だった。彼女はとにかく、刀剣たちと顔を合わせることが殆ど無かった。出陣から帰ってきても本丸最古参と口喧嘩にも見たない会話をして、それで終わり。記憶の中にある彼女の声は、どれもこれも怒りを孕んでいるか、やるせなさが滲み出ているか、諦めの色が含まれているのかのどれかだった。そういう空気の人間に絡みたいと思う者は早々いないだろう。余程、場を和ませたいという偽善が強いもの、もしくは本当に菩薩や聖人君子くらいだろう。辛気臭いものの傍によって自分まで辛気臭い気持ちになんてなりたくはない。
 気楽に行きたかった。気楽に生きたかった。折角顕現して人の身も得たのだから楽しみたかった。事実、こうして酒を美味しいと思えるし、酒を飲むのも楽しいと思える。ふわりふわりと不思議な心地で戦に出れば興奮だって一層高まった。だからそれでいい、それでいいのだと思っていた。
 心のどこかにしこりを残したまま日々を気楽に生きていたら、いつかの朝に彼女が言った。審神者を辞めると聞いた瞬間も、へーそうなんだ、としか思わなかった。色めく周囲の空気に同調もせず否定もせず、その場を去ってからも「そうなんだ」と独り言のように呟くくらいだった。それだけで終わるものかとおもいきや、「そうなんだ」、の気持ちはずっとモヤモヤと残ったままだった。心の片隅に残っていたしこりと合体して、じりじりと違和感を放ってくる。短刀たちの騒ぎを聞いてますますそのしこりはますます大きな違和感となって心のなかに居座った。
 モヤモヤとしたままの酒はなんだか美味しいとは思えなかった。普段より酔いも悪い。どうしてだろうと思い悩んでいたら、顰めっ面のまま飲むもんじゃねぇぞ、と短刀に窘められた。じゃあ一緒に飲んでよと絡んでしまった。だがそれが逆に良かったのかもしれない。
 二人だけで酒を酌み交わして、ぽつりぽつりと話したら、猪口の中の酒をゆらゆらと揺らした短刀が、ふぅ、と息を吐く。
「言ってみりゃぁ分かるもんだぜ。」
 しんみりと、その短刀は言った。ぱり、と肴にしていたお新香を噛みしめる音がひどく場違いに思えるほどに、静かな声だった。
「俺っちもなぁ心ん中にでっかい重しがあったんだ。大将がいなくなるって言ったときに、その重しをどうにかしたかったんだよな。
 弟達のために大将を引き止めるってのは建前だったんだ。俺は「俺のため」に、大将を引き止めに行った。自分の中にある重しを、少しでも軽くするためにな。」
 ついこの間の出来事を、随分と遠くのことのように短刀は語った。猪口の中身を見ているはずなのに、彼の目は「その日」を見ている。そしてその口元は、ほんのりと弓なりになっていた。
 ああ、そういう風に笑えるようになるんだろうかと羨ましくなった。自分の心のなかにあるこの重しが少しでも軽くなれば、ほとんど味を感じることのないこの酒も、旨味を感じながら飲み干せるようになるのだろうか。
 そう思ったら居ても立ってもいられなくなった。気づいたら時間はどんどん過ぎていっている。残り何日彼女がいるのかもわからない。時間が焦燥感を後押ししていて、気づいたら彼女の部屋の前にいた。
 ええいままよ、と目の前の障子戸を開け放てば、鳩に豆鉄砲食らったような女がいた。
 そこで何故か、吹っ切れた。ただの女じゃないか、とその体を持ち上げた。ひどく軽くて本当に生きているのか不安になったが、藻掻く力はそれなりだった。それでも女の力なんて大したことはない。
 「審神者」である前に、彼女は「女」だ。力も弱い、女だった。それは当たり前のことだったのに、自分の中にはそれは当たり前ではなかった気がした。それほどまでに、自分の中の「彼女」という存在は薄かったのだと、いまさらながらに思い知らされた気もした。
 そうして無理やり連れだして強制的に開始した二人だけの宴席は、何故か彼女の滂沱たる涙のせいで雰囲気がガラリと変わってしまった。
 聞き方がまずかったかもしれない。酒精に不慣れな彼女に飲ませすぎたかもしれない。泣き上戸なら酔いが覚めるまでは泣くのだろうか、と途方に暮れて、彼女の頭の上に手を乗せた。短刀たちにしてやるように撫でてやれば、ひぐ、とまた涙と嗚咽を強くした。ただその合間合間で、彼女は一生懸命に口を動かした。身から出た錆だと、自業自得なのだと彼女は何度も口にする。
 言わなければ分からない、話さなければ分からない。自分のずるさをわかっていながら、直そうともしなかった。そうして拗れてあちこちに結び目ができて、絡みに絡んだ紐を元に戻すことが容易でなくなった。それが私の経緯だと、彼女は片手で顔を覆い泣きながら言った。
 自分の問いかけに対する答えではないということは、無論わかっている。わかっているけれど、追求する気は起きなかった。

 ぐるぐるする。ぐるぐるする。彼の問いかけに対して答えを出していないということは自分でもわかっている。
 なんで避けられていたのかってそんなの、そんなの自分でわかっている。「彼」にばかりかまけて、一人で勝手に壁を作って、見放される要因を作ってしまった。たったそれだけなのだ、でも、されどそれだけのことをしたのだ。これを再度、目の前にいる次郎太刀に伝えることなんて私にはできない。
 自分の非を何度も何度も話すのは、心が苦しい。とても苦しい。だから、「かくかくしかじか」を使えない代わりに私は言葉で全部をまとめる。身から出た錆、自業自得。嗚咽と呼吸でうまく口が動かなくても、私はとにかく文字を音にし続けた。彼の大きな手が、何度も何度も私の頭の上を往復する。子供をあやすその仕草に、情けない思いが膨れ上がってしまった。大の大人がこんなに泣いて、とも思ったけれど、アルコールで馬鹿になった涙腺は、弁を閉じるなんて考えなど微塵もないように、次から次へと体外に塩辛い水を放出し続けている。
 どれくらい、そうしていたのだろう。
……辛気臭いのは苦手なんだよねぇ。」
 ぽつり、と次郎太刀がそう言った。今の状況に完璧に当てはまる発言に、じわりと罪悪感が胸を焼く。
「っ、ぅ、ごめ、な、さいっ。」
「ああ!違う違う、そうじゃないよ。」
 なんとか涙を止めようとしながら彼を見る。困ったように八の字に眉を形作らせつつ、何かを言いかけるように口の中が動いている。言葉を待つ間に、なんだか喉が渇いて手元の猪口を口に寄せた。涙がはいってしまったのか、塩辛い味がして美味しくない。
「なんていうのかねぇ辛気臭いのを避けたいから、アンタに無関心を装っていたのかもしれないねぇ」
……。」
 自分の中でも、言葉がしっくりこないような話し方を彼はする。そしてそんな彼に、私も違和感を覚えてしまった。
「無視と無関心は、違うんですよ。」
 口が妙に、滑らかに動いた。そういえば頬が乾いて突っ張っている感覚がする。もしかしていま、涙は止まっているのだろうか。そっと、目元を触っても、手が濡れているせいでいまいち確認が取れない。
 腫れぼったいまぶたをなんとかあけて、まっすぐに次郎太刀を見る。その姿は滲むことなくしっかりと私の網膜に焼き付いた。ああ、涙は止まったんだなぁと安心して、猪口の中に残っていたほんの数滴をまた煽る。やはり、甘さと酸っぱさの中に塩辛さがあって、美味しくなかった。
「何かに気づいているのに、自分で見たくないから見ないのは無視です。
 何かに気づいていても気づいていなくても、どうでもいいと思って見ないなら、それは無関心です。」
 次郎太刀はどちらですか。私は最後にそう問いかけた。彼は私をじっと見て、じっと見て、それで何かを言おうとして口を開いて、また閉じた。
 自分の中の何かを説明しようとして、それの難しさに言葉を詰まらせているのだろうか。それとも別の理由で言葉を詰まらせているのだろうか。待っても待っても、彼はそのまま何も言い出さない。
 次郎太刀の手が、杯を煽ることも、酒を注ぐこともしない。私はただ何か考え込み始めた彼の言葉を待っていたのだけれど、だんだんと、眠くなってきた。大泣きして消費した体力を補填したがるように身体が睡眠を欲している。それを、片隅に残っているアルコールが助長している気がする。
 時計も何もない部屋は、音が本当によく聞こえる。自分の呼吸する音も、次郎太刀が呼吸する音も耳に飛び込んでは心臓の音と重なって溶けて消える。ぐらりと傾きそうな頭と身体を叱咤して辛抱強く待っていれば、ようやく彼の声が聞こえた。
「アタシは無視していたことに、なるんだろうか。」
 その疑問になにか答えを返そうとして、いきなり視界が暗転した。

* * *

 小さく寝息を重ねる身体を持ち上げて廊下を歩けば、人影があった。夜空に輝く三日月の光を浴びながら、その名を関する太刀が笑っている。
「答えは出たか?」
 静かな笑みだった。ただその眼が気に食わない。何かを見透かすような笑い方が気に食わない。じりと心を踏みにじったその視線が、表情筋をこわばらせた。
……やだねぇ、そうやって。」
 ゆっくりと、太刀が歩み寄ってくる。きし、きし、と静かに床が軋んでいる。日中の静けさと夜の静けさの違いに、ふと気づいてしまった。その軋みが、耳にうるさすぎる。
 側まで寄ってきた太刀は、腕の中で寝こける顔をじっと見つめて、笑った。
「これの答えは薬にも毒にもなるからなぁ。俺達の心を救いもすれば、傷口を広げようともする。」
 知ったような口を、と思ってしまったが、もしかしたらこの太刀も、何か会話を交わしたことがあるのかもしれない。あるからこその、その言葉なのかもしれない。 そういえばこの太刀は、頻度もそれなりに審神者に会いに行っていたはずだ。だからこそ、自分の知らない何かを話して、自分の知らない何かを知っているのだろう。
 全ては憶測だ。
途中で寝られちゃったからねぇ。」
 短刀のように、何か答えを彼女からもらえたとは思っていない。むしろ、中途半端に刃物をつきつけられて、そのまま放られた気分だ。
 しかしそれでも、きっかけにはなった。自分だけでは到達できなかったかも知れない結論に手を伸ばす、ほんの小さな取っ掛かり。それの先にあるのが、自分にとって良いことなのか悪いことなのかは、現段階で判別はつかない。
「まあ、もう少し自分で悩んでみるさ。」
「そうか。」
 身じろぎもしないほど深い眠りに落ちた彼女の顔を太刀は視線で撫でてから、では寝るか、と側を通り過ぎていった。その後ろ姿を見送ってから、自分もこの腕の中にいる荷物を部屋に運んで一眠りしよう、と一つあくびを漏らす。

 翌日、彼女が酷い二日酔いに悩まされていると短刀に小言を言われるハメになるなどこの時の自分は知る由もない。
 



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