キャンペーンプロローグです
・キャンペーン概要
https://privatter.net/p/10291557
・サンプルキャラクター
https://privatter.net/p/10291562
@DSS1023Festival
――誰かが誰かを追いかけて、誰かが誰かから逃げている。
月明かりだけが道を照らす薄暗がりの中を、一人の少女が走っていた。
ぜえぜえと荒い息が空気を震わせ、ばしゃばしゃと水を跳ね飛ばす音が闇の中を木霊している。
追いかけている誰かの足音は聞こえない。それでも、彼女は必死に足を動かし続けていた。
後ろを振り向きたい。振り向いて、もう後ろには誰も居ない事を確認して安心したい。
それが出来ないのは、振り向いてしまったら自分がそこで終わってしまう確信があったからだ。
考えてみれば自分が振り向くのを待っている質の悪い捕食者ならばどちらにせよ生きては帰れないし、背後からはもう気配を感じないのだから振り向いた一瞬が命取りになる様な状況ではない。
それでも理屈を超えた恐怖に突き動かされ、彼女はただひたすら走り続けた。走り続けるしかなかった。
ここが何処かも分からない。なぜこんな状況に陥っているのかも、自分を追う誰かが何者なのかも分からない。どんな疑問を投げかけても、答えは一度として返って来ない。
――本当に何も分からないのだ。自分が、何者かですらさえも。
(助けて……誰か、誰か!)
どれだけの時間が過ぎても道の先に終わりは無く、ずっと同じ風景が続いている。
散散に走り続けて、少女の体力はいよいよ尽きかけていた。もう、いつ足がもつれてもおかしくなかった。
終わりの無い逃避を繰り返し、擦り切れた心は肉体以上に限界を迎えている。それでも逃げ続けているのは、諦めることさえ恐ろしいからだ。
足を止める勇気すら持てないから、ひと思いに終わりにして欲しかった。
そうすれば、この地獄から抜け出せる。苦しい。助かりたい。早く、楽にして欲しい。
血の代わりにマグマが全身を駆け巡り、吐き出した息は不出来な笛の様にかすれた音を鳴らす。
平衡感覚も失って、少女はただもがく様に手足を動かし続けていた。
何度目かの限界を迎えて、なけなしの意思は遂に肉体に届かなくなる。
ぐらりと視界が大きく揺れた。地面に倒れ込んだのかと思ったが、身体は逆に宙へと浮かび上がっている。
(これは……水?)
浅瀬だと思っていた筈の河の底は深く、水嵩は気付かない内に胸の所まで上がってきていた。
しかし、水に浮いている訳ではない。流されている訳でもない。
今にも沈んでしまいそうな自分を、まるで見えない糸で引き上げられている様な感覚。
その糸はとても細く、しかし決して切れない頑丈なもの。そしてその糸を私は知っている。
あの日、あの時、あの瞬間、確かに断ち切ったはずのもの。
「ああ、そっかあ」
――私がこの河を渡り切らない様に、君はこんなところまで追いかけて来てくれたのか。
だが、しかし。そう気付いた時にはもう遅すぎた。既に、手遅れだった。
自我を取り戻せたことも、彼に気付けたことも決して奇跡などではなく。
ただ、もう戻れないから分かる様になっただけのことだ。
彼の命を繋ぎ止める為に、私は切断する魔人能力で再び糸を断ち切った。
共に生きたいと願うなら、私達は二人で死ぬしかないんだろう。
――でも、私はそれを選ばないよ。
「ごめんね、ありがとう。 さようなら」
そうして、少女の姿は闇の中に沈んでいく。
残された糸はまだ何かを探すように、ぷらぷらと揺れ続けていた。