Δドラヒナでヒマワリの花言葉のお話です。ヒナイチくんが17歳、隊長が29歳ぐらいの両片思い期。
父の日は忙しくて間に合わなかったのですが、隊長が父の日にあげるとしたら、黄色の薔薇よりはヒマワリかなあ、と思いまして。
あと、隊長もパパも忙しい人間だから、本編よりはドラウスさんも大人なイメージでかきました。
ラベンダーのクッキーを焼きながら、同級生とじゃれついてた彼女にモヤモヤしているシーンを追加しました。
2023/06/29に上げました。
@kw42431393
「ノースディン、ドラルクの様子はどうかね?」
「及第点、という所だ。」
そう言いながら、彼は満更でもない。
素直じゃないなあ。本当は花丸をやりたいのだろう?と私は親友に笑う。
ここは、神奈川県警本署吸血鬼対策総合…長ったらしいだと?まあ、吸対のすっごく偉いとこ、とだけ覚えてくれればよい。
「息子は体が弱いからね。本当は現場より、もっと内勤をさせてやりたいものだが…。」
とはいえ、息子の性格上、事務は事務で持ち帰ってとことん詰めそうだから、心配は尽きないのだ。そういう所は、ミラさんに似てしまったのかもしれない。
「そうやって、また甘やかす。少なくとも、ギルドマスターの娘を誑かすクッキーを焼く余裕はある。心配はいらん。」
今大事な一文があった気がしたのだが、ノースディンは忙しそうに部屋を出ていってしまったので、聞きそびれてしまった。
ああ、今更こんなミスをするなんて…。
私は、小銭を握って署に向かっている。さっき、ギルドマスターの父さんと吸血アブラムシ大量発生の合同駆除の打ち合わせに、隊長さんが来ていたんだ。
最近、忙しそうであまり顔を合わせられなかった。だから、ちょっと浮かれてたんだ。
「ごちそうさま、ヒナイチくん。」
「ヌヌヌンヌヌ。」
「こちらこそ、クッキーをありがとうございます!」
やつれた顔の貴方を元気づけたくて、大きな声で答える。一人と一匹のコーヒー代とジュース代を受け取ってお釣りを渡した…そのつもりだったんだが。
「あっ!?」
間違えた、足りてないぞ!
慌てて私は、隊長さんを呼び止めようとしたが彼はとっくに店を出た後だ。待ってる他のお客さんの会計を済ませると、父さんに任せて私は店を飛び出した。
少し出遅れたが、私の足は速い。程なく、肩にマジロを乗せたひょろ長い影が見えた。
よかった、間に合った…そう思ったんだけど。
「あれ?花屋さん?」
隊長さんが目の前の花屋さんから出てきたんだ。ヒマワリのミニブーケを持って…。
「…。」
花束か…誰にあげるんだろう。いや、ショックという訳では…ないが。
下等吸血鬼に助けられた幼かった子供の初恋だから。
だから、貴方がシンヨコに赴任してきて、ギルドで再会した時も「あの時助けて貰ったヒナイチです。」とは言わなかった。20代そこそこだった隊長さんを「おじさん」呼ばわりして、はしゃいで、思い返すと恥ずかしい思い出だ。
…と、見ていると彼は路地裏に駆けて行った。何だろう…どっちにしてもお釣りを渡さないといけないし、彼の表情が険しかった、何かあったのかもしれない。
「わあっ!!」
キィィーン!!
「ギィィ!!」
路地裏から聞こえてくる音を便りに私も駆け込む。もう、終わっていた。
腰を抜かした少年と剣を抜き払った隊長さんの姿…足元に散らばる下等吸血鬼の塵の山。
「いや、まだ後ろ!」
私は地面を蹴って、隊長さんに近づくと、腰に吊ってある警棒を手に取った。
「ヒナイチく…!?」
「借りるぞ!!」
そのまま、彼らの後の影に叩き込む。後ろからさらに襲いかかろうとしていた吸血ハサミムシも、ザラリと塵になった。
「すまないね…ヒナイチくん。」
隊長さんがパチリと剣を収める。
ヒョロガリだけど、妙に様になっていた。遠目に見た居合い抜き、近くでちゃんと見たかったな。
「しかし、どうしてここに?」
「あっ!そうだ、お釣りを。間違ってたんだ。」
ポケットから小銭を出して、手に押し付ける。怪訝そうな顔が、私が好きな柔らかい表情になる。
「わざわざありが…」
「あれ?ヒナちゃんじゃん?」
その時、後ろで腰を抜かしていた少年が声をかけてきた。お前だったのか、気づかなかったな。
「康一じゃないか、何でこんな所を歩いてたんだ?」
「んー、ここ近道なんだよ。いきなり、襲われちゃってさ。ビビったぜ。」
彼は、同級生の康一だった。私が手を貸して立たせてやると、照れ臭そうに笑う。
「吸対のおじさんもだけどさ、ヒナちゃんもやっぱすごいよな。さすが、レッドバレッド・カズサの妹だけあるよ。後で、サイン頂戴?」
「危機感なさ過ぎだ。隊長さんがいなかったらどうする気だったんだ。」
呆れて彼を小突く。全く反省してないな、こいつ。
「タイチョーサン?ああ…ミヨから聞いた事あるぞ?ヒナちゃんのはつ…モゴッ!?」
「ば、バカ!明日、学食のパンおごってやるから黙れ!!」
慌てて、康一の口を塞ぐ。一方的な片思いなんだぞ!本人の前で言う奴があるか!!
「いや、たまたまヒナイチくんが来ていたからだ。君は運が良かっただけだよ。今後は、遠くても大通りを歩き給え。」
厳しめの声に振り返る。少し怒った様なあの人の目…肩のジョンも複雑な顔をしていた。
地面にさっき買ったばかりのブーケが落ちていた。誰かにあげる花だったのに、少し汚れてしまったな。
「す、すみません。」
「同級生がご迷惑かけました。あと、これ…。」
謝る康一を尻目に、私は花束を拾って差し出した。これから、会う人はどんな人なんだろう。
「分かればいいよ。ヒナイチくん、ついでに彼を送ってあげてくれないかね?」
「う、うん。分かった。」
上目遣いに見ていると、隊長さんが妙な事をしていた。ミニブーケから、小振りなヒマワリを3輪抜いて、ハンカチでくるんでいた。そして、ネクタイピンを外して留めると、私の手に押し付ける。
「隊長さん、これ…。」
「さっきはありがとう。じゃあ、彼を頼むよ。」
私が貰っていいのか?とか、これから用事があったのでは?とか、色々聞く事はあったのだけど、あの人の険しい目を見ると何も聞けなかった。
混乱したまま、コクコクと頷くと康一を連れて、私は来た道を戻った。
『scuze, va rog asteptati.』
「えっ?」
「どうしたの?ヒナちゃん。」
時々、独り言で漏れるあの人の母国語。ルーマニア語を喋ってる時の隊長は、何だか不思議な感じで…最近少し教えて貰っていたから何となく分かる。
「隊長さん?」
振り返って追いかけたかったけど、彼の姿はもう見当たらなかった。
ごめんねって、何故貴方が謝るんだ?
待っててね…って、どういう?
「お待たせしてすみません。お父様。」
「ヌンヌンヌ。」
「ドラルク、ジョン。久しぶりだね。」
先週の父の日に、私達はどちらも都合がつかなかった。電話だけで十分なのに、今夜シンヨコで会おうと言ってくれたのだ。愛息子からの連絡だ、それは嬉しかったとも。
「遅ればせながら…ですが、これを。」
「ヒマワリかね、嬉しいよ。母国を思い出す。」
「私も懐かしくなりまして。それに、スタンダードに黄色の薔薇も良かったのですが、貴方も本部長も例のヨ…の人を連想してしまうでしょう?」
息子に差し出されたヒマワリを受け取る…しかし、その花束には何か違和感があった。
父の日なら『思いやりに感謝します』の意味がある、8本がしっくりくるのだが、手元にある花束は5本だった。
まあ、気にする事もあるまい。息子が選んでくれただけでも、喜ぶべき事だ。
「マンションに来て頂けますか?いいルーマニアワインとチーズも手に入ったのです。一緒に飲みましょう。」
それに…少し表情が、冴えない。パパには、何か嫌な事があった時の顔だと分かるのだ。
「おや?」
ドラルクが抱えている紙袋には、ラベンダーが入っていた。
「ドラルク、それは?」
指差すと、少し赤面して彼は袋を隠してしまった。
「…ラベンダーのクッキーを焼こうと思いまして。」
「クッキー…かね?」
ジョンの顔を窺うと、困った様に笑っていた。
『ギルドマスターの娘を誑かすクッキーを焼く余裕はある。』
ノースディンの言葉が脳裏に浮かぶ。
ドラルク、ラベンダーのクッキーをそのお嬢さんにあげたいのだね?3本足りないヒマワリは…もしかして、そのお嬢さんに?
「そう。」
分かった。パパは、深くは聞かない事にするよ。
ラベンダーの花言葉は、『貴方を待っています』『沈黙』『期待』なのだ。
もしかして、息子の片思いなのか、今は仕事も忙しいし、踏み出せない時期なのかもしれない。
そして、もし…あげたのが3本のヒマワリなら…。
「ドラルクや。」
「…?」
「お父様は、何があってもドラルクの味方だからね。忘れないでおくれ。」
その時、私はそれしか言えなかった。
3本のヒマワリ…お前は、そのお嬢さんを愛しているのだね?いつか想いが叶って、私の元に連れてきてくれるのであれば…私は必ず祝福するよ。
ああ、情けない。情けない。
お父様を送り出した後、ラベンダーのクッキー生地を練りながら、私は自己嫌悪に陥る。
あの子は、お釣を届けに来てくれただけなのに。私だけでは、背後から来た吸血ハサミムシからあの少年を守れなかったかもしれないのに。
同級生とじゃれつくなんて、至極当たり前の事だ。私だって、その世代の頃はあのぐらいした…そのはずだけど。
一回りも違うのだ、常日頃からジェネレーションギャップは感じている。彼女が本来つき合うべきなのは、同世代の…。
ドラルク様?
ジョンの声に我に返る。鼻腔をラベンダーの香りがくすぐった。
「ううん…何でもないよ。」
心がゆっくり落ち着いていくのを感じる。生地を抜くと、オーブンに入れる。
我ながら重い事をしているな、あの子は気づいてくれただろうか。
ごめんね。再会したばかりの頃は、ただ…昔助けた子供が、大きくなった事への喜びしかなかったんだ。
それがいつの間にか…
『こんばんは!隊長さん!』
太陽を追いかけるヒマワリの様に私の心は…釘付けになっていた。
でも、今の私は警察官で、軽々しく動けない立場になってしまったんだ。
まだ、高校生の君に想いを告げる訳にはいかなくて…告げたら、尊敬の眼差しが侮蔑になるんじゃないかと恐ろしくて。
…動けない間に、君の心が誰かに向いてしまうのではないかと、不安になって。
頼み事をするお礼の振りをして、渡した3輪のヒマワリ。
帰る途中で、買ったラベンダー。
ごめんね、愛しているよ。だから、よそ見をしないで待ってておくれ。
さらに、ダメ押しにクッキーを焼いている。
今は何も言えないけど、君が大人になるのを待っているよ。
その想いを込めたクッキーが、オーブンの中で膨らんでいく。よい匂いを漂わせている。
元々、ヒマワリが太陽の方を向くのは、ギリシャ神話でアポロンに片思いをしていた女性が、姿を変えたからだという。
太陽に恋をするのが綺麗な女性ならともかく、こんな疲れたおっさんなのだ。様にならない、と当時の私は自嘲していた。
実はヒナイチくんも、私を太陽だと思って片思いをしていたとは、気づきもせずに。
「は、はじめまして!ギルドマスターの妹のヒナイチです!ドラルク隊長とは、そ、その…!」
「おやおや、ヒナイチくん。落ち着いて?」
「ウフフ、噂には聞いていたよ。ドラルク、可愛いお嬢さんじゃないか。」
やっと会う事が出来たね。待った甲斐があったというものだ。
「ウフフ、ドラウス。あれを…。」
フッと笑ったミラさんが、こっそり指差した先には…お嬢さんの手が。いや…あれは。
「ああ、そうだね。」
竜の血族の直系である事を示した、紫の宝石が薬指で光っていた。
ヒマワリの様に可愛らしくて、太陽の様に華やかな…素晴らしい義理の娘が出来て、私もミラさんも誇らしいよ。
あれからこの日が訪れるまで、実に3年ほどかかっていた…というのは、また別のお話となる。