@azisaitsumuri
夜のことだ。
子供は眠る時間だ、なんてお決まりの文句を言われたところで、子供だから眠れる時間だ、と言う意味では無い。どんなに願ったところで、夢の世界がいつ迄経っても迎えに来てくれ無いことだって有る。
それでも、寝無い子はブギーマンが攫いに来るぞ、なんて追い討ちされて仕舞う。
それって本当に眠らせる気が有るのか?
次目を開けたら知ら無い暗い場所に居るなんてこと無いだろうな?
そんな風に想像を膨らませるから、代わりに夢見がしぼんでしまうんだ。
別に夜は嫌いじゃ無い。
眠れるかは別として。
月明かり、虫や生き物の鳴き声、蝙蝠のはばたく影、クローゼットの扉がゆっくりと開く、大人の足音、おれを呼ぶ囁き、は?
「だれだ?」
「怖がら無くて良い。」
「だれだ。」
寝台から起き上がる。
声はどこか知って居る、母や隣のおじさん、兄弟や他の子供、はたまたテレビで見た昔の映画の傭兵達の声が、どろりと混じったような、そんな不可解なものが、暗闇の中から聞こえる。
つまり、緊張が高まる。
「パパだよ、」
「……パパ?」
「おまえのパパだよ。おまえを愛して居るパパだよ。」
緊張から怒らせて居た肩から力が抜ける。あのな。
「おれにちちおやは居無いんだ。」
「……おや。」
暗闇に潜む者は、そこで初めて当人で有るだろう声で本質を露わにした。
しかし暗所は暗所に変わら無かった。その正体は分から無い。だが、父で無いことだけが明らかだ。
「ならおまえにはわたしが何だと見えます?」
「……アテが外れた可哀想なヤツ。」
「可愛く無い子供。」
影が揺れた。月にもやが掛かったのかも知れ無い。
「残念だったな。」
揺れた暗所はその儘膨れ上がり、月明かりをも隠した。
「それならおまえを頂きます。」
部屋の全てから明かりが消える様子を目の当たりにし、次目を開けたらきっと、と思った。あゝだって、迎えに来たのは夢の世界じゃ無くて。