2023みなとのなつやすみ
@lianmiso
ちりん。
涼やかな音が耳を打ち、湊は体を起こした。
寝てしまったのか、とぼやける目をぐしぐし擦る。
青い朝顔が描かれたガラス製の風鈴がゆらゆら揺れている。
涼しい。
冷房と扇風機はつけていなかったはずだから、誰か入れてくれたのだろう。
「呑気に眠っていましたねぇ。やっと目が覚めましたかぁ。休みの日なのに朝早く起きて、庭や畑の水やりや当番でもないのに今日の料理担当や洗濯の手伝いまでしてご苦労なことです」
「むとう、さん?」
机向こうに霧凍がノートパソコンを開いている。
「休みなんだからきちんと休みなさいよぉ」
「どうして、ここに」
霧凍が事務所内の和室に来ることはない。湊の問いに左中指で眼鏡のブリッジをあげた。
「篭っているとうるさい人たちがいるでしょう。静かなのは部屋かここしかありませんからぁ」
「壱樹さんと多喜さん、そんなに賑やか、でしたっけ」
「壱樹さんなんて1人で10人分くらいうるさいじゃないですかぁ。多喜さんも小言がうるさいですしぃ。デパートで働いていたのではなくてどこかの小姑だったのではぁ?」
「そう、ですか?」
霧凍の言葉にしっくり来ず、湊は首をしきりに傾げた。
霧凍さんも休みだからでは?という考えに辿り着いたが、湊は口に出せなかった。
「それだけではなく妙信さんもやってきています………ああ、こちらに来ることはないでしょうからご心配なく」
「あ、はい」
「それじゃあ、梨でも持ってきましょうかねぇ。壱樹さんが切ってくれたんですけど、食べないとまたうるさいでしょうし」
霧凍が席を立つ。
「あ、僕が、持ってきます」と湊が申し出るが、「向こうに用があるついでですからぁ」と振り向きもせずに襖を開いた。
妙信が、歳上が苦手な湊を気遣ってくれたのだろう。
ふふ、小さな笑みを溢す。
風鈴がちりんとまた鳴った。