X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

ユーフォリアのこちら側4

全体公開 2 11 9834文字
2023-09-10 19:06:30

3話まではアルティマニア前、4話以降はアルティマニア情報が含まれます。
(そのうち3話までは修正するかも)

前回→https://privatter.net/p/10364298

「なんだよそんな顔して。……覚悟が決まらないならやめておくか?」
「するよ! する。するけど……ちょっと待って」
 軽装になった兄さんがさっさと服を脱ごうとしているのを止めると、しれっとした顔で言い放たれる。なんでそんなに余裕なんだ? と言いたいのは山々だったが、言えば何故か喧嘩になりそうな気がしていた。
 こう言うことにやっぱり慣れてるの? と言ったと思われそうだったし、もしそれを肯定されれば余計に複雑な気持ちになってしまう。
……大体いきなり脱ぐなんてムードがないよ」
 悔し紛れにぐいっと顔を寄せれば、兄さんがきょとんとした顔を見せてから、ふ、と吹き出す。
「確かにそうだな」
 眦の下がった笑顔は可愛かったけれど、その反応はなんだか子ども扱いされているみたいで気に入らない。
 むっとしながら、もう黙って、と兄さんの唇を塞いだ。
 キスなんて今日までに何度もしているのに、これから本当に兄さんとセックスするんだと思うと、どうにも気がはやって落ち着かない。触れ合わせた唇が震えていませんように、と願いながら何度も唇を触れ合わせて、兄さんの体を服の上からゆっくりと撫でる。
 兄さんの右手が僕の体に回ってきて、背中をゆっくりと撫でている。手のひらの熱が服越しに伝わってくるのがたまらない。キスをしながら、肩を押して兄さんをベッドに押し倒した。
 濡れた唇を離して、顔の両脇に手を置く。
 兄さんを黙って見下ろすと、少しだけ濡れた瞳をしていた。
 この行為が義務感からじゃないことなんてわかっている筈なのに、本当に僕に欲情してくれているのだと思うと、言い表しようもなく嬉しくて興奮した。
 だけど、それと同時に、正直に言えばまだ罪悪感で体の内側にもやもやとした息苦しさも感じていた。いいよと言われているのだから、もう吹っ切ってしまいたい。でも……

 そんなことを見下ろしたままぐるぐる考えていると、兄さんが頬に手を伸ばしてきて、頬骨を優しく撫でてくれる。
「俺をお前をどんな時でも愛している。こんなことでお前に嘘はつかないよ」
 首の後ろに手が回ってきて、引き寄せられる。キスをしてもいいのか、それとも抱きしめてくれるだけなのか怒鳴りあって兄さんが本心から僕を愛していることはわかったはずなこに、まだ迷っていた。
 迷い続けている僕を笑わずに、兄さんが僕の唇に唇を重ねる。思っていたより柔らかくて、だけど唇の一部が少しだけかさついている。肌に髭の擦れる感触がくすぐったかった。
「兄さん……
 キスの合間に声を漏らすと、もう、余計なことを考えるのはおしまいだとでも言うように、兄さんが僕の後頭部を掴んで隙間から舌を捩じ込んでくる。
「我慢するなよ」
「っぁ、」
 膝で下腹部を擦り上げられて、不意打ちに声が出た。びくっと反応した僕に、兄さんが口角を吊り上げたのが見える。
 蝋燭のゆらめく炎を反射した深い青の瞳が情欲に濡れていて、あまりに綺麗だった。
「俺の言葉に信用がないことなんて、わかってる。……本当にわかってるんだ」
——え?」
「だけど信じてくれないか」
 僕の頬を撫でながら口にする兄さんの瞳の切なさに、僕は僕の間違いをようやく自覚した。

   *

 暗闇でキスをしてどうしようもなく興奮していると、抜いてやろうか? と兄さんが耳許で囁いた。掠れた声に興奮して、それから、言われたことがいまいち理解できずに固まっていると、それを了承と受け取ったのか、兄さんは器用に片手でボトムを寛げて、さっさとはしたなく屹立したそれを扱き始めてしまう。
 制止の声はキスで塞がされて、「しーっ」と額を合わせながら兄さんに言われてしまうと、抵抗する気も失せてしまった。顔が熱くて、目の前がくらくらする。夢みたいだ。
 もしかしするとそうなのかもしれない。死んだ僕の都合のいい夢。……そんなことをぼんやり考えていると、先端をくちくちといじられて、途端、現実に引き戻される。
 こんなことを外でするなんてどうかしているし、何かあったらどうするつもりなんだ。そもそも兄さんは気持ちの切り替えが早すぎる、と不満を言いたかったが、ごつごつした剣だこのある手にさすられるのがどうしようもなく気持ちよくて、文句も言う前に呆気なく果ててしまう。
 情けなさに黙ってしまうが、兄さんは特に気にならないのか、僕の頬にキスをしながら汚れを布で拭って満足そうにしているの。服を片手で直そうとしている兄さんに我に返り、無言で自分で衣服を整える。
 何を言うべきか悩んでいると、兄さんは僕の手を引いてさっさと野営地への道を戻って行く。離してよ、と恥ずかしさから口にすると、兄さんはちらりと振り返ってすぐに前を向き「だめだ」と有無を言わせない声で言う。
「またどこかに行かれたら困る。お前は目を離すとすぐ俺のそばから居なくなるからな」
「そ、」
 んなことないだろ、と言いたかったが、確かに、兄さんからしてみれば僕はずっとそうだったのかもしれない。
 五年前から今日までの思い当たる節に閉口すれば、ほらな、とでも言いたそうに兄さんが笑う。そう言う大人の態度に(いや、とっくに兄さんは大人なのだが)ちょっとだけまた苛立った。
「明日もまた歩くんだ。今夜はとりあえず大人しく寝ろよ」
……眠れると思う?」
「眠れる時に眠っておかないと体がもたないのは、お前も旅暮らしが長かったんだから知っているだろう?」
 地面に腰を下ろした兄さんの隣に腰掛けると、肩を抱き寄せられて、あやすように髪を撫でられる。優しい手つきに、昨日までだって、望めばこんなふうに抱きしめてくれんだろうな、とどうしても考えてしまう。
 だけどきっと、昨日までの僕なら変に意識して、兄さんに触れられないようにしていただろう。
 最後に兄さんに抱きしめてもらった時も腕の中は暖かかったな、と思いながら、瞼を閉じて、言われた通り眠る努力をしてみることにした。
 眠れるわけがない、と思っていたのに、兄さんのにおいと体温に包まれているうちに、意識は微睡の中に落ちていった。

   *

 山岳地帯を抜ける途中に何度か魔物に出会したが、なんとか大事に至らずに倒すことが出来た。魔法が使えなくなって初めての戦闘に戸惑っていたのは多分僕だけで、兄さんは驚くほど順応が早かった。
「そう言えば、兄さんは狩りも上手かった」
 倒した獣を解体し、皮や牙等、なにか後で売れそうなものがないか(あるいは食料になりそうかどうか)確かめながらそう言うと、「なんの話だ?」と兄さんが首を傾げる。
「魔法が使えなくなってもやっぱり兄さんの強さは変わらないんだなと思っただけだよ。さすがだね」
「お前だってそうだろう、よくやってる」
「僕はちょっと距離感に戸惑ったよ。ずっと魔法があったせいだろうけど」
 教団で剣術を習い始めた当初から、魔法も剣術も織り交ぜて戦うものだと教わっていた。十五で祝福を授かるまで、魔法なしに純粋な剣術のみで戦っていた兄さんと力量差があるのは当たり前といえば当たり前だったが、足の調子が少し悪そうな兄さんにも劣る事実は少し情けなかった。
「マードック将軍が厳しい人だったからだろうな。将軍には時々、魔法が使えない場面を想定しての訓練をさせられたよ」
 解体し終わった獣を確認し、兄さんが立ち上がる。どことなく憂いを帯びた表情をする兄さんに、何を考えているのかはなんとなく想像がついたが、触れることはしなかった。
「そうだね、かなり手厳しいことを言っていた場面をよく見た覚えがあるよ」
 十五の兄さんに随分と酷いことを言うなと思った瞬間も過去にはあったが、歳を経て、将軍の厳しさは正しく兄さんに必要なものだとわかっていた。
「こんなものか」
 結局肉は食用に適しているのかわからないので回収は諦めて、牙や毛皮だけをいくつか持っていくことにする。
「お前は筋がいいから、魔法なしでもすぐに慣れるさ」
「そう思う?」
 教団でも時々筋がいいと褒められたな、と思い出しつつも兄さんを窺ってしまうと、勿論、と兄さんが真面目な顔をして首肯した。
「まあ、俺を越えさせはしないが」
 胸をトン、と叩きながら兄さんが笑う。
……言ってろ」
 思わず憎まれ口を返したけれど、これは紛れもなく僕の本心だった。
 今度こそ本当に、僕が兄さんを守ることが出来るかもしれない、というより、今度こそ本当に隣に並んで歩めるのかもい。
「それより兄さん、足は大丈夫?」
「足?」
「たまに引きずっているように見えたけど」
 地図を頼りに街を目指して歩みを再開しながら尋ねると、兄さんが不思議そうな顔をした。自分の足を見下ろして、少し動かしてから「そうか?」と眉を寄せる。
「痛みもないの?」
「ないな」兄さんが屈んで防具の上から足を叩き、身を上げ、足を持ち上げ、軽く振る。「わからないな。まあ、問題ないだろう」
「痛みがないならいいけど、どこかに医者がいたらちょっと見てもらおう。もう僕にあなたを癒すことはできないし……
 ただの事実を口にした筈だったのに、思っていたよりも落ち込んた声が出てしまう。はっと気づいた時にはもう遅く、兄さんが苦笑しながら僕の肩を抱く。
「気にするな。これからはそれが普通だろ?」
……そうだね」
 魔法が使えない世界にして行こうとしたのは僕たちなのに、ドミナントとして産まれた僕に染みついた習慣が抜けるのには、いくらか時間がかかってしまいそうだった。
 早く兄さんと同じになりたいのに。


 数日教えてもらった地図通りに歩き続ける間、僕と兄さんの仲はそれまでとほとんどかわらなかった、と言いたかったが、少しだけ変わっていた。交代で眠っていることに変わりはなかったが、朝起きた時や眠る前、兄さんは明確に僕の体や髪を慈しむように撫でて、キスをする。
 気持ちの切り替えがうまく出来ていない僕は瞬間的に硬直してしまうし、ぎこちない返しをしてしまうのが情けないのと同時に、覚悟が決まりきっていないのをまざまざと自覚させれて少し落ち込んだ。
 兄さんはそんな僕を咎めもなじりもしなかったが、時々、不安そうに——あるいは微かな苛立ちを込めて——瞳の奥が揺れていることには気づいていた。
 関係の変化を望んだのは僕の方なのに、不誠実な態度を取っている自覚はある。だけど、罪悪感がまだ拭いきれていなかった。いっそ兄さんが受け入れてくれなければ、とまで考えてしまう瞬間もあって、余計に最悪だった。
 何もかも投げ打って好きだと言ったのは僕の方なのに。

 なんとなくぎこちない空気をまとったまま、どうにか目当ての街を見つけ、物と金を交換してくれる人を探し当てる。
 僕のカタコトの共用語がきちんと通じるのか怪しすぎて、いくらか筆談を交えさせてもらったが、目的は達成できたので、なんとかなっているようだった。
 ここに来るまでに倒した魔物は討伐対象で懸賞金がかかっていたらしく、いくらかまとまった金額が手に入ったのもありがたかった。毛皮を持ってきておいて本当によかった。
「俺にも共用語の基本的なことを教えてくれないか?」
 屋根のある安宿に部屋を借りることが出来、ほっと安堵の息を吐いた僕に、兄さんが装備を脱ぎながら口にする。
「お前に頼り切りで申し訳ないし、多少なり俺もわかったほうが何かと便利だろう」
「確かにそうだね。じゃあ、夕食の後にでも基本的な文字から教えるよ」
 宿の隣にある共用水浴び場(共用なのにもちろん有料だ)で汗や汚れを落とすと、兄さんと二人で市場へ出掛けた。屋台で酒と一緒にいくつか食料を買い、屋外に並べられたテーブルの一つに住民たちに紛れて座った。食事をしている間中、なんとなくしかわからない言葉が聞こえてくる。
 確かにここがヴァリスゼアではないのだと感じられて、不思議な感覚だった。
「ジョシュア」
 フォークを置こうとすると、兄さんが咎めるような、けれどうっすらと笑っている目で僕の顔を見る。なんだ? と思いつつ皿に視線を落とす。茹でたにんじんの付け合わせを残しているのを咎められたらしい。隠れ家でもモリーが時々僕に食べさせようとしていたけれど、断固拒否している。
「僕はもう大人だから、そんなに栄養は必要ないんだ」
「立派な言い訳を言うようになったな」
 仕方ない、と笑って兄さんがフォークを僕の皿に向け、添えられたままの状態だったにんじんに突き刺した。
 兄さんがにんじんを黙って咀嚼する口許を見て、途端に良くない気持ちに駆られた。
 今朝も兄さんとキスをしたせいか、今すぐその唇にキスがしたくしょうがなくなっていた。
 じっと顔を見ていると、どうした? と兄さんが不思議そうに見つめ返してくれる。なんでもない、と慌てて首を振り、キスがしたいと言う欲望を酒で喉の奥まで流し込んでおく。一旦。


 部屋に戻ったら文字を教える約束をしていたのに、部屋に戻ると最早どうしようもなくムラついていた。兄さん、と呼びかけた僕の声は上擦って掠れていて、浅ましさに自分で自分が恥ずかしくなり閉口した。
 兄さんは僕の表情の意味に気がついたのか、教わる気で座っていた椅子の隣の椅子を引いて、座るように僕を顎で促した。黙って隣に腰を下ろして不自然に視線を合わせずにいると、肩に手を置かれて、ジョシュア、と呼ばれる。
 蝋燭が燃えて、じりっ、と音を立てる音がした。
 意を決して振り返り、兄さんの目を見つめた。顔がどんどん熱くなってきて、視線をまた下げてしまう。真正面から顔を見つめているのが恥ずかしくて、手が震え始めていた。拳を握って開くと、黙ったまま僕の反応を窺っている兄さんにもう一度視線を戻す。
……キスしてもいい?」
「勿論」
 笑いもせずにそっと目を伏せた兄さんの瞼のなだらかさや鼻筋にドキドキしながら、兄さんの太ももに片手をついて、キスをする。触れただけですぐに離して、これならあいさつと変わらないな、と何故か安堵する。
 もう一度、心臓が痛いほど跳ねているのを感じながら唇を重ねた。小さく濡れた音を立てて何度かキスをしているうちに、だんだんとそれだけでは物足りなくなってくる。
 兄さん肩に手を置いて、誘うように開かれていた隙間から舌を差し込んだ。抵抗もなく僕の舌に兄さんの舌が絡まり、表面をぬるぬると触れ合わせてくれる。兄さんの口の中が熱い。舌先で強いアルコールを感じ、兄さんとキスしていることを強く意識した。興奮する。
 肩にあった手が腰に降りてきて、抱き寄せられる。たまらなくなって、兄さんの首に両腕を回した。何度も何度も角度を変えてキスして、舌を吸って、舐めて、唇を押し付けた。唇が濡れて、そのままお互いの顎を伝って行く感触がある。溢れたそれを掬うみたいに兄さんの顎から喉へ舌を滑らせる。
 喉へ吸い付くようにキスしていると、気持ちがいいのか、ぴくっ、と兄さんの体が小さく跳ねる。椅子の上じゃなくてベッドにすればよかった、と思いながら兄さんの肩を撫でて、手首を撫でて、手を取り、指を絡める。ぢゅっ、と強めに肌を吸いながら手を握ると、くぐもった声が兄さんから漏れて、その声の甘さに腰が重くなる感覚がした。
 はぁはぁと獣のような呼気を吐きながら兄さんの鎖骨にキスしている間、兄さんは僕の髪に指を通し、うなじに触れて、背骨を辿るように背中を撫でてくる。指先で背骨を辿られるたびにぞくぞくと体に痺れにも似た感覚が起こり、ますます下半身に血が集中してくるのがわかった。
 顎を置いた兄さんの胸が意外と柔らかい。抱きしめられるたびにそんなことは知っていた筈なのに、改めてその事実を確認すると、触りたくてどうしょうもない気持ちになる。
 胸を服の上から撫でて、少し持ち上げて見る。ジョシュア? と不思議そうな声を上げられたが、気づいていないふりをして指先に力を込めた。え? と声を上げた兄さんが緊張したのが筋肉の硬さでわかった。さっきまで柔らかかったのに、とちょっとだけ残念に思いながら手を離し、脇腹を撫でて、太ももの内側に手を滑り込ませる。
……触ってもいい?」
 ズキズキと痛む自分のそれは一旦無視して、兄さんの股間を押し上げている部分にそっと手を触れると、「触る前に聞けっ」と兄さんの切羽詰まった声で叱られる。
 確かにその通りだったけれど、兄さんの快楽に濡れた声があまりに可愛くて、ごめん、と口にしつつも少しも反省はできなかった。
「いいの? ……だめ?」
 布地の上から形を確かめるようにやわやわと触れていると、お前な、と兄さんが目許を赤くして鋭い目つきで睨んでくる。状況が状況なので怯むわけもなく、照れてる顔が可愛いだけだった。
……触っていいから、」
 仕方ないな、と言うようにわざとらしくため息をついた兄さんの服の下に手を潜り込ませる。熱く脈打つそれに手片手を添えながら、もうキスを再開する。舌の先を吸い上げながら上下に扱くと、兄さんが気持ちよさそうに喘いで、背中に回されていた指が僕の服をギュッと掴む。キスをしながら体をすり寄せて、顎に髭の擦れる感触に興奮する。濡れた唇と髭を舐めながら片手で胸に触れて、指の腹で布地の上をさする。
 微かな膨らみを探り当てて執拗に指の腹で刺激していると、だんだんとそこが硬くなってくるのがわかった。夢中でつねったり引っ掻いたりしていると、おい、と嫌そうに兄さんが声を上げる。だけど手の中のものがどんどん大きくなってきて、僕の手はだんだんと濡れていた。
 先端の先走りを指で刺激してやりながら首筋に強く吸い付く。兄さんの首が天井を向き、扇情的な声が上がる。鼓膜に飛び込んできた暴力的なほどいやらしい声に頭の中がじくじくと痺れていくような感覚がした。
 布越しに触れ合った兄さんの体がどんどん熱くなってくるのを感じるたびに、僕に興奮してくれていることがわかって堪らなく嬉しい。
「っぅあ!」
 興奮して体を寄りかからせながら惚けていると、背中にあったはずの兄さんの手にそれを撫でられて、不意打ちに声が上がる。恥ずかしさのあまり、思わず俯いて唇を噛み締めた。少し体を離そうとすると、「こら」と甘ったるい優しい声で、兄さんがそれを咎めた。
「兄さん……
 心臓が痛くて、呼吸が浅い。どきどきしすぎて目の前がちかちかする。瞳を細めて僕を見つめている兄さんの顔が眩しくて、どうしてか急に泣きたくなっていた。
 この人が好きだ。ずっとずっと、子どもの頃から本当にずっと好きだった。
 子どもの僕の手を引いて庭を歩いてくれた日のこと、熱を出して動けない僕の額や頬に冷やした手で触れてくれた日のこと。いつでも僕を優しく見守ってくれていた月の明るい夜のような青い瞳。再会したあの日、謝罪する僕を咎めず優しい声で生きてさえいればいいと赦してくれた腕。
 僕のことを考えて、余計な魔法を使うなと厳しく叱る時の声も好きだった。戦場で、僕を隣で戦わせるのを厭わないところも好きだった。僕はそうなりたくてずっと努力してきたし、そうするのが夢だったから。
 こんな風に愛するのを許してほしい。僕を受け入れてほしい。だけど、やっぱり受け入れてほしくない。
 僕は多分、兄さんの理想とする弟とはもう違ってしまっているのだろうと、どうしても悪い考えが頭の片隅に残っている。兄さんがいくら受け入れてくれても、それはやっぱり、先が短かった僕への同情なんじゃないかと考えてしまう自分がいる。
 今は肉体の痛みから遠く、死を身近に感じることだって殆どないのに、幼い頃から染みついた死への覚悟が、自分の決断はやはり間違っているのではないかと思わせてしまう。
「余計なことを考えるなんて、随分余裕だな」
「っう! あ、ちょっと……ン、兄さん……っ」
 片手で器用にボトムを寛げた兄さんが、自分の濡れた顎を指先で拭って、そのまま下着の中に差し込んでくる。濡れた指に強めに刺激されて、余計な感傷が頭から吹き飛ぶ。
「まっ、う、…………あ、」
 さすっていた手が完全に止まってしまう。兄さんが僕に体重を預けてきて、慌ててテーブルを掴む。喉元に潜り込まれて、べろりと獣が舐めるみたいに広い舌で喉を舐められる刺激が体が震える。
 さっきまで主導権を握っていたのに、と奥歯を噛み締めながら耐えようとしたけれど、兄さんに触れられている事実自体がどうしようもなく嬉しくて、呆気なく手の中で果ててしまう。
 兄さんが満足そうに「気持ちよかったか?」なんて聞いてくるのも腹立たしかった。悔しい、と言うか恥ずかしい。
……よかったよ!」
 余裕そうな顔をしている兄さんに噛み付くみたいにキスをして、止めていた手を再会する。本当は舐めてみたかったけれど、なんとなく兄さんに蹴り飛ばされそうな気がしてできなかった。
 服の下に手を潜り込ませて直接兄さんの肌を撫でると、しっとりと汗をかいて濡れていた。肌の感触に興奮しながら舌先を噛み、先端を弄る。手の下で筋肉が収縮して、皮膚が別の生き物みたいに動くのがわかる。
「っ、ジョシュア、」
 兄さんが背中を丸めて、手の中に吐き出す感触がした。びくびくと震えるのに合わせて、飛沫が手にかかる。はぁはぁと息を吐く兄さんの濡れた瞳に興奮した。
 手を濡らしたままキスして、汗に濡れた額を合わせた。流石になんとなくお互いに照れが生じて、黙りこくってしまう。
 どのくらい時間が経ったのかわからなかったが、おそらく五分か十分程経過してから、「手、拭こっか」とぼそぼそ口にした。兄さんが無言で頷き、僕から体を離す。なんだかこのやりとり自体がたまらなく恥ずかしい。

 水を貰ってきて身綺麗にしても、まだなんとなく頭が惚けていた。文字を教える話を今更思い出して少しだけ指南したけれど、お互い気もそぞろすぎて集中できず、「今度にするか」と提案する兄さんに頷いて了承した。
 部屋蝋燭を落としてベッドに横になるも、どうにも興奮して眠れない。
 あれだけキスをしてもまだ口寂しい気がして、隣のベッドで寝ているはずの兄さんに顔を向ける。暗闇にだんだんと慣れた目が、かろうじて輪郭を捉えた頃、「眠れないのか?」と兄さんが身じろぐ音がした。
 うん……、と触れ合った兄さんの肌の熱さやに筋肉の感触を思い出してぼんやりしていると、静かに兄さんがそばへ寄ってくる音がする。
「兄さん?」
「もっとそっちへ寄ってくれ」
「え?」
「ほら」
 突然追い立ててきた兄さんの意図を計りかねながら、ベッドのはじの方へ移動する。
「眠れる時に寝ておけと言ったはずだぞ」
「わ」
 男二人で眠るにはすこし狭いベッドの上で、困惑している僕の肩を掴み、兄さんが無理やりベッドに横たわらせる。
 頬が触れ合うように抱きしめられて、おさまったはずの鼓動がまた早鐘を打つように走り始める。おずおずと兄さんの背中に手を伸ばして抱き返すと、よし、とでも言うように兄さんが僕の背中を軽く叩いてくる。
 足先を少し兄さんの足に絡めながら抱きついてみる。兄さんは何も言わない。居心地が悪そうな素振りもない。
 僕は赦されている。受け入れられている。それを感じるたびに、嬉しいのと同じくらい、どうしても申し訳なさが混ざる。
 人を愛して後悔するくらいなら、はじめから伝えないほうがどう考えてもただしかった。ずっとそう考えて黙っていたはずだったのに、どうして我慢したまま過ごせなかったのかと夜が来るたびに考えてしまう。
「どうして泣いているんだ?」
「泣いてない」
 兄さんが身じろいで、僕の濡れた頬に触れたそうに手を伸ばすのがわかった。それを拒絶して、代わりに兄さんの手を掴む。指を絡めて握りしめると、あたたかな大きな手に口付けを落とす。
 僕はどうしようもなくあなたを愛している。あなたも僕を愛してくれている。だから、僕は僕を赦すべきなのに、まだその覚悟が決まらない。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.