月雲了さん、お誕生日おめでとうございます。
彼も、彼らも、貴方を見ています。
2023年9月9日。了さんの誕生日のお祝いに書きました。
つきあってる了モモの、ゆるっとした誕生日前夜デート。
ムビナナ後の時間軸(話には関与しません)です。
ŹOOĻくんの話をします。前日が誕生日な彼の話もちょっとだけします。いずれも出てはきません。
@natsuhaze_i7
何度も、何度も確認した。
当然のことながら、デバイス上のメッセージは、幾ら見返そうとも変わらない。
夏の始まりの頃にモモから届いたラビチャは、前置きもなくただの一行で、用件のみを告げていた。
『九月八日の夜、空けといて』
その日付に意味はなく、意味はある。
× × ×
ショッピングビルの屋上にある、こぢんまりとした水族館。短いアプローチを抜けて左に折れれば、外光をそのままに取り込む屋外ガーデンがあり、陸生動物と鳥類が展示されている。水族館なのに入るなり食肉類を見せられて、愉快と不愉快が天秤にかかるが、水辺に棲む生き物という名目は一応あるにはあるらしい。
薄暮に溶け込むように、背中を丸めてコツメカワウソの展示を覗き込んでいる後ろ姿を見つけた。声をかけるより早くこちらに気づいて、ひらひらと招くように手を振る。シンボリックなメッシュの髪はバケットハットに隠し、けれど指の先の赤が、傾きかけた陽を浴びて夕闇色に煌めいた。
「思ったより早かったじゃん。オレも、いま来たとこだよ」
どこか間延びした声と、表情だった。間延び、というより、ゆるゆると緩んでいる。呆れるほどにオフモードだ。
「モモの方こそ、こんな時間によくフラフラできるよね。Re:valeって暇なの?」
夕刻から夜にかけて。業界的にはここからがコアタイムだ。身体を空けるには、事前によほどの根回しと調整が必要になるだろう。それゆえの、三ヶ月も前からの誘いなのだろうけれど。
日常においては、互いの仕事や衆目の問題もあって、あらかじめ時と場所を決めて会うことは殆どない。夜中だの早朝だの、あるいは真っ昼間に、わずかな空隙をつなぎ合わせるようにして時間を作り、過ごしている。だから、こうやって外で待ち合わせを、それもレジャースポットなんかでするのは、ごく稀なことだ。
「えぇ……オレ、めちゃくちゃ頑張ってスケジュール空けたのに、なんでそういう言い方するかなあ」
「別に、頼んだわけじゃないし。っていうか空けておくように頼まれたのはこっちの方じゃなかったっけ」
当然の指摘をすると、モモは半眼になり、帽子の鍔の下から僕を睨めつけた。
「それはそうだけど! せっかくのロケーションだし、久しぶりだし、褒めとかデレとかくれても良くない?」
随分と過当な要求をしてくるものだ。片頬だけで笑い、手すりにもたれかかる。
「だいたい、なんのために日付指定で頑張る必要があったの。モモが今日会いたいのは、ポニーテールくんだろ」
口が滑った、わけではない。意識して言葉に出した。
彼の身上書は、当時、ことを起こす前に飽きるほど読みこんだ。誕生日については、一日違いということもあって、ささくれのように記憶に残ったまま消えずにいる。
モモは一瞬なにか物申したそうな顔をしたけれど、僕の顔を見てふんと息を吐き、そこからさざなみのように表情を動かして、笑みを作った。
「あの人の今日は、いま、あの人のまわりにいる人に祝われるべきなんだよ。IDOLiSH7くんたちとか、同僚や上司さんとか。応援して、応援される人たちにさ。まあ、お祝いが一巡したら真打ちなオレらの番だよねって、前々から計画は立ててるから」
了さんにご配慮いただくようなことではございませんので、と。聞きようによっては冷たい言葉を、ふざけた口調で包んで付ける。
強がっている様子はなかった。本心から喜ばしいこととして話している。それが何より気に食わない。
ちょこまかと動くコツメカワウソを目で追いながら黙然と立っていると、モモの指が肘にそっと絡んだ。
「ねえ、あっち。限定企画。見に行くよね?」
もう一方の手で指差したのは、この水族館の目玉である、空中に大きくせり出すように設置された水槽だ。黄昏の空を切り取った水の檻のなか、むっくりとした白黒のケープペンギンたちが、時に悠然と、時に鋭く弾丸のように、飛び交って泳いでいる。
腕を取られて歩き出し、近くへと寄った。オーバーハングな水槽の下に、イメージアートが描かれたパネルと、四つの色でデコレートされた音響装置が鎮座している。そこから、音楽が流れていた。
世に出る前も、出た後も、さんざん聴いた彼らのデビュー曲。
「ここの音響、もとからスピーカーもハイレゾなんだって。ナイスな企画だよね。Re:vale的にはちょっと羨ましいな」
低音が身体の芯に響く。リズムに合わせて、水槽の照明がとりどりの色に替わる。光が水を染めては散り、また別の色の光が水を染めては流れ、散っていく。
夜の水族館に、音と光の彩りを。
ŹOOĻ×ナイトアクアリウム。期間限定のコラボレーション企画だ。
館内BGMがŹOOĻの曲のみの特別なセットリストとなり、主要な展示のいくつかでは、音と光の連動演出とともにテーマに合った楽曲が流される。いずれも、メンバーが実際にこの場所を訪れてインスパイアされたもの、というのが売りだ。夜の水族館の幻想的なイメージとあいまって、アーティスティックな印象を強める。しっかりした音響設備という土台もあり、確かにいい企画だ。
彼ら四人とは、公私とも一定の距離を置いたままにしているため、開催を知ったのは、待ち合わせに指定されて、この水族館をWEBで検索した時だ。同時に、日付の意味も知った。コラボ開始の前日。この日の夜は、招待された関係者のみのプレ公開となっている。
一般客が居ない環境は、顔が売れすぎているアイドルにとって、ひとときの安寧となる。こちらは脛に疵持つ身ゆえに、昔の知人と鉢合わせする可能性を警戒していたが、夜間開場直後の早い時間のためか、あたりに他の招待客の姿はなかった。そのあたりも計算に入れての、待ち合わせ時刻の指定だったのだろう。
「うーん。でもなんで、こんなかわいいペンギンコーナーのBGMがポイギャンなんだろ?」
曲に合わせてちいさく口ずさんでいたモモが、ふとした疑問のように呟く声が耳に入り、少しばかり呆れた。
「モモって本当に忘れっぽいよね。自分たちも出演した企画を忘れるなんて」
ヒントを与えてもまだまだきょとんとしていたので、仕方なく説明をしてやる。
「――という、親しみやすさを前面に打ち出しながら、駄洒落で曲も印象づけていて、ゆるい層のファンの増加が見込め、それが曲に回帰すればギャップに落とされる。一見してくだらないようで、かなり良く出来た動画だった」
「あー、あーあー、あったね! オレたちを動物に見立てたシリーズ! 思い出したよ、ありがとう了さん!」
何とはなし、眉をひそめる。思い出しかたも礼の言いかたも、どこか空疎で、わざとらしかった。
――わざと、だろうか。
しかし、そうする理由がわからない。モモであれば容易に覆い隠せるはずの「わざとらしさ」を、あけっぴろげに見せている理由もわからない。
わからないことだらけだ。夏の初めに届いた誘いの頃から、ずっと。つきあい始めてから、ずっと。出逢ってからも。
× × ×
夜の闇がすぐそこに迫ってきていた。音楽が止み、ケープペンギンの展示終了を告げるアナウンスが流れたのを機に、どちらからともなく屋内展示室の入り口に向かって歩き出す。
館内へと入りかけたところで、モモが立ちどまり、振り返った。視線の先には、宙に渡された透明な水槽の通路がある。
「今度、昼間も来てみない? もうちょっと早い時間に来れば、あの水路でペリカンが泳いでいるのを下から見上げられるらしいよ」
「ああ。モモイロペリカンだろ」
なにげなく応じると、モモは目を丸くした。ついでに口も丸くすぼめるのが、モモらしい表情の作り方だ。
「詳しいね。っていうか知ってたの?」
「いや、そこに書いてあるから」
出口横のインフォメーションボードを目で示す。コラボの告知と並んで、展示時間についての貼り紙があった。屋上ガーデンの展示は、生き物の保護のため、下記の時間にて終了いたします。モモイロペリカン、十八時三十分まで。ケープペンギン、十九時まで。
「そっか。オレはてっきり、今日が楽しみすぎて、この水族館の下調べをしてきてくれたのかなって思っちゃった」
「……随分と侮ってくれるけど、そこまで暇してないからね」
渾身の不機嫌顔と不機嫌声で、少しの間と、内心の動揺を隠せたかどうか。
「あれ、ごめん。ちょっといじりすぎた?」
口先だけで謝りつつ、すべてを見透かすような、人の悪い笑みを浮かべている。心から面白がっているのが見て取れて、もやりと燻るが、こんな表情も意外と佳いなと思ってしまったりするから、たちが悪い。
「別に。いじるとかいじられるとか、そういうバラエティ脳は生憎持ち合わせていないもので」
「機嫌なおして、了さん。これは前振りだから。中に入ろうよ。それで、オレの推し魚を見てよ」
「だから別に怒っていない。……推し、何だって?」
モモはまた、さっきと同じ実にたちの悪い、なのにひどく綺麗な笑みを浮かべた。
「その前にŹOOĻくんたちのコラボ、館内のも見に行かないとね」
屋内展示室に入ると、ぽつりぽつりと人の姿があった。オフィスワーカーらしい身なりの者が多く、たいていはひとりで、ゆったりと距離を取って魚を眺めている。全体に静かで、落ち着いた雰囲気だった。
常設は流し見にとどめて、企画展示コーナーへと向かう。
二つめのコラボ特設コーナーは、この水族館内の大きな見どころ。数多のミズクラゲがたゆたう、巨大なパノラマ水槽だ。
「え、すごい! めちゃくちゃ広い! 視界ぜんぶ水槽にできる!」
「それ、視界の端は鏡だから。空間デザインによる錯覚だよ」
コーナーに入場し、手を叩いて喜ぶモモに、大人げなく水を差す。聞いている様子はない。
そもそもが国内最大級の水槽だが、観覧部分のアクリルガラスがゆるく湾曲しており、黒く塗られた壁との相乗効果で、さらに大きく、広く感じられるように作られている。多数の大小のクラゲたちが、遠近を生み出し、奥行きを感じさせる。
光量の絞られた、夜の海を思わせる空間に、ゆっくりと漕ぎ出すようにして、イントロのハミングが低く流れていた。
水槽ライトの光が、メロディの緩急にあわせて、無力に漂うミズクラゲたちを優しい波長で照らす。音量は控えめだが、柔らかな光と幽かに漂うアロマが独特の静謐な世界を構築し、ずっと眺めていたくなるような美しさを織りあげていた。
感嘆の声を上げ、ひとととり褒めそやした後のモモは、ゆらめくクラゲをじっと眺めながら、流れる曲に耳を傾けていた。アウトロの最後の一音が消えたところで、振り返って言う。
「いつもとは少し違う路線がイメージに合ってて、曲も歌もすごくいいね。あんまり聴いた覚えがないけど、新曲かな?」
「は? モモのくせにアンテナ低すぎない? とっくにリリース済みなんだけど」
そう教えてやってもなお要領を得ない顔のままでいるので、またしても説明をしてやる。
「――という、音楽性の広さをさりげなく誇示しつつ、先入観なしに聴いても耳に心地良い。多くの人の感情をかき立てる情景を描写した歌詞は、EP収録曲のなかでも人気が高い。高音を臆することなく歌い上げたことで、歌唱面での再評価も活発に為された、重要な曲だ」
「あー、あーあー、そうだった! EPに収録されてた曲ね! オレちゃんと発売日に自分で買って聴いたのにな。思い出したよ、ありがとう了さん!」
今度ははっきりと、顔をしかめる。確信した。
これは、気づかせるための「わざと」だ。
「モモ」
抑揚を消した低い声で呼ぶ。肩がびくりと震えて振り返り、僕を見た。
「嘘つきは嫌いだって、知ってるよね」
伝家の宝刀は、いくぶん切れ味が良すぎたらしい。モモは悄然と肩を落とした。
「……ごめん。あとで言うよ。もうすぐだよ。でもその前に、オレの推し魚、一緒に見に行って欲しいんだ」
その言い方があまりにもしょんぼりとしていたものだから、一瞬、絆されそうになり、危ういところで踏みとどまった。
これも、見抜かせるための「わざと」だ。
クラゲのコーナーから出て、常設展示のフロアに戻る。
岩礁に棲む魚たち、と銘打たれた水槽の前で、モモは立ちどまった。
「では、オレの推し魚を紹介します! と言っても、生きて泳ぐ実物を見るのは、オレも今日が初めてなんだけどね」
「なにそれ。食べるほうの推し?」
「食べても美味しいし、いつだって食べたいけど、どっちかっていうと……」
語尾はそのまま消えた。何のことやら、ひとつもわからないままに、しょうがなくモモの背後の水槽を眺める。
深い光。蒼褪めた水のなかを、何種類かの色鮮やかな魚がひらひらと泳いでいる。朱、橙、黄。なかでもひときわ目立っている大きな魚は、薄紅色の体をして、背びれの中央に、一滴の墨を落としたような黒い斑紋があった。尖った口先が、いくぶん動物めいて見える。
顔を上げて、水槽の上部に貼りつけられた解説パネルを眺めた。
「……また、そういうやつ?」
スズキ目ベラ科タキベラ属。
和名、キツネダイ。
解説によれば、突き出した吻先の形が狐に似て見えるために、この名が付いたのだという。
狐鯛という名前なのに狐ではない。鯛でもない。
どちらにも属さない、どちらにも行けない生き物。
「オレさ、最近、色とか動物とかの概念推しにハマってんの。いいじゃん、キツネダイ。黒ぽっちが可愛くて、美味しく食べられて、概念だけが由来の名前で」
「どこがいいんだか。黒いシミがついてて、珍重されるでもなく食われて、どっちつかずのどっちでもない名前で」
うん、とモモは頷いて、狭い水槽のなかをゆっくりと泳ぐキツネダイを、指で追う。
暗い場所で見て、初めて気がついた。今日の彼の指先は、いつもの純然とした赤ではなかった。
「そういうのがいいと思うんだ。欲ばりで、どっちでもあるのに、どっちでもないやつ」
紫色に塗られた爪で、水槽の向こう側のキツネダイをなぞりながら、それだけ言って、モモは笑った。
× × ×
企画の最後は、メッセージコーナーだった。
コラボレーションの感想をメッセージカードに書いて、指定の函に入れる。後日それが壁に貼りだされ、最終日にゲストとして来館する彼らの目に入る、という仕掛けだ。
一言だけ、書き記して投函した。
遠くにいても、近くにいても、彼らのためにできること、してきたことが、ひとつある。
「了さん、投函するの早すぎ! 見せて貰おうと思ってたのに。ねえ、なんて書いたの?」
用意された五色のペンをくるくると持ち替えて、カラフルすぎるカードを作っていたモモが、興味深げに聞いてきた。
「教えてあげない」
「いいじゃん。オレのも見せるから。それで契約成立!」
「契約っていうのは両者合意の下でなければ成り立たないんだよ、モモ」
「もう、了さんってばシャイボーイなんだから」
「あのね。シャイでもボーイでもないからね」
三十路をボーイ呼ばわりは、いくらなんでも無理があるだろう。しかも、日付が変わればまた年を重ねる。
「じゃあ、オレのメッセージだけでも見てよ。了さんのおかげで、改心の作になったから」
意味ありげな言葉に、顔を上げる。眼前に差し出されたのは、紙のカードではなくスマートフォンだった。
トン、と紫の指先がタップする。
『――という、親しみやすさを前面に打ち出しながら、駄洒落で曲も印象づけていて、ゆるい層のファンの増加が見込め、それが曲に回帰すればギャップに落とされる。一見してくだらないようで、かなり良く出来た動画だった』
聞き覚えのある声、聞き覚えのある台詞。挑発的なŹOOĻの曲と、屋外ガーデンの風のざわめきが、後ろに低く流れている。
「……は?」
予想だにしなかった事態に固まっていると、また指先が動いて、別の音声ファイルをタップした。
『――という、音楽性の広さをさりげなく誇示しつつ、先入観なしに聴いても耳に心地良い。多くの人の感情をかき立てる情景を描写した歌詞は、EP収録曲のなかでも人気が高い。高音を臆することなく歌い上げたことで、歌唱面での再評価も活発に為された、重要な曲だ』
滔々と語る声の背景に、こちらはしっとりと歌い上げる彼らの曲と、屋内のわずかな環境音が入っていた。
「ちょっ、モモ?」
咄嗟にスマートフォンを奪い取ろうとしたが、さっと手を引っ込められた。
「オレと了さんから、ŹOOĻくんたちへの直行便メッセージ。いちおうマネージャーさんにチェックは入れてもらうけど、この内容なら大丈夫でしょ」
「……用意周到だな。そこにも手を回してあるの」
完全に、してやられた。
怒るべきかと思ったが、それよりも見事に操られてしまった自分の間抜けさへの可笑しみと、うまいこと操ったモモを称揚したい気持ちが勝って、笑いの発作が起こりそうだった。
結局、気の抜けた声で、好きにすれば、と言うくらいしか出来なかった。モモはあからさまにほっとして、スマートフォンを大事にしまい込むと、紙のカード作りの続きに取りかかった。
「今日のうちに渡してって頼んであるから。マネージャーさんを経由して、明日には返事が届くはずだよ」
「返事? 明日?」
九月九日。
わからなかったことの答えが、突然、繋がって降ってきた。
すべては、明日に照準を合わせてのセッティングだった。
物理的にも距離を取り、誕生日など教えたこともなく、頻繁な接触は自他ともに禁じるところとしている彼らから、特別な日に言葉を届けさせるための、遠回りすぎる計画。
けれど、それはあまりにも。三ヶ月も前から。
僕の顔色を見て、モモは溜息をひとつ零し、ペンを置いた。
「言っておくけど、これはオレの欲だよ。ŹOOĻくんたちはかわいい後輩だし」
それに、と勿体をつけてから、続きを口にする。
「ŹOOĻに懐かれてデレてる了さんって、すっごくかわいいから。せっかくのデートでも全然デレてくれないし、こういうところで補給しようっていう魂胆です」
そう言って僕の顔を覗き込み、にやっと笑った。カラーペンを両手に持って、ペンライトのように振る。
「あ、いま、デレた。照れた。了さーん! ファンサして!」
「……うるさいな」
顔をそむける。耳が熱い自覚はある。
「あと、オレ、ここから先のことはあんまり考えてないんだけどさ。どこかでごはん食べて、飲んで、ちょっと遊んだら、もう明日になっちゃうと思うんだよね」
「……ふうん」
まだ夜のとば口だ。ここから日を跨ぐ時間まで、ひょっとしたらその後まで、時間をくれると言っている。
この、ゆるゆるに緩んだ、オフモードのモモを貰える。
「カード、書き終わった! 了さん、他に見たい展示とかある? それともどっか移動する?」
そう言ってモモは、ペンギンやクラゲらしき絵と、様々な色文字のメッセージで埋め尽くしたカードを、ひらひらと振った。その手首をぐっと掴み、顔を寄せて囁く。
「うん。とても上手く書けてる。ご褒美に、ここからのエスコートは僕に任せて貰える?」
モモは驚いた顔で何度か瞬きをし、それから少し頬を赤くして、へへっと笑った。
「褒めとデレ、いただいちゃった」
× × ×
今日という日。明日という日。
どちらにも行けず、どちらにも行ける、狭間の時間。
ふたりで、長い夜を泳いでいく。
きっと辿り着ける朝までも。
〈Fin〉