青紅アンソロジー「ふたりぐらし」に寄稿した原稿です。主催様から許可が出てたので再掲します。もう一度心術の資質を会得しにいく双子をテーマに書きました。今回こちらのアンソロジーに参加できて嬉しかったです。主催のTsubasa様、素敵な企画をありがとうございました!
@wasser_welle
術の資質を全て集めたブルーとルージュは宿命の対決を終え、悲願であった完全なる一人の術士としてマジックキングダムへと帰郷を果たした。——だが、そこは彼らの知る場所ではなくなっていた。
美しかった街並みは見る影もなく破壊されており、生きている者の気配はまるで感じられなかった。どうしてこうなったのか探る内に、辛うじて息のあった術士から「地獄からモンスターがやってきた」と聞かされる。
かつてマジックキングダムの術士が天国を作り出そうとして生み出したのは、見た目は美しいがモンスターが蔓延る場所——地獄だった。彼らの理想とはあまりにもかけ離れたそれは、関係者だけでキングダムの地下深くへ封印されることになった。だが、その封印とて完全なものではなく、破られぬようにする必要があった。その為に強い力を持った術士が必要となり、双子の術士を殺し合わせ完全なる術士を作り出す理由はその為のものだった。
それを知った上で融合したブルーとルージュは地獄に赴いた。そして、最奥にいたモンスターの首魁を倒し、地獄を再び封じることに成功したのだった。
地獄から戻った途端、融合していたブルーとルージュは再度分離を果たした。生き残っていた術士に理由を尋ねたが、融合が解けたのは有り得ないと言われた。思い当たる理由としては「地獄の主を倒したからではないか」ということだった。
全て終わったあと、何もすることが思いつかない、という二人に「じゃあパトロールとして働いてみるか?」と旅の途中で縁のあったヒューズに声をかけられ、臨時のパトロール隊員として働くこととなった。
二人が承諾した理由は隊員用の寮が存在し、衣食住が保障されていたことがあげられる。また、マジックキングダムの地下にいた子供たちも、IRPO管轄の児童保護施設で預かってくれると申し出たのだ。引き取ってくれる里親探しや、見つからないでも成年になるまで相応の施設で成長を見守ることをIRPOと二人の間で契約書でもって双方合意を交わしたことも理由の一つである。
更にキングダムの復興はトリニティの方から人員を派遣して行うことも同時に契約した。それに伴い、キングダムが行っていた所業も明るみに出ることとなるが、もう二度と双子の殺し合いが行われぬように、というブルーとルージュの願いが叶えられた結果といえよう。
そうして、ブルーとルージュは子どもたちを連れてマジックキングダムから離れ、IRPOに住まいを移すこととなったのである。
***
臨時とはいえ常に人手不足と言われるこのパトロール業界で正規職員となんら変わらないレベルでブルーとルージュは働いていた。もちろん給料も正規職員と遜色ないものである。
「あーもう今日は何もしたくないよ……」
「……悔しいがお前に同意する……」
「ちょっと一言余計なんですけどー?」
自販機の置かれている休憩室の長椅子に座り込み、ブルーとルージュは疲れ果てた顔をしていた。リージョン間を逃げ回っていた窃盗犯をようやく逮捕できたのである。
最後、逃げられないように挟み撃ちにして追い詰めた時、犯人はかなり憔悴し切っていたため抵抗なく逮捕された。「最初から大人しくしてれば良かったんだ」と真顔でブルーとルージュがハモった結果、犯人は恐ろしい物でも見たように叫んで気絶したことを追記しておく。
「よっ、二人ともお疲れさん!」
「そっちもお疲れ様〜」
「どこからその元気が出てくるんだお前は」
コーヒーでも買いに来たのかヒューズやってきた。その表情は二人とは違い晴れやかで、カップで出てくるタイプの自販機のボタンを押しながらニヤリと笑う。
「ふっ、ようやく溜め込んでた始末書が片付いてな。これで俺も晴れて自由の身だぜ」
ヒューズのその言葉を受けてブルーとルージュは「またやらかしたのか」と半目になった。ヒューズはコーヒーが思いの外熱かったようでふーふーと冷ましながら飲んでいるため気が付かない。
「なーんだ事件解決したのかと」
「通りで無駄にうるさいと思った」
「お前ら酷くね?」
「「始末書溜め込んでるヒューズの方が悪い」」
「酷いも何も当たり前のことしか言ってないじゃない」
二人がハモりながら言った直後、ぬっと黒い影がヒューズの目と鼻の先に現れる。その姿は、同じパトロール隊員のドールのものだった。反対の方を見れば、にこやかに手を振るドール本人がいる。彼女も飲み物を買いに来たのだろう。手には缶コーヒーが握られていた。
「うおっ!? 飲み物持ってる時に驚かすなよ!!」
「あ、ドールさんお疲れ様〜」
「お疲れ」
「二人ともお疲れ様。ようやくあの犯人を捕まえられたんだってね」
驚くヒューズをスルーしてドールは双子へ話しかける。ブルーとルージュはヒューズに心の中で合掌しておいた。
「諦めが悪い相手だったから苦労したよ」
「でも明日から二人とも三連休でしょ? 羨ましいわ」
「ああ、そうだが……」
「特にこれといってやること思いつかないんだよね……」
「ここ最近ずっと寮には寝に帰るだけのようなものだったしな……」
ブルーとルージュは視線を明後日の方へ向けながら呟く。その目に光はなく、さながら死んだ魚の目のようである。双子のその様子に、ドールとヒューズは深く頷くしかなかった。事件が立て込んでいるとどうしたってそうなるし、最悪ここに寝泊まりすることもあるのだ。
「じゃあ二人は特に予定は入ってないのね」
「そうだけど……?」
確認するような言い方に首を傾げながらルージュが言う。ブルーは片眉をぴくりと上げた。ドールはニコニコしながら羽織ったジャケットのポケットから二枚の紙を取り出してルージュに渡す。
「よかった。じゃあこれもらってくれる? 期限がちょうど今月中だったのよ」
「なになに……『そうだ、京へ行こう! 二泊三日宿泊割引ペアチケット』……?」
ルージュが受け取り、そこに書かれた文字を声に出して読み上げる。ブルーも気になったようで覗き込むようにして見た。ついでにヒューズも見ていた。
「良いのか?」
「お店のくじ引きで当たってね。ラッキーって思ってたんだけど、なかなかまとまった休みが取れないし、友人とも予定が合わないし……使う機会を見失ってたからいいのよ」
「ありがとう! じゃあ明日からの三連休に使わせてもらうね! いいよね、ブルー」
「ああ。何しろ本当に予定らしい予定がなかったからな。ありがとう、ドール」
「ふふ、私もその割引券がただの紙切れにならなくて安心したわ」
ルージュが目を輝かせ、ブルーも驚いたようで目を丸くしていた。さっきの魂の抜け落ちた顔はどこにも見えない。そんな二人の嬉しそうな表情にドールは笑みをこぼす。
「おいおいドールさんよ。後輩に随分甘いんじゃねーの?」
既にコーヒーを飲み終えたヒューズが煙草をふかしながらドールに言う。それを見たドールの顔からスッと笑みが消えた。双子はもう一度ヒューズに心の中で合掌した。
「当たり前でしょう。大事な後輩なんですもの。あなたと違って始末書なんて書いてないしね」
「……」
飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に入れながら冷めた声でドールが言う。ヒューズはスッと視線をずらした。
「でも、全部片付いたんでしょ。あなたがいないと現場で張り合いがないんだから。しっかりしてね、先輩」
「え……ってうおっとい!」
そんなヒューズを見てドールは溜め息を一つついた後、ヒューズに何かを投げて寄越す。そのまま踵を返して去っていった。
「え、なになに。何もらったの?」
すかさずルージュがヒューズに尋ねた。ヒューズがその手をひらけば、そこには水玉模様のセロファンに包まれた可愛らしい飴玉が一つ。
「飴玉……」
「良かったじゃないか」
「……おう……」
信じられないものを見るような目でもらった飴玉をヒューズが凝視する。まるでマヒや石化状態になったようなヒューズを横目で見ながら、ブルーとルージュはそっと休憩所を後にした。
***
「うわー、綺麗だねえ」
「そうだな」
独特な雰囲気のシップ発着場を後にすれば、そこはまるで異世界だ。
——リージョン・京。独自の発展を遂げているリージョンの中でも特に群を抜いていると言える土地だろう。それ故に日常と違う空気が味わえる、という謳い文句でリージョン観光ランキングでは常に上位に存在している。そして心術の資質が得られる場でもあるため、その目的で来訪する者も少なくない。
だが、ブラッククロスという犯罪組織がここで麻薬を製造していることが判明した後は一時期多くのメディアでその情報ばかりが取り上げられていた。そのため、観光客も激減してしまったという。
しかし今は歩いていればすれ違う人が多く、徐々に賑わいが戻ってきているのがわかる。
「そういえばブルーは京にきたことあるの?」
辺りを見渡しつつ地図で確認しながらブルーとルージュは宿泊予定の施設まで歩いていた。その道中、ルージュがふとブルーに尋ねる。
「一応な。心術の資質があるというから来てみたが……」
「そっか。僕もね、旅の途中寄ったよ。資質を得ようと思って」
「お前も来てたのか」
「ふふ、どっちが先にきてたのかな? まあいいや。それでね、断られたんだ」
「「心が二つに分かれているから修行できない」」
言い終えた瞬間、二人は同時に笑い出した。
「なんだ、ブルーも同じ理由だったんだ」
「当たり前だろ」
「ひどいよねえ。双子に権利はないのかって内心ショックだったよ」
「いっそ融合してた時に来れば良かったのかもな」
「今思えばね。でもあの時それどころじゃなかったし……」
「……今も断られるのか?」
「……どうなんだろう?」
今度は二人同時に足を止めるとお互いの顔を見る。どうやら、考えていることは一緒らしい。
「行くか」
「行ってみようか」
そうして、二人は目的地を変更した。因縁の場所へと。
***
「心術の修行場へようこそ……おや」
扉が開く音に顔を上げれば、見覚えのある顔が二つもあった。かつて己が修行できないと言った相手。色違いの独特な法衣を纏う、あの魔術王国の双子の術士。
かのリージョンは地下に封じていた場所からモンスターがあふれ出して壊滅し、今もなお復興の途中だと耳にしていた。箝口令でも敷かれているのか詳しい情報はあまり流れてこず、ただの人間が住人の安否の確認をできるはずがない。だから、あの双子の術士はただ生きていてくれたらそれでいいと思っていた――その人物が、今、己の目の前にいる。
「お主ら、生きておったのか」
「勝手に殺すな」
「いや、すまぬ……だが、よく無事だったな」
「はい。この通り無事に生きてます」
青い法衣の術士は不機嫌さを隠さず、赤い法衣の術士は穏やかに笑いながら言葉を返す。二人の返事に私はゆっくり相槌を打った。そうして、この二人の中に変わらないものと変わったものがある事に気づく。だが、私は敢えて問いかけた。
「で、ここに何をしにきた。もう術の資質を集めるのは終わったのだろう?」
「でも、僕ら心術だけは得ていません」
「改めて修行がしたい。俺たちは、もうあの時とは違う」
青と赤の瞳が真っ直ぐに私を見つめてくる。——ああ、とてもいい顔になったものだ。私は大きく頷いてから口を開く。
「ああ、もちろん。存分に修行をするがよい。今のお主たちなら、きっと心術を扱える」
「本当か!?」
「本当に!?」
私がそう言えば、身を乗り出して二人が同時に口を開いた。その勢いの良さと驚くその表情がなんとも微笑ましく、思わず頬が緩んでしまった。
「ああ。今のお主たちの魂はきちんと正常に一人一つ存在しておる。安心せい。……で、受けるのか? 受けないのか? どっちじゃ」
一瞬ポカンとする二人だが、顔を見合わせ頷いてから再び同時に口を開く。二人が出したその答えに、私は修行場の奥へと案内してやった。
——その結果は、言うまでもないだろう。
【終】