了遊(ほんのり)。本編後わりと慣れあってる次元の、自覚のある了見VS無自覚遊作。短いよ
@d9_bond
通された部屋で仄かな花の香りに気がついて、了見は室内を見回した。
「金木犀の匂いがするな」
殺風景が過ぎる藤木遊作の部屋に花があるわけもなく、先週顔を出した時と特に変化もない。となれば外からだろうか。すっかり秋らしい気候になり、今日のようなよく晴れた日の昼間は過ごしやすい。見やった部屋の窓は開けはなたれている。
金木犀の花はその可憐な外見と裏腹に強く香る。近くで咲いているのだろうと思ったのだが、それにしてはこの部屋に来る時は感じなかった。少し不思議に思ったところで遊作がひらりと手を差し出してみせる。
「それは俺のハンドクリームだな」
「ハンドクリーム?」
了見はその手を取った。
いきなりだったので遊作はいくらか驚いたようだが、振りほどきはしなかった。それをいいことに白い指先に顔を寄せれば、確かに金木犀の香りがする。
「お前にしては珍しいな」
「秋冬はバイトのあとなんかは手が乾くから、前からたまに使っている」
それ自体はありそうな話だが、使うにしても無香料や効能重視を好みそうなイメージがある。香りつきを、しかも目立つ香りを選ぶのは意外だ。
その疑問が顔に出ていたのか、遊作は付け加えた。
「今使っているのはたまたま店でみつけて、お前が好きだと言ってた匂いだったから買ってみたんだ」
「ほう……」
確かに先日会った際、並んで歩いていた道の傍らに金木犀が咲いていてそんな話をした。
金木犀が戸外で香ると季節の移り変わりを感じるし香りも好ましい、という了見に、遊作はピンとこないような顔でそういうものかとコメントしただけだったのだが、覚えていたようだ。
「私が好む香りだから買った、と」
「ああ。違ったか?」
「……いや、合っている」
「よかった」
お前も使ってみるかと遊作はキャビネットからチューブを取り出した。
「ほら了見、塗ってやるから手を出せ」
「……」
「なんだその顔は。これはべたべたしないから、すぐカードやタッチパネルを触っても平気だ」
「そうじゃない」
小さくため息をついて了見は手を差し出した。