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秋晴れの空に咲う

全体公開 神無三十一受け 13 17 7833文字
2023-10-31 08:30:00

神無さん誕生日記念小説 第二弾:ディーノ編
みとディノみと要素あり シナリオネタバレあり

 
10月31日 8:30


 いつもより早い時間に出勤した神無は、普段ならば相棒の眠る整備室に向かう足をドロ課へと向けていた。
 昨晩メールを確認していた神無は相棒であるディーノから、今朝は早く来てほしい、というメッセージが送られていることに気づいたのだ。
 素直に了解する旨を伝えると更に彼は、整備室に迎えに来るのではなくドロ課で待っていてほしい、という願いも付け加えた。
 
 「おはよ。」
 「あ!神無さん、おはようございます!」
 「おはようございます〜。」

 ドロ課へ挨拶をしながら顔を出せば、室内で話し合っていた青木とレミが顔を上げる。
 いつも始業時間よりはやく出勤してアンドロイドの整備や業務の準備を行う青木は、今日は珍しく応接用のソファに座っていた。大方激務に追われる青木を見かねて、レミが強制的に休息を取らせていたのだろう。

 「ディーノに早く来てくれって言われて
 「聞いてますよ!呼んでくるのでちょっと待っていてくださいね!!」

 ディーノはあらかじめ青木にも今朝のことを話していたらしく、何故か緊張した表情の青木がソファから飛び上がりぱたぱたと隣の整備室へ駆けていく。
 走っちゃダメですよ、とその背へ向けて姉のような穏やかな声を掛けて笑ったレミは、神無を向かいの席へと促した。

 「神無さんもどうぞ、寒かったでしょう。」
 「ありがとう。」
 「コーヒーを作りますか?ディーノさんの分も。」
 「あーうーん……ディーノの用事次第かな

 非番の日ではなく仕事の日にドロ課に呼び出したということは、これから外に出る用事ではないのだろう。しかし、始業までまだ余裕があるため、近場であれば出掛けても間に合う時間だ。
 コーヒーを淹れてもらって出掛けることになったらレミに忍びない、そう神無が言葉を濁すと、正しく意図を汲み取ったらしい彼女はこくりと頷いた。

 「分かりました。それじゃあいつも通り、始業時間に間に合うように作りますね。」
 「あぁ。いつもありがとう、レミ。」

 笑顔で席を立ったレミは給湯室へと歩いていく。
 神無がアンドロイドを苦手とすることを知る数少ない仲間の一人である彼女は、神無が気づかないほど自然に二人きりになることを回避しているのだ。その気遣いを神無は時に申し訳なく思うが、同時にありがたいと感じていた。
 ひとりソファに残された神無は、レミの淹れるコーヒーの匂いを嗅ぎながらそわそわとディーノの到着を待つ。やがて整備室の扉が開き、聞き馴染んだ金属の足音が耳に届いた。

 「ディー……ノ?」

 いつものように明るく声を上げながら視線をそちらへ向けた神無は、青木の背に張り付いた相棒と目が合う。
 びくりと大きく体を震わせた彼は、気まずそうに目を逸らして青木の背中に完全に隠れてしまった。
 想像していた待ち合わせと大きく異なるその反応に、唖然と首を傾げた神無の肩からジャケットがずり下がる。

 「……どうした?」
 「あの……神無、おはようございます、その

 しどろもどろ、という表現が正しいと思えるほど、普段はつらつらと明瞭に話すディーノの言葉は詰まって聞こえた。
 未だ離れようとしないディーノの姿に、青木は困ったような笑みを浮かべて彼の背を撫でる。

 「ほらディーノ、頑張って。」
 「やっぱり無理です。こんなの……神無をがっかりさせてしまいます。」
 「大丈夫だよ、いっぱい頑張ったでしょ?」

 青木と小さな声で会話をしたディーノは、眉を寄せたままおずおずと背中に隠していた小さな袋を神無に差し出した。

 「俺に?」
 「誕生日プレゼントにと思ったのですが、」

 首を傾げる神無にこくりとひとつ頷いたディーノは、再び言葉を探すように視線を彷徨わせる。まるで悪戯が見つかった子供のように萎縮するその様子に、神無はますます首を傾げた。

 「開けていい?」
 「あ……は、はい、どうぞ。」

 不恰好に結ばれたリボンを解いて、神無は袋の中身をそっと覗き込む。ふわりと鼻を擽る甘い匂いは神無のよく嗅ぎ慣れたものだった。
 袋の中には、小さなクッキーがいくつも詰まっている。それらは形が不揃いで、焦げて茶色になっているものがほとんどだった。

 「これ、ディーノが焼いたのか?」
 「はい。青木とレミに教わって……

 聞けばディーノは1ヶ月以上前から、神無の誕生日にプレゼントを贈りたいと青木とレミに整備室で相談をしていたらしい。
 そんな彼にふたりは、神無にお菓子を作るのはどうだろうかと提案したのだ。
 その翌日から、ディーノは毎晩ふたりに教わりながらクッキーを作る練習を始めた。
 ディーノは戦闘に特化したアンドロイドであるため、日常生活に利用する動作をほとんど搭載していない。そのため、お菓子作りという細かい計量や調節が必要な動作を学習することは一苦労だった。
 今日までの練習で、青木が胃を壊した回数は両手では足りない。それでも昨晩、どうにか形になったものの中から比較的食べられそうなものを選んで包装したのだ。

 「でもすみません。神無にこんなこんな、おいしくないクッキーを……やっぱり僕、」

 神無は誰もが知る無類の甘いもの好きで、雑誌やテレビに掲載されるような有名店から通りから離れた場所にある隠れた名店まで、ありとあらゆる甘味に詳しいのだ。
 そんな彼に焦げたクッキーを渡すことが無性に恥ずかしくなったディーノは、神無の手から袋を取り上げようとした。

 「ちょ!待てってディーノ!」

 ディーノの腕を慌てて掴んだ神無は、不安そうに眉を寄せておろおろと袋を見つめるディーノと視線を合わせる。

 「なんで謝るんだ?俺は嬉しいよ。」
 「でもでも、」

 神無は外部の人間に対してある程度猫を被るため、物腰が柔らかいと思われている。警視庁内の女子もそんな彼の振る舞いと顔の良さに惚れて、アピールをするために勇気を出して誕生日プレゼントを選んでいることだろう。

 「このクッキーは、神無に相応しくないです。だから……

 神無のために用意された高級なお菓子の中に埋もれてしまう、みすぼらしい焦げたクッキーを想像したディーノは、涙目になって首を横に振った。
 必死で袋を取り返そうと手を伸ばすディーノを見ていた神無は、くっと唇を噛んでそんなディーノの手を取る。何が起こったのか分からず目を瞬いている彼の手を引いた神無は、応接スペースから離れて部屋の扉へと向かった。

 「青木ごめん、始業には間に合わせるからちょっと出てくる。」
 「はい、分かりました。」
 「ぅ、え待って神無、あ青木、」

 引きずられるディーノは珍しく狼狽えて背後で声を上げるが、神無は気にせずにずんずんとドロ課を出て行った。咄嗟に青木へ助けを求めるディーノだったが、青木は神無の言葉を聞いて行き先や理由を察しているらしく笑顔で送り出そうとする。

 「あ神無さん。こちらを。」

 その時、給湯室にいたレミが顔を出して小さな水筒を手渡した。
 覗いた水筒の中には温かいコーヒーが揺れている。ディーノのプレゼントを知っていたレミが、あらかじめ作っていたコーヒーを移し替えて持たせてくれたのだろう。さりげない同僚たちの優しさに神無は胸が熱くなった。

 「あの、青木レミ。」
 「はい?」
 「なんでしょう。」

 部屋を出る直前、足を止めた神無は室内を振り返り口を開く。ふたりのことを穏やかに見送ろうとしていた青木とレミは、その視線を受けて不思議そうに首を傾げた。

 「その……いつも、ありがとう。」

 あの事件のとき、神無は赤星の手引きにより黒田の殺人未遂で拘束された。その後誤解は解けたものの、警視庁を抜け出して一時的に指名手配犯のような扱いを受けた神無のことを良く思わない人間は庁内にも多い。
 加えて、事件の真相を辿る過程で黒田の養子であることが明らかとなったため、彼の後ろ盾があったのだと根も葉もないような噂話が神無を取り巻いた。
 それら全てから神無を必死に守ったのは、事件を見届けた青木とレミだ。今も神無がドロ課の一員として仕事に打ち込むことを許されているのは、ひとえに青木の努力の賜である。
 急に気恥ずかしさを覚えて尻すぼみになった言葉だが、ふたりの耳には正確に届いたらしい。驚いたように顔を見合わせていたふたりは、やがて嬉しそうに笑って見せた。

 「こちらこそですよ、神無さん。」
 「お誕生日おめでとうございます。」

 互いのことを信頼し合っているふたりに背中を押されて、神無はドロ課の事務室を飛び出す。
 サングラスを起動して現在時刻を確かめれば、始業まであと20分近く時間が残されていた。

 「行くならあそこしかないな。」
 「か、かみな?どこ行くの?」

 残り時間で辿り着いて、ゆっくり話し合う時間を設けた上で始業までに帰ることができる場所をサングラス型コンピュータで計算して確認した神無はひとつ頷く。
 手を引かれるままのディーノは彼なりに踏ん張って抵抗しているようだが、神無の力に負けてずるずると庁内から引きずり出された。

 忙しない朝の往来から離れて神無が向かったのは、警視庁の近くにある公園だ。
 ふたりが出会って初めて言葉を交わし、ひったくりの少年を捕らえた場所だった。

 「こう、えん?」
 「ほらディーノ、こっち。」

 驚いてぽかんと口を開けるディーノの手を引いた神無は、そんな彼を連れてそばのベンチへ連れて行く。
 木漏れ日が穏やかに差し込むベンチに、ふたりは並んで腰掛けた。受け取った袋をそっと開いた神無はクッキーを一枚摘み上げる。

 「食べていい?」
 「………朝ごはんは済んでいるのでは?」
 「別腹別腹。」

 最後の抵抗を示すディーノだったが、神無は構わずクッキーを齧った。
 薄い見た目に似つかわしくないばきんという音を立てて、半分を口に運んだ神無は咀嚼して味わう。そんな彼の姿を隣のディーノは固唾を飲んで見守っていた。
 やがて残り半分を口に入れた神無は、ごりごりというクッキーにあるまじき音と共に唇の端についた粉砂糖を指で拭って舐める。

 「うん、確かにちょっと固いけど美味いよ。」
 「本当ですか?」
 「問題なく食える。上に乗ってるこれは野いちごか?」
 「その通りです。砂糖漬けにしました。」

 神無が指差すクッキーの上には、赤く小さな野いちごがひとつずつ乗っていた。クッキーに甘酸っぱいアクセントを与えるそれは神無好みの味で、機嫌良く彼は2枚目をかじる。

 「うんうん、美味い。」
 「よかった。」

 頷いて次々にクッキーを口に運ぶ神無の姿を見上げていたディーノは、心底安堵した様子で息を吐いた。
 単に自信のなかった料理を褒めてもらっただけにしては大袈裟に感じる彼の態度に、クッキーを咥えたまま神無は首を傾げる。
 視線を受けたディーノは言葉に悩むように俯いて口を開閉していたが、やがて意を決したように呟いた。

 「昔、神無のお母さんが……このクッキーをよく焼いてくれたんです。」

 通勤ラッシュを過ぎたふたりきりの公園内に、穏やかな風が僅かな時間の沈黙を運ぶ。
 秋の風は神無の頬を撫でて、ディーノの髪を緩くかき混ぜて消えて行った。ひんやりと冷たいその感触はきっと、風のせいだけではないのだろう。神無は無意識に小さく息を飲む。

 「……そう、だったんだ。」
 「はい。神無と僕が泣いていると、いつも焼いてくれたのです。僕らはこのクッキーが大好きでした。」

 神無の母親は、ふたりが悲しいことがあって泣いていたり、喧嘩をして仲直りができなかったりすると、決まってこのクッキーを焼いた。
 さくさくとした軽い歯触りと、幸せな心地になるバターとミルクの風味。てっぺんの酸っぱい野いちごと、散りばめられた甘い粉砂糖。
 気付けば幼いふたりの頬は緩んでいて、涙が引っ込み自然と素直に話すことができたのだ。
 ディーノにとって、神無の母親が焼くクッキーは魔法のようだった。

 「神無のお母さんは僕の母さんが目を覚まさなくなってからも、クッキーを焼いて持ってきてくれたんです。」
 「そっか。」
 「一度だけ神無が真似をして焼いたこともありました。真っ黒でものすごく固かったけど、嬉しかったです。」
 「あはは、それに比べたらディーノの方が上手じゃん。」

 自身の母親が交通事故によって植物状態になり間も無く、明るかったディーノは塞ぎ込むようになってしまった。
 そんなディーノのことを心配して、彼女は何度か家まで焼いたクッキーを届けに来てくれたのだ。それを見た神無が真似をして、彼女のいない隙に焼いたクッキーを持ってきたこともあった。

 「神無のお母さんの味を再現したくて、そうしたら神無も喜んでくれると思ったのです。ですが……

 何度も失敗してようやく食べることができる程度まで上達したが、ディーノのクッキーは神無の母親の味には程遠いものだった。
 彼はこうして時々、神無が失ってしまった記憶を思い出すきっかけを探している。昔行った場所、食べたもの、それらが少しでも彼の幸せな記憶を呼び起こす手掛かりになることを願っているのだ。
 けれど現実は厳しいもので、神無の記憶は家族や幼馴染を失ったあの日以外戻る気配がない。
 しょんぼりと肩を落として呟くディーノの姿を見ていた神無は、その背を叩いて明るく笑った。

 「その気持ちが嬉しいよ。ありがとう。」
 「でも、もっと僕が上達して、美味しいクッキーを食べていたら思い出せたかもしれません。」
 「だから気にしてないって!それに多分、俺やディーノが母さんのクッキーが好きだったのはそれだけが理由じゃないだろ。」

 そう言った神無は、袋の中のクッキーをひとつ摘んで彼の唇に押しつけた。驚いて目を丸くしたディーノが首を傾げる。

 「ディーノ、あーん。」
 「神無?」
 「ほら、あーんして。」
 「………あ。」

 困惑するディーノに再び促した神無は、真似をするように口を開けて見せる。それを見たディーノは、おずおずと口を開いて神無の差し出すクッキーを咥えた。
 ごりごりと歯を模した器官で噛み砕くディーノの口内が、甘味と酸味と僅かな苦味を感知する。

 「どう?」
 「固くて粉っぽくて、苦いです。こんなの、到底
 「でも俺は、胸いっぱい甘くて幸せな気持ちになったよ。ディーノと一緒に食べてるから。」

 嬉しそうに、幸せそうに、神無は笑った。
 その笑みを見上げていたディーノは、口の中に残る半分のクッキーを噛み締める。
 あまい。かたい。にがい。けれど今のディーノには、それを一緒に食べて笑っている神無の姿が隣にあった。

 ふと、脳裏に幼い日の記憶が蘇る。
 雪の降る夜のこと。母親の目を盗んで自宅を抜け出した神無は、泣き腫らして覚束ない足取りのディーノにクッキーを差し出したのだ。
 ココアパウダーでも再現ができないほど黒く固いクッキーは、炭の味しかしなかった。
 苦くて思わず顔をしかめたディーノを見て、神無も慌ててクッキーを口に運ぶ。途端顔をくしゃくしゃにして唸る神無を見て、ディーノは思わず吹き出した。
 くすくすと顔を見合わせてふたりで笑ったあのとき、ディーノは何故か胸の底が甘く幸せな気持ちになった。
 だからあのとき、彼は誓ったのだ。もしも神無が辛い目に遭ったときは、何が何でも神無のことを守り抜いてみせる、と。

 「僕がいるから……?」
 「そう。それだけで、最高に美味しくて幸せな気持ちになれるだろ?」

 あのクッキーは、涙を拭う魔法の道具だったわけではない。隣に神無がいて、自分がいたから初めて成り立ったのだと、ディーノは胸を満たす甘く温かな気持ちを実感した。

 「……はい。とても幸せ、です。」
 「うんうん、今度は一緒に作ろうな。ひょっとしたら、作ってるうちになにか思い出すかもしれないし。」
 「はいはい!楽しみです。」
 
 何度も頷くディーノに笑って頷いた神無は、袋を二人の間に広げる。彼らは少しだけ不恰好なクッキーを指で摘むと、口に入れて顔を見合わせた。
 くすくすとあの頃のように笑ったディーノは、改めて神無の手を取って向き直る。

 「神無、誕生日おめでとうございます。今日まで生きてくれて本当にありがとうございます。」
 「あぁ、俺こそありがとう。」

 運命の歯車がたった一つでも狂っていたら、今頃神無はこの世にいなかったかもしれない。そんな世界を鮮明に考えられるほど、ディーノは今というこの瞬間を奇跡だと思っていた。

 「また会えて今こうしてどんな形であろうと一緒にいれて、嬉しいです。」

 神無の心臓は、あの日刺された時に動きを止めてしまった。しかし、人並外れた医療技術によってディーノの心臓が彼へと移植されたのだ。
 今も神無の体の中で、ディーノの心臓は変わらず鼓動していた。自分の残した最後の誓いが彼を生かしたことに、ディーノは全てを知った今でも胸を張ることができる。

 「お礼を言うならこっちだろ。これからも相棒としてよろしくな、ディーノ。」

 ひまわりのように明るく笑った神無は、袋の中に手を伸ばした。最後の一枚のクッキーを摘んだ彼は、ふたつに割った片方をディーノへ渡す。

 「半分こにしよう。」
 「うん!」

 二人は揃ってクッキーを口に運んだ。
 ごりごり、ぱきん。クッキーには似つかわしくない互いの咀嚼音を聞いた彼らは、おかしくなってけらけらと笑い出す。
 始業時間を目前にした誰もいない公園は、子供のようにはしゃぐふたりだけの幸せな世界のようだった。

 「神無、今度は一緒におじいちゃんになりたいです。」

 袋の底のかけらを丁寧に拾っていた神無に向けて、ディーノはそう呟いて笑う。
 顔を上げた神無は、少しだけ考え込むように口を噤んでからおそるおそる首を傾げた。

 「ボイドの寿命ってどのくらい?」
 「約200年です。部品の交換とメンテナンスを怠らなければ、最大300年まで駆動可能かと。」
 「ははそれは…………俺も気合い入れて生きないとな。」

 苦笑いを浮かべながら意気込むように拳を握る神無の姿を見上げ、ディーノはくふくふと楽しそうに笑う。
 そうしてしばらく、レミの淹れたコーヒーの水筒を傾けながら話し合っていると、ふと神無のサングラス型コンピュータが小さなアラーム音を鳴らした。つられてディーノも時間を確認すれば、まもなく始業時間を迎えようとしている。

 「よし、そろそろ戻るか。」
 「はい。今日もよろしくお願いします、神無。」

 ベンチを立った二人は、早足に歩き出した。
 見上げた秋の高い空には、今日も警視庁とリボット社が並んで建っている。
 差し込む太陽の光にビルの窓が照らされて輝く光景を、神無は素直に美しいと思ったのだ。



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