今年の8月の台風の片付けが終わって、すぐに書いたみっぴき話です。停電した事務所でおうちキャンプする…少しドラルクさんのヒナイチくんへの執着心もチラリと。
Twitterに上げた時は、デメキンさんをテントに入れたのに、死のゲームを忘れて「ごめん」ってなったので、死のゲームのモノローグを追加しました。ドラマCD、面白かったよね。君も3期で出ような!
2023/08/19に上げました。
@kw42431393
「ふぅ、すまないな。お風呂に浸からせて貰っ…何をしているんだ?」
今日はとんでもない日だった。本当にあったんだな。ドラルクのお父上が言っていた、しんふぉふぃりあ?だったか…あれが、それなのかも分からないが。
どうもこうも、吸血鬼でそういう奴がいてだな…台風接近で帰りを急いでいた所を、カメラ片手に騒いでいる吸血鬼を取り押さえる羽目になったんだ。
『なあ!!お巡りさんも、この嵐の前の感じ、ドキドキするだろ!?分かったら、邪魔しないでくれよ!』
…するだろ。この暴風雨の中で増水した川辺で騒ぐな、迷惑をかけるんじゃない。
とりあえず、VRCに安全になるまで彼を収容しておく様に依頼した。
『こんな愚物、何の能力もない。研究にもならん。川に放り込め。』
ヨモツザカ所長はそう言うが、無理矢理押し付けた。
合羽は着ていたが、さらにゴネる犯人が、意外としぶとくてな…事務所に着いた頃には、下着までぐっしょりと濡れて気持ち悪かった。ついてないな。
「いらっしゃい、ヒナイチく…これは、酷いね。ちょっと、待っててくれ給え。」
出迎えてくれたドラルクは、私にバスタオルを巻き付けると、浴室へ駆けて行った。確かに、誉められた格好ではないな。
「大変だったな、ヒナイチ。今日ばっかりは、寮に帰れとは言わねえよ。今出ると、危ないからな。」
ジョンに手伝われながら、頭を拭いていると、ロナ戦の執筆をしていたロナルドも来た。顎で示す先を見ると、雨戸を閉めた窓がガタガタと揺れている。吹き付ける雨が、雨戸を叩く音もする。
「風邪引くぞ、ゆっくり浸かってこいよ。」
「ありがとう、そうさせて貰う。」
そんな訳で、一番風呂を使わせて貰ってたんだ。事務所では、ロナルドがパソコンの前で頭をバリバリ掻いてるのが見える。また、締め切りが近いのかもしれない。
「ドラルク、ジョン。何をしているんだ?」
棺桶の前でしゃがみこんでいる一人と一玉を覗く。彼らの手元には、赤い防災袋。
懐中電灯、ナイフ、紙皿や紙コップ、非常食、携帯生き血パック、ペットボトル飲料等々が並べられている。
「さっぱりしたかね。ちゃんと、髪をドライヤーで乾かしなさいよ。」
「ヌヌヌイ。」
どうやら、台風が強くなってきたので、前に入れていた防災袋を整理していたらしい。
「いざという時の為に用意はしてるんだけど、実際使わないでしょ?中身が古くなってたりするのだよ。」
横に分けているカロリー◯イトやペットボトル飲料は、消費期限が近いらしい。それらを出してから、今度は新しいものを袋に詰めていく。
「それはあるかもな。あっ、ジョン。あまり食べると、怒られるぞ?」
ヌッヒッヒと、忍び笑いをするジョンにドラルクも苦笑いをする。
「こらこら、明日にしなさい。これから夕飯でしょ…あれ?」
「ヌッ!?」
バチンッと音が鳴って、事務所が真っ暗になる。賑やかにしていて忘れがちだったが…
「すごい雨風だな。」
寮に直帰しないで、こちらに来ていてよかった。任務もあるが、元々着替えたくて寄ったのだ。
外を歩いていたら、危なかったかもしれない。何より…
「ヌヌヌ~。」
「おやおや、ジョン。怖いのかね?」
そうだな、私でも停電した寮の部屋で一人。聞こえるのは激しい雨音と建物が揺れる音…怖かったかもしれない。
「そうだな、ジョンも怖いよな。」
そう言って、私も頭を撫でてやる。
「おーい、停電だってよ。参ったな。この熱帯夜に、エアコン切れるのは辛いぜ。」
事務所から、ロナルドもメビヤツにライトを付けて貰いながら、こちらにやって来た。
確かにそうだ、じわじわ蒸し暑くなってきたぞ。
「ゴリラのいる地域よりは涼し…スナァ!」
「喧しいわ!全く、お前は棺桶に冷房付いてるからいいよな。」
そういえば、そうだった。この棺桶はハイテクなんだよな。
「充電式だからね、いいだろう?土下座して『少しだけでいいので涼ませていださい、ドラルク様』と言えば…ブェー!!」
「ヌエーン!!」
ああ、知っていたな。この展開。
「棺桶、棺桶か。そうだ、ロナルドくん。この前、キャンプで使おうとした簡易テントはあるかね?」
ドラルクが、楽しい事を思い付いたかの様にニヤリと笑う。
この非常事態でも変わらない奴だな。
「おお、あるけど。こんな時に何考えてんだ?」
「折角、ヒナイチくんも来たからね。デメキンもこっちへ連れてこよう、水温が上がっちゃうかもしれない。おーい、死のゲーム。」
「どうしました、師匠?」
「君もこっちへおいで、皆と一緒にいよう。」
ドラルクは、キッチンからお鍋と炊飯器、皿を持ってきて、床に並べ出した。今日はカレーだったのか。
私達は、ロナルドと一緒に棺桶の上にテントを組み立てたんだ。
上にLEDのランタンのかけて、卓上用冷風機を置いて、そして、棺桶のクーラーを入れる。
「おっ、涼しくなってきた。」
「面白いな、まるでキャンプみたいだ。」
さっき、VRCに送った奴の事は言えないな。外から凄い物音がなっているのに、何だかワクワクしてくる。
冷気を逃がさない様に、出入口のチャックを閉めると、そこは私達だけの空間だ。
「ジャンクフードは嫌いだけど、防災袋に入っていた缶詰めやジュースも捌きたいからね。皆で食べてしまおうか。」
「全く、そんな事態じゃねえだろ。まあ、いいか。」
ロナルドが、カレーに口に運びながら呆れた様に笑う。彼も満更ではないらしい。
真っ暗な部屋の一角で張られたテントの中で、食事をして、携帯はいざという時にいるかもしれないから…ゲームや映画鑑賞をせずに、時期が時期だから百物語をして…怖がったロナルドがテントを壊しそうになったり、ドラルクが塵になったり…そうして、夜も更けていく。
「そろそろ、昼の子は寝ようか。明日は、電気が復旧してるといいね。」
タオルケットにくるまって事務所の全員がその中で雑魚寝をする。ますます、キャンプに来たみたいで、眠れない。
そっと、薄目を開ける。
隣にはイビキをかいているロナルドとそれに寄り添っているメビヤツ。
枕元では、ブクブクとデメキンの寝息?が聞こえる。死のゲームも電気がいつ復旧するか分からないので、早めに電源を落として眠っている。
丁度、私の懐にいい匂いのジョンがいて…
「おや、眠れないかね?」
くしゃりと、頭を撫でられる。吸血鬼であるドラルクの、冷たい手の感触が心地よい。
「怖い?おやすみのキスをしてあげようか?」
からかう様な声色に、何故か心が満たされて、催眠術にかかった様に瞼が重くなっていく。
「ううん…だいじょうぶ…だ。」
おやすみ、という優しい声に目を閉じる。
外は、ますます風が激しくなっているらしい。建物が、ガタガタ揺れるのも感じる。家賃8000円のこの建物が、そもそも防災基準を満たしているか疑わしい。
それでも、何故か私はここが、この世界で一番安全で幸せな場所の様な気がして…
「大丈夫だとも。だから、どこにも行かないで。私の可愛いお嬢さん。」
彼の手に頬を擦りよせて、首筋にかかる冷たい吐息を感じながら、私は意識を手放した。
「おっ、電気回復してるじゃん。」
「台風も終わったらしいな。やれやれだ。」
一夜が明けた、ロナルド吸血鬼退治事務所。外は暴風雨で荒れ狂っている晩に、皆で騒いだおうちキャンプ。
「さあ、テントを片付けておくれ。私は、皆の朝ごはんを作ってから眠らせて貰うよ。」
師匠がパンパンと手を叩くと、「お前が仕切るな!」と退治人ロナルドの跳び蹴りが決まる。そして、塵の前で泣くマジロ。僕がオータムからここに来て、毎日見ている風景。
「変わらないな。」
そう言って、ヒナイチさんは僕とデメキンを持ち上げる。そして、いつもの日光が当たらない場所に移してくれた。
「少女よ、礼を言うぞ。」
「どう致しまして。」
ボチャっという音を立てて、デメキンが金魚鉢からいつもの水槽に移動する。
「ありがとうございます。ねえ、ヒナイチさん。」
「どうした?死のゲーム。」
僕を所定の場所に置いてから、立ち去ろうとする彼女を呼び止める。元々、僕は彼女とあまりつき合いがなかったけれど、最近はヒナイチさんもクソゲーをやる様になった。師匠がキッチンに立ってここにいないから、僕は気になっていた事を少し聞いてみる気になったのだ。
「ヒナイチさんは、師匠をどう思っているんですか?」
「ドラルクをか?」
『死のゲーム、ヒナイチくんが、クソゲーをしに来るよ。彼女は初心者だ。お手柔らかにしてやっておくれ。』
『ヒナイチさんって、師匠の監視員の。あの血が美味しそうな女の子…』
『死のゲーム…』
妙にドスの聞いた声だった。僕を持っている手が微かに痙攣した。
尊敬している恩人だからやらないけれど、この人を殺すなら僕が軽く頭突きしただけで終わりのはずだ。それなのに。
『…あれは、私の獲物なんだよ。つまらない事をしたら、許さないからね?』
あの時の顔を写真に撮って、SNSにでも上げれば1万畏怖ぐらい貰えただろう。そのぐらい、顔も雰囲気も豹変していた。
『こんばんは。じゃ、じゃあ頼むぞ。死のゲーム。』
『はい!師匠がお世話になっております。クソゲーの事なら、僕に任せて下さい。』
チラリと師匠を盗み見る。彼女が来てから、師匠は保護者の様な優しい目をしていた。あれは獲物に向ける目じゃないと思う。
では、昨日見た師匠は見間違いだろうか。
『大丈夫だとも。だから、どこにも行かないで。』
昨夜、テントの中で全員で雑魚寝をしていた時に、うとうとし始めた彼女の耳元で、そう囁く師匠の姿を思い出す。実は、僕妙に気になってこっそり見ていたんですよね。
『…私の可愛いお嬢さん。』
そう言って、彼女の美味しそうな首筋に顔を近づける。彼女は完全に無防備だ。だから、とうとう実行するのかと思っていたんですよ。
暗闇に光る赤い瞳と裂けた口角から見えた牙は捕食者の物だったから、それなのに。
『…ん…くすぐっ…たい、クスクス。ちん。』
『フフ、仕方ないね。この子は…。』
したのは、彼女の寝言と微かなリップ音だけ。
少しだけ寂しそうな顔に変わった師匠は、ヒナイチさんのタオルケットを直してやると、自分も眠ってしまった。
師匠は本気なんだ。
吸血欲と庇護欲の板挟みになっている…(顔グラ使い回しバグだらけクソ)恋愛ゲームの知り合いしかいませんが、そんな僕でも分かりますよ。
「クッキーが美味しいぞ。」
「えっと、それだけですか?」
「それだけじゃない!ケーキもタルトも…いや、あいつの作るものは何でも美味しい!」
無邪気な声に、師匠が気の毒になる。
「それに…うん。いい奴だ。一緒にいて楽しいんだ!」
でも、ほんの僅かに染まった頬。なんだ、心配ないですね。好感度はそこそこあるはずですよ、師匠。
「どうかしたかね。二人とも。」
「あっ、ドラルク。ご飯、まだか?」
「出来たから呼びに来たんでしょ。手を洗っておいで。」
そして、これもいつも僕が見る風景。
一瞬見せたしおらしい顔はキラキラ輝いて、ハートマークのアンテナを揺らしながら、彼女は洗面所に行ってしまう。
「師匠、頑張ってくださいね。クエストさんより、ずっと簡単だと思いますから。」
「ん?何の話だね?」
マルチエンディングの謳い文句とは裏腹に、実はバグで一本道しかないクソシナリオ。
毎日同じ事を繰り返す、単調で失敗したら初めからやり直し。
師匠達の恋愛はきっとそんな事を繰り返しながら、選択肢のないハッピーエンドに向かうのだと…僕は信じています。