おぶちゃさん『シックスコードの響く先で』の感想と考察です。
⚠︎内容に関するネタバレと深読みを含みます。
@0723_hrk
⚠︎内容に関するネタバレ・深読みを含みます。
おぶちゃ6周年を記念した"6円公演"『シックスコードの響く先で』。
仕事の都合で現地での観劇は叶わなかったけれど、配信で自宅から観劇いたしました。
"おぶちゃ"という団体のとても大きな特徴が"人を丁寧に描くこと"だと思っているのだけど、今回もそれが全面に押し出された素敵な作品だったと思う。
今回の主人公は"ユウスケ"。
のちに株式会社Msmileを立ち上げる男だ。
「この物語はファンタジーである」という前置きのもと始まったのは、ひとりの男が悩み、迷い、いろいろなものを取りこぼしながらも自分のやりたいことを貫き通す物語だった。
この"取りこぼしながら"というのが『シックスコードの響く先で』における強い印象だった。
「自分のやりたいことがやりたい」。
それは人間であれば誰しも思うことだろう。けれどそれを貫き通せる人が、世の中にどれくらいいるのだろうか。
岩佐さん演じるユウスケは「自分のやりたいことがやりたい」という気持ちがブレずに自分の中にあって、紆余曲折ある中でも結局はその気持ちに立ち返って人生を切り拓いていく。ある程度生きていればそれがどれだけ難しいことか容易く察しがつくと思う。
『シックスコードの響く先で』はおぶきょさんがユウスケ本人にインタビューをする場面から始まる。
この場面、薄い白い幕の向こう側でおぶきょさんとユウスケが語り合う芝居があり、セリフはナレーターのお二人が担当するという演出だったのだが、私はこの演出がとても気に入った。
そもそもここまでの場面はお芝居なのか前アナウンスなのか、物語と現実の境界線が曖昧な空間が続いていたから、この演出を通して「あ、いままさにユウスケの物語に入っていくんだ」という感覚が確かにあってわくわくした。
インタビューでこれまでの人生を回顧する、なんて成功者じゃないとしないようなことをしているところからして、ユウスケは「自分のやりたいこと」を貫き通した稀有な男なのだろうと思った。けれど蓋を開けてみれば、彼が辿ってきた道はやりたいことを貫いた代償として彼が選べなかったものが大切にしまわれている。
かつてのクラスメイト・すま。ユウスケとの会話を見ていると、どこかユウスケばかりが先走っていてすまが少し引き気味な印象を受けた。ユウスケは微塵もそんなことを思ってはいなかっただろうけど、すまがユウスケを見る眼差しにはどこか住む世界が違う人を見るようなものがあった。キラキラした笑顔で夢を語り進もうとするユウスケを、眩しい気持ちで眺めていたのだろう。眩しい友人は誇らしいけれど、一緒にいてつらくなる。作中そんなすまの気持ちが明言されていたわけではないけれど、セリフの間やユウスケの背中を見る眼差しから友人としてユウスケを大切に思う気持ちと劣等感の狭間で揺れているような気がした。徐々に活躍の場を広げていくユウスケを、何事も成せずにいる部屋の中で見続けるのはどれほど苦しかっただろうか。けれど同時に、ユウスケという存在はすまの光でもあったのだと思う。すまは結局自ら命を絶ってしまうけれど、彼のお父さんがユウスケを気にかけるのが何よりの証拠だった。
すまが自殺するシーンもね…あまりに呆気なくて。その呆気なさが、かえってすべてはユウスケの知らないところで起こってしまったんだということを感じさせて切なかった。その結果にユウスケとの直接的な関係はないけれど、ユウスケは「もっと連絡していれば」「もっと俺がなんとかしていれば」と激しく後悔する。悔やんでも悔やみきれない、ユウスケにとっては忘れられない出来事だろう。それは出来事がショッキングなだけではなく、ユウスケがすまと過ごした時間をかけがえのないものだと思っていたからじゃないだろうか。すまにとってユウスケが光だったのと同様、ユウスケにとってもすまは光だったのかもしれない。
そして、ユウスケと一緒に道を切り開いていく相棒となるまいちゃん。さっぱりとした気性で一緒に夢を追いかけながらもユウスケよりも現実が見えているまいちゃんは、要所要所でユウスケの心の支えになっていた。誰よりも近くで見ていたからこそ、自分の病気がわかってもユウスケの背中を押したかったのだろう。まいちゃん自身不安だっただろうに、そんな様子はユウスケには一切見せずに背中を押し続ける健気さがもう…。病気に直面して、まいちゃんの夢はユウスケの夢になっていたのかもしれない。
まいちゃんの様子にユウスケが気づいていないわけがなくて。ただそこに深入りできなかったのは、単純に怖かったんじゃないかなと思う。この時期のユウスケはすまを失った痛手からまだ立ち直ってはいなかっただろうし、これ以上なにかを知って耐えるだけの心の余裕はなかったのだろう。けれどそんなユウスケの背中を叩いてくれるのが、小谷嘉一さん演じるプロデューサーだ。知らないところで失う、それを繰り返すことこそ愚かだろうと厳しい口調で諭す姿に、ユウスケを見出しここまで育ててきた彼の父親のような心を感じた。結局のところその言葉を自分なりに考えたユウスケはまいちゃんと真っ向から衝突し、中途半端に引いてしまった結果まいちゃんは姿を消してしまう。まいちゃんとしては優しいユウスケが余裕なく言葉を並べるのを聞いて、彼を思うならもう側にはいられないと覚悟を決めたのだと思う。それくらいまいちゃんにとってユウスケとユウスケの夢は大事なもので、そのために潔く姿を消したのだ。
すまにしてもまいちゃんにしても、ユウスケが選べずにいるうちに遠くへ行ってしまった。そのことについてユウスケの中には計り知れない後悔があったと思う。ユウスケはその気持ちや2人との時間を大切に持ちながらも、まるで背中を押されるように邁進し続けた。数えきれない「あの時もっとこうしていれば」は消えることがないだろう。それでも2人のことをこうして語れるくらい美しい思い出に昇華できたのは、この邁進あってこそだと思う。のちにユウスケが設立することになる会社の名前に"すま""まい"二人の名前が入っているのは偶然だろうか。
ユウスケは理想が高いからこそ優柔不断なところがあって、場面によってはちょっとなよっとした、頼りなさげな部分も目立った。けれどしっかり自分の足で立ち上がり、歩いていく強さがあった。ひとりの人間のそんなアンバランスさが"ファンタジー"というにはリアルで、演じている岩佐さんの柔らかくて優しそうな雰囲気が余計ユウスケの気持ちの揺れ動きや後悔を際立たせていたように思う。
もう一人忘れちゃいけないのはユウスケのお母さん。めちゃくちゃ良かった。
息子が何を言い出しても、その覚悟を問い、最後には背中を押してくれる。まさに肝っ玉母さん、という感じで、なんだかんだ言いつつユウスケが自分のやりたいことを貫けた背景にはこのお母さんがいたんだろうなと思う。
すまやまいちゃん、お母さんだけでなく、プロデューサーやすまのお父さんや関さんなど、いろんな人と関わりながらユウスケはひとつの会社を立ち上げることになるのだった。
後悔も、迷いも、悩みもたくさんあっただろう。
それでも選び取って貫いてきた夢の先に、代償に選べなかった大切なものの先に、ユウスケの現在がある。それが正解だったのかは、ユウスケが懐かしそうに愛おしそうに過去を語っているところからしても明らかだろう。いや、正解の道なんてはじめからなくて、ユウスケ自身がその選択を正解に変えたのだと思った。
おぶちゃ6周年、そしてM-smile15周年、おめでとうございます。
今回劇場で観ることは叶いませんでしたが、配信というかたちでもこの素敵な"ファンタジー"に立ち会えてよかったです。
〈『シックスコードの響く先で』 公演情報〉
※敬称略
制作:おぶちゃ
公演期間:2023年6月30日、7月1日
会場:M-Smile Box 渋谷
作・演出:大部恭平