Re:valeの百さん、お誕生日おめでとうございます。
貴方に捧げる「1」のお話を書きました。
11月11日を、モモ・ファースト・デイと銘打ち、四つの「ファースト」をあげる千さん。
カプ要素無し、Re:valeの話です(の、つもりです)。
時間軸は第6部よりも後のつもりで書いています。
2023年末のイベント次第でもろもろ書き換えるかもしれません。
@natsuhaze_i7
ことの起こりは、秋の気配もまだ遠かった頃。
オレの誕生日企画の打ち合わせがきっかけだった。
その日オレたちは、事務所のミーティングスペースで、ネクリバで使うバースデーケーキのデザイン案をふたりで眺めていた。
ピンクのクリームを塗ったスポンジに、くし型に切った白桃をぎっしりと敷き詰め、でっかい「1」のキャンドルを四つ並べてロケットみたいに立てたケーキは、絶妙なかわいくなさを醸し出している。このシュールさというか映えなさで笑いを取り、場を沸かせようという狙いがあってのデザインだ。
となりに座るユキを窺う。笑いのツボが浅い相方は、こういうときのひとつの指針だ。けれどユキはすごく真面目な顔をして、デザイン画をじっと見ている。
これは外したかな。そう思って見ていると、横顔の唇がふっと開いた。
「モモの誕生日って、1が四つ並んでいるの、良いよね」
なんだかよくわからない方向に感心していて、拍子抜けというか、肩の力が抜けた。
十一月のオレの誕生日企画は、Re:valeが年の瀬へと走り出すスタートラインだ。それでつい気負ってしまいがちなんだけれど、自分のペースを崩さないユキが、こうして引き戻してくれる。
あらためて、ケーキのデザインを眺めた。無骨な赤いキャンドルの1が四つ。十一月十一日。
「1が四つって、書類とかに誕生日を書くとき、棒が四本ですすすすっと書けていいんだよね。漢字のほうはあんがいバランスが取りづらいんだけど」
両手の人差し指と中指を立てて、1111をつくった。その指さきにユキがちょんちょんちょん、と触れていく。
「わんわんわんわん?」
「犬じゃないし!」
がうがう、と怒ったふりで吠え真似をした。ユキはくつくつと楽しそうに笑っている。
「じゃあ、この1はワンじゃなくてファーストってことにしようか。ファーストが四つ。どう?」
「いいね! 11月11日はモモ・ファースト、モモちゃんのいちばんで最高デイじゃん!」
ワンワンからの狂犬くんネタを警戒していたのに、思いがけず素敵な話に繋げてくれたのがすごく嬉しくて、めちゃくちゃ笑顔になってしまう。ユキは目をしばたたかせ、なぜか背筋をまっすぐにして座り直した。
「わかった。モモに1111……ファーストを四つあげよう」
「ファーストを四つ?」
よくわからない言葉すぎて、うっかりおうむ返しに訊ね返してしまう。
「そう。ファースト・ファースト・ファースト・ファースト」
「その場合、ファースト、セカンド、サード、フォースじゃない?」
「違うよ。1が四つだから、ファーストが四つでしょ。うん。忙しくなるな。アイデア出しと、準備と、手配……頑張るね。期待していて」
ユキはなにやらひとりで頷いて、ひとりで納得している。え、なに。いま何の話してたっけ? 何の話になった?
「ユキ、ちょっ……」
「千くん百くん、すみません。お待たせしました」
口を開きかけたところに、席を外していたおかりんが戻ってくる。そのまま本格的な打ち合わせタイムへと移行して、聞き返すタイミングを失ってしまった。
期待していてって言われても、何に期待すればいいのか、さっぱりだ。でも、ユキがそう言ってくれたのだから、……期待しよう。よくわからないけれど、ファーストをもらえるらしいことに。
って結局、ユキの言うファーストって何なんだろう?
ファースト――いちばん最初の。いちばん最高の。
それは、ユキにこそ相応しいのに。
❶ ◆ ◆ ◆
季節は進んで、秋になり。十一月に入って、幾日かが過ぎたある日の夜。
不意打ちに、ユキがラビチャで伝えてきた。
『明日は約束のファースト・デイ、するからね』
ファースト・デイって毎月一日、映画の日のことじゃなかった? っていうツッコミは心の隅っこに退けて、かわりに、あの日からそっとしまっておいた「期待」を取り出すことにした。
明日は別にオフでも何でもなくて、ふつうに朝から晩までびっしりと仕事が詰まっている。といっても都内での収録と事務関連のもろもろで、一日じゅうふたり一緒の仕事になるから、スケジュールを確認して以来ずっと楽しみにしていた日だ。
ユキのラビチャの続きには、仕事の後には予定を入れないで、空けておいて、と書かれていた。何があるんだろう、何をしてくれるんだろう。どきどきしながら眠りについて、そうしたら、朝。
ユキが迎えに来た。
「なんで!?」
早朝に鳴ったインターホンをあやしみながらモニタを確認し、カメラに向かって微笑むユキを見て、驚いたというより呆然としてしまった。
だって、朝の六時だ。ユキが起きていていい時間じゃない。いや起きていていいんだけど、お仕事的には起きていてくれなきゃ困るんだけど、ひとりで起きて、車を運転して、オレの部屋まで迎えに来るなんて、驚愕どころか驚天動地、天変地異レベルだ。
ちょっと失礼なくらい驚いてしまったオレに、ユキは気を悪くするでもなく、どころか最上級の微笑みを浮かべて、こう言った。
「ファースト・インプレッションだよ」
「は?」
「ファースト・インプレッション。今日という日のモモのファーストは、僕。本日の第一印象はどう?」
そう言って、モニタ越しに小さく首をかしげる。銀の髪がふわり揺れて、光がはじけた。
「さ、最高……です……」
ユキが早起きしてオレを迎えにきて、それも眠そうだったり無理してる感はぜんぜんなくて、コールしたくなるくらいに完璧な「千」なのだ。ほんとにすごく嬉しくなってしまって、でも、同じくらい照れてしまって、朝からもうどうにもならない。
これが、今日のオレのファースト。朝なのにもういちばん最高の気分になってしまったんだから、ほんとうにファーストのファーストだ。
ユキにこんな嬉しいサプライズをもらえる日が来るなんて、少し前には、思いもしなかったな。
四つのファーストをあげる、という言葉を思い出す。こんなすてきなものが、あと三つももらえるということ?
……楽しみなような、怖いような。
❶ ❶ ◆ ◆
二つめのファーストは、収録の狭間、お昼の時間にもらった。
楽屋のテーブルのうえに、ユキがふわりとランチクロスを広げる。
ペーパープレートに乗せられたのは、ほんのり焼き色のついた褐色のバンズ。みずみずしいフリルレタスと、輪切りのトマトに玉ねぎ、そして、どっしりと分厚いパティが挟み込まれている。聞かなくてもわかる。きっと純度百パーセントのビーフパティ。
お肉大好きなオレのための、特製ビーフハンバーガーだ。
「どうぞ、召し上がれ。ファースト・フードだよ。ご一緒にポテト……は、ないけれど、かわりにスープはいかがですか?」
ファーストという単語にあわせて指で「1」をつくり、ウインクしたユキは、こちらも純度百パーセントのスマイルが輝いている。
ユキ大好きなオレのための、特製の笑顔だ。
忙しい仕事の合い間に、最高のランチタイムを演出してくれるユキに、めちゃくちゃ美味しそうなビーフハンバーガーに、感謝感激。
でも、ちょっと待って。
「あのさ、ユキ。これ、ファーストとは違うやつだと思うんだけど……?」
確かにチェーン店のハンバーガーはファースト・フードって呼ばれる。けれど、それはいわゆる表記ゆれだ。日本語で「いちばん」のファーストじゃなくて「早い・お手軽」のファスト。
もうひとつ。このハンバーガー、明らかにファスト・フードでもない。綺麗な網目のついたパティも、粒のきわだつマスタードソースも、白い胡麻つきのバンズも、きっと自家製。早くもお手軽でもない、ていねいに手作りされたハンバーガーだ。
おそるおそる口に出したオレの疑問に、テーブルの向こう側に座るユキは、少しだけ考え込むような顔をして、それから、優しくて楽しげな笑みを浮かべる。
「合ってるよ。モモのためのファーストなフードだから」
そう言って、スープジャーから注いだクラムチャウダーのマグを手渡してくれた。
一瞬だけ触れた指は、スープの温もりのおかげか、いつものひんやりではなくて、ほんのりとあたたかかった。もうそれだけで、いちばん最高の気分になる。
❶ ❶ ❶ ◆
三つめは、いつもらえるんだろう。今この瞬間だろうか。次の瞬間だろうか。そんなわくわくを抱えて過ごす一日は、ものすごく長くて、ものすごく短かった。
だって、かたわらでユキがずっと微笑んでいてくれて、なのにその微笑みの下には、オレへのサプライズを隠している。緊張と期待でどうにかなりそう。
ファースト・デイ、最高だ。
けれど、レギュラー番組の二本撮りを終えても、事務所に戻ってマネージャーたちと打ち合わせをしていても、ふたりで筆記アンケートに答えていても、いっこうにその気配はなかった。一つめのファーストは朝、二つめのファーストは昼。だったら残りは午後と夜とか、そんな配分を予想していたんだけれど。
そうこうしているうちに事務所でのこまごまとした仕事をすべて終えてしまった。立ち上がったユキが、車のキーが入ったケースを振る。
「寄り道したい場所があるんだけど。付き合ってくれる?」
「え、ドライブ? やった! 行く行く! どこにでも付き合うよ!」
突然の嬉しいお誘いに文字通り飛び上がって、というか実際には勢いよく立ち上がって、喜んでしまう。ユキとのドライブは、ファストでもファーストではないけれど、いつだって最高だ。
オレの食いつきっぷりに、ユキが目を丸くする。それから悪戯っぽく笑った。
「行き先も聞かずに即答しちゃっていいの? とんでもない場所に連れていかれるかもしれないよ」
「どんな場所だって、ユキと一緒だったらぜんぜん天国だよお」
じゃれるように肘をぶつけてそう言うと、ちいさなため息が降ってきた。
「どうかな。天国ならいいけれど、もしかしたら地獄かもしれないよ」
天国かもしれなくて、地獄かもしれない。その言葉で、なんとなく、行き先の予想がつくような気がした。
だって、オレとユキの居る場所は。楽しくて、苦しくて、楽しい場所は。
煌々と光る夜の街を抜け、都下へと向かう。楽しむためのドライブじゃなくて、明らかに目的地のある車の走らせ方だった。どこへ向かっているんだろう。どこへ連れていってくれるんだろう。
期待と、少しの不安を抱えつつも、ドライブはドライブとしてめいっぱい楽しむことにする。運転するユキの横顔を眺めながら、とりとめもなく話をした。今日の出来事の話。ファースト・インプレッションにめちゃくちゃ驚いたこと。ファースト・フードがめちゃくちゃ美味しかったこと。嬉しい気持ちがほんとうに大きすぎて、どれだけ伝えても伝えきれないような気がする。
ユキは言葉少なに、けれど穏やかに微笑んで、オレの言葉のひとつひとつにちいさく相槌を打ってくれた。これだから、ドライブは最高なんだ。ユキの横顔を眺めて、ユキの相槌を聞いて、ユキを独占できる。
ちょっとだけ疑似監禁気分を味わえるんだよな……と思っていることは、秘密にしている。いまのところ。
そうして、小一時間ほど走っただろうか。お客様専用、という看板の出た小さな駐車場に車を滑り込ませて、ユキがドアロックを解除した。
目で促されて、車から降りる。
「ここは……?」
到着したのは、住宅街にまぎれて佇むセルフレコーディングスタジオだった。
外観は地味なオフィスビルっぽいけれど、壁は分厚いコンクリで、二重窓にシャッターつき。しっかりとした防音対策が施されていることがうかがえる。入り口のフロアガイドによれば、地下一階から地上四階まで、大小さまざまなタイプのスタジオが揃っているようだった。複数のブースをリンクして使うことも可能で、バンドレコーディングや多重録音、アフレコや配信など、多種多様な用途に使えるらしい。
オレがフロアガイドを眺めているあいだに、ユキはさっさと中へと入って、頷くだけで鍵を受け取ってフロントを通り抜けた。そのままロビーを突っ切り、エレベーターの呼び出しボタンを押している。慌てて後に続き、一緒にエレベーターに乗り込んだ。
「え、なに、いまから曲の作業するの? ちょっとオーバーワークじゃない? ってかオレ連れてきてよかったの」
「仕事じゃないから、オーバーワークにはならないよ。あと、ファースト・デイなんだから、モモが居てくれないとね」
「え、」
言いたいことがたくさんあったけれど、言葉にして口に出す前にエレベーターが止まった。降りた目の前に、重たそうな防音扉がふたつ並んでいる。その左側の扉に向かい、ユキが鍵を開けた。
中は意外と狭かった。部屋の一方の壁にはアップライトピアノがあり、その隣にマイクスタンドが一本。隅っこのギタースタンドに、見覚えのあるギターが立てかけられていた。たぶんきっと、ユキがマンションのスタジオで使っているアコースティックギターの一本だと思う。ずいぶんと用意周到だ。
反対側の壁に目をやると、重たそうなドアがもうひとつある。フロアの構造からして、ロビーではなく、隣室へと直接繋がる出入口のようだった。
「プライベートエリアにするために、昨日からこの三階の二室をリンクレンタルしてある。ここと、隣のサブルームと。だから、他人の目も耳も、あまり気にしなくて大丈夫だ」
そう言いながら、ユキはスタンドからギターを手に取った。
「でね。このスタジオは六畳、サブルームは四畳半なんだって」
隣のブースへと続く扉を指し示して、ふっと笑う。
「なんだか、馴染みのある間取りの数字だよね」
「……だね」
つられてオレも、ふふっと笑う。
色褪せた畳敷きの六畳間に、黒いシミのついた板張りのキッチンが四畳半。
いちばんを目指して走り出したあの頃の、オレたちの家。
ゆるりと長めにしたストラップを肩に掛け、ギターを抱えなおして、ユキがマイクスタンドの前に立つ。
この部屋に置かれているマイクは、ボーカル用の一本だけだ。アコースティックギターの音を拾えるだろうか。少し位置をずらした方がいい? と提案しようとして、気がついた。
コンデンサマイクに電源がとおっていない。
どころか、部屋の機器のすべて、電源が入っていなかった。つまり、録音はしないし、音響設備はひとつも使うつもりがない。
喉からの声とギターの音色で、いまここにいるオレだけに聴かせようとしている。
嬉しくて、悲しくて、泣きたくなった。オレだけしか聴けないユキの歌。特別に思えて嬉しい。オレだけしか聴けないユキの歌。勿体なく思えて悲しい。
でも、いったい何の曲を歌ってくれるんだろう。バースデーソングか、それともオレたちの曲か。
「仕事の外で音をつくる時間が、なかなか取れなくて。思いついたフレーズを繋げただけの状態なんだ」
「……え?」
まさか、そんな。
「だからこれは、一発録りじゃなくて、初めて歌うほうの意味。今日、モモにあげたなかで、これが唯一、ちゃんとしたファーストだね」
くすりと笑みを零し、長い指を弦の上に滑らせる。チューニングのつづきのハーモニクス。それすらも美しい、ユキの音。
オレにとって、いちばんで、最高の。
「――ファースト・テイクだよ。受け取って」
アコースティックギターが和音を歌う。ユキの喉がメロディを鳴らす。
歌詞はなかった。暖かな冬曇りの日みたいに優しいハミングと、サビらしきところでは La La La ... というスキャット。耳にやわらかく触れて、淡雪のように溶け込む。ずっといつまでも聴き続けていたくなるような。
ワンコーラス、ツーコーラス。歌いながら、切れ長の瞳がちらりとこちらを見て、幾度となく微笑む。ふと、その表情が誘っているように感じられた。
そうか。
これは弾き語りじゃない。
聴く者をいざなう、弾き歌いだ。
深く息を吸い込む。この奇跡みたいに美しいメロディに分け入ることに、不安と畏れはあるけれど、ユキが好きだって言ってくれたオレの声だから。ゼロ以上のシンガーだって言ってくれたオレの歌だから。
そっとハミングをのせる。するとユキがすいと音程を下げて、ハーモニーをつくった。
Re:valeの声になる。
これに、オレが歌詞を乗せるんだ。
言葉を頂戴、ってユキの目が、声が、伝えてくる。
言われなくたって、溢れだしそうだった。
オレとユキの歌をつくる。
最高で、いちばんの歌を。
❶ ❶ ❶ ❶
声をあわせて幾度も歌い、メロディを磨きあげ、湧き出る言葉を書きとめて。気がついたら日付が変わっていた。
明日も朝から仕事がある。まだまだ曲をいじっていたかったけれど、後ろ髪を引かれつつ、ふたりでスタジオを出た。
車に乗り込んで、けれどユキはなかなかエンジンをかけない。しんとした車の中にじっと座っていると、ふたりの歌がまだずっと耳の奥で流れ続けているような気がした。
と、ユキが、ゆっくりとこちらに顔を向けた。
「モモ。ファースト・デイ、おつかれさま。つきあってくれてありがとう」
「それはこっちの台詞だよ。ほんとうに楽しかった。ありがとう!」
そっか。今日が終わっちゃったな。ファースト・デイが、終わってしまった。
って、あれ?
ファースト・インプレッション。ファースト・フード。ファースト・テイク。
1111には、ひとつ足りなくない?
足りない贈り物が気になるなんて、物欲しそうに聞こえてしまうかもしれないけれど。これは、確かめなくちゃならない。そう思った。今日という日がとても楽しかったことが、理由のひとつ。けれどもうひとつ、もっと大きな理由がある。
ユキが謎にこだわっていた「1=ファースト」という概念。四つのファーストのプレゼント。ユキはなぜ、こんなことを思いついたのか。
どうしても知りたかった。知りたい、というか、オレが知るべきことのような気がして仕方がなかった。
だから、できるだけさりげなく、なにげないように、聞いてみる。
「ね、ユキ。ファースト・デイって、1111で、ファーストを四つくれるんじゃなかったっけ。最後のひとつは?」
「うん。あのね、四つめのファーストは、後払いになって申し訳ないんだけれど」
顔だけじゃなくて身体ごと、ユキがオレのほうを向く。その表情を見て、この問いを待っていたんだとわかった。
いつもの夜であればとっくに眠っているはずの瞳が、今夜は炯々と光って、真っ直ぐにオレを見据える。
「いちばんの僕と、いちばんの君を、あげる」
続けて、囁くように言った。
――ファースト・プライズ。一等賞、獲りにいこう。
静かに告げられた言葉が、身体の隅々まで、浸みていく。
あれからいろいろなことがあり、たくさん時間も流れた。
けれど、このひとはずっと、ずっと思い続けていてくれた。
1という数字に、ファーストという概念に、強く気持ちを込めてしまうほどに。
「――じゃあ、オレも」
言葉では、なんとでも言える。けれど、言葉にしなければ、かたちにならないこともある。
深呼吸をして、ひと息で告げる。
「いちばんのオレと、いちばんのユキを、あげるよ」
ユキはわずかに目を見開いて、それから、花ひらくみたいに笑った。
ファースト・デイの今日にずっと浮かべていた、オレを気遣う優しい微笑じゃなくて。心の奥から咲いたみたいな笑顔だった。
勝ち負けの戦いじゃない。ただ、いちばんで最高が欲しい。
だったら、いちばんの歌で、最高の歌で。
ファーストなオレたちを、獲りに行こう。
それは、一年にいちどだけ。四つのファーストが並ぶ日の約束。