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あらかじめ言っておくと、クライヴに第三者の影が見えても相手は全員名前のないモブです。
@arikanagahisa
兄さんとはじめてセックスしてからしばらくは、まさかまたする気になんてなれないと思っていた。僕は当然として、兄さんは今度こそ絶対に僕を受け入れないだろうと考えていた。
そもそもあの夜だって、一体どういうつもりで僕とセックスをしたのか今もわからなかった。
同情? それとも純粋な愛情? あるいは、あなたにとっても僕は特別な誰かだった?
いつまで経っても、それを尋ねる勇気が僕にはなかった。
あの夜、行きとは違い、兄さんと二人で帰路につくと、リビングの電気をつけるなり兄さんはまるでまともな兄のように「学生のうちから
「それを兄さんが言うの?」
「……俺はもう社会人だから、お前と違って分別がついているし、万が一痛い目を見ても自業自得だ。だがお前は違うだろう。せめて卒業してからにしろ」
眉を少し寄せて真剣な顔で言う兄さんを見つめ返しながら、馬鹿馬鹿しい忠告だと思っていた。まるで自分が若い頃に(と言っても僕と兄さんはたったの五歳しか違わないのだが)痛い目に遭ったことがあるかのようだった。聞いても、きっとそれを教えてはくれないのだろうけど。
わかった、と肩を落としてしおらしく理解したふりをすると、兄さんはあからさまに安堵の表情を見せた。その態度は僕が不特定多数の誰かとセックスをしたり、万が一恋をしたりするのが嫌だと言っているように見えたが、明らかにそれは僕の都合のいい思い込みだった。
僕は僕で、僕を叱る兄さんの表情が色っぽくて好きだ、と愚かなことを考えていたし、基本的には僕がやりたいように、自由な生活をさせてくれている兄さんの強い感情を見せられて、心のどこかで喜んでしまっていた。
「ほら」
「なに?」
「アカウント」
スマートフォンを見せろと要求してくる兄さんに、「そこまでするの?」と言いたくなったが、現実問題、兄さんのいる「場所」で他人との出会いを再び探す気にはならなかった。
兄さんの目の前で退会処理をし、アプリを消す。
「これでいい?」
画面を見せる僕に、兄さんは無言で頷く。兄さんは退会しないの、なんてことは言いたくなかったので言わなかった。これは僕の、くだらなくて不必要なプライドだった。
二週間程経ってレポートだの課題だのが落ち着いた頃、明け方に帰宅した兄さんから、普段はしない香水と煙草の臭いがした。
僕にはやめろと言ったくせに、自分はもうそんなことをするの? と尋ねなかったのは、普通にショックを受けていたからだ。
「早く服脱いで、洗濯機につっこんできて」
お酒の臭いもする兄さんの妙に機嫌の良い熱烈なハグを受け止めてから、肩をぐいっと押して体を離す。別に兄さんから煙草の臭いがすること自体はたまにあるのに、これは絶対に誰かと寝てきたな、と妙な確信があった。
大学進学を期に兄さんと同居し始めてから今まで、兄さんがこんな風に、誰かと遊んでいるだなんて考えたこともなかった。もしかすると僕は勝手な幻想をずっと抱いていただけで、兄さんは元来こう言う人だったのかもしれない。
僕たちは相変わらずこの手の話を真剣にしないまま同居を続けていた。
だから、僕だけがこんな風にもやもやしているのか、兄さんも表面上何事もなかったかのように穏やかに過ごしているけれど、遊ばずにはいられないほど悩んでいたりするのかどうかはわからなかった。
「……煙草臭いからそのまま寝室には来ないで。ソファで寝るのも厳禁」
脱衣所に兄さんを押し込むと、ドアを閉めようとした僕のうなじをそっと兄さんが指先で撫でた。びくりと体が跳ねて、一気に体温が上がる。心臓がうるさいほど駆け出していた。
「——つれないな」
お酒で掠れた、ひどく小さな囁き声だった。
肌の上をざらりと撫でて行くような声に、一気に緊張が走る。怒ったふりをしながら振り返って、僕の襟足を指先で弄んでいる兄さんの手をはたき落とそうと思っていたのに、体は前を向いたまま硬直していた。
「ジョシュア」
兄さんの手が僕の肩の上に置かれて、そのまま腕を伝って下りてくる。
興奮と緊張で呼吸がし辛い。目の前がぐらぐらと揺れている。いつもよりずっと熱い兄さんの手が僕の手に触れて、するりと指を絡ませようとしてくる。
ようやくハッとした。
兄さんの指から逃れて、振り返らずに今度こそドアを開ける。
「酔っ払いには構ってられないよ」
早口でなんとか発すると、脱衣所の外に出て、急いで戸を閉める。兄さんが出てこられないようにしばらく後ろ手に戸を押さえてから、シャワーの流れる音が聞こえるまで、そこで岩のように固まっていた。
「どう言うつもりなんだよ……」
ずるずると床にしゃがみ込んで、思わず頭を抱える。腹立たしいことに下半身はしっかり反応していて、しばらく経ってもおさまりそうにはなかった。
すぐにベッドに戻るつもりになんてもちろんなれるわけもなかったが、かと言って、衝動のままシャワールームに突入する気にもなれなかった。
ため息を吐きながら悶々としていると、背中を預けていた戸が動く。ハッとして立ち上がると、すっきりした表情の兄さんと目が合う。
石鹸のいい匂いがして、タオルをかぶった髪が濡れている。目の毒だったし鼻にも毒だった。
「して欲しそうな顔してるな」
「は、」
何馬鹿なことを言って、と僕が言う前に、兄さんの手が下肢に触れる方が早い。