X上でアップしていたソウキサSSまとめです
@hiresake224
I hope
「うーん……」
冬公演前の最後の休日、イルミネーション輝く賑やかな玉阪坂で。世長創司郎はひとり、アクセサリーショップのショーケースの前で頭を悩ませていた。
もうかれこれ三十分はこの状態である。
これまでの公演の出演料はしっかりと貯蓄してあるので予算的に手が届かないというわけではないのだが、普段アクセサリーショップに立ち寄る機会がない世長にとってはずらりと並ぶ品々の中でどれを選ぶべきか、簡単に決められるものではなかった。
ショーケースの中できらめくアクセサリーとそれぞれに付けられた値札を見ながら、また何度目かの往復を始める。
このデザインで気に入ってもらえるだろうか、いきなりネックレスを渡すなんて迷惑にならないかな。いや、そもそもこんなことしていないで稽古に打ち込むべきなんじゃないか。悩めば悩むほど頭に悪い考えばかり浮かんでしまう。
またネガティブな思考に陥っている自分に気づいた世長は、言い訳をつけて逃げそうになっている思考を振り払うようにぶんぶんとかぶりを振った。
そもそも何故世長がここにいるのかというと。それは冬公演でアルジャンヌとして抜擢された希佐のために何かできることはないかと考えた時に、たまたま図書館で調べた玉阪歌劇の歴史について思い出したことがきっかけだった。
ユニヴェールの母体となった玉阪座では、邪気を払うとされているクォーツを舞台の安全祈願のお守りとして持つ慣習があったらしい。
公演を観に行く客が、意中の役者の舞台の成功を祈って願掛けのために買い求めることもあったのだとか。
そんなことをふと思い出したのがつい三日ほど前で、それからインターネットでクォーツのアクセサリーを取り扱っているショップを探して今日に至っている。
そうして長い時間悩んで、やっとこれと決めたものを選んだ世長は店員を呼んで、商品を指定して贈答用にラッピングしてほしい旨を伝えた。
「ふふっ、クリスマスプレゼントですか?」
「えっ!? あ、ああ……そんな感じです」
ニコニコと笑顔を浮かべる店員から掛けられた言葉に、世長は動揺しつつも愛想笑いで誤魔化す。
店員は微笑ましそうに「きっと喜んで貰えますよ」と綺麗にラッピングされたネックレスの入った手提げ袋を渡してくれた。
ショップから出た世長は街並みを見渡す。イルミネーションとクリスマスの装飾に飾り付けられた玉阪坂はもうすぐやってくるクリスマスへの期待で満ちているように、店も街ゆく人々もいつも以上の賑わいを見せている。
「そうか、冬公演が終わったらクリスマスなんだ……」
***
もうあまり苦ではなくなったユニヴェールまでの長い階段を登り終えて。クォーツ寮の自室へ帰ってきた世長は羽織っていたコートを掛けて、机の上に手提げ袋を乗せる。置いた袋の隣にある冬公演の台本が目に入り、世長の表情はすこしだけ複雑な色を滲ませて曇った。
冬公演、正直どうなるかわからない。間違いなく今回の公演は彼女にとって最大の試練になる。根地から渡された『オーラマ・ハヴェンナ』の台本はあまりにも残酷だ。主役であるチッチを最大限に魅せるためには、立花希佐という人間が今までずっと隠し続けてきた女を出さなければならない。
成功のためには自身が隠している秘密を晒さなければならない。けれどもしもその秘密が暴かれてしまったらもうここにはいられない。
自分が同じ立場だったらと考えるだけでもぞっとする。それなのに彼女は自分や、クォーツの皆を白田と一緒に支えてくれていた。それがどれだけすごいことか。
自分も彼女のことを支えたい、力になりたい。だけどこの問題は彼女自身でないと向き合えないことで。何もできない自分が歯痒い。
世長は手提げ袋から包装紙に包まれたネックレスを取り出す。だからせめて。そういった思いでこのネックレスを買いに行くことに決めたのだ。
それともうひとつ。世長自身の覚悟を固めるためでもあった。
……冬公演は必ず成功する。成功して、そうしたらこのネックレスを彼女に渡して。自分の気持ちを伝えるんだ。
――創ちゃんならできるよ。創ちゃんならできるって信じてる。
秋公演、織巻に代役を託された自分の背を力強く押してくれたあの言葉を思い出す。
今度は自分が信じる番だ。
手にしたネックレスをそっと胸に。目を伏せて祈りを込める。
――きみが、これからもずっと。ずっと舞台に立てますように。
上書きで満たして
梅雨が明けて、蝉時雨が本格的な夏のはじまりを告げたあの日。
稽古場の扉を開けた瞬間、頭が真っ白になった。
その日は座学の授業で少し遅れてしまい、急いで駆け込んだ稽古場の扉を開けたちょうどその時。
ばたんと大きな衝撃音がして、目の前に倒れ込む人間の姿が見えた。床に倒れ込んでいるジャックの後輩の姿と、その下で小さく呻きを上げている桜色――彼女の姿。
僕の視界からは倒れ込んだ二人の顔が重なっているように見えて。
その瞬間、脳はまるで沸騰したように熱くなって、考える間もなく走り出していた。持っていた鞄を放り投げ、倒れている彼女を抱え上げて名前を呼ぶ。希佐ちゃん、と。
抱き上げた彼女が呻く声を聞きながら、大丈夫ですか!? とか立花先輩、という言葉とともに他の人間が手を伸ばしてくる。その手を振り払って、反射的に放ちそうになってしまった言葉を僅かばかりに残った理性で押し止めるのに必死だった。
「世長ッ!! ……立花を、保健室へ頼む」
スズくんにかけられた言葉がなかったら、あのままずっと動けないままだったかもしれない。
保健室へ連れて行った後、彼女は軽く頭を打っただけだと、心配かけてごめんねと申し訳無さそうにしていた。
幸いにも二人とも怪我はなく、翌日から公演の練習はいつも通り再開した。
……再開、したけれど。
日もすっかり暮れて、窓の外に夜の帳が降りた頃。今日の稽古も終わり、何をするでもなく自室のベットに横たわっていた。
今頃クォーツ生は寮食に行っているだろうけど、心に靄がこびりついたような重い気分が僕の体をベッドに沈めていた。
そんな風に時間を過ごしていると、突然控えめなノックの音がした。一瞬返答をするか迷ったが続く言葉にベッドから飛び起きた。
「立花です。……創ちゃん、部屋にいる?」
慌てて飛び起きた僕は扉を開けて希佐ちゃんを部屋に招き入れた。椅子に掛けようかと思っていたが、彼女がベットに腰掛けたのでその隣に座る。
なんとなく、どう声をかけていいかわからなくて。お互いにしばし沈黙した後、あのさ、と彼女の方から切り出した。
「創ちゃん、何かあった? ここ最近元気ないように見えるよ」
「そ、そうかな? そんなことは……」
「あるよ。……稽古中、辛そうな顔してる」
そういってこちらを見つめる瞳には憂いが見えて、心がつきりと痛む。
ああ、まただ。また心配させてしまっている。
「ごめん、大丈夫だか」
心配させまいと言いかけた言葉は創ちゃん、という声で制止された。
「大丈夫って言葉で誤魔化さないで」
真っ直ぐな目は僕を射抜く。
「言い難いことなら無理に話さなくてもいい。だけど……だけどね。つらいこと、苦しいこと、隠そうとするのだけは……やめて」
ずるい。そんな風に言われたら隠せなくなる。……醜い自分を、晒してしまいたくなる。
そう言って手を重ねる彼女に、僕はついに根負けして話した。
「一週間くらい前に稽古中の転倒事故があったでしょ」
「……うん」
「あれはただの事故だったってわかってる。相手の顔も頬を掠っただけだって。だけど……嫉妬、したんだ。あれ以来、君と誰かが触れるのを見るたびにその時のこと思い出してしまうんだ……僕たちは演者なんだから役として触れ合うのなんて当たり前だってわかっているのに。見るのが辛くて、でもどうしても目で追ってしまって」
一度話し始めれば、堰を切ったように淀んだ感情が溢れてしまう自分に乾いた笑いが出た。
「情けないよね、こんな……これじゃあちっとも変われてないよ」
役者としても、人間としても強くなると誓ったのに。成長できていない悔しさで握る拳に力が入る。
「そうだったんだ……辛い思いさせてたね。気づけてなくて、ごめんね」
「え……そんな! 希佐ちゃんが悪いわけじゃないよ!」
全面的にこちらが悪いのにも関わらず申し訳無さそうな顔をする彼女に、恐る恐る尋ねてみる。
「……呆れないの?」
そう聞けば、彼女は至極不思議そうに首を傾げた。
「どうして?」
「え……だって、こんなどうしようもないことで悩んで……心配まで、かけさせてるのに」
「どうしようもないことじゃ、ないと思うな」
「え……?」
彼女の言葉に俯いていた顔を上げると、恥じらうように朱に染まっている頬が見えた。
「だって私達はパートナーだけどさ……それ以前に恋人、だからね。男性しかいないユニヴェールで生活してるんだから、創ちゃんが気にしてしまうのも当然っていうか……」
創ちゃんが言ってたように演劇を演る上で他の人との触れ合い自体は避けられないんだけどね、と前置きしつつ彼女は続ける。
「だからさ、他の人が触れたところは……ううん、それ以外も。創ちゃんに触ってほしい……あの時みたいに」
そっと重ねられた手に力が篭る。その手からあたたかな熱がじわりと伝わった。
「創ちゃんが触れてくれるの、安心できて気持ちいいから……そしたら、お互い安心できるんじゃないかな」
どうかな? とふわりと優しく微笑んで彼女はそう提案してくれる。
本当にいいの、とこの期に及んで気が引けたことを言う僕に、そっと掴んだ手を頬に引き寄せることで彼女は答えてくれた。
そうしてその手に引かれるまま、手で、唇で、彼女のすべてを上書きしていった
頭から爪先まで、指の一本も余すことなく。
触れるたびに自分の中の醜い嫉妬が、独占欲が、彼女のぬくもりで溶かされていくような心地がした。
それ以降、彼女は僕が抱え込んでしまう前に声をかけてくれるようになった。
……けど、最近は。
春先暖かな三年目の五月。
もうすっかり慣れ親しんだ作業部屋でいつものように公演準備の資料をまとめる。歌唱のチェック、衣装や舞台道具の手配……組長になって初めての新人公演まであと四週間。舞台衣装についての修正メモを確認しているとふいにノック音が聞こえた。
聞こえてきた少し忙しないノックにはーい、と返事をすると開いた扉から桜色がなだれ込んできた。
「はぁ……っ、創ちゃん、ここにいたんだね」
走ってここまで来たのだろうか、軽く息を切らしている彼女に驚きつつ声をかける。
「希佐ちゃん? どうしたの、なにか急ぎの用事でもあった?」
「江西先生から課題のプリント渡されたから、創ちゃんにも渡して欲しいって……これ」
そう言って一枚の紙を手渡された。
渡されたプリントに軽く目を通すと提出の締切にはまだかなりの余裕がある。……今日は食堂で一緒に夕飯を食べる約束をしていたから、その時でもよかったんじゃないだろうか。と内心で疑問に思いつつも感謝を述べる。
「ありがとう……わざわざ届けに来てくれたの?」
「うん、それもあるけどね。……今日ね、一年の子とペアダンスの練習をしたんだ」
そこまで言ってから、彼女は少しだけ含んだ笑みを浮かべた気がした。
「創ちゃんが、嫉妬しちゃうんじゃないかなと思って」
希佐ちゃんが一年とペアダンスをした。それ自体はさほど驚きではなかった。
だって新人公演ジャックエース担当の一年にダンスと演技指導をしてほしいと彼女に頼んだのは僕自身だったのだから。
言葉を紡いだ彼女の瞳には、心配とは違う別の色がひそやかに見えた。
プリントはただの口実で。その紅く上気している頬には寮を走ってきた以外の理由が潜んでいるのだろう。
「……そうだね。すごく嫉妬、しちゃうな」
立ち上がって彼女の方へ歩み寄る。彼女の瞳にとろりとした熱が篭るのが見えた。
くす、と笑みを浮かべた僕もまた、彼女と同じ温度の瞳で見つめ返す。
……きっと、今どんな表情しているのか自分でも気がついていないんだろうな。
まあ、教えてあげないけど。
期待の熱を浮かべた彼女の瞳を見つめ、手を取って引き寄せた指先にそっと唇を落とした。
秘密には鍵をかけて※『上書きで満たして』のおまけSS
紙とインクと珈琲の匂いが篭る部屋の中で。
ん、とくぐもった声が零れる。
すこし暗い作業部屋の床。身体が痛くならないように稽古着を詰めている鞄を枕にして、世長は希佐を組み敷いていた。
開かれた制服の詰襟、喉元のしろい肌をなぞる。その後を追うように、唇で花を咲かせる。万一にも他者には気づかれないよう、けれどこの瞬間だけは証になるように、力を加減して。
それを繰り返すたび、眼前の蜜の瞳には熱が篭もり、あまい声が微かに漏れる。そうして流れていく指先がシャツの第一ボタンを外した時。
閉ざされた扉から軽快なノックと明るい声が聞こえた。
「世長先輩! いらっしゃいますか?」
その声にふたりの息と動きが止まる。
声からして、新人公演でアルジャンヌを務める一年だろう。彼は勉強熱心だから、現組長であり脚本担当でもある世長の元に質問に来ることが度々あるのだ。
「世長先輩? 失礼しまーす……」
返事のないことに訝しんだ後輩がドアレバーに手をかける。
水平を保っていたレバーはゆっくりと下げられていく。そして完全に下がり切ろうとした瞬間――ガチリと音がして、掛けられていた錠がそれ以上の介入を阻止した。
扉の向こうからは困惑した声が上がる。
「あれ、鍵かかってる? おかしいな、スズ先輩は作業部屋のほうに向かったって言ってたんだけど……他の場所に行ってるのかな」
疑問を抱きつつも不在だと諦めて去っていく後輩の足音。それが聞こえなくなったところで、息を潜めていた二人はほっと息をつく……わけでもなく。
お互い無言のまま。世長は希佐をじいっと見つめる。
視線を向けられた希佐は口元に手を当てたまま、蜜色の瞳を逸らす。その様子を見て世長はぽつりと指摘する。
「……こうなるってわかってて、鍵かけたでしょ」
プリントを届けに部屋に来た時。希佐が入ってすぐに後ろ手で鍵をかけていたことを世長は見逃さなかった。
だって、とすこしむくれたように希佐が呟く。
「誰にも邪魔、されたくなかったから」
そう言ってから世長の背中に手を回して、引き寄せた耳元で囁く。
「……続き、して?」
そっと希佐の耳元を窺うと、しろい肌がまるで林檎のようにあかく色づいている。
世長はふ、と柔らかく笑みを零して、可愛らしく強請る口元にふたたび上書きを落とした。
私の幸せ2023年希佐誕SS
「はーっ、美味しかった!」
「うん、ケーキも美味しかったね」
四月九日の土曜日。食事の感想を言い合いながら希佐と世長の二人は夕暮れの石造りの道を歩いていた。
昨日――四月八日は希佐の誕生日。
八日の誕生日当日はクォーツの皆からお祝いを受けて、翌日の休みである今日は二人で一緒に出かけようと約束していたのだ。
いつもより早く起きて、電車に乗って綾浜よりもっと遠く離れたところ――ユニヴェールの名前が、聞こえてこない小さな町に遊びに来ていた。町をぐるりと回って景色のいい場所を眺めたり、気になったお店にふらりと立ち寄ってみたり。最後はレストランでご飯とケーキを食べて。
ささやかで、特別な一日。
レストランから出る頃には陽が沈む空に一番星が光っていた。
明日も休みだけれど、三年生になったばかりのクォーツ組長とアルジャンヌには他の生徒以上にやらなければならないことが山程ある。二人は町に別れを告げて駅まで歩いた。
駅で切符を買って、ホームで電車を待つ。その時、隣に佇んでいた世長が真面目な顔をして希佐の方に向き直って、持っていた紙袋を差し出した。
「希佐ちゃん、えっと……改めて誕生日おめでとう!」
だが、差し出された紙袋に希佐は目を丸くした。
「えっ、創ちゃん、昨日誕生日プレゼントくれたよね?」
平日で稽古があった昨日。クォーツで祝ってもらったときに確かに世長からも誕生日プレゼントを貰っていたはず。尋ねれば世長はすこし恥ずかしそうに口を開いた。
「あれはクォーツの皆と一緒にあげたものだから。これは、その。……恋人として、って意味で」
照れて目線を逸らす世長の姿に、恋人という言葉を意識して希佐の頬も同じ色に染まる。
「そ、っか……ありがとう創ちゃん! 開けてもいい?」
「うん、どうぞ」
受け取った紙袋の中からプレゼントを取り出す。ラッピングを解くと、小さな額縁風のフレームにドライフラワーの花束が飾られていた。野花を集めたようなナチュラルなブーケだが、フレームの底地は落ち着いた藤色で可愛らしさを主張しすぎないものになっている。
「わぁ……ドライフラワーのブーケだ! かわいい!」
「生花にしようか迷ったけど……こっちの方がいいかなと思って。良かったら部屋に飾ってもらえると嬉しいな」
はにかむ世長に希佐も顔を綻ばせる。
「ありがとう! 大事にする」
「喜んでもらえてよかった。……そろそろ電車来る時間だね」
「あ……そうだね」
世長が駅の電光板に目をやる。帰りの電車は手前の駅をすでに通過していた。
「それじゃあ、帰ろうか?」
「うん」
互いに微笑み、寄り添っていた甘い空気をそっと離して。やって来た玉阪座行きの電車に乗り込む。
電車から降りてクォーツ寮に着くころには、二人はすっかり「幼馴染のユニヴェール生」の空気を身にまとっていた。いつだって気は抜けないけれど。秘密にも、もう慣れたものだ。
世長が部屋まで送ってくれて「また明日」と別れたあと、自室に帰ってきた希佐は早速飾ろうと紙袋からブーケを取り出す。
「あれ、裏面に何かついてる」
最初手に取った時には気づかなかった感触に裏返して確認してみると、フレームの裏面に一枚の紙が貼り付けられていた。手にとって見るとブーケの花の種類について書かれている。印字されたQRコードからそれぞれの花言葉の解説も見られるらしい。椅子に腰掛け、スマートフォンのカメラを起動させて貰った花について調べてみる。
エキザカム、カスミソウ、ゴールドコイン……
一つ一つの花言葉にやさしい意味が込められていて、知る度にきらきらとブーケが愛おしく輝いて見える。
――きっと。花の種類、言葉の意味まで考えた上で選んでくれたのだろう。密やかに、けれどまっすぐに向けられたメッセージに嬉しくなる。
最後に調べたのはブーケの真ん中を彩っているレンゲソウ。文字をタップすれば他と同じように画像と詳細な解説画面が開く。
「あ、これ私の誕生花なんだ……えっと、花言葉は」
レンゲソウの花言葉。その意味を知った時、世長への想いが希佐の心を温かく満たした。秘密を抱えて過ごすここでの生活は楽しいことばかりじゃない。だけど、いつだって彼が隣で支えてくれていた。
「私もね……おんなじ気持ちなんだよ」
溢れる想いを伝えるようにブーケをそっと抱きしめる。
「創ちゃん……いつもありがとう」
明日になったら、この気持ちを沢山伝えよう。
寝る支度をした後、ベッドサイドのテーブルにそっとブーケを飾って横になる。
三年前はこんな日々が来るなんて思いもしなかった。
あの頃は叶わない夢に蓋をして、色褪せた現実を生きていくんだと思っていた。
今あれほど焦がれた夢の舞台に立っていて、沢山の人達に支えられて。……大好きな人が、隣にいて。
明日が来るのが、待ちきれないなんて。
「私、本当に……ユニヴェールに来れて良かった」
呟いて、ゆっくりと明日に向かって目を閉じた。