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お試し期間だから出来る事

全体公開 人魚姫ドラヒナ 6 7002文字
2023-11-27 08:45:28

人魚姫ドラヒナで、忘れられないあの思い出 (https://privatter.net/p/10490454)続きです。
手が離せないという理由で、魔女がヒナイチ姫を陸のシンヨコ王国に代理で出発させます。
道すがら、ジョンと今持っている「人間の足 お試し版」同様、成人しておらずお試しが許されている今だから、魔女と交わした契約の事、断ってきた他国への嫁入りの事を、どうするか考えるお話です。
ちなみに、話に出てくる「ウミヘビの女性」とは乙姫のつもりです(大元の話からすると、亀にするのが正しいのでしょうが、カッコ良さがね)。
なので、契約を破って陸に帰ったウラノシマコさんは、亡くなってるはず。
カズサ王と対峙する前の、魔女ルクさんのモノローグを追加しました。
2023/09/04に上げました。

Posted by @kw42431393

 「陸におつかいを頼みたい?それは構わないが。」
 いつも通りの領海内のパトロール。終わってから、深海の魔女の家で行われるお茶会。
 いつも通りの日常魔女が作ってくれる極上のお菓子を堪能し、ジョンを撫でながら、興味深い魔女の話を聞いたり、ゲームをして時間を過ごすのだ。
 それが、ここ最近の私の日常だった。
 「以前も、やけにしつこく陸の世界に行くのを勧めていたな。そんなに私を陸に行かせたいのか?」
 確かに、ロナルド王子を助けた直後は、多少興味を持っていたのだが今はさほどでもないんだ。
 契約を持ちかけたお前のクッキーを食べてからそれを食べて、ここにいるのが楽しいから。
 「そのつもりはないよ。お姫様の意志が一番だもの。」
 フッと笑ったその顔が、妙に安心した様に見えた。
「私だって、お姫様に毎日通ってきて欲しい。ヒナイチ姫もそうだろう?そういう契約だよ?忘れた訳ではないだろうね?」

 妙に畳みかける言い方そういえば、兄が言っていた。
 餌の少ない深海に住む者達は、一度捕らえた獲物に対して貪欲だと、その為に命を失う事となっても手放さない程、粘着質な所があるのだと契約にやたらと拘るドラルクにも、そういう気質が垣間見えた。

 「お前こそ何度も言わせるな。私は、ここに来るのが楽しいんだ。」
 「おや、私がいいの?お菓子がなくても、来てくれる?」
 嬉しそうな魔女の声。「そうだ!」と言ってやりたいがうん、困るな。やはり、お菓子は欲しい。
 「ちょっと、何で黙ったの?」
 呆れた言葉の後で、仕切り直した様な言葉が続く。
 「これまでは、ジョンとお客が食べる程度しか、陸の食料を必要としなかったのだけどね誰かさんがほら
 「ヌフフ。」
一人と一匹の目が、愉快そうに細められた。
 視線の先は私の指先、摘まんだクッキーそうだな、それを言われると辛いな。
 「むう~ん。」
 「仕事帰りのお姫様に、お腹いっぱい食べて貰いたい。何度も行っているジョンを案内につけるから、安心して行っておいで。」 
 隣でジョンが「任せて!」とばかりに胸を叩く。
 「そうか。よろしく頼むぞ。」
 「ヌン!」
 材料がなければ、いくら魔女といえどもお菓子は作れない。それに、ドラルクは依頼された薬の調合で、手が離せないのだと聞く。
 仕方ないな、それに
 「飲んでる薬が効いている間は、問題ないとはいえ。体の弱いお前を買い出しに行かせたくないな。」
 「嬉しい事を言っておくれだね。元々、魔法で姿を変えて、陸のシンヨコ王国とは交易をしていたから、そこまで気を使ってくれなくても構わないのだよ。」
 「シンヨコ王国と交易?ロナルド王子のいる国じゃないか。」
 妙な所で、彼とは縁があるんだな。
 お腹が膨れて、少し眠くなってきた頭でそんな事を考える。
 「知っての通り光や餌は少ないが、深海には豊富な資源がある。我々には価値がなくても、陸の者達からすれば、喉から手が出るほど欲しい資源がね。」
 そうかもしれない。我々海の者達には興味もない金属や鉱石、それを得に、人間達が命がけでやってくるのは何度か見た事があるし、追い払った事もある。
 「そうか。それで、陸に詳しかったのだな。」
 「シンヨコ王国は、現国王のヒヨシ王がなかなかやり手でね。元々、外から来るものに対して開放的だったが、人ならざる者達の受け入れにも積極的だ。その関係で治安は微妙な所があるけど、弟のロナルド王子が武勇に優れているから、平穏が保たれている。聞いた事はないかね?」
 「そう、だな。」
 聞いた事がある。
 他国のトラブル解決にも協力を求められて、単身でよく派遣されているらしい。
 「粗暴だが、面倒見がよくて、優しい人間だよ。」
 「うん。」
 困ったな。ドラルクが真面目な話をしているのに、話が頭に入ってこない。
 眠くなってきてやはり、兄が言う通りなのかな。

 『彼なら君を取られてもよいと、思ってた時があったのにおっと。』

 サンゴ礁に住む私と深海に住むドラルクは、同じ場所に長くいられないのかな。ぷにぷにみたい、に。

 『ああ、ごめんね。独り言だよ。忘れておくれ。』

 あれ?今、ドラルクは何て言ったんだろう。
 大事な事を言っていた様な?
 「あ、あぁ。だいじょうぶだ。つづけてくれ。」
 「ロナルド王子を仲介者にしてね。海底の資源と引き換えに、珍しい陸の食料や薬草、鉱石の類を手に入れているのさ。そう、元々彼とは顔見知りだった。彼の仕事に同行すれば、魔術や薬の材料になる珍しいサンプルも手に入る。さらに、彼はサンガ国のサンズ姫と婚姻しただろう?彼女の故郷からも、珍しいサンプルが手に入ると期待しているのさ。なにより、私達と彼は馬が合うのかな。腐れ縁の様な間柄だけど
 「……うん。」
 「疲れたんだね。気づかないですまないね、喋り過ぎたよ。そろそろ眠いでしょ?こちらにおいで。」
 目を擦りながら、顔を上げる。
 魔女の赤い目がチカチカ光った。

 「今夜もおいで。私の可愛いお姫様。」

 私の好きな匂いが、ツンと鼻腔を擽る。シュルシュルと、体に何かが絡みつくのを感じながら、私の意識が遠のいていく。
 「うん。」
 「いつも壺みたいに狭くて薄暗い、私の部屋じゃ可哀想だからね。君専用の綺麗な部屋に、アコヤ貝のフカフカのベッドを用意したよ。とても、気に入ると思うよ。とてもよく似合うはずさ。」

 私は別にそんなの気にしないのにな。私は

 一番伝えたい言葉は、外に出なかった。ゴボリと泡が上がっただけだ。
 『まじょ。』
 「ウフフ寝言でも私の事ばかり。嬉しいねここから出したくないよ。」

 ここがいいんだ。冷たくて固い、このローブの中が一番安心するんだ。



 ヒナイチ姫、こっちだヌ。

 翌日、シャコガイのジョンに案内されて、明るいサンゴ礁を私は泳いでいる。
 ちらりと、手の中のメモを確認する。
 「小麦粉、卵、バター、砂糖、カカオえーと、バシリスクの鱗、チョンチョンの耳?色々あり過ぎて分からないな。」

 ヌフフ。食べ物の所以外は、ヒナイチ姫には興味がないから仕方ないヌ。

 違いない。それに、もう一つ。魔女から渡されたお洒落な薬瓶。
 「人間になれる薬のお試し版そんなものもあるのか。『願いが叶わなければ、泡になって消えてしまう』とか、『声を失う』とかいう副作用は、ないんだな。」

 代わりに、24時間しか効かないヌよ。一生人間でいたいなら、そのくらい覚悟がいるって事ヌね。

 「ますますもって、そこまで人間になりたくないな。何故、あいつは私に勧めたんだろうな。」

 そのリスクがあっても、陸に興味を持つ人魚達もちょいちょいいたヌよ。

 「彼らはどうしたのだろう。」
 その判断に満足しているならいいのだが。

 ヌーン、調べようもないヌね。もう、水中で呼吸は出来ないヌから、こちらの世界に帰ってくる事は出来ないヌし、伝える手段もないヌ。ヒナイチ姫、そろそろ着くヌよ。用意してヌ。

 人気のない砂浜を選んで、這って上陸する。
 そして、私は薬瓶を開けた。それからは、フワリと甘い匂いがした。
 「クンクン、美味しいのかな?」

 ヌン!こんな時まで、変わらないヌね!

 瓶を傾けて、トロリとした液体を口に含む。あいつが焼いてくれる、パンケーキのシロップみたいな味がしたと、妙な感覚が下半身に生じた。
 「ん?な、何だ!?あ、あぁこれは!?」
 下半身のヒレの部分がムズムズとくすぐったいそれは、徐々に上に上がってきて
 「えこ、これ割れる?二つに割れあぁっ!!」
 ビキビキと音を立てて、ヒレの部分から裂ける様に割れていく、それなのに痛みはない。続いて、緑の鱗が消えていく。
 それは、肌色の素肌になって本当だ。時折、見る人間と同じ姿だ。

 どうかヌ?違和感はないヌか?

 「い、違和感か。立つってこんな感じか。」
 海中に住む者には無縁の重力違和感しかないな。腰が抜けそうになる。
 杖になる棒を差し出しながら、ジョンが支えようとしてくれる。潰してしまうと可哀想なので、杖に縋って必死に重力に抗った。
 「あ、ありがとう。なんとかなりそうだ。」

 ヌン、よかったヌ。それじゃあ、ドラルク様から預かった下着とスカート、靴も履いて欲しいヌ。そのままでは、街を歩けないヌよ。

 ジョンから手渡されたスカートは淡いグリーンで、尾鰭の様な装飾が着いている。最近、何かを縫っていたが、私が着る事を想定してくれていたのかもしれない。

 「これで、いいのか?」

 ヌン!バッチリだヌ!それじゃあ、まずは城下町のマルシェに行こうヌ。城門でロナルド王子が待ってるヌよ。買い出しついでに観光案内もしてくれるヌよ。

 「私の事は、どういう説明をしてあるのだろうな?」

 ヒナイチ姫はドラルク様の姪っ子で、代わりに買い付けに来た事になってるヌ。

 姪っ子かあいつと似てないけどな。それに大丈夫かな。ロナルド王子は私の事を覚えてはいないよな?

 さぁ、案内してあげるヌよ。ヌフフそれにしても。

 「どうしたんだ?」
 クスクス笑うジョンに、首を傾げる。



 いつだったか、人間なのにウミヘビの女性と一緒になりたいという男性がいてヌ。ドラルク様の薬で海の世界で過ごせる様にして貰った、その人を海の世界へ案内をしたのを思い出したんだヌ。今回は、その逆ヌね。

 「ふうん、その男性はどうなったんだ?」

 名前はシマコさんだったかヌ。どうもないヌ。初めは海の世界で楽しく暮らしてたヌけど、やっぱり故郷が恋しくなって、お土産を渡されて陸に帰ってしまったんだヌ。そこから先は、ヌンは知らないヌよ。

 「幸せになれたなら、いいんだけどな。」
 しかし、一緒になった女性を捨てた訳だろう。幸せでは、なかっただろうな。

 どうかヌ。契約を破ったから、何があってもおかしくはないヌ。そもそも一度決断したら、もう取返しはつかないヌ。ヒナイチ姫も

 「何だ?」

 その足もお試し期間ヌから、気楽にしてても構わないヌ。それに、ヒナイチ姫はまだ成人扱いされてないヌから、ヌンと陸の世界に来ている。今も自由がきくヌね。でも、そろそろ他の海国との同盟もあるヌし、お見合いがあってもおかしくないヌ。

 「その話はやめてくれ。実際、ちょいちょい来てうんざりしているんだ。」
 兄も『うちの妹は、年齢の割にお子様だから』とはぐらかしてくれているが、それはそうなのだ。
 以前は『故郷を離れるのは、嫌だ』『故郷を守りたい』と言って断っていた。
 今は、それに『あいつと会えなくなる』というのが追加されている。いや、日に日にその恐怖が大きくなる。

 カズサ王がそう言ってくれている内は、人魚生において『お試し期間』を許されているんだヌ。だから、ヒナイチ姫忘れてはいけないヌよ?

 「あ。」
 そうだ、私は魔女と契約したんだ。『毎日、魔女ドラルクの元へお菓子を食べに通う』という契約を。

 あれは、『お試し』ではないヌ。サインしてしまったからには、覚悟を決めないといけないヌ。それか、新たに交渉をして契約をし直すか、破棄するか

「うんでも、毎日通う理由は軽い気持ちではないぞ。あいつといるのが楽しいんだ。破棄するなんて、考えられない。」

 ありがとうヌ。ヒナイチ姫が、ドラルク様を好きな事ヌンは知ってるヌよ。それでも、周りが許してくれるかは別問題だヌ。

 ジョンの後をついて歩きながら、故郷を捨てて陸の世界を選んだ人魚達、そして、海の世界を選びながら契約を破棄して、故郷に戻った男性の話を考える。私だったら、どうするのだろう。

 『だったら!わたしが、まいにちしんかいにいくぅ!!』

 子供の頃に拾った、ぷにぷに。
 サンゴ礁では過ごせないと、元の世界に返した小さなメンダコを思い出す。
 鍛えた肉体を持つ今でも、深海のドラルクの家で眠り込んでしまう程、疲れてしまう自分がいる。
 ずっと、あそこで暮らせる自信が、実はない。
 「ジョンはドラルクと一緒に過ごす為に、体を変えて貰ったんだっけ。」
 藻と共生関係にあるシャコガイは、本来深海では過ごせない。ジョンは小さい頃に嵐で流されて、光の差さない深海に迷い込んでしまったのだという。
 そこでドラルクに拾われて、ずっと一緒にいると決めて契約を結んだ姿が、今のジョンなのだ。

 私もそうして貰うべきだろうか。ずっと、あいつといたいなら。

 これから、人間の街に行くのに重い話をしちゃったヌね。ドラルク様の前では、出来ない話ヌから。

 「いいんだ。そうだな、人魚は寿命が長い。だけど、いつまでも子供でいられないものな。」

 『お試し期間』が許されている今だからこそ、色んな事を経験しておいて損はないヌって言いたかっただけヌにね。本当にごめんヌ。さぁ、お仕事だヌ。あそこの城門で、ロナルド王子が待ってるヌよ。

 いつの間にか、結構歩いていたのだろう。ジョンの言葉に顔を上げる。

 城門の前には、銀髪で赤い服を身に纏った男性が、嬉しそうにジョンに手を振っていた。



 ヒナイチ姫をジョンに任せて、私は調剤室に戻る。
 イナ海国に依頼された、サンゴ礁で流行っている疫病の薬は作ってある。
 引き出しから薬と契約書を出して、もう一度確認する。何度も確認したはずだが、後ろ暗い商売をしている以上、どうにも直前に再確認しないと落ち着かないらしい。
 これから会うカズサ王は、一筋縄ではいかない男だ。お姫様が通っている事はバレてはいけない、勘づいているかもしれないが、証拠を取られてはいけない。
 そもそも、断るという選択肢はあった。でも、それは出来なかった。

 『最近、うちのサンゴ礁で病気が流行っているらしくてな。そこに住む者達に影響が出ているんだ。』
 
 お茶会で、そう言って泣きそうなヒナイチ姫の顔を見た後で、正式に国王から依頼が来たのだ。
 貴女のそんな顔は、見たくない。
 私の体が治って、彼女を連れて遠くに逃げられる準備が整うまでは、彼女の生活圏に異常があってはいけない。
 引き受けた理由なんて、その程度のものだ。

 ズキリと胸に鈍痛を感じる。幼い頃から、とっくに慣れてしまった病魔の証。これがある内は、とても駆け落ちなんて出来やしない。

 ため息をついて、私は引き出しから薬を取り出す。人魚から人間となった者達が捨てていった、下半身の肉をすり潰し、研究に研究を重ねた配合で煮詰めて、乾燥させたものだ。
 配合は私に何かあった時の為に、ジョンに預けてあるメモに記されている。僅かなズレで、効く時間が変わるのだ。
 ヒナイチ姫を喰らう気持ちがなくなった以上、今あるこの薬は貴重だ。彼女が通っている時に、新たに人魚をここに誘い込む事は出来ない。
 残り少ない人魚の肉で、彼女に心配させずにやりくりするのは苦労する。あの子への想いが、首を絞めている事は分かっている。
 でも、やっと出口が見えてきた。体さえ健康ならば、動きようはあるのだ。

 「サンズ姫の嫁入り道具の国宝に、私自身がサンガ国に行ければ今度こそ。」
 サンガ国の近海にあるという孤島。そこに住む自身を『神』と名乗る男。

 「ワシは偉いんだ!畏怖して!尊敬しろ!」

 こんな感じだから、皆が与太扱いしているが雨乞いや地震を鎮め、サンガ国を襲った疫病から国民を救った事もある。

 「調合?教えんもんね~。そうでないと、誰も尊敬してくれんだろ?まあ、ワシでもこのサンガ国の国宝で、最後の調合をしないと無理だからな。」

 五色に輝く石の鉢夫ロナルド王子の友人だと言えば、彼らを結ぶきっかけが私達だといえば、サンズ姫も貸してくれるかもしれない。
 全く同じ材料は手に入らないが、身内を通じて、ロナルド王子に頼んで、近いものは手に入れている。
 あとは燕の子安貝と、その男が住む孤島に成る玉

 「ドンドン!魔女殿、イナ海国国王直々に参った。傍若無人に入らせて貰おう!」
 
 ノックもなにももう侵入しているらしいね、ヒナイチ姫のお兄上は。
 「お待ち下さいませ、すぐ参ります故。」

 玄関に凭れかかって不敵に笑う男に、私は丁重に頭を下げる。
 カズサ王彼と直接会うのは9年ぶりだ。

 『気をつけて帰れよ、ぷにぷにいや。魔女殿。』

 当時はお姫様と出会ったばかりで、情が薄かった。そして、分が悪いので身を引いた。しかし

 『魔女、私はお前といるのが楽しいんだ!』

 「これは、これは。お初にお目にかかります、カズサ王。」
 「お初にククク、ご挨拶だな。まぁ、魔女殿も息災で何より。」

 今回は、絶対にお姫様を諦めてたまるものか。
 

 











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