@quatre261
寒空小悠は優等生だ。
みんなから愛されるほどに。
両親も先生もそれはそれは小悠を可愛がった。
他の女子から嫉妬されるほどに。
幼なじみで共に育った雨守凪を筆頭に、正義の名のもと、小悠に陰湿ないじめを与えた。
「これは悪いことじゃない。小悠が先生を誑かしてるんだ。
だから正義だ。あたしらは悪くない」
小悠は凪に失望した。そんなことをする子だったのか。
記憶の中の凪はいつも楽しそうに笑いかけてくれた。一緒にいてくれた。
昨日までの凪は、全部嘘だったの──?
ある時はノートを燃やされ、ある時は体操着を隠され、ある時はプール授業終わりに着替えを隠された。
何かある毎に授業を遅れざるを得ないから、先生からも心配され、疑いの目を向けられることさえある。
それで成績が下がることもあり、授業に着いていくことがもはややっとになる。
両親から心配の目を向けられるが、小悠は落胆され失望されることを恐れ、大丈夫と取り繕った。
「学校は毎日楽しいよ?友達がたくさんいるし、凪もいるから!」
母は本当に大丈夫なのか、悪い友達とは関わるなと本気で心配した。少々過剰なほどに。
それでも小悠は何も言わなかった。
言えば迷惑なのではないだろうか。
自分は良い子だから、優等生だから、両親にも先生にも誰にも迷惑はかけたくない。
自分でなんとかしなくてはならない。
いつからかそんな強迫観念に囚われ、自分自身をも抑え込み我慢した。
時々根拠のない噂さえも流され、それを知る度心がすり減らされていく。
「4組の白い子、夜中に男の人と遊んでるらしいよ」
「何人もの大人を騙して金を絞り取ってるってマジ?」
「誰々と付き合ってるんだってー」
誰が敵で、誰が味方なのかすら分からなくなっていった。
それでも仲間外れでひとりぼっちにはなることはなかった。
親友の雲伊ひよりがいたから。
ひよりだけが心拠り所になっていた。
さて、そんな彼女だが、何をきっかけに自殺を図ってしまったのだろうか。
拠り所がいてもなお、耐えきれなかったのだろう。
「ひよりが言ってたよ。"嫌われ者のあんたがいるせいで私まで嫌われる"ってさ」
小悠は信じられなかった。信じたくなかった。
ひよりがそんなこと言うわけない。
けど、もし、本当に自分のせいで嫌われてしまっていたらどうしよう。
嫌われることは恐ろしいことだ。
自分のせいでこれ以上迷惑なんてかけたくない。
凪の言ってることが嘘なら?本当に言っている根拠はない。
でも、嘘だという根拠もない。
いじめが怖いから学校を何度か休んだ。
親に迷惑もかけてきた。迷惑かけたくないからいじめのことを言っていないのに。
これ以上誰かに迷惑をかけていいのだろうか。
何が正しいか、間違いか。何をどうすればよかったのか。
ずっとずっと、ぐるぐるとまとまらない考えが回っている。
回り続けるうちに、小悠は、もう何もできなくなってしまった。
自主勉強をするのことも、遊ぶことも、本を読むことも、手を動かすことも、足を動かすことも、脳を働かせることも。
考えているうちに、全部疲れちゃった。
気付けば泣くことも、怒ることも、喜ぶことも、楽しむことも忘れていった。
何もかも忘れて、全部捨てちゃおうか。
そうして小悠は、マンションの屋上から飛び降り、全てを投げ出し、あの世へ逃げることを選んだ。
7月1日 寒空小悠 中学二年生 13歳
高層マンションから女子生徒が飛び降りる事件が発生。
目撃者によると、髪が赤くなるほどの出血で、左目が潰れてるだろうとのこと。
屋上には遺書があり、いじめに疲れたと書かれている。
ここから先は蛇足みたいなものです
完全に創作の話でしかないです
小悠自身のことはここまで
取材
Q.寒空小悠さんはどんな子でしたか?
「とても良い子なの。スポーツもそこそこできて、座学も優秀で。
なによりも周りを明るくさせる才能があったの」
「優等生だったよ。先生にも気に入られていたし。
ただそれを良く思ってない子もいたらしいけど」
Q.寒空小悠さんのことをどう思ってましたか?
「私は好きだよ。あの子は何も悪くないから」
「そんなに思い詰めてたなら言ってほしかったかな。同じクラスメイトだったし」
?
小悠の母は、小悠が自殺したことにより心を病み、荒れ果てていた。
「小悠は大丈夫って言ってたわ!なのにこんなの聞いてないわよ!いじめられてたなら、どうして言ってくれなかったの!?
ふざけないで!返してよ!私の小悠を!」
父は変わってしまった母の面倒を見ることに疲れ、離婚。
家の中もゴミ屋敷状態となり、幸せだった頃の面影はもうない。
凪はというと、因果応報なのか次のいじめの標的になり、ついには不登校になってしまう。
今日も学校へ行かず、居場所のなくなった凪は、まだ友達だった頃の小悠とよく遊びに行った公園に1人いた。
「……こんなはずじゃなかったのにね」
後悔してももう手遅れだ。
凪はずっと小悠のことが好きだった。
ずっと傍にいたから、小悠のことはなんでも知っている。
「小悠ばっか、ズルいよ」
ずっと傍にいれば、好きが燃えて妬みにすら変化する。
どこかで歯車が壊れ、不具合が起きてしまったんだろうか。
どうすればこうならなかったのだろう。
まだ幼い彼女たちには、何もわからない。
小悠の母は、公園に1人でいる凪を刺し殺した。
恨みしかなかった母は、凪の原型がなくなるほど、何度も何度も何度も刺して切って、ぐちゃぐちゃにした。
異変に気付いた近所の人が警察に通報して、母は逮捕された。
凪はいうと、その場で死亡が確認され、助けることは誰もできなかった。