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靴下を贈る意味/執着心は吸血鬼に限ったものではない

全体公開 ドラヒナ以外のお話 1 11 5246文字
2023-12-03 09:07:34

ヴェントルーの誕生日に書いた、ヴェンタビのお話です。彼に聞きながら、タビコさんが靴下を編む理由は?そして、その靴下から漂う自分の匂いは?
靴下を奪いに飛び出したタビコさんと、Y談おじさんの会話を追加しました。君がエッチな事を考えると星を降らせるおじさんを、唸らせた彼女なら、Y談波の中でも普通に喋れるんじゃないかな。
2023/09/06に上げました。

Posted by @kw42431393

 「なぁ、ヴエントルー。」
 「何だ?今、我が輩は忙しいのだぞ。」
 明日から、我が輩は少し遠出をせねばならん。
 靴下を取り戻す為、失われた尊厳を取り返す為に、小娘の家政婦に甘んじておるが、由緒正しい翼の血族の当主だ。古き血の面々には人間の女のヒモとかピヨちゃんなどと揶揄されておるが、我が輩とてそこそこ忙しい身なのである。
 「ちょっとだけだ。これを見てくれるか?」
 向こうの部屋から聞こえるタビコの声が、甘えを帯びた子供っぽいものになる。
 舌打ちをして、作り置きのおかずを作っていた我が輩は、コンロの火を止めた。
 どうも、我が輩は小娘のこういう掴みどころのない仕草に弱いのだ。
 成熟した女性らしい肉体に、どこか虚無的な整った顔。大抵の事では動揺しない、無関心で冷静な立ち振る舞い。
 それが、自分にとって突き抜けた性癖に関するものとなると、一瞬でイキイキしたものとなる。
 イキイキというより変態なのだ。目をキラキラさせて、同胞の靴下を奪い、大衆の面前で臭いを嗅ぎ、しゃぶり、衰弱して座り込んでいる、あるいは自身の行動にドン引きしている同胞の姿を見て、恍惚とした顔をしておる。
 おそらく、このシンヨコに住む者が知るタビコの顔は、そちらであろう。
 長年通っている我が輩は、この小娘の顔が一瞬で目まぐるしくコロコロと変わる事を知っている。
 さっき見せた顔と、今見せる顔は全く違うのである。
 先に言った「掴みどころのない仕草」を我が輩が嫌いでないのは、退屈を嫌う吸血鬼のサガとして、我が輩を常に飽きさせない所にあるのだと思う。

 言ってやる気は、サラサラないが。

 「何だ。誰の為に、働いておると思っておるのだ。我が輩を軽々しく呼びつけおって。」
 「うむ、これなんだがな。」
 ソファに寝転んでいるタビコが、横着に寝転んだまま、手に持っているものを渡してくる。
 「編み物貴様にそんな趣味があったとはな。」
 半分皮肉、で答える。まあ、そうかもしれん。
 我が輩と戦う前は、至極まともな退治人だったという。趣味であってもおかしくはない。
 「靴下か。この街で散々奪い過ぎて、とうとう足りなくなったのか?」
 指差された位置は、模様が少しずれておる。我々吸血鬼は、物の数をひたすら数えてしまう習性がある。我が輩もそのごたぶんに漏れず、裁縫や編み物は得意なのだ。
 「ここまでは、すんなり出来たんだがな。どうも、この周辺からずれてしまう。」
 「帰ってきたら、我が輩がやってやる。置いておけ。」
 「それじゃダメなんだ。」
 ポツリという言葉が妙に神妙で、断るのが気の毒に思えた。
 「分かった、貸せ。間違っておる所まで解いてやろう。」
 「フフ、大鴉。そうこなくてはな。」
 いや、前言撤回しよう。頬杖をついて、ニヤリと笑ったその顔は、気の毒ではないわ。
 「あと、編み図はどうなっておるのだ。見せてみよ。」
 「これでどうだ?」
 「キイイ!もう少し丁寧に書け!どんな模様を編みたかったのか、これでは分からんわ!」
 そこからどうなったかだと?どうもないわ。
 途中で、ちょいちょい呼びつけられる様では、家事が進まぬ。仕方がないから、料理は後回しにして、同じ部屋で洗濯物を畳んでおったのよ。
 夜もそろそろ白んできておるのに、これから小娘の食事を作って冷蔵庫に詰めてやらねばならぬ。
 「さてと、出来た。あとは、これを。」
 背後で聞こえる楽しそうな声に振り返ると、タビコは編みたての靴下を、さらに上から履いていた。
 「何をしておるのだ?」
 「フフフ、内緒だ。私の奇行はいつもの事だろう?」

  それはそうだが

 「タビコその靴下。」
 何だ?と笑う小娘に、次の言葉を失う。
 「何でもないわ。」

 靴下の上から、編んだばかりの靴下を履くのも少々変わっておるが、我が輩が気になったのはそこではない。
 タビコの両足を見る。
 全体が濃い青色の毛糸で編まれた靴下には黒い羽がそれぞれ三枚ずつ描かれておったのだ。両足を揃えて立つと、黒い六枚羽になる。

 我が輩の姿と同じいや、気のせいであろう。



 「来たな、ヴェントルー。」
 3日後覚悟はしておったが、部屋はまた見る影もなく荒れておった。
 一人暮らしの時はどうしておったのであろうな我が輩が来た当初はそこまで酷くはなかったのだ。
 我が輩がやってくれるものと、すっかり当てにする様になったのやもしれぬ。
 「またか!少しぐらい、片付けよ!我が輩が、戻って来なかったらどうするつもりだ!?」
 「来るさ。吸血鬼の執着心とはそういうものだ。」
 ソファに座ったまま、振り返りもせずにタビコは答える。
 図星だ。ますます、我が輩に靴下を返すつもりもあるまい。
 はぁと溜息をついて、マントを脱ぐとエプロンを付ける。
 「ヴェントルー、こっちに来い。」
 手招きしておる小娘に近づく。全く、我が輩は忙しいのだぞ。
 「何だ、我が輩はこれから。」
 その時、目の前に紙袋を突き付けられた。
 「な、何だ?これは?」
 「もうボケたか?まぁ、長生きしている訳だが。お前の誕生日だろう?」
 思わず、カレンダーを見る。
 そうであった、今日は9月6日我が輩の誕生日であった。
 「そ、そうか。」
 「別に何か企んでいる訳ではないぞ?遠慮なく受け取れ。」
 そう言って大量の靴下が仕込まれたコートを羽織ると、小娘は夜の街に飛びだしてしまった。



 「あの模様気に入っておるのか?まるで。」
 着替える前にチラリと見えた。あやつの靴下は、自分で編んだあの靴下であった。窓から飛び出す姿は、我が輩を意識してい、いや。考え過ぎだ。

 「ところで、我が輩にプレゼントとは何を。こ、これは!?」
 紙袋を開けると、フワリと小娘の匂いがした。
 いや、奴が編んだのなら当然であろうが我が輩が手伝ってやりながら編んだ、あの靴下と同じ柄だ。 
 青色に、それぞれ黒い3枚の羽が描かれた
「こ、小娘ど、どういう意味いや、そんなはずはそんな。」
 靴下というのは消耗品だ。そして、「踏みつける」「見下す」の意味も持つ。
 ただそこらで買ってきた靴下であったなら、我が輩もそう見たかもしれぬ。
 実際、あ奴は我が輩を顎で使っておる。靴下を盾に、我が輩が逆らえない事を知って、何年も
 ただそう見るには、この靴下は難しいものがあった。

 これは自らの手で編んだ物なのだ。6枚の黒い翼のモチーフをわざわざ時間をかけて、我が輩に聞きながら。

 タビコは、靴下が吸血鬼にとって何を意味するか知らぬはずがない。そして、それを我が輩の誕生日に贈るという。
 さらに、靴を脱ぐ文化の日本ではピンとこぬかも知れぬが欧米圏では相手の靴下を見る事ができるのは、寝食を共にする親しい間柄つまり、靴下を贈る行為は「寝室を共にしてもよい」「あなたに心を許している」という意味も同時に持つのである。

 『帰ってきたら、我が輩がやってやる。置いておけ。』
 『それじゃ、ダメなんだ。』

 妙に神妙な顔で言った小娘の顔を思い出す。
 我が輩を「見下す」意味で靴下を編むのに、あんな顔をするだろうか

 「考えるのはやめにしよう。どうせ、帰ってきたらいつものイカれた女で、大量の戦利品をしゃぶっているのだから。」

 我が輩は、今履いている靴下を脱ぐと、貰ったばかりの靴下に履き替えた。
 いつもは不覚を取った戒めに、片方は違う靴下を履いているのだが、今日ぐらいは6枚羽の靴下を履いてやろうと思ったのだ。
 「うん?この匂いはこの近くに。いや、気のせいか?」

 今履いている靴下から、タビコの匂いと共に、微かに自分自身の匂いもしている気がしたのはどういう事だろう。

 



 スゥと、戦利品を口に含む。今宵もこの騒がしい街は吸血鬼で溢れ、そして、私を飽きさせない。私を満たしてくれる吸血鬼の靴下が、そこいらに溢れてるのだ。
 盗る時のスリル、盗られた時に見せる彼らの表情、私に投げかける言葉何より、それらを思い返しながら、匂いを堪能し、味わうこの瞬間が私の心を満たしてくれるのだ。
 「まぁ、もっと心を満たしてくれるモノは、今頃ウフフ。」

 さて、そろそろ帰ってやるか。今度こそ、ヴェントルーは気づいただろうか。
 さっき、お前に誕生日プレゼントに渡した靴下は編んでからお前が帰ってくるまで私が履いていたものだと。
 そして、お前はそれを履くに違いないと確信している。おそらく、それは私を満たしてくれるのだろう。
 それは、お前が長年探しているものがどこにあるのかのヒントのつもりなのだがな。分かったら、お前はどうするのだろうか。

 執着心の強いのは吸血鬼のサガだ。初志貫徹して、私を殺そうとするだろうか。
 それとも、あくまで気づかぬふりをして、お小言を言いながら靴下を探す日常を続けるのだろうか。
 『屈辱を晴らす為に靴下を取り返して、私を殺す』事だったはずが、今や『毎日、靴下を探す為に私の元に来る』事が、あいつの執着にすり替わっている事を私は知っている。
 だから、どちらもあり得る。そして、どちらを選んでくれても面白い。

 その瞬間、目の前で一瞬閃光が走った。
 この街に住む者は、夜に突然光る正体を知っている。光を浴びるとどうなるのかも。 だから、私は嬉々として光の大元に向かう。そして、それは予想通りだった。
 「やあ、君はいつかの退治人。私の友人がお世話になっておっと。」
 そして、そこにいたのはヴェントルー達同様、古き血を持つ上級の高騰吸血鬼Y談おじさんだ。
 「ウフ、避けられたか。力はないが、たいしたものだ。この前奪ったお前の靴下もセンスがよかったし、中々いい味がしていたのでな。また、堪能しようと思ったのに。」
 この前は簡単に奪えたのに、予め警戒していると簡単にはいかないらしい。
 口さみしさに、さっき奪った靴下を舐める。この靴下は一般の新しい血の吸血鬼から奪ったものだ。目の前の男の靴下とは、熟成具合が違う。残念だ。
 「おやおや、Y談波をしっかり浴びたのにね。そのまま喋れるとはたいしたものだよ。」
 「たいした事でもない。お前の術は、隠した心の本音を暴くもの。お前の友人の靴下を奪ってから、私は全てをこの性癖に捧げる事に決めたのだ。これが私の本音だ、思う存分聞いて楽しんでくれ。」
 私の返答に満足した様に、彼は口角を上げる。
 「しかし、その割にあの大鴉に話していない本音があるんじゃないかね?おじさんに言ってご覧?」
 「フフフ、まあ構わん。お前がヴェントルーに言ったところで、あいつが信じるかは別問題だ。別に隠している訳ではないからな。」
 「私はお前を愛していると言ってやらないのかね。ヴェントルーは言ってやらないと、分からないと思うがね。」
 普通の人間なら、ここで赤面したり怒ったりするのだろう。しかし、そこは私の気にするところではない。 
 「あいつに明日も来て貰いたいというのが本音だ。私はそれを自覚している、それで充分だ。あいつに理解してもらう必要はない。」
 「一方的だねえ。かなり、君は私達に近い様だ。彼の血を受け入れて、吸血鬼になったらどんな姿を見せてくれるのか。」
 「私は吸血鬼になっても、永遠にお前達の靴下を奪い続けるのだろう。それも悪くはない、あいつ次第だ。まぁ、当分この生活を楽しませて貰ったぞ!!」

 「ブエェー-!!」

 「アハハハハ、油断したな!!さあ、今日も満足した。帰って、奴の誕生日を祝ってやろう。」
 弱って蹲ったY談おじさんを尻目に、夜の街を駆ける。 

 君は私達に近い様だか。近いも何もない。そもそも、愛と執着は似て非なるものだ。どちらかなど、私には問題ではない。それに
 「長く生きてると、かえって気づかないのかもしれないな。」

 執着心は吸血鬼に限ったものではない。
住む世界に違いがあるだけで、元々大した違いなどなかったのだ。だからこそ、私達は共にいられるのだ。

 「ただいま、ヴェントルー。今日の夕飯は、何だ?」
 「我が輩の誕生日にこき使っておいて、なんだ。その態度は?」
 足元には、靴下に描かれた六枚の羽が存在を主張していた。そして、スンと鼻を鳴らす音に顔を上げる。
 あいつの素知らぬ顔に、笑みが漏れる。私が咥えたY談おじさんの靴下に、嫉妬しているその顔に。

 私を最も満たしてくれる者は、ここにいる。
 お前の表情や言葉、仕草が、最も私を満たしてくれるのだ。








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