Δドラヒナ前提のみっぴきで、重陽の節句のお話です。今年はまだまだ残暑が厳しかったので、ヒナイチくんが隊長を冷感抱き枕にしてるんじゃないか…と思ったりしまして。それに、定期的に書きたくなる、同世代とじゃれつく彼女に嫉妬する隊長を混ぜました。
翌朝、彼女を抱き枕にして寝込んでいたらイタズラされるシーンを追加しました。
2023/09/10に上げました。
@kw42431393
「隊長、こんばんは。報告書を持ってきたぞ。」
今夜も吸血鬼対策課の隊長室で行われる、お楽しみのお茶会。
メンバーは、いつも同じ。家族同様の私達。
「いらっしゃい、今日も暑かっただろう?ゆっくり涼んでおくれ。」
帽子を脱いで扇いでいる私に、隊長が団扇を貸してくれた。
「エアコンの温度設定をもう少し下げてあげたいんだけどね。あの本部長め。経費削減だの、自分達の頃はこれぐらいでは…などと言いおって。」
まぁ、外回りに慣れた私は気にしないけどな。
「大丈夫だ。それでも、朝晩少しはマシになったぞ。」
そう言うと、隊長が冷たい紅茶とクッキーを出してくれる。
「そうかね、私にはキツイよ。後ろに暑苦しいのがいるからよけいかな。」
「ヌヒヒ。」
隊長がからかう様に、後ろを振り返る。ジョンを吸っていたロナルドが、ムッとした顔をした。
「なんだよ~、暑苦しくねえよ。吸血鬼だから、体温だって低いぜ?」
暑苦しいのは、見た目というか、大型犬みたいな落ち着きなさというか。
だが、吸血鬼らしくないのは、本人が一番気にしている。泣かせるのは可哀想だ。
「どれどれ…。」
そう言って、私はロナルドの手を握ってやる。
「ちょ、ちょっと!ヒナイチくん。」
「ヌー…。」
焦った様な隊長の声と、呆れたジョンの声がする。しまった。
ロナルドがお子さまなので、気にせずスキンシップをとってしまうが…隊長もなかなかヤキモチ妬きなんだ。
『頭はあれだけど、体は成人男性なんだからね。しかも、身体能力はお墨付きの!』
そうやって、拗ねたのはいつだったか。
ジョンに窘められる度に反省しているらしいが、それでもついついお小言混りで出てしまうらしい。
私にとっては…呆れるより、可愛かったのを覚えている。たまには…うん。ちょっと、嬉しい。
「な、どうだ?」
こっちは、全く気付いてもいないロナルドの声。そういう意味では、助かるけどな。
「…う~ん。」
実は、そんなに冷たくないんだ。私より少し低い程度だ。
「うわ~!やっぱり、俺、畏怖くないのか~!クッソ、どうやったら吸血鬼らしくなれるんだ~!?」
実は、隊長の方が血色悪くて、冷たいからな。
うん、夏はいいんだけど。冷感枕みたいで、気持ちよく寝られるというか…。
「いいなぁ、ドラ公。俺より血色悪いし、マニキュア似合うし。」
「喧しい。貧血の冷え性で、悪かったな。君が畏怖くないのは、そういう事じゃないだろう。」
冬は、ちょっと冷たいかな。私が温めてやらないと、という感じになって悪くなかったりして。
「さっきからヒナイチさん、エッチな事考えていませんか?」
「わっ!?ど、どっから涌いて出た!?」
急に後ろから、フォンさんが出て来て、飛び上がってしまった。
「興味ありますね、ぜひ一言。」
「考えてない!考えてないったら!!」
「何?ヒナイチも、ムッツリか?」
若干、身に覚えがあるので、大声になる。しかも、本人の前なんだぞ。
「これ、フォンくん。セクハラになるぞ。そのくらいにしなさい。」
後ろからたしなめる隊長の声と、この騒ぎを聞きつけたミカエラ副隊長に、フォンさんは摘まみ出されてしまった。
助かった…と思いつつ、私はクッキーを頬張る。冷たい紅茶が、別の意味で火照った体に心地よかった。
「すまないね、うちの隊員が。いつもの事だが、笑って許して…よくはないな。」
「い、いいんだ!と、ところで…その。」
話題を逸らしたくて、隊長の後ろの花瓶を指差す。菊の花が、生けられていた。
「こ、この後、何かあるのか?秋分の日には、まだ早いが。」
菊の花に仏事を連想させて、無理矢理話題を逸らす。
こんな時間にお墓参りとは思えないが、隊長も多忙な方だ。あり得ない事ではないだろう。
「ああ、これ。そうか、菊の節句はマイナーだからね。」
「ヌンヌン。」
コーヒーを啜りながら、隊長がジョンと顔を見合わせている。
「菊の節句?」
「何か地味そうだな。」
横で、ロナルドも頬杖をついている。
「重陽の節句と言うんだけど。1/7、3/3、5/5、7/7…までは、現在でも祝うけどね。締めが9/9なんだよ。明日だね。」
「んー、あまり聞いた事がないかもな。」
「節句の日は、陽が重なって陰になる。だから、厄払いや無病息災の祈願をする。桃や菖蒲など、邪気を払う物や食べ物が、主役になる訳だね。」
そういえば、そうだな。
私の誕生日は桃の節句だから、いつもお雛様を飾った部屋で、ちらし寿司や菱餅、ひなあられを食べてたな。
「重陽の節句は、菊が主役なんだな。」
「菊を食うのか。やっぱ、地味そうだな。」
花より団子だな…まあ、ちょっと、私も思ったな。
「ヌフフ。」
「やれやれ、情緒のない5歳児だ。だけど、安心し給え。栗の節句ともいうのだよ。」
クスクスと笑う隊長に、視線を戻す。彼がこういう笑い方をする時は…
「明日、私は非番だからね。ヒナイチくんも、仕事が終わったら来るでしょ?」
美味しいご飯を用意して待ってるよ、の意図があるんだ。
行かない訳がない…美味しいし、何より私達が水入らずでいられる時間だ。
「ああ、分かった。」
「やった、皆で飯が食えるんだな。なあ、何を作るんだ?」
去年は、私がまだ隊長の家にお邪魔する事はなかったからな。それにしても、何を作るのだろう。
「君は、去年も作ってやっただろう。栗ご飯を『ウマイ、ウマイ』と食べてたじゃないか。」
栗ご飯か、楽しみだな。
「ヒナイチくんも、もう成人だからね。菊酒も用意しておくよ。酔わない程度に少しだけ…ね。」
「う、うん。」
それを言われると辛いな。バーの娘だが、私はお酒に弱くてな…隊長に迷惑をかけた事も時々あるんだ。
「それじゃあ、また明日。隊長、ロナルド、ジョン、お休みなさい。」
席を立って、部屋を出ようとする。その時…
「おっと、ヒナイチくん。忘れ物だよ。」
「えっ!?」
スッと、帽子に何かを挿された。そっと手をやると、柔らかい花の感触がした。
「隊長、これ…。」
窓に映る自分を確認する。帽子にピンクの菊の花が一輪挿されていた。
「フフ…さっきの、フォンくんじゃないけど。何を考えてたの?」
背を屈めて耳元で囁かれる言葉。蒸し返さないでくれ、恥ずかしい。
「そ、そんなに顔に出てたか?」
ロナルドより、冷たい手が頬に添えられる。再び、火照りだした顔に心地よい…気持ちいいけど。
よ、よせ。ロナルドもいるんだ…ちゃっかりジョンが、目隠ししてるな。ナイスアシストというか。
「ピンクの菊は甘い夢。うっとりした顔をしてたよ?」
「う、うう…。」
チュッとリップ音と共に、頬に柔らかい感触がした。
「あれ?」
…本当は、唇に期待してたんだけどな。
「続きは、また明日。君の好きな和菓子も作って、待ってるよ。」
明日は、抱き枕では済ませてあげない…耳元でそう締められた言葉にただコクコクと頷く事しか出来ない。
頬を捕えていた冷たい手が離される。
見上げると、久しぶりに、貴方の金色の瞳は狼の様な光を宿していた。
ツン…とアルコールの匂いで目を覚ます。
顔を上げると、安らかな隊長の寝顔があった。アルコールは、寝息からしているのだ。
以前の貴方からは煙草の匂いがしていたけれども、私とつき合いだしてからは禁煙をして久しい。元々、あまり飲むタイプではなく、ビールやワインを嗜む程度だったからあまりピンとこない。
「そっか。菊酒を飲んだんだっけ。」
端午、人日、上巳の節句と違い、地味なイメージの重陽の節句。
『菊を食うのか。何だか地味だな。』
『栗の節句とも言うんだよ。』
『ヌフフ。』
隊長が炊いた栗ご飯。秋ナスの煮びたし、食用菊を飾ったお造りに、黄色い菊が浮いたお吸い物。
勿論、隊長のお手製だから美味しくない訳がない。あっという間に私達のお腹に収まってしまう。
『成人しているから、今年から皆で飲めるね。』
配られた日本酒には、紫色の菊が浮いていた。
『珍しいな。黄色じゃないんだ?』
『そうだな。でも、黄色の花ってよくない意味も多いからな。』
『まぁね。それに、私達それぞれ全員の願いに合うと思って。』
そうヌね。ヌンの願いは、ずっと昔から叶っているヌけど。もっともっと皆といられる様ヌって、忙しくない日もありますようヌって思うヌよ。
紫の菊の花言葉は、「夢が叶う」「恋の勝利」「私を信頼して下さい」だ。
ロナルドの『畏怖い吸血鬼になりたい』の想いも汲んだのだろう。
「私達の場合は、恋の勝利…フフッ。そうだな、隊長。」
私は出会った時から、貴方はこのシンヨコで再会してから…私達はお互い片思いだと考えて、それでも諦められずに、追いかけてきたんだ。
そっと、貴方の鼻にキスをする。腰に回されていた腕に、ギュッと力が入った。さらに、折れそうな細い足が絡みついてくる。
「ちょ…こら。抱き枕で済ませてあげないなんて言ったのは、隊長じゃないか。」
「ん…ひな、いちく…ん。まだ…ここに…。」
甘えたその顔は、一回り年上とは思えないほど可愛い。昨夜のお互いアルコールが入って、歯止めがなかった、荒々しい姿とは大違いだ。
チラリと時計を確認する。起きるには、だいぶ早過ぎる。
「まだまだ、暑いからな。眠り込んでる隊長が悪いんだぞ?」
だから、その胸に頬擦りをして、隊長の肋にキスマークをつける。音を立てて吸うと、貴方の体がビクビク跳ねた。
昨日は、『抱き枕で済ませてあげない』なんて言っていたけれど…すぅっと、さらに隊長の弱い所を撫でる。さすがに、彼も驚いて飛び起きた。
「あっ、はう!?ヒナイチくん!?こ、これ!くすぐった…やめ!!アハハハハ!」
「やっぱり、ヒンヤリして気持ちがいいな!私を抱き枕にした罰だ、まだまだ!!」