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抱き枕では物足りない

全体公開 Δドラヒナ 12 4207文字
2023-12-10 13:16:56

Δドラヒナ前提のみっぴきで、重陽の節句のお話です。今年はまだまだ残暑が厳しかったので、ヒナイチくんが隊長を冷感抱き枕にしてるんじゃないかと思ったりしまして。それに、定期的に書きたくなる、同世代とじゃれつく彼女に嫉妬する隊長を混ぜました。
翌朝、彼女を抱き枕にして寝込んでいたらイタズラされるシーンを追加しました。
2023/09/10に上げました。

Posted by @kw42431393

 「隊長、こんばんは。報告書を持ってきたぞ。」
 今夜も吸血鬼対策課の隊長室で行われる、お楽しみのお茶会。
 メンバーは、いつも同じ。家族同様の私達。 

 「いらっしゃい、今日も暑かっただろう?ゆっくり涼んでおくれ。」
 帽子を脱いで扇いでいる私に、隊長が団扇を貸してくれた。
 「エアコンの温度設定をもう少し下げてあげたいんだけどね。あの本部長め。経費削減だの、自分達の頃はこれぐらいではなどと言いおって。」
 まぁ、外回りに慣れた私は気にしないけどな。
 「大丈夫だ。それでも、朝晩少しはマシになったぞ。」
 そう言うと、隊長が冷たい紅茶とクッキーを出してくれる。

「そうかね、私にはキツイよ。後ろに暑苦しいのがいるからよけいかな。」
 「ヌヒヒ。」
 隊長がからかう様に、後ろを振り返る。ジョンを吸っていたロナルドが、ムッとした顔をした。
 「なんだよ~、暑苦しくねえよ。吸血鬼だから、体温だって低いぜ?」
 暑苦しいのは、見た目というか、大型犬みたいな落ち着きなさというか。
 だが、吸血鬼らしくないのは、本人が一番気にしている。泣かせるのは可哀想だ。
 「どれどれ。」
 そう言って、私はロナルドの手を握ってやる。
 「ちょ、ちょっと!ヒナイチくん。」
 「ヌー。」
 焦った様な隊長の声と、呆れたジョンの声がする。しまった。
 ロナルドがお子さまなので、気にせずスキンシップをとってしまうが隊長もなかなかヤキモチ妬きなんだ。

 『頭はあれだけど、体は成人男性なんだからね。しかも、身体能力はお墨付きの!』

 そうやって、拗ねたのはいつだったか。
 ジョンに窘められる度に反省しているらしいが、それでもついついお小言混りで出てしまうらしい。
 私にとっては呆れるより、可愛かったのを覚えている。たまにはうん。ちょっと、嬉しい。
 「な、どうだ?」 
 こっちは、全く気付いてもいないロナルドの声。そういう意味では、助かるけどな。
 「う~ん。」
 実は、そんなに冷たくないんだ。私より少し低い程度だ。
 「うわ~!やっぱり、俺、畏怖くないのか~!クッソ、どうやったら吸血鬼らしくなれるんだ~!?」



 実は、隊長の方が血色悪くて、冷たいからな。
 うん、夏はいいんだけど。冷感枕みたいで、気持ちよく寝られるというか
 「いいなぁ、ドラ公。俺より血色悪いし、マニキュア似合うし。」
 「喧しい。貧血の冷え性で、悪かったな。君が畏怖くないのは、そういう事じゃないだろう。」
 冬は、ちょっと冷たいかな。私が温めてやらないと、という感じになって悪くなかったりして。

 「さっきからヒナイチさん、エッチな事考えていませんか?」
 「わっ!?ど、どっから涌いて出た!?」
 急に後ろから、フォンさんが出て来て、飛び上がってしまった。
 「興味ありますね、ぜひ一言。」
 「考えてない!考えてないったら!!」
 「何?ヒナイチも、ムッツリか?」
 若干、身に覚えがあるので、大声になる。しかも、本人の前なんだぞ。
 「これ、フォンくん。セクハラになるぞ。そのくらいにしなさい。」
 後ろからたしなめる隊長の声と、この騒ぎを聞きつけたミカエラ副隊長に、フォンさんは摘まみ出されてしまった。
 助かったと思いつつ、私はクッキーを頬張る。冷たい紅茶が、別の意味で火照った体に心地よかった。
 「すまないね、うちの隊員が。いつもの事だが、笑って許してよくはないな。」
 「い、いいんだ!と、ところでその。」
 話題を逸らしたくて、隊長の後ろの花瓶を指差す。菊の花が、生けられていた。
 「こ、この後、何かあるのか?秋分の日には、まだ早いが。」
 菊の花に仏事を連想させて、無理矢理話題を逸らす。
 こんな時間にお墓参りとは思えないが、隊長も多忙な方だ。あり得ない事ではないだろう。



 「ああ、これ。そうか、菊の節句はマイナーだからね。」
 「ヌンヌン。」
 コーヒーを啜りながら、隊長がジョンと顔を見合わせている。
 「菊の節句?」
 「何か地味そうだな。」
 横で、ロナルドも頬杖をついている。
 「重陽の節句と言うんだけど。1/7、3/3、5/5、7/7までは、現在でも祝うけどね。締めが9/9なんだよ。明日だね。」
 「んー、あまり聞いた事がないかもな。」
 「節句の日は、陽が重なって陰になる。だから、厄払いや無病息災の祈願をする。桃や菖蒲など、邪気を払う物や食べ物が、主役になる訳だね。」
 そういえば、そうだな。
 私の誕生日は桃の節句だから、いつもお雛様を飾った部屋で、ちらし寿司や菱餅、ひなあられを食べてたな。
 「重陽の節句は、菊が主役なんだな。」
 「菊を食うのか。やっぱ、地味そうだな。」
 花より団子だなまあ、ちょっと、私も思ったな。
 「ヌフフ。」
 「やれやれ、情緒のない5歳児だ。だけど、安心し給え。栗の節句ともいうのだよ。」
 クスクスと笑う隊長に、視線を戻す。彼がこういう笑い方をする時は 
 「明日、私は非番だからね。ヒナイチくんも、仕事が終わったら来るでしょ?」
 美味しいご飯を用意して待ってるよ、の意図があるんだ。
 行かない訳がない美味しいし、何より私達が水入らずでいられる時間だ。
 「ああ、分かった。」
 「やった、皆で飯が食えるんだな。なあ、何を作るんだ?」
 去年は、私がまだ隊長の家にお邪魔する事はなかったからな。それにしても、何を作るのだろう。
 「君は、去年も作ってやっただろう。栗ご飯を『ウマイ、ウマイ』と食べてたじゃないか。」
 栗ご飯か、楽しみだな。
 「ヒナイチくんも、もう成人だからね。菊酒も用意しておくよ。酔わない程度に少しだけね。」
 「う、うん。」
 それを言われると辛いな。バーの娘だが、私はお酒に弱くてな隊長に迷惑をかけた事も時々あるんだ。
 「それじゃあ、また明日。隊長、ロナルド、ジョン、お休みなさい。」
 席を立って、部屋を出ようとする。その時
 「おっと、ヒナイチくん。忘れ物だよ。」
 「えっ!?」
 スッと、帽子に何かを挿された。そっと手をやると、柔らかい花の感触がした。
 「隊長、これ。」
 窓に映る自分を確認する。帽子にピンクの菊の花が一輪挿されていた。

 「フフさっきの、フォンくんじゃないけど。何を考えてたの?」
 背を屈めて耳元で囁かれる言葉。蒸し返さないでくれ、恥ずかしい。
 「そ、そんなに顔に出てたか?」
 ロナルドより、冷たい手が頬に添えられる。再び、火照りだした顔に心地よい気持ちいいけど。

 よ、よせ。ロナルドもいるんだちゃっかりジョンが、目隠ししてるな。ナイスアシストというか。

 「ピンクの菊は甘い夢。うっとりした顔をしてたよ?」
 「う、うう。」
 チュッとリップ音と共に、頬に柔らかい感触がした。
 「あれ?」
 本当は、唇に期待してたんだけどな。
 「続きは、また明日。君の好きな和菓子も作って、待ってるよ。」
 明日は、抱き枕では済ませてあげない耳元でそう締められた言葉にただコクコクと頷く事しか出来ない。

 頬を捕えていた冷たい手が離される。
 見上げると、久しぶりに、貴方の金色の瞳は狼の様な光を宿していた。



 ツンとアルコールの匂いで目を覚ます。
 顔を上げると、安らかな隊長の寝顔があった。アルコールは、寝息からしているのだ。
 以前の貴方からは煙草の匂いがしていたけれども、私とつき合いだしてからは禁煙をして久しい。元々、あまり飲むタイプではなく、ビールやワインを嗜む程度だったからあまりピンとこない。
 「そっか。菊酒を飲んだんだっけ。」

 端午、人日、上巳の節句と違い、地味なイメージの重陽の節句。
 『菊を食うのか。何だか地味だな。』
 『栗の節句とも言うんだよ。』
 『ヌフフ。』
 隊長が炊いた栗ご飯。秋ナスの煮びたし、食用菊を飾ったお造りに、黄色い菊が浮いたお吸い物。
 勿論、隊長のお手製だから美味しくない訳がない。あっという間に私達のお腹に収まってしまう。

 『成人しているから、今年から皆で飲めるね。』
 配られた日本酒には、紫色の菊が浮いていた。
 『珍しいな。黄色じゃないんだ?』
 『そうだな。でも、黄色の花ってよくない意味も多いからな。』
 『まぁね。それに、私達それぞれ全員の願いに合うと思って。』

 そうヌね。ヌンの願いは、ずっと昔から叶っているヌけど。もっともっと皆といられる様ヌって、忙しくない日もありますようヌって思うヌよ。

 紫の菊の花言葉は、「夢が叶う」「恋の勝利」「私を信頼して下さい」だ。
 ロナルドの『畏怖い吸血鬼になりたい』の想いも汲んだのだろう。

 「私達の場合は、恋の勝利フフッ。そうだな、隊長。」
 私は出会った時から、貴方はこのシンヨコで再会してから私達はお互い片思いだと考えて、それでも諦められずに、追いかけてきたんだ。
 そっと、貴方の鼻にキスをする。腰に回されていた腕に、ギュッと力が入った。さらに、折れそうな細い足が絡みついてくる。
 「ちょこら。抱き枕で済ませてあげないなんて言ったのは、隊長じゃないか。」
 「んひな、いちくん。まだここに。」

 甘えたその顔は、一回り年上とは思えないほど可愛い。昨夜のお互いアルコールが入って、歯止めがなかった、荒々しい姿とは大違いだ。
 チラリと時計を確認する。起きるには、だいぶ早過ぎる。
 「まだまだ、暑いからな。眠り込んでる隊長が悪いんだぞ?」

 だから、その胸に頬擦りをして、隊長の肋にキスマークをつける。音を立てて吸うと、貴方の体がビクビク跳ねた。
 昨日は、『抱き枕で済ませてあげない』なんて言っていたけれどすぅっと、さらに隊長の弱い所を撫でる。さすがに、彼も驚いて飛び起きた。

 「あっ、はう!?ヒナイチくん!?こ、これ!くすぐったやめ!!アハハハハ!」
 「やっぱり、ヒンヤリして気持ちがいいな!私を抱き枕にした罰だ、まだまだ!!」


 

  

 



   
  


 



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