暗いお話が続いていた反転ドラヒナですが、やっとお嬢ルドくんが出てきます。捏造設定で、東欧に語学研修に行っていた事になっております。
そして、反転ご真祖様とお話合いをします。反転ドラルクさんの過去、真ミナ要素、捏造設定にご注意下さい。
お嬢ルドくんとお茶をする前に、串刺し公だった昔を思い返すご真祖様のモノローグを追加しました。
2023/09/26に上げました。
@kw42431393
「久方ぶりだね、同胞。」
「これは、竜の血族の…何かご用ですかな?」
私もかつて反人間派に属していたから、彼らの顔に見覚えがある。
もっとも、彼らは『愚かな人間共は、強大な力を持つ我々の食料、労働力としての家畜たるべき』という『崇高な思想』の元に動いていたのだ。
そして、それは今もだ…私の様に『スリルに事欠かないから』という不謹慎な理由ではない。
「この近辺で、君達に問題を起こされては困るのだよ。この地域は、ヒナイチくんの管轄だ。」
「ヒナイチ…吸血鬼対策課の副隊長の名前か。まさか、噂通りとは思いませんでしたな。誇り高き高等吸血鬼の貴方ともあろう者が。」
あぁ、噂になっているらしいね。
自分の監視員に入れ揚げて、同胞の情報を流している、それどころか、同胞狩りまでしている…そう言いたいのだろう?
「何とでも言い給え。私にとって、その価値がある。君達の薄汚い手で、触られたくないのだよ。」
「…み、見損なったぞ!そんな理由で、昔からのつき合いある我々を…!!」
動揺した彼らの声を合図に、「ギィィ!!」と義眼が音を鳴らす。周辺の空気がピキピキと音を立てて…
「ニュースで見ていた時は大した事はないと、高を括っていたのだが…思ったより大掛かりな事件を企んでいるらしいね?」
「…!?」
「それでは…さようなら。永遠に。」
塵の塊を川に流す。知らず、口角が上がる。
これで、当面ヒナイチくんの身辺に危険はなくなる。
今夜も彼女が、監視の為に私の元に来てくれる。
我々夜の者は亡くなると、昼の子と違って遺体は残らない。塵だから、川に流してしまえば証拠も残らない。簡単なものだ。
そして、彼らは行方不明扱いになる。仮に、私が同胞狩りをしていた事が、バレたとしても…
「…お父様からか。仕方がない。」
スマホの着信音に、溜息をつく。今までなら、無視する事も珍しくない。しかし、これからはそうはいかない。
仮に、私が同胞狩りをしていた事がバレたとしても…これからは、お父様達の力で揉み消して貰う必要があるからだ。
「もしもし、お父様。」
「あ、ドラルクや。やっと、電話に出てくれたね。中立派の同胞に、繋ぎを取って欲しいと言われていた件だがね。あの日程でよかったかね?」
不機嫌な私の声とは対照的に、嬉しそうな父の声。未だに私を溺愛する両親の姿が思い浮かんで、溜息をついた。
いつだったか…8歳ぐらいだった様に思う。強い力を持って生まれてきた私は、由緒正しい両家の嫡孫という事もあって、期待されて育ってきた。
元々、甘やかされていたのは間違いない。それが決定的になったのは、その時分に起こった事件からだ。
念動力で飛行していて、コントロールを誤り、3階の高さから落ちたのである。植木がクッションになってくれたおかげで、私は命を拾った。慌てて、両親は最上級の生き血ボトルを我が子に与えたが…この体は再生しなかった。
生き血ボトルは、人間達でいう消炎鎮痛剤程度の効果しかなく、ギブスをはめられて数か月間、幼い私はベッドの上で、寝たきりの生活を余儀なくされたのだ。
親の心境として、仕方がなかったとは思うが、『我が子が不死身ではない』と知った両親の、それ以後の甘やかし方は尋常ではなかった。どんな違法行為も免除され、欲しい物は何でも与えられた。
そして、『自分が不死身ではない』と知った私の恐怖は、いつしか『どうせ死ぬのであれば、やりたい事をやってから死んでやる』という捨て鉢な性格にすり替わり、ジョンと出会うまで、散々両親を心配させたものだった。
今もだと?これでも、当時よりはずっと気を付けているのだ。
出会った時から気づいていたが、彼は私の半身だ。ジョンは私の使い魔になった時から、覚悟はしてくれているが、彼を道連れにする訳にはいかないからだ。
「ええ。区長である彼と交渉できれば、こちらで起こる吸血鬼犯罪に加担する同胞も減るはずです。今回の情報提供も感謝致します。それでは。」
「あぁ、待っておくれ。」
さっさと電話を切ろうとする私を、焦った父の声が引き留める。
チラリと、東の空に目をやる。季節柄、多少夜明けは遅くなっているが、あまり好ましくないものだ。
「何ですか?」
「お父様は嬉しいんだよ。昔は、反人間派の同胞と組んで戦場を駆けずり回って、いつも危険に身を晒していた。その右目を戦いで失ってからは、療養と言って何十年も引き籠り…それが、吸血鬼対策課から監視に来てくれる副隊長さんのお陰で、変わったじゃないか。」
電話越しでも分かる。
期待しているのだろう…両親からすると、ヒナイチくんのおかげで、私が心を入れ替えた様に見えているのかもしれない。
残念ながら、全くのハズレだ。
「だから、そのお嬢さんにパパとミラさんはお礼が言いたくて…。」
「ご遠慮下さい。彼女は、多忙な身なのです。」
一方的に、電話を切る。これ以上は、無駄な事だ。どうせ、会う時間の都合を聞きたいのに決まっている。
「お父様達にも見せるつもりなどない。あれは、秘蔵の雛鳥だ。」
誰にも触らせたくない。見せたくない。
いいのは、私とジョンだけだ。
だから、彼女と敵対するだろう同胞、特に彼女の手に余りそうな敵性吸血鬼…彼女が対峙する事になる前に、片っ端から私が消してやる。
ドラルク様、おかえりヌ。
「ただいま、ジョン。すまないね、思ったよりかかってしまった。」
朝食を並べていたジョンが、出迎えてくれる。彼に後を頼むと、私は地下への扉を開けた。
血や泥に汚れたマントを脱ぎ棄て、シャワールームに足を向ける。戦場の匂いを落としていると、棺桶に閉じ込めてきた可愛いリスの寝顔が、脳裏に浮かんだ。
露払いをしていた事は、彼女には秘密だ。プライドの高い彼女は、それを知ると怒るだろう。
だが、問題はない。証拠は全て消したはずだ。実行部隊の連中は、たった今、暗殺してきた。
後に残っている連中なら、市民の避難誘導があっても、吸血鬼対策課だけでも事足りるはずだった。
パスワードを打ち込んで、棺桶の蓋を開ける。
シーツのみを身に纏い、赤毛を乱した扇情的な姿と対照的に、安らかなその寝顔は、いつも私の心を満たしてくれるのだ。
「…おはよう、ヒナイチくん。大丈夫かね?そろそろ、昼の子の時間が始まるよ。」
そっと額に口づけを落とすと、彼女がハッと目を覚ました。
彼女は私を突き飛ばすと、泣きそうな顔でシーツを掻き寄せて、シャワールームに逃げていってしまう。
これが、私達の歪んだ日常だった。
「今日も返すしかないのか…昼の世界へ。今の所は…」
私達を隔てるどうにもならない壁。取り払うには、彼女を吸血鬼にするしかない。
当時の私は、それしか解決策が思いつかなかった。
彼女に考える時間をあげて欲しいヌ。あんなに傷つけて、結論を急かすなんて残酷だヌ。
ジョンがそう言って止めるから、決定的な行動は諦めたのだ。代わりに、彼女には毎晩ここに来るしかない理由と状況を作り上げていく事にした。
得意の手料理で掴まれた胃袋、彼女が担当している案件の情報提供、幼さを残した彼女が求める…甘えさせてくれる父性、新たに教えられた女性としての快楽を満たす事で。
「ひっく…ひっく。」
シャワーの水音に紛れて、すすり泣く声がする。
感情と身体が一致しない事実が、エリート戦士としてのプライドを傷つけている事は、知っていた。
その反面、これは私達の最低な関係の始まりが、あの事件だった事に起因していたのかもしれない。
「少しでも早い、被害が出ない事件解決には、彼の協力が必要だ」
「その対価に渡せる物は、この血と身体しか自分は持ち合わせていない」
妙な概念が、彼女の中で固着していたらしかった。
中毒に陥っていたのは認めるが、この棺桶の中で私の求めに応える選択肢を取るしかない、とも考えていた…これは、後の彼女から聞いた話だ。
「何故拒むのかね。慣れてしまえば、そんなに居心地の悪いものではないはずだ。だから、今宵も夜の世界へ帰っておいで。」
もう7時になっていた。私は、棺桶に体を横たえる。
微かに残る昼の子のぬくもりを感じながら、私の1日は終わりを告げるのだった。
「ロナルド。驚くなよ?お前にすごい方から連絡が来ているぞ。」
「あら、マスター。すごい方ですって?それは、どなたからでしょう?」
一人でも多くのお吸血鬼さんとお友達になる方法…やはり、一番は彼らの母国語を習得するお事でしょう?
そう思って、東欧に足を踏み入れたのは半年以上前のお事でしたわ。それから、あちこちのお国を行脚いたしました。
どうでしたかって?それはもう、お充実しておりましたわ。お危険も多々ありましたけどね。
日本はお吸血鬼さんの存在が認識されたのが遅かったお事もありますけれども、やはり、彼らのルーツは欧米圏、とりわけ東欧にあるのです。
とはいえ、近代に入ってからキリスト教が強い欧米圏より、宗教色が薄い日本に移住してくるお吸血鬼さんも多うございますの。
だから、彼らは流暢な日本語を話せるお方々も多いのですけど、私自身、彼らの本当のお言葉を聞きたい…というのもお理由にございましてよ
「聞いて驚くなよ?」
研修に来た私を世話して下さっている、ルーマニアの退治人ギルドのマスターが、重ねて聞いて参ります。
妙にもったいぶりますわね。
「いやですわ、どんなお相手でも驚きません事よ!」
「ぎゃっ!!ちょっとは、遠慮しろ!」
すいませんわね、ついついお手が。どんな凶悪なお方でも、お茶を飲んでお話合いをすれば、出来ない事はないはずですもの。
「あのヘルシングと対決した…竜大公様だ。お前に直々に会いたいと。」
「まぁ!まぁ!!あのお方ですの!素敵ですわ!ここに来た甲斐があったというものですわ!!」
私、明日には帰国の飛行機に乗らなければなりませんの。だから、こんなに嬉しい事はございませんわ。
「あのお方から、尊敬するヘルシング様のお話も聞きたいですわ!それに、それに!!」
「ヘーイ!もちろんデース!!マイフレンド アルミ二ウスの話もして、それに、ユー自身のお話も聞きたいデース!」
後ろから楽し気な…それでいて重みのある低いお声が聞こえた、と思った瞬間でしたわ。
バリィーン!!
窓が弾け飛ぶ音と共に、私はあのお方と一緒に満月の夜空を飛んでおりましたの。日本を発つお前夜の、忘れられない素晴らしいお夜景でした。でも、その夜景を満喫する前に、私には言わなければならない事がございましてよ。
「竜大公様!ご挨拶前に言うのも、ご無礼ですけど!お野蛮ですわ!!」
「ソーリー。あとで、ちゃんと弁償シマース。」
お噂通りのお方ですわね。
でも、なんとなく…私は違和感を感じておりましたの。
「竜大公様、どちらへ?」
「ミーの居城デース!」
「そうですの…遅ればせながら、私は日本の新横浜から来ました、吸血鬼退治人のロナルドと申しますわ。」
「ミーの名前は、いっぱいありマース。例えば…」
「×××××様…私は、貴方と本音でお話合いをしたいと思っております。本当のお喋り方で、ご結構ですのよ?」
私を掴んだまま、彼はピタリとお静止いたしましたの。怖かったかですって、そんなお事はございません。ただ、お威圧感だけはございました。
「そうだね、そうしよう。よく分かったね。この喋り方は、相手を怖がらせない様に努力している間に、身に染みついたもの。じゃあ、君には不要だ。」
満月を逆光にその赤いお瞳が、煌めきます。私がこの世で見てきて、本当にお美しいと思ったものの、お一つでしたわ。
「君は、アルミニウスに似てるね。その君に、頼みたい事がある。まずは、私の城で『お話合い』をしよ。」
退屈だ、退屈だ。暇なのは嫌だ。
目の前の戦場を眺める。祖国に攻めいってきたオスマン・トルコ軍の無惨な姿を見る。
「う…うぅ。」
「ば、ばけもの…め。」
まだ、生きていた者がいたの。まあ、手加減したし…簡単に死なれると、またすぐ暇になるし。
念動力で、周辺の木をへし折ると地面に次々と突き立てた。雑にやったので、先が尖ったのもそうでないのもある。
別に、悪くないよね…国民からすれば仇討ちだし。勝手に私を英雄だと言ったり、独裁者だと言ったりしてるけど、どうでもいい。
人間達が勝手に起こした戦争に乗じて、暇を潰してるだけ。ついでに、我々吸血鬼が持つ畏怖欲を満たしてるだけ。
「うわっ…な、何を!?」
「助けてくれ!」
「ちくしょう!くたばれ、くしざしこ…」
ザグッ!!ドスッ!!
「×××××様!万歳!」
「祖国に栄光あれ!」
念動力で生き残った者達を、一気に刺し殺す。ちゃんと先を尖らせてなかったし、急所を狙った訳ではない。即死しなかった者達のうめき声と、国民の畏怖と歓声を堪能する。
でも、それで得られる満足感も短い間だけ。暇になると、イライラする。
訳もなく、他国へ行って、人間も同胞を襲って、殺して、焼き尽くして、喰らい尽くす。
そんな事を繰り返していた頃だった。
「やめろ!×××××!」
長い赤毛に、眼鏡ごしでも分かる、意志の強い翡翠の瞳。白い羊膜を被って生まれてきた、吸血鬼殺しの女性と出会ったのは。
「おやおや、これは美しいお嬢さん。私に何かご用かな?」
話し方が違う?まあ、こっちが素だけどね…この話し方だと畏怖して貰えないでしょ?だから、無理して、『畏怖い吸血鬼らしい』喋り方をしてたの。
「無闇に殺すのはやめろ!僕は、お前を止めに来たんだ。」
月を背負って、スラリと剣を構えた姿を今も思い出せる。
死んで500年経っているのに、今も私を執着させている、可愛い昼の子。死んだ君の血を吸って、私自身になったはずなのに、その執着は変わらない。
私が今の性格になったのは、君に笑って欲しい一心だった。残虐行為をやめたのも、恐怖政治をやめたのも…そのせいで祖国がオスマン・トルコに負けてしまったけど…ま、それはどうでもいいや。
「お名前を伺っておこうかな?お嬢さん?」
「お嬢さんなんて呼ぶな。僕の名前は、ミナだ。」
神の祝福を受けたとはいえ、実力の違いはどうにもならなかった。負けた彼女を私は連れ去った。そして、周りには「捕虜を愛妾にした」と言って、居城に閉じ込めた。
そして、ドラウスが生まれたのだ。母親に似たのか、母親の望む世界を作りたかったのか…息子はとても真面目な人柄に育った。
私?私は…また、後で説明するね。
『お父様、聞いて下さい!ドラルクが、心を入れ替えたんです!最近、反吸血鬼派の同胞とは手を切って、吸血鬼対策課に協力的になったんです!』
いつだったか…ドラウスから電話が来た時、私は孫に意中の人か親友が出来たのかと思った。誰も信じてくれないけど、彼は若い頃の私とよく似てる。
誰か影響を及ぼす人がリードしてやらないと、行動しないタイプだと、私には分かっていた。
「それはいい事デース!早速、ミーも日本に行きマース!お祝い、お祝い!赤飯炊く?」
『そ、それが…その切っ掛けになった、監視員の副隊長のお嬢さんにお礼がしたいと…何度も言ってるのですが、ドラルクが嫌がって。』
会わせてくれない…か。そ、何か分かった気がするね。だから、調べた。
運営は、真面目な息子夫婦に丸投げして、遊んでるけど、今も私が一声かけると、皆その言葉に執着する。逆らう事は出来ない。
そして、結果は予想通りだった。
ドラルクは、その副隊長のお嬢さんに、私がミナにしたのと同じ事をしていた…押し付けた執着が生む結果は、悲しいもの。
確かに、ミナが死んだのは病死。吸血鬼にしなかったのは、彼女の意志。でも、もっと悔いのない選択があったはず。
私だってマイフレンドに会うまで、考えた事がなかった。何百年も気づかなかったのだ。
『竜大公様?どうかなさいまして?』
扉を前にフリーズしちゃった私を、ロナルドくんが覗き込んでくる。
マイフレンドに似た、不思議な青年。
もしかして、もしかするよね?
「別に。さ、どぞ。」
ドラルク、お前はラッキーだ。
たぶん、そのお嬢さんを苦しめたまま終わらせてしまう前に、考え直すきっかけと、これから出会う事が出来るのだから。