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ベツレヘムの星に抱かれて

全体公開 第五 ハス探
2023-12-24 00:09:13

クランプス🐙×🎄バトラー🧲なハス探のクリスマス2023

Posted by @hirop573


「へくしっ」
人里離れた一軒のロッジで、外の雪が降り積もる様を窓から見ながらノートンはくしゃみ一つ身震いした。
暖炉の薪は大量に焚べられており消えることはなく、それ故に暖かさのあるその場所から離れられずにいる。かのひとに与えられた羽織りを被り揺り椅子に深々と座り直すと、だだっ広い空間で椅子が軋む音だけが響き、今は一人なのだと改めて認識してしまう。
(すぐに戻るから家にいろっていったのはあんたじゃないか。それが、どうして)
待つことには慣れていたはずだったのに、この仕事を始めて相棒と呼べる存在が出来てからそれが出来ないでいるのだ。それもこれも飴と鞭の使い方が上手い相手のせいだろう、と心の中で愚痴をこぼす。



クランプス。
とそう告げた彼は人間ではなく悪魔なのだと言った。
確かに一目瞭然だった。足は木の幹で歩く時は這い、フード越しに見えた無数の目は金色の輪で光輝いているのだから、どう見ても人間ではない。ただ、悪魔とも思えない。身に纏っている服がこの時期に相応しいサンタそのものの服だったからだ。悪魔と言い切る方が難しい。
そしてそんな悪魔がノートンの従者になると付け加えてきたのだ。そもそもこの仕事に従者は必要だっただろうか?と思うが、困惑しているうちになぁなぁに流されてしまった。
後に聞けばクランプスという存在は悪い子供に罰を与えるらしく、今のノートンの仕事である良い子に贈り物をする内容と正反対だ。それがどうして自分に、と考えるとキリはないが。
ただこのクランプスと共にしてきていて分かったことがある。
良い子というのは余りにも希少なのだということだ。
人の数は膨大でノートンだけがこの仕事をしているわけではなくもちろん同業者がいる。その彼らが口を揃えて言うのだ。最近の子供は悪知恵が働き夜ふかしをするのだと。
実際にノートンも危ない目にあった事がある。玄関に近づくと子供達が飛び出てきて捕えようとしたり、挙句には親の目を盗んで凶器を取り出してくることもあった。同業者の嘆きに激しく首を振って頷いたのが蘇ってくる。
そしてここからがクランプスの本領発揮になる。
夜更かしをした子供の意識を奪い、夢の中で仕置きをするのだと彼は言い、次の日には行方を眩ましてしまうと。やりすぎではないかと思ったが、凶器を振り翳すレベルの子供には妥当なのではないかと思うのも事実であり、己が身も経験した事があるために強く言えなかった。主であるノートンに危害を加えた子供にはより重い罰を与えたらしく、それを聞いて少しニヤけてしまったのは秘密だ。

そんな人間のような悪魔が今のノートンの相棒だ。


思い返して時間を潰していたが未だ帰ってくる気配がない。ゆらゆらと椅子を軋ませたり寝ようとしても、僅かに期待してしまった心は落ち着いてはくれない。
(この日は予定を空けておけっていったから仕事片付けたのに)
本来今日はクリスマスイブと言われる日だ。ノートンの仕事柄多忙な時期になるが、言われた予定を作るために街中を走り回り見事自分の仕事量を終わらせることに成功した。それなのに、だ。
いつもは一時も離れようとしない彼がどうして、と怒りよりも悲しみが優ってくる。
「クランプスのばーか」
『その様な苦言を零す者と共に過ごした覚えはないがな』
「!」
背後から聞こえる声に勢いよく振り返った。見慣れた服、見慣れた目に浮き足立つが、素直になれずふいとそっぽを向く。
「遅い。何してたのさ」
『人の子で言う野暮用、というやつよ。なんだ不貞腐れおって。それ程待ち侘びておったか』
「ち、がう!」
揶揄う声と共にクランプスの分身である幹がノートンの頬をつつき、振り払おうとすればその手に巻きつき引っ張られる。その拍子に他の幹がノートンを捉えると瞬く間にクランプスの手元に掬われていった。
……っ」
眼前に広がる黄金の輪は朧げに輝き興味深く見つめてきている。照れ臭くなり目を逸らすが笑い声と共に名を呼ばれ渋々目線を戻した。
「僕怒ってるんだけど」
『その其方の機嫌をとっている』
「とる気ある?」
『多少は』
……ふは。あるんだ」
小さく笑えば、忙しなく動いていたクランプスの目も緩やかになる。それと同時に目の前に小箱が差し出され、困惑と共に受け取ると彼は開ける様に催促してきた。
「何これ」
丁寧に包装されたそれを解いてみれば一つの指輪が入っている。取り出して見つめてみると、何となく自分の指の幅に合う大きさのようでどっと顔が火照る。
これはまるで。
(結婚指輪じゃないか!!)
慌てて箱に戻し蓋を閉めた。その行動が奇怪に見えたのか、クランプスはノートンを伺うように顔を近づける。隠れきれるとは思っていないが咄嗟に小箱に顔をうずめてしまう。
『どうした、望んでいた獻禮であろう。疾く顔を見せよ』
「わざとやってるだろ!?」
『これを与えれば人の子は喜ぶと思うておったがな。それとも何か、子の命でも所望す、』
「ワーーーーッ!!黙ってもう!!」
喜んでいるのは事実だ。けれど思った以上のプレゼントで頭が追いつかず、狼狽えてしまうのが精一杯で顔をあげる事ができない。
クリスマスにはプレゼントをあげるんだよ、と教えたのはいつだったか。ここ何年とそんな事はしなかったはずなのに今年のクランプスはそれをしでかした。
したとして精々外で拵えてきた家具なり寄越してくるのかと思っていたからだ。それが今回は人間の、ましてやプロポーズともいえるような指輪なのだからたまったものではない。苦楽を共にしてきた相手だからこそ尚更だ。更にクランプスは追い討ちをかけてくる。
『長年衣食住を共にし、挙句夜を共にした相手。献上する理由としては充分であろう。何より』
近づいていた目から囁く声が届き耳に沁みていく。空気を読んでいるのか心なしか薪の弾ける音が小さいのはクランプスの仕業だろうか。
『指輪というものは心身を縛る物。この意味を知らぬ其方ではあるまい?ノートンよ』
「っ!!………、っ!」
完全に確信犯だった。その言葉が聞こえた途端体は縮こまった。家を飛び出したい気持ちに駆られたが、既にクランプスの腕の中であり抜け出す事は困難だ。羞恥心が限界に達し涙ぐむ。
クランプスという存在は悪魔ではなかったのか。
いいや。
悪魔の所業そのものといわれても納得ができる。
「やめてくれ。これ以上、僕を
(喜ばせないで)
『受け入れよ』
「嫌だ」
(手放せなくなる)
『我に其方の一生を寄越せ』
……………!」
人間のような口説き文句。ノートンの性格上、抗うには無理な相手であった。このひとになら委ねてもいいと一瞬でも思ってしまえば負けなのだ。
ん!」
………
ずい、と空いている左手をクランプスの眼前に差し出す。
「嵌めてくれるんだろ。その指輪はそういうものなんじゃないの」
『クハハ。開き直りおって。よかろう』
クランプスの幹から見れば小さい指輪を器用に摘み、しかし突き出された手を過ぎ去り利き手である右手に迫った。きょとんとしたノートンを他所に指輪は右手薬指に嵌っていく。細いリングに充てがわれた小さな宝石はノートンでも見知らぬものだった。けれど煌めいて目が離せないのは彼からもらったせいだろうか。
「なんで右手なの」
『この地域ではこちら側のようでな。無頓着な其方の護身用といえよう』
……普通にお守りって言えないのか、あんた」
『我ぞ』
「威張んないで」
『して、ノートンよ』
「なに」
寄越せと言わんばかりにクランプスの幹がうねる。疑問符を浮かべクランプスを見つめると、呆れたため息が彼から吐き出された。その反応でますます疑問を募らせるばかりだ。
『我に貢物を供せよ。よもや享受するのみではあるまいな?』
「あ、忘れて……だってあんたがこんな物用意するから!」
『他人に責を擦るか。聖なる務めを果たす者とは思えぬな』
「ぐ。で、でも」
指輪と同等の価値があるとは思えない。既に場所は知られてるだろうが、そこは人間の習性か口を噤んでしまう。クランプスは察しているはずだ。ただノートンを揶揄うためだけにこの問答をしているに過ぎない。
『我が拾うてやっても構わぬがそれは野暮というもの。そうであろう』
……文句言わないでよ」
静かに降ろされ渋々用意した箱を取りにいく。指輪が入っていた小箱より数倍もあるものの、それより少し重たいぐらいの控えめな箱だ。幹が器用に開けるとそこには一つのマフラーが収められていた。
『ほう。襟巻きか』
「あんたの指輪には負けるけど」
『否』
「え?」
『親しい者から貢がれる物は等しく価値のあるもの。我はそう認識している』
「〜〜〜〜っ!今日のあんた浮かれすぎじゃないの!」
『そうやもしれぬな。さて』
「!」
マフラーを差し出され、ずいと顔を近づけられればやる事は分かってしまう。お前の手でつけてみろと。
囃し立てるように薪がパチっと弾け、外の雪は轟々と唸っている。観念はしたが羞恥心は消えず、赤くなった頬をそのままに背伸びをしてかけていく。
「首絞めちゃうかもね」
『我にあると思うか?』
「え?…………?」
『冗談だ』
腹が立ったので前をリボン結びにしてやった。元々の見た目のせいか、より愛らしさに磨きがかかったように感じぷっと吹き出してしまう。小突く手はどことなく優しい。
まだ言ってなかったね」
『そうさな。肝心な言霊よ』
片や屈み、片や背伸びをして抱擁を。悪魔であってもやはり誰かといるのは暖かい。そんな事を思いながら大事な相棒に言葉を贈る。言ってやるのは恥ずかしいから、これからもどうか共にいられますようにと思いを込めながら。

「メリークリスマス。今年も良い夜を」
『祝そう、聖なる夜を』


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