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Rabbit March〜Magia Notes Part.31〜

全体公開 ツイステ二次創作 13763文字
2023-12-31 19:34:45

青空の下、薔薇の王国のお祭りで白うさぎたちの行進が始まる。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第31話。
※創作女監督生の名前が出ます
※捏造設定あり

Posted by @natsu_luv

季節が少しずつ夏へと向かっている。
暑い日が続き、外を歩くだけで身体が汗ばむ。
ある日、グリムが寝坊したせいで私は慌てて教室へと向かっていた。
教室まであともう少しのところで、私とグリムはデュースくんにばったり会った。
どうやら、デュースくんも盛大に寝坊したらしい。
遅刻したら、クルーウェル先生から大目玉をくらってしまう。
私達は必死になって教室へと駆け込んだ。
なんとか間に合ったけれど、その五秒後に恐い表情をしたクルーウェル先生の姿を見て震え上がったのは言うまでもない。

昼休みになり、私とグリムは廊下で会ったエペルくんとオルトくんと一緒に大食堂でランチをしていた。
そこにデュースくんもやって来て、話題が今朝のことへと変わっていった。
エペルくんとオルトくんに茶化され、デュースくんとグリムは必死に弁解していた。

「ねぇ、デュースくん。夜遅くまで何をやってたの? 勉強……ではなさそうだけど」
「母さんと長電話をしていたんだ」

私からの問いに答えたデュースくんは、お母様との長電話の内容を話してくれた。
どうやら、今週末の日曜日にデュースくんの地元である薔薇の王国の時計の街で『ホワイトラビット・フェス』というお祭りが開催されるらしい。
お祭りという言葉にグリムが食いついている。
そこで、デュースくんが一緒に行かないかと提案してくれた。
この場にいた私とオルトくん、エペルくんは、皆揃って行きたいと答えた。
『ホワイトラビット・フェス』のことで盛り上がっている最中のことだった。
耳馴染みのある声がデュースくんの後ろから聞こえてきた。

「デュース」
「うわぁ、シルバー先輩!?」
「お前たちに頼みごとがあるんだ。目覚まし時計をひとつ買ってきてくれないか?」
「目覚まし時計……ですか?」

今朝、シルバー先輩も寝坊をしてトレイン先生にこっぴどく叱られたらしい。
目覚まし時計を四つもセットしていたみたいだけど、それでも朝寝坊してしまったようだ。
せっかくだから、シルバー先輩も連れて薔薇の王国へ行きたい。
そう思っていた矢先、デュースくんが一緒に行かないかとシルバー先輩にも提案してくれた。
こうして、私はシルバー先輩と一緒に『ホワイトラビット・フェス』へ行けるようになった。
そろそろ、午後の授業の始まりを告げる鐘が鳴る。
私達は席を立ち、それぞれの目的地へと向かった。

放課後になり、部活帰りの私はグリムと合流してオンボロ寮へと向かった。
宿題を終わらせ、夕食の準備を始めようとしていた時、シルバー先輩からメッセージがスマホに届いた。
『ホワイトラビット・フェス』に同行できることが嬉しいと書かれていた。
私も楽しみにしています、と返信のメッセージを打ち込んでいく。
嬉しい気持ちを届けるかのように、私は送信ボタンをタップした。
夕食を済ませてからも、私はシルバー先輩とメッセージのやりとりをしていた。
日曜日が来ることを楽しみにしながら、私とグリムは今日の残りの時間を過ごした。



待ちに待った日曜日。
どちらかが寝坊することなく、私とグリムは無事に待ち合わせ場所である鏡の間へたどり着いた。
鏡の間にはシルバー先輩以外のメンバーが勢揃いしていた。
バタバタと大きな足音が聞こえてきた。
入り口の方へと目をやると、慌てた様子のシルバー先輩が姿が視界に入ってきた。

「すまない。また寝坊してしまった……
「間に合って良かったです」
「よし、全員揃ったな。では、薔薇の王国へと行きましょう!」

鏡の中へ飛び込むと、真っ白な光が辺りを包み込んだ。
白いもやが晴れた瞬間、色鮮やかな花々と草木に囲まれた庭園のような場所にたどり着いた。
この場所が『ラビット国立公園』、ホワイトラビット・フェスの会場だ。
デュースくんがガイドブック片手に、ラビット国立公園のことを紹介してくれた。
私達がいる場所は『時計広場』といって、ホワイトラビット・フェスのメイン会場でもあるそうだ。

広場の中央には、ラッパを吹いている白うさぎのトピアリーが君臨している。
うさぎの形に刈り込まれた植木も可愛らしい。
お祭りの屋台の周辺は大勢の人々で賑わっている。
時計広場をうろうろしていると、デュースくんを呼び止める声がした。
振り返ると、宅配ドライバーのような装いの美しい女性がいた。

「あっ、母さん!」
「デュース、着いたら連絡してって、アタシ言ったよね?」
「ごめん、みんなにラビット国立公園を案内してたんだよ」
「もう、ずっと待ってたんだからね。そうだ、アタシはディラ、デュースの母です。よろしくね」
「はじめまして、ニコル・シャーロンです」
「オレ様はグリム! よろしくなんだゾ!」

私達は各々、ディラさんに自己紹介をした。
自己紹介を終えた後、ディラさんは私達への頼みごとについて話した。
ディラさんが働いている会社である『シロウサ宅配便』のブースがホワイトラビット・フェスに出展しているという。
今回はそのブースの近くで呼び込みをしてほしいとのことだった。
その時に白うさぎの衣装を着てほしいと言われた。

「あの衣装……可愛いから嫌なんだよなぁ」
「恥ずかしいよね……
「そう? 私は着てみたいかな」
「俺は構わないが」
「僕も着てみたい!」

お祭り会場には白うさぎの耳飾りやしっぽを付けている人もたくさんいる。
せっかくのお祭りだから、華やかな衣装を着て歩き回るのも良いだろう。
デュースくんとエペルくんは乗り気では無かったけれど、オルトくん、シルバー先輩、私とグリムは快諾した。
お祭り衣装に着替えるため、私達はディラさんにデュースくんの家まで車で送ってもらった。

シロウサ宅配便のミニバンに揺られ、私達はデュースくんの家までたどり着いた。
ディラさんが選んでくれた衣装を受け取り、私達は衣装に着替えた。
オルトくんとデュースくんは3Dプリンタを借りに、近くのマジカルホイールのエンジンパーツの工房へ向かった。
私の衣装は時計広場にあった白うさぎのトピアリーのような衣装だ。
鮮やかな赤色と青色のコントラストが映える。
さっそく衣装に袖を通し、グリムにリボンを付けてあげた。
着替え終わって外へ出ると、同じくお祭り衣装を身に纏ったシルバー先輩たちが待っていた。

「うわぁ、皆さん素敵ですね!」
「ありがとう。ニコルもよく似合っているぞ」
「最初は恥ずかしかったけど、皆と一緒に着てるから楽しい……かな」

お祭り衣装を着た皆の姿を見ながら話していると、オルトくんとデュースくんが戻ってきた。
3Dプリンタで造られたオルトくんのギアは、本物のうさぎのような動きにするために飛行機能を外したものになっているらしい。
デュースくんが物陰に隠れている。
ディラさんに促され、ようやく衣装に身を包んだデュースくんが姿を現した。
青を基調にしたクールな色合いと華やかなダイヤの柄が素敵な衣装だ。

「デュースくんもかっこいいね!」
「ありがとう。派手で恥ずかしいって思ってたけど、皆に褒められると悪くないかもな」

デュースくんが照れたような微笑みを浮かべた。
皆が揃ったところで、デュースくんに記念撮影をしようと提案された。
エペルくんとデュースくんが背中合わせで腕を組んだポーズをとっている。
私はオルトくんと一緒に手でハートを作ってみせた。
可愛らしいオルトくんと一緒だと、まるでアイドルになったような気分だ。
グリムがその場でぴょんぴょんとジャンプしている。
デュースくんがディラさんに自分のスマホを手渡した。
ディラさんがスマホを構えているけど、一向にシャッターが切られない。

「あれ? どうやってシャッター押すの?」
「母さんが機械音痴なことを忘れてた……
「もう、スマホは最低限の機能だけでいいのよ」
「デュースの母君の言うとおりだな」
「シルバー先輩……

シルバー先輩の発言を耳にした時、ふと最近あった出来事を思い出した。
中庭でお茶会をしていた時、シルバー先輩にダウンロードした音楽がイヤホンから流れてこないと言われたのだ。
原因は単純なもので、イヤホンから音が流れるように設定されていないだけだった。
その時もシルバー先輩はディラさんと同じような発言をしていた。

なんとか記念撮影を終えた後、ディラさんが会社から呼び出された。
ホワイトラビット・フェスまでまだ時間がある。
ちょうどデュースくんの家の近くに郷土資料館がある。
嬉々とした表情でオルトくんが入ってみたいと言い出した。
グリムとデュースくんは最初こそ乗り気ではなかったけれど、他のメンバーに押されて郷土資料館に入ることを了承した。

郷土資料館の中は思っていた以上にアクティブな展示が多かった。
体の大きさが変化するクッキーや『手袋探し』と言う名前のアトラクション、滑り台のような出口。
どれも白うさぎの伝承に由来したものらしい。
郷土資料館の出口の近くでラッパのコンテストが行われていた。
この『ビューグル』という名のラッパは、裁判の始まりを知らせるために吹かれたものだそうだ。
さっそく、グリムがラッパの音を鳴らすのに挑戦した。
だけど、ラッパはそう簡単には鳴らない。

「ちっとも音が出ないんだゾ」
「僕らも挑戦してみよう」
「そうだな」

オルトくん、エペルくん、シルバー先輩、デュースくんもラッパを吹き始めた。
だけど、誰も綺麗な音を鳴らすことは出来なかった。
私もラッパ鳴らしに挑戦してみた。
鼻から息を吸い込み、下半身から一気に吸い込んだ空気を吐き出した。
ラッパの吹き口に当たっている唇が震え、甲高い音が鳴った。
歌う時の腹式呼吸が役に立ったようだ。
私は参加賞のニンジンクッキーと成功記念の賞品である金色のビューグルを受け取った。
オンボロ寮で鳴らすことが出来ないから、ビューグルはインテリアとしてゲストルームに飾ることにした。
こうして、私達は郷土資料館の鑑賞を存分に楽しんだ。



郷土資料館の中を見て回った後、ディラさんが玉子サンドを用意してくれた。
もっちりとして柔らかい食感のパンとふわふわトロトロの食感のオムレツが美味しい。
オムレツを挟んだサンドイッチはたまに作るけれど、上手く作るのは難しい。
ディラさんも料理自体はそこまで得意ではないと言っていた。
だけど、デュースくんのために卵料理を作っていたら少しずつ得意になっていったようだ。
ディラさんの話に耳を傾ける私の隣で、グリムが玉子サンドを何個もお代わりしていた。
機会があれば、休日のお昼ごはんとしてグリムに玉子サンドを作ってあげようかと思った。

「デュースたちはこの後どうするの?」
「とりあえず、シルバー先輩の目覚まし時計を探しに時計ショップに行こうか」
「お土産探しもする?」
「そうだな」
「私は先にラビット国立公園に戻るよ。お土産探しが終わったら、シロウサ宅配便の屋台まで来なさいよ」
「はい、母さん」

玉子サンドを頂いた後、私達はホワイトラビット・フェスが始まる前に時計の街を散策することにした。
時計の街はその名前に相応しく、名だたる時計職人たちが集まる街。
彼らが創る時計はどれも一級品でありながらも、他の国よりも安く購入することができるという。
私達はシルバー先輩のために、目覚まし時計を探すことにした。

建物の至るところに時計が飾られており、花壇には彩り豊かな花々が咲き乱れている。
坂道の多い道を歩いていると、一番有名な時計ショップが見えてきた。
店内には沢山の種類の時計が売られている。
中でも懐中時計の数は群を抜いている。
薔薇の王国の伝承でお馴染みの時計うさぎが肌身離さず持っていたのが懐中時計だったから、そうデュースくんが説明してくれた。
懐中時計のコーナーを見ていたら、アラーム機能付きの懐中時計を見つけた。

「普通のアラームだと心許ないな……
「だったら、こちらはどうですか?」

デュースくんがシルバー先輩に差し出したのは、録音した声をアラーム音にできる機能がついた懐中時計だった。
シルバー先輩がその時計を買った後、私達はアラーム音にするための声を録音することにした。
私達は声を合わせて「早く起きなさい!!」と叫んだ。
録音した私達の声やデュースくんの気迫のあるかけ声がディアソムニア寮内に響くと考えると、少し恥ずかしい。
だけど、シルバー先輩は満足そうにしていたから、これで良かったのかもしれないと思った。

それから、私はグリムとデュースくんと一緒にエースくんへのお土産であるカラビナウォッチを買った。
時計を買った後、私達は他のお土産を見て回ることにした。
薔薇の王国ではガーデニング用品も沢山売られている。
私はシルバー先輩の近くで店内の商品を見て回った。
シルバー先輩が立ち止まって花があしらわれた小さな紙を手にした。
一体何だろうと思い、私はシルバー先輩の手元を覗き込んだ。

「ドライフラワーのしおりか。マレウス様たちへとお土産はこれにしよう」
「うわぁ、素敵ですね」
「マレウス様にはこの黒いしおりが良さそうだ。セベクにはこれ、親……リリア先輩にはこれが良いな」
「どれも皆さんにぴったりですね」

ツノ太郎さんにはコクリュウという名前の紫がかった上品な花、セベクくんには宝石のようなブラックベリー、リリア先輩には毒にも薬にもなるフォックスグローブ。
どれもシルバー先輩が皆のことを想って選んだしおりだ。
私はグリムにねだられ、果物の種をいくつか買った。
オンボロ寮の一角が菜園になりそうだ。

オルトくんはイデア先輩のために白うさぎが描かれたパッケージのポテトチップス、デュースくんはハーツラビュル寮生のためにアイシングクッキーを買っていた。
エペルくんはルーク先輩に真鍮製のジョウロ、ヴィル先輩にフレグランスを選んだ。
オルトくんもヴィル先輩にフレグランスを選んでいたけれど、香りは違うらしい。
ひと通りお土産を買った私達は、ディラさんの待つラビット国立公園のシロウサ宅配便のブースへと向かった。
時計広場に着いた時、私はシルバー先輩に呼び止められた。

「ニコル、俺の方へと来てくれないか?」
「はっ、はい」
「実は……ニコルへの贈り物も買っておいたんだ」
「可愛い! これは……サシェですか?」
「あぁ、中には薔薇の香りのポプリが入っている」

私は白うさぎの刺繍が入ったピンク色のサシェを受け取った。
ポプリから薔薇の上品で甘い香りが漂ってくる。
香りが鼻を掠めるだけで、自然と気持ちが弾む。

「良い香りですね」
「気に入ってもらえて良かった。実は俺もお揃いのものを買ったんだ」
「えっ、シルバー先輩とお揃いですか!?」
「この香り袋は恋人たちの幸せを叶えるまじないが込められているらしい。だから、ニコルにも贈ろうと思ったんだ」

私が貰ったサシェと同じものを見せながら、シルバー先輩は眉尻を下げて微笑んだ。
デュースくんたちが屋台に夢中になっている傍らで、私達は互いに肩を寄せ合った。
それから、私達はこっそりと口付けを交わした。
デュースくんとグリムが私とシルバー先輩を呼んでいる。
手を繋いで、私達はデュースくんたちと合流した。
旅のお土産は私達にとって大切な想い出の欠片、白うさぎのサシェを見る度に私はこの旅行で愛する人と過ごした時間を思い出すのだろう。
そろそろ約束の時間だ。
私達はラビット国立公園のお祭り会場へ向かうことにした。



時計の街を出た私達は、約束の時間の少し前にラビット国立公園に戻ってきた。
玉子サンドを食べたきりだったから、少しお腹が空いてきた。
そこで、私達はお手伝いをする前に腹ごしらえをすることにした。
まず最初に視界に入ってきたのは、『ジャケットポテト』という名の皮付きのベイクドポテト。
名前の由来は皮をジャケットに見立てているからだそうだ。
確かに、ベイクドポテトが上着を着ているように見える。
面白い名前の由来だから、デュースくんもすぐに覚えたと言っていた。

トッピングは定番のベイクドビーンズだけでなく、チリビーンズ、サワークリーム、ツナマヨコーン、アボカドがあるらしい。
何を盛り付けようかと考えている間に、乱入してきたグリムがトッピング全盛りを注文してしまった。
おかげで複雑な味わいのジャケットポテトと化してしまったのは言うまでもない。

ジャケットポテトは一つが大きめのサイズだから、私達はフォークで五等分にしながら食べることにした。
最初に年長のシルバー先輩から、たくさん食べてしまうであろうグリムの順番は最後。
ポテトが小さくなっていくと、グリムは今にも駄々をこねそうな顔をしながらぼやいていた。
隣の屋台から美味しそうな匂いが漂ってくる。
まだまだ満足していない様子のグリムが、一目散に隣の屋台へと駆けて行った。
私は走っていくグリムの後を追った。

「あっ、あそこにウマそうなものが売ってるんだゾ!」
「ソーセージロールか。これも薔薇の王国の定番料理だな。お祭りの時は味の違う二本入りが売られているんだ」
「美味しそう! うさぎさんのパッケージも可愛い」
「味はチーズ入りとスパイシーなチリビーンズ入りがあるんだね。僕はチーズ入りを食べようかな」
「俺はスパイシーな方を食べてみよう」

私とシルバー先輩はチリビーンズ入りのものを食べた。
程よい辛さのチリビーンズと香ばしいパイの相性が抜群だ。
エペルくんに交換してもらい、チーズ入りのものも食べてみた。
こちらは蕩けたチーズのまろやかな味わいを楽しめる。
ジャケットポテトとソーセージロールを食べ終わり、私達はシロウサ宅配便の屋台へと向かった。
この屋台で売られているのは、箱入りのクロワッサンドーナツだ。
白うさぎの絵が印刷された箱の中に小さめのクロワッサンドーナツが四つ入っている。

「うわぁ、可愛い!」
「うちの屋台ではこのクロワッサンドーナツとドリンクのセットを販売しているの。一番のおすすめはアイスティーとのセットだよ」
「ウマそうなんだゾ! オレ様、クロワッサンドーナツも食いたいんだゾ!」
「よかったら食べて行って。お代はいらないよ。でも、きちんとチラシ配りもしてもらうからね」

クロワッサンドーナツを頂いた私達は、シロウサ宅配便の屋台の近くでチラシ配りを始めた。
私は大きな声で呼び込みをしながら、行き交う人々にチラシを配っていった。
グリムと一緒にチラシを配っていた時、真っ直ぐに子供の方へと向かっていくシルバー先輩の姿が見えた。

「そこの男児。クロワッサンドーナツはどうだ」
「うっ、うわぁぁっ!」
「また行ってしまった……。皆、忙しいのだろうか」
「シルバー先輩……、そうじゃないです……

真面目ではあるけれど何処かズレてしまっているシルバー先輩の姿に、私は必死で笑いを堪えていた。
真顔かつ全速力で目の前に近寄られると、怯んでしまうのは無理もない。
おまけに、シルバー先輩は口数が少ないから余計に怖がられてしまったのだろう。
一方で、オルトくんは子供たちから人気のようだ。
にこやかな笑顔を見せながら、オルトくんは家族連れのお客さんと一緒に写真を撮っていた。

「こういった晴れやかな日にはトラブルも多い。気をつけないといけないな」
「そうですね。チラシ配りしながら、屋台の様子も見ておきましょうか」
「そうだな。警備の基本だ」

シロウサ宅配便の屋台に目をやりつつ、私とグリムはシルバー先輩の近くでチラシ配りを続けていた。
ナイトレイブンカレッジのハロウィンウィークやポートフェストの時も、大小問わずトラブルが付き物だった。
チラシ配りのお手伝いをしている間、ふと過去のお祭りイベントのことを思い出していた。

「そういえば、時計の街にとんでもない不良がいるって噂を聞いたよ」
「不良?」
「その名も『大鎌のデューク』!」
「ぎくっ!」

エペルくんの話を近くで聞いていたデュースくんが後ろめたそうな表情をしている。
『大鎌のデューク』にまつわるエピソードが語られる度に、デュースくんは挙動不審な仕草をしていた。
何か引っかかるなと私とグリムはこそっと呟いた。
シロウサ宅配便の屋台の近くでチラシ配りを進めていると、お客さんグループとディラさんが何か言い合いになっている様子が見えた。
ディラさんたちに何かあったら大変だ。
私達はさらに近くまで駆け寄って様子を伺った。

お客さんグループは私達と同年代くらいのようだ。
皆揃って柄の悪そうな見た目をしている。
この街の不良グループかもしれない。
不良グループのメンバーはクロワッサンドーナツの値段にケチをつけただけでなく、チョコソースで服が汚れたからクリーニング代を支払えとまで言い出した。
挙げ句の果てには、屋台に蹴りを入れてディスプレイまで破壊してしまった。

「母さんから離れろ!!」
「デュース……!」
「あん? なんだ、テメェ!」

不良グループの暴挙に怒りを覚えたデュースくんが、一直線にシロウサ宅配便の屋台へと走って行った。
エペルくんとオルトくんとグリムまで不良グループの方へと行ってしまった。
このままでは乱闘騒ぎになってしまう。
事態を収拾するために、シルバー先輩も屋台の方へと向かった。
私はシルバー先輩について行った。

「ラビット・ラン・レースで勝負だ! 僕らが勝ったら母さんに謝ってもらう!」
「おう、受けて立つぜ!」
「皆、すまない。僕と一緒にラビット・ラン・レースに出てくれ!」

不良グループの挑発に乗ったデュースくんは、お祭りの目玉行事である『ラビット・ラン・レース』での勝負を持ち掛けた。
喧嘩での勝負よりは遥かにマシだけど、レースの概要がわからない。
不良グループが引き上げてから、デュースくんがラビット・ラン・レースの詳細を説明してくれた。
レースは四人一組のリレー形式で行われる。
うさぎの耳を身につけ、ラッパをバトン代わりにする。
走るコースは緑が生い茂る生垣の迷路、道中はトラップも盛り沢山らしい。
出場するのは私とグリム以外の四人だ。
私とグリムはディラさんと一緒に皆を応援することにした。

「ブラックバニー・チームに吠え面をかかせてやろう!」
「絶対に優勝するぞ!」
「頑張ってね!」
「あなたたちなら勝てると信じてるよ!」

出走順はオルトくん、エペルくん、シルバー先輩、デュースくん。
ナイトレイブンカレッジ・チームのリーダーはデュースくんだ。
出場選手たちがぞろぞろと各自のスタート地点へ移動していく。
私達は皆を見送ってから、レース会場のモニターに目を向けた。
レース開始まであと十分、私達は皆の健闘と優勝を祈願した。



定刻になり、レース開始のアナウンスが会場内に流れた。
オルトくんが懸命に走っている。
だけど、機能が制限されたラビット・ギアではスピードが出ないようだ。
他の走者たちが次々とオルトくんを抜いていく。
それでも、オルトくんはマイペースにうさぎが跳ねるような動きでコースを走っていた。
走者たちが建物の中へと入っていく。
建物の中に複雑な迷路が展開されており、走者たちは出口を探して彷徨っている。
ここで、人智を超えたヒューマノイドであるオルトくんの本領発揮だ。
オルトくんは見事なマッピングで出口までのルートを導き出した。

少しずつオルトくんが順位を上げていく。
いつの間にか、上位の走者たちに追いついていた。
このまま順調に進めば、上位でエペルくんにラッパを繋ぐことが出来る。
そう思っていた矢先、建物内のトラップが発動した。
床に落とし穴が現れ、次々と走者たちが落ちてしまった。
オルトくんは何とか落とし穴を避けていたけれど、ブラックバニー・チームに突き飛ばされて穴に落下した。

「アイツら汚ねぇ真似しやがって!」
「オルトくんの背丈だと、穴から出るのも大変そう……
「オルトくん、頑張れ!」

モニター越しの声援が届いたかのように、オルトくんは大きなジャンプで穴から出てきた。
そこまでは良かったけれど、ラビット・ギアにヒビが入ってしまったようだ。
何とか走り抜けたオルトくんは、エペルくんにラッパを繋げた。
エペルくんは気迫のこもった表情でコース内を駆けていく。
だけど、建物内の迷路を堂々巡りしている状態だ。

「ただいま」
「オルトくん、お帰りなさい」
「エペル・フェルミエさん、また同じ道に進んでるよ」
「大丈夫かなぁ……
「あっ、エペルくんが扉を開けようとしてる」
「何かありそうなんだゾ」

扉がエペルくんに向かって何か話している。
この扉の向こうには近道があるらしい。
明らかに罠がありそうだけど、エペルくんは勇敢に扉を開けた。
向かい側からエペルくんを呼ぶシルバー先輩の声が聞こえる。
エペルくんがシルバー先輩の方へと走った途端、小規模の鉄砲水のような水流が流れてきた。
大量の水に足を取られながらも、エペルくんは必死になって進んでいく。
紆余曲折を経て、ラッパがエペルくんからシルバー先輩に渡った。

「エペルくん、お疲れ様」
「逆転はできなかったけど、何とか繋げたよ」
「さぁ、一緒にシルバー先輩を応援しよう!」
「シルバー、頑張るんだゾ!」

持ち前の身体能力を活かし、シルバー先輩がコースを疾走していく。
このまま行けば他の走者たちに追いつけると思った瞬間、シルバー先輩が眠り込んでしまった。
場所があまりにも遠いけれど、私達は必死になって叫んだ。
すると、シルバー先輩が持っていた懐中時計から私達の声が鳴り響いた。
その音でシルバー先輩は目を覚まし、再びコースを走り出した。

シルバー先輩の眼前に大きなティーカップとポットのオブジェがずらりと並んでいる。
この場所はお茶会エリアという名前らしい。
ティーカップから湯気が吹き出し、一気に視界が悪くなった。
走者たちがティーカップやポットにぶつかってしまっている。
だけど、シルバー先輩は諸共せずに障害物をかわしていく。
日頃の鍛錬の成果を発揮しながら、シルバー先輩はお茶会エリアを駆け抜けていった。
デュースくんにラッパが渡り、いよいよアンカー同士の対決だ。
現在の順位は五位、優勝までの道のりは遠くない。
引き続き、私とグリムはディラさんと一緒にモニターを眺めながら応援した。

「みんな、戻ったぞ」
「シルバー先輩、お疲れ様です」
「デュースは順調のようだな」
「そうですね。私達は全力で応援しましょう」
「デュース、頑張れーー!!」

陸上部に所属しているということもあってか、デュースくんの走るスピードはこのメンバーの中では一番速い。
だけど、他の走者たちは遥か遠くにいる。
今度は生垣の中にある小さな扉がデュースくんに声を掛けてきた。
この扉をくぐり抜けるには体を縮めないといけない、そう扉から聞こえる声が説明した。
ちょうどデュースくんの近くに大きなキノコが生えている。
デュースくんはキノコの両端を引きちぎり、右側を食べた。
その瞬間、急激にデュースくんの体が巨大化した。
デュースくんは慌ててキノコの左側を口に含んだ。
すると、今度は一気に体が縮んでしまった。

「このトラップ、郷土資料館のアトラクションにあったものと同じかな」
「最後だし、今回の目玉トラップみたいだね。デュース、頑張れ!」

扉をくぐり抜けた小さなデュースくんは、広い場所にたどり着いた。
前を走っていた不良グループのリーダーが、ちょこまかと駆ける小さなデュースくんを目で捉えた。
リーダーは容赦なくデュースくんを踏みつけようとしている。
このままだと、デュースくんが大怪我をしてしまう。
すると、デュースくんが大釜を召喚して身を隠した。
一分経過して魔法が切れると、デュースくんの体の大きさが元通りになった。
大釜を蹴った不良グループのリーダーが怯んでいる。
その間にデュースくんは迷路を走り抜けていった。



迷路を抜けると、最後の直線コースが待っていた。
ここからは純粋なスピード勝負だ。
デュースくんと不良グループのリーダーが競り合っている。
二人はあっという間に他の走者たちを抜かしていった。
他を寄せつけない勢いで駆け抜ける二人の眼前には、茶色い塔がそびえ立っている。
これがゴール地点である宣誓台らしい。
不良グループのリーダーの足が止まった。
デュースくんは直線コースを疾走し、宣誓台の階段を駆け登っていった。

「行けぇーー! 頑張れーー!!」
「ラストスパートだよ!」
「もう少しだぞ、デュース」
「デュースがラビット・ラン・レースを一生懸命走ってる……。ついこの間までは、ろくに学校にも行かなくて、周りにも迷惑かけていたのに……
「ディラさん……?」
「ナイトレイブンカレッジに入学できて良かったね。頑張れ、デュース!」

ディラさんの目にじんわりと涙が浮かんでいた。
デュースくんは宣誓台の長い階段を着々と駆け登っていく。
もうすぐで最上階だ。
私達の声援もだんだんと大きくなっていった。
デュースくんが最上階にたどり着いた。
ぎこちないラッパの音色が鳴り響く。
ナイトレイブンカレッジ・チームの優勝を告げる音だ。
会場内の歓声を聞きながら、私達は両手を上げて喜んだ。
他の走者たちも次々とゴールにたどり着いた。
私達はアンカーの務めを果たしたデュースくんを出迎えた。

「ただいま」
「デュースクン、最後は独走だったね。カッコよかったよ!」
「見事な走りっぷりだったぞ」
「優勝おめでとう!」
「さすが、デュースだね」
「ありがとう。これは全員で勝ち取った優勝だ!」
「もうすぐ表彰式があるみたいだよ」
「わかった。みんな、行こう!」

しばらくして、表彰式が行われた。
今回のラビット・ラン・レースのチームリーダーであるデュースくんが代表で表彰台に上がった。
デュースくんは黄金色のトロフィーのように輝くラッパを受け取り、副賞の眼鏡とたすきを身につけた。
その姿はまるで、伝承の白うさぎがこの世界に出てきたような出立ちだった。

「まるで優等生みたいだね」
「そうか、ありがとう。学校でも眼鏡かけようかな」
「見えるだけなんだゾ」
「うっ、うるさい!」
「デュース・スペードさんは形から入るタイプなんだね。メモリに記憶したよ」

ナイトレイブンカレッジ・チームの次にゴールしたブラックバニー・チームは、数々の反則行為が見受けられたので失格となった。
当然の報いといってもいいだろう。
だけど、チームのメンバーである不良たちは納得いかない様子だ。
シロウサ宅配便の屋台のディスプレイの修繕はおろか、ディラさんへの謝罪も踏み倒そうとしている。
このまま見過ごすわけにはいかない。
すると、不良グループのリーダーが表に出てきた。

「お前たち、この方は時計の街の伝説の不良、大釜のデュースだ!」
「ええっ!?」
「デュースさん、デュースさんのおふくろさん、マジですみませんでした!!」

不良グループのリーダーがデュースくんに向かって頭を下げた。
リーダーに倣い、他の不良たちも次々と頭を下げている。
さっきまで舐めきった態度をとっていた不良グループのメンバーたちは、打って変わってシロウサ宅配便のディスプレイを綺麗にし始めた。
エペルくんが戸惑いを隠せない様子でデュースくんの方を見ている。
まるで図星を突かれたかのように、デュースくんは狼狽えていた。

「ちょっと待って! 大鎌のデュークじゃなくて、大釜のデュースだったの!?」
「待ってくれ、違うんだ!」
「デュースさん、いや、兄貴! 俺たちを弟分にしてください!」
「冗談じゃないぞ! 僕は……優等生になるんだぁーー!!」

大声で叫びながら、デュースくんは明後日の方向へと突っ走っていった。
私達は揃ってデュースくんの後を追いかけた。
なんとかデュースくんを捕まえた私達は、ホワイトラビット・フェスの会場内を見て回りながらシロウサ宅配便の屋台へ戻ることにした。
ラビット・ラン・レースが終わった後も、お祭り会場は人々で賑わっていた。

「大変だったけど、楽しかったな」
「僕も楽しかったよ。あとは、時間になるまでお祭りを楽しもうかな」
「オレ様、腹が減ったんだゾ!」
「あっ、ちょっと待って!」
「グリムクンは相変わらずだなぁ……

私は一目散に食べ物の屋台へと突っ走るグリムを追いかけた。
財布に入っているお小遣いも残りわずかだから、あまりたくさんの食べ物は買えない。
他のメンバーも続々とやって来て、どうにかグリムを制止することができた。
シロウサ宅配便の屋台に着くまで、グリムはシルバー先輩に抱えられることになった。

「もう少しだけ我慢してくれ」
「ううっ、わかったんだゾ……。ニコル、退屈だから何か歌うんだゾ」
「仕方ないなぁ。どの曲にしようかな……
「馬術部の試合で歌っていた、勝利の凱歌はどうだ?」
「あの曲ですね! わかりました」

私は頭の中にメロディを思い描き、旋律を伝えるかのように口ずさんだ。
私の前を歩いていた他の三人が一斉に振り向き、歩幅を少し小さくしていた。
まるで白うさぎの行進だ、お祭り会場にいる人たちの中からそう呟く声が聞こえた。
デュースくんが満面の笑みを浮かべながら掲げた黄金色のラッパが光り輝いている。
シロウサ宅配便の屋台にたどり着くまで、私達は勝利の行進を続けた。


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