ピクトスクエア様の成人の日イベント参加作品です。
両片思い期のΔドラヒナで、みっぴきのお話。
人間も吸血鬼も羽目を外す、成人の日。出席を渋る彼女の肩を押す、ドラルク隊長の心中は?
私の中で、ヒナイチくんと結ばれる前の隊長は、「エリートコースを夢中で走ってきた為に、色々置いてきた。子供時代、学生時代を思い出すと、寂しそうな顔をする疲れた中間管理職」のイメージで書いてます。
その後は、満たされてるので煙草を辞めて、落ち着いたみっぴきのお父さんポジになる予定です。
他に書いたΔドラヒナのお話は、こちらにあります。https://privatter.net/category/51192
@kw42431393
Δドラヒナの馴れ初め捏造設定です。
・ヒナイチ10歳の頃に埼玉の伊奈架町で、22歳の新米隊員ドラルクと出会う。下等吸血鬼に襲われた所を救われる。初恋泥棒とは離れ離れになるも、いつか役に立ちたくて鍛練を続ける。
・16歳頃、シンヨコの吸血鬼対策課にドラルクが隊長として赴任。ギルドで再会。両片想い期が続く。
・19歳で退治人になる。ロナルド達の大侵攻が起こる。チームΔの一員として、共同任務を通じて、告白。つき合い始める。
「ほーら、お披露目。うちの妹ちゃんの晴れ姿だぞ。」
「やめろ、兄さん。恥ずかしい。」
着付けが終わって、退治人仲間達の前に立つ。
赤い生地に華やかな白い牡丹が描かれた振袖を纏い、白い打掛を羽織った姿は、なんだか自分ではない様に思えた。
いつも降ろしている髪を結い上げているので、どうにも違和感を感じる。いつもは、動きやすい恰好をしているから…うん、くすぐったい気分だ。
「あのヤンチャ坊主が、美人さんになったもんだろ?孫には衣装とは、よく言っ…痛っ!!」
「うるさい!言われなくても分かってる!!」
憧れの退治人になりたい、10歳の時に出会ったあの人の役に立ちたい…早く大人になりたい。
そう思って、駆け抜けてきた9年間。
高校を卒業して退治人になった。一つ、夢を叶えた。
そして、吸血鬼対策課ドラルク隊の隊長として赴任してきた、あの人と働けるチャンスが増えた。
期待のルーキーとして、週刊バンパイアで私の名前が出る様になった頃、吸血鬼達の大侵攻があった。
未熟者の私は、あまり役に立てなかった。不覚を取った、悔しい…そう思っている内に、吸血鬼対策課・退治人・吸血鬼達によって形成された、チームΔが結成された。
私もその一員として、この街の治安の為に、彼らと共に戦っている。
慣れない環境、新しく出来た組織、ブラック企業ばりの忙しい業務。それでも、毎日楽しかった。それだけ充実していたのだ。日が過ぎるのが、勿体なく感じるぐらい。
今日は、成人の日。この日をどんなに待った事か。
子供扱いされてきた私達が、すべての行動に責任を持つ『オトナ』の仲間入りをする日だから。
「そう言ってやるな、マスター。ヒナイチは、元々容姿も実力もダイヤの原石だったんだ。磨いて綺麗なのは当たり前、似合ってるぜ。」
「ハハハ、分かっているんだがな。」
私に脛を蹴られて蹲っている兄に苦笑いしながら、ケンさんがポンっと肩を叩いてくれる。
昔に色々あったらしくて、苦労しながら弟2人を育てあげた、退治人の先輩だ。そういう意味では、兄より気遣いの出来る人だと思う。
「ありがとう、ケンさん。」
何故なら、これまで彼は『よっ、ヒナイチ!』と、私の頭を撫でてくれたものだ。
それが肩を叩くに変わったのは…私を『子供扱い』するのを辞めた…そういう意味を込めてなのだと思う。
「ヒヒヒ、本当はあのガリヒョロの隊長さんに見て貰いたかったんだろ?どうしても、この時期は羽目を外す奴が多いから、向こうさんも忙しいんだよ。俺達も巡回してるから、治安は気にせず式典に食事会も出席してこい。」
そうなのだ。人間も吸血鬼もこの時期は羽目を外す。だから、本当は私も辞退して、こちらに回るつもりだったのだけど…
『一生に一度しかないのだよ。私達がいるから安心しておくれ。行っておいで。』
先日、貴方はそう言った。
そう言って、頭を撫でてくれた。
言い返そうと思ったけど、それを許さない威厳があった。
『安心しろよ、俺達もドラ公と回ってるからさ。どんな奴が出たってヘーキだぜ。死なない男、の二つ名は伊達じゃな…う~ん。吸血鬼らしくねえ、自分で言ってて辛え。』
『ヌイヌーヌヌ、ヌヌイヌヌン。』
既に報告書提出の度に、一緒にお菓子を取り合う仲間になってるジョンとロナルドにまで、そう言われたのだ。
私は彼らを信頼している。だから、めいいっぱい楽しんで来る事に決めたのだ。
「隊長は、成人式出なかったのか?」
他国ではどうしているのだろう。純粋に気になった。
それに、何だか『悔いを残してはいけない』と言われている様で。さっき頭を撫でてくれている時の笑顔が、何だか寂しそうに見えて…。
「日本でいう所の成人式は、ルーマニアにはないね。それに、私は飛び級で大学、警察学校を卒業してすぐに吸血鬼対策課に配属されたから…日本に来ていたけれども経験がなくって。」
成人式に参加する為に、他県に出ている同級生達も帰って来る。これは精神的な儀式であると同時に、同窓会を兼ねているところもあるのだ。
隊長は吸血鬼対策課創設者の孫でもあり、幼い頃から突出したダンピールとしての探知能力を持っていたのだ。だから、幼い頃から進路が決まっていた所もある。
若くして中間管理職になって、遊ぶ時間もなく走り続けている貴方は、同窓会の為に母国に帰る事もしていないらしい。
心残りも多かったのではないだろうか。
「そっか…悪い事を聞いたかな。」
「それはないとも…私は、子供の時からの夢を叶えたんだ。私は、後悔していない。」
ツン…と煙草の匂いが鼻腔をついた。イライラしている時に、貴方が習慣的にふかしているのは知っている。
以前は、もっと匂いがキツかったと思う。
『君達と出会ってから、イライラする暇がなくなってしまったのだよ。かなり吸う本数が減ったでしょ?』
そう言って笑っていたのは、いつの事だっただろう。
「ヒナイチくん?」
「あ、ああ…何でもない。」
慌てて首を振ると、貴方は困った様に笑う。そして、肩に手を置いて諭す様にこう言った。
「君も、子供の頃からの夢を叶えたんだ。自信を持っていいのだよ。」
その目はとても真剣で、直視するのに苦労した。私も後悔していない、という証を立てる為に。
うん…退治人になるのは、幼い頃からの夢だ。しかも、こうして憧れの人の役に立てるチャンスが増えたんだ。
それどころか、気心に知れた友人が増えて、家族みたいに、仕事中なのにお茶だってしているんだ。
こんなに満たされていいのかな…本気でそう思ってる。
そして、明日から世間では大人として認められる。
早生まれだから3月まで未成年扱いだけど…自分の意志でやりたい事を夢想するだけじゃなく、実行していいんだ。
だから、楽しみにしてきたんだ。
それに…本当はちょっと憧れだった振袖だって、当日は着られる。
貴方に見せられないのだけが、ちょっと残念だな。友達と撮る写メを後で見せよう。それで、我慢しよう。
「分かった。その間、お任せするぞ!」
「承りましたよ、お嬢さん。」
そう言って、今度は私の手を取るとそっと口づけてくれた。
頭を撫でるから一ランク上がったみたいで、なんだか誇らしかった。
やり方は違うけど、ケンさんが肩を叩く、に変えてくれたのと同じ感覚なんだと思う。
「きゃ~、ヒナちゃん!ひさしぶり~!」
「京子も元気してたか?大学は楽しいか?」
「ん~、まあまあかな。それより、サークル活動の方がメインっていうかさ~。」
「やっほ~、ヒナイチ。すごいじゃん。似合ってるぜ。」
「へへ、陽介も見違えたな。消防士だっけ?」
「そーそー、休みはジムも行ってんだ!ヒナイチこそ、週バン見たぜ。後で、サインくれよ。」
「アタシもアタシも!ヒナ戦1巻買ったよ、面白かった~!これにサインしてよ~。」
そうだよ、ヒナイチくん。
それが出来る時間って、意外となかったりするんだ。いつかやろう、と思っている間に後回しになっていくんだよ。
そして、そのチャンスが年々なくなっていくんだ。
だから…
「お~い、ドラルク。そこにいた…あ、ヒナイチいるじゃん。ヒナ…モガッ!?」
「ヌヌ!!」
「これ、やめ給え。いいんだよ。さあ、私達は仕事だ。」
巡回中にたまたま見えた、彼女達に背を向ける。
声をかけると、年相応に戻ったヒナイチくは、一流の戦士に戻ってしまうだろう。
せめて、この一日だけはただの一般人として、同級生とたわいのない時間を満喫して欲しい。
「ヒナイチって、あんなに綺麗だったんだな。俺、ビックリしちゃった。」
「ヌフフフフ。」
「だったんだな…ではない。あの娘は、元々綺麗だったんだよ。見る目がないね、全く。」
私には、半分吸血鬼の血が流れている。彼らほどではないが、やはり執着心というか、独占欲が強い。
だから、本当は近くで見たかったよ。そして、褒めてやりたかった。
再会してから、役職の重圧に潰れそうな私の心を支えてくれた少女が、大人になったその姿を近くで見たかった。
「見てくれ!隊長!ロナルド!ジョン!これ、同級生と撮った集合写真だ。」
「ふ~ん、これ本当にヒナイチか?」
「ヌヌ!」
「ごめんってジョン。なんか不思議でさ~。」
「やれやれ、楽しかったかね?」
「うん!社会人になってから忘れていた…なんと言えばいいのだろうか。何でもないのに、笑える時間…?とても、懐かしくて…ただ、騒いだんだ。」
翌日、報告書提出という名目のお茶会。
さあらぬ顔をしながら、私の目はスマホから離れない。
スマホの写メで見せてくれた、私が知らない一般人に戻った君。
私が見た事のない、屈託のないその笑顔も…本当は、近くで見たかった。