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悔いがない時間を

全体公開 Δドラヒナ 1 28 3971文字
2024-01-01 20:19:32

ピクトスクエア様の成人の日イベント参加作品です。
両片思い期のΔドラヒナで、みっぴきのお話。
人間も吸血鬼も羽目を外す、成人の日。出席を渋る彼女の肩を押す、ドラルク隊長の心中は?
私の中で、ヒナイチくんと結ばれる前の隊長は、「エリートコースを夢中で走ってきた為に、色々置いてきた。子供時代、学生時代を思い出すと、寂しそうな顔をする疲れた中間管理職」のイメージで書いてます。
その後は、満たされてるので煙草を辞めて、落ち着いたみっぴきのお父さんポジになる予定です。
他に書いたΔドラヒナのお話は、こちらにあります。https://privatter.net/category/51192

Posted by @kw42431393

Δドラヒナの馴れ初め捏造設定です。

・ヒナイチ10歳の頃に埼玉の伊奈架町で、22歳の新米隊員ドラルクと出会う。下等吸血鬼に襲われた所を救われる。初恋泥棒とは離れ離れになるも、いつか役に立ちたくて鍛練を続ける。

・16歳頃、シンヨコの吸血鬼対策課にドラルクが隊長として赴任。ギルドで再会。両片想い期が続く。

・19歳で退治人になる。ロナルド達の大侵攻が起こる。チームΔの一員として、共同任務を通じて、告白。つき合い始める。



 「ほーら、お披露目。うちの妹ちゃんの晴れ姿だぞ。」
 「やめろ、兄さん。恥ずかしい。」
 着付けが終わって、退治人仲間達の前に立つ。
 赤い生地に華やかな白い牡丹が描かれた振袖を纏い、白い打掛を羽織った姿は、なんだか自分ではない様に思えた。 
 いつも降ろしている髪を結い上げているので、どうにも違和感を感じる。いつもは、動きやすい恰好をしているからうん、くすぐったい気分だ。

 「あのヤンチャ坊主が、美人さんになったもんだろ?孫には衣装とは、よく言っ痛っ!!」
 「うるさい!言われなくても分かってる!!」

 憧れの退治人になりたい、10歳の時に出会ったあの人の役に立ちたい早く大人になりたい。
 そう思って、駆け抜けてきた9年間。
 高校を卒業して退治人になった。一つ、夢を叶えた。
 そして、吸血鬼対策課ドラルク隊の隊長として赴任してきた、あの人と働けるチャンスが増えた。
 期待のルーキーとして、週刊バンパイアで私の名前が出る様になった頃、吸血鬼達の大侵攻があった。 
 未熟者の私は、あまり役に立てなかった。不覚を取った、悔しいそう思っている内に、吸血鬼対策課・退治人・吸血鬼達によって形成された、チームΔが結成された。
 私もその一員として、この街の治安の為に、彼らと共に戦っている。
 慣れない環境、新しく出来た組織、ブラック企業ばりの忙しい業務。それでも、毎日楽しかった。それだけ充実していたのだ。日が過ぎるのが、勿体なく感じるぐらい。

 今日は、成人の日。この日をどんなに待った事か。
 子供扱いされてきた私達が、すべての行動に責任を持つ『オトナ』の仲間入りをする日だから。

 「そう言ってやるな、マスター。ヒナイチは、元々容姿も実力もダイヤの原石だったんだ。磨いて綺麗なのは当たり前、似合ってるぜ。」
 「ハハハ、分かっているんだがな。」
 私に脛を蹴られて蹲っている兄に苦笑いしながら、ケンさんがポンっと肩を叩いてくれる。
 昔に色々あったらしくて、苦労しながら弟2人を育てあげた、退治人の先輩だ。そういう意味では、兄より気遣いの出来る人だと思う。
 「ありがとう、ケンさん。」
 何故なら、これまで彼は『よっ、ヒナイチ!』と、私の頭を撫でてくれたものだ。
 それが肩を叩くに変わったのは私を『子供扱い』するのを辞めたそういう意味を込めてなのだと思う。
 「ヒヒヒ、本当はあのガリヒョロの隊長さんに見て貰いたかったんだろ?どうしても、この時期は羽目を外す奴が多いから、向こうさんも忙しいんだよ。俺達も巡回してるから、治安は気にせず式典に食事会も出席してこい。」

 そうなのだ。人間も吸血鬼もこの時期は羽目を外す。だから、本当は私も辞退して、こちらに回るつもりだったのだけど

 『一生に一度しかないのだよ。私達がいるから安心しておくれ。行っておいで。』

 先日、貴方はそう言った。
 そう言って、頭を撫でてくれた。
 言い返そうと思ったけど、それを許さない威厳があった。

 『安心しろよ、俺達もドラ公と回ってるからさ。どんな奴が出たってヘーキだぜ。死なない男、の二つ名は伊達じゃなう~ん。吸血鬼らしくねえ、自分で言ってて辛え。』
 『ヌイヌーヌヌ、ヌヌイヌヌン。』

 既に報告書提出の度に、一緒にお菓子を取り合う仲間になってるジョンとロナルドにまで、そう言われたのだ。
 私は彼らを信頼している。だから、めいいっぱい楽しんで来る事に決めたのだ。




 「隊長は、成人式出なかったのか?」
 他国ではどうしているのだろう。純粋に気になった。
 それに、何だか『悔いを残してはいけない』と言われている様で。さっき頭を撫でてくれている時の笑顔が、何だか寂しそうに見えて
 「日本でいう所の成人式は、ルーマニアにはないね。それに、私は飛び級で大学、警察学校を卒業してすぐに吸血鬼対策課に配属されたから日本に来ていたけれども経験がなくって。」
 成人式に参加する為に、他県に出ている同級生達も帰って来る。これは精神的な儀式であると同時に、同窓会を兼ねているところもあるのだ。
 隊長は吸血鬼対策課創設者の孫でもあり、幼い頃から突出したダンピールとしての探知能力を持っていたのだ。だから、幼い頃から進路が決まっていた所もある。
 若くして中間管理職になって、遊ぶ時間もなく走り続けている貴方は、同窓会の為に母国に帰る事もしていないらしい。
 心残りも多かったのではないだろうか。
 「そっか悪い事を聞いたかな。」
 「それはないとも私は、子供の時からの夢を叶えたんだ。私は、後悔していない。」
 ツンと煙草の匂いが鼻腔をついた。イライラしている時に、貴方が習慣的にふかしているのは知っている。
 以前は、もっと匂いがキツかったと思う。

 『君達と出会ってから、イライラする暇がなくなってしまったのだよ。かなり吸う本数が減ったでしょ?』

 そう言って笑っていたのは、いつの事だっただろう。

 「ヒナイチくん?」
 「あ、ああ何でもない。」
 慌てて首を振ると、貴方は困った様に笑う。そして、肩に手を置いて諭す様にこう言った。
 「君も、子供の頃からの夢を叶えたんだ。自信を持っていいのだよ。」
 その目はとても真剣で、直視するのに苦労した。私も後悔していない、という証を立てる為に。
 うん退治人になるのは、幼い頃からの夢だ。しかも、こうして憧れの人の役に立てるチャンスが増えたんだ。
 それどころか、気心に知れた友人が増えて、家族みたいに、仕事中なのにお茶だってしているんだ。
 こんなに満たされていいのかな本気でそう思ってる。

 そして、明日から世間では大人として認められる。
 早生まれだから3月まで未成年扱いだけど自分の意志でやりたい事を夢想するだけじゃなく、実行していいんだ。
 だから、楽しみにしてきたんだ。
 それに本当はちょっと憧れだった振袖だって、当日は着られる。

 貴方に見せられないのだけが、ちょっと残念だな。友達と撮る写メを後で見せよう。それで、我慢しよう。

 「分かった。その間、お任せするぞ!」
 「承りましたよ、お嬢さん。」

 そう言って、今度は私の手を取るとそっと口づけてくれた。
 頭を撫でるから一ランク上がったみたいで、なんだか誇らしかった。
 やり方は違うけど、ケンさんが肩を叩く、に変えてくれたのと同じ感覚なんだと思う。



 「きゃ~、ヒナちゃん!ひさしぶり~!」
 「京子も元気してたか?大学は楽しいか?」
 「ん~、まあまあかな。それより、サークル活動の方がメインっていうかさ~。」
 「やっほ~、ヒナイチ。すごいじゃん。似合ってるぜ。」
 「へへ、陽介も見違えたな。消防士だっけ?」
 「そーそー、休みはジムも行ってんだ!ヒナイチこそ、週バン見たぜ。後で、サインくれよ。」
 「アタシもアタシも!ヒナ戦1巻買ったよ、面白かった~!これにサインしてよ~。」

 そうだよ、ヒナイチくん。
 それが出来る時間って、意外となかったりするんだ。いつかやろう、と思っている間に後回しになっていくんだよ。
 そして、そのチャンスが年々なくなっていくんだ。
 だから

 「お~い、ドラルク。そこにいたあ、ヒナイチいるじゃん。ヒナモガッ!?」
 「ヌヌ!!」
 「これ、やめ給え。いいんだよ。さあ、私達は仕事だ。」
 巡回中にたまたま見えた、彼女達に背を向ける。
 声をかけると、年相応に戻ったヒナイチくは、一流の戦士に戻ってしまうだろう。

 せめて、この一日だけはただの一般人として、同級生とたわいのない時間を満喫して欲しい。

 「ヒナイチって、あんなに綺麗だったんだな。俺、ビックリしちゃった。」
 「ヌフフフフ。」
 「だったんだなではない。あの娘は、元々綺麗だったんだよ。見る目がないね、全く。」

 私には、半分吸血鬼の血が流れている。彼らほどではないが、やはり執着心というか、独占欲が強い。

 だから、本当は近くで見たかったよ。そして、褒めてやりたかった。
 再会してから、役職の重圧に潰れそうな私の心を支えてくれた少女が、大人になったその姿を近くで見たかった。

 



 「見てくれ!隊長!ロナルド!ジョン!これ、同級生と撮った集合写真だ。」
 「ふ~ん、これ本当にヒナイチか?」
 「ヌヌ!」
 「ごめんってジョン。なんか不思議でさ~。」
 「やれやれ、楽しかったかね?」
 「うん!社会人になってから忘れていたなんと言えばいいのだろうか。何でもないのに、笑える時間?とても、懐かしくてただ、騒いだんだ。」

 翌日、報告書提出という名目のお茶会。
 さあらぬ顔をしながら、私の目はスマホから離れない。


 スマホの写メで見せてくれた、私が知らない一般人に戻った君。
 私が見た事のない、屈託のないその笑顔も本当は、近くで見たかった。 




 




 



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