人魚姫ドラヒナの続きで、この話から直接続いております→お試し期間だから出来る事 https://privatter.net/p/10594734
前半はシャコガイのジョンに連れられて陸に来たヒナイチ姫とロナルド王子が「初めまして!(本当はお久しぶり)」をしています。こちらは和やかで、楽しいひと時。
打って変わって、後半は魔女ドラルクとカズサ王の「初めまして…なんてな!」としている不穏なターン。温度差にご注意ください。
忘れた嫁入り道具を取りに、サンガ国に一時帰国をしているサンズ姫のシーンを追加しました。前からチラチラ話題に上がっている、「自分を神とか仙人とか言っている男」は、人気投票の神にやって貰っております。
魔女ルクさんの体を治す治療薬の材料は、かぐや姫の難題の品物を若干変えたものになりますね。燕が貝を産み落とす事はありませんが、ヒナに与える為に燕が貝殻を持ち込む事はあるそうです。
2023/10/06に上げました。
@kw42431393
「お~い!ジョン、久しぶり!」
ロナルド王子、お久しぶりヌ!
城門前に立っていた青年が、手を振りながらこっちに向かって来る。
うん、間違いないな。私があの嵐の晩に助けた青年だ。
『粗暴だけど、面倒見がよくて優しい人間だよ。』
魔女がそう言っていた。そうかもしれない。
ジョンを見つけるなり、駆け寄って来る青年の顔はとても無邪気なものだった。
「待ってたぜ~、ジョン。今日も可愛いなぁ。」
相変わらずヌね。それより、ロナルド王子。ご結婚おめでとうございますヌ!
「へへ、恥ずかしいぜ。本当は、お前とドラルクにも招待状を送りたかったんだけどさ。連絡先を教えてくれてないから、出来なかったんだよな。」
照れ臭そうに鼻をこすりながら、彼は笑う。ふと、そのロナルド王子の視線がこちらを向いた。
そうだった。私はドラルクの代理で、姪だと説明されていたんだっけ。
「え~っと、はじめまして?君がその…。」
「ドラルクの…姪のヒナイチだ。はじめまして。」
一国の王子で、私が助けた後で出会ったサンズ姫と結婚しているはずだが…女性慣れしていないのかもしれない。
少しぎこちない仕草で、彼は私に手を差し出した。だから、私の方から彼の手を握る。
…温かいな。私も人魚としては、体温が高めだと言われるが、それよりずっと温かい。あの時は溺れて冷え切っていたからな、陸の人間とはこういうものなのか。
「え~と。じゃあ、ヒナイチ…さんだっけ?」
まじまじと彼の武骨な手を見つめていた私は、慌てて手を離す。ヒナイチさん、か。
「あ、あぁ。ドラルクが、いつも世話になっている。あと、私の事はヒナイチでいい。私の方が年下だしな。」
「お、おお。じゃあ、ヒナイチ…ドラルクから話は聞いてるぜ。シンヨコ王国にようこそ。大したもんはないけど、案内させて貰う。」
そう言って、先に城門をくぐったロナルド王子が手招きする。
私は彼の後を追った…と、その時。
「あっ!?」
「おっと!?危なねえな、なんかフラフラしてるぞ。大丈夫か?」
人間の足で歩いてまだ時間が経ってないので、慣れていなかった私はこけそうになった。
それを、ロナルド王子が抱きとめてくれたのだ。
ごめんヌ。ヒナイチひ…くん、スカートとこの靴は、履き慣れてなくて。
ジョンがうまく誤魔化してくれた。すまんな、助かるぞ。
「あー、じゃじゃ馬なのか…どおりで、がっしりしてると思ったよ。」
ロナルド王子が武勇に優れているのは、他国でも有名だ。子供っぽいなりに、下手に動くと嘘がバレるかもしれない。
「アハハ、よく分かったな。鍛錬ばかりしていて…で、どこに行くんんだ?」
「ふーん、叔父貴とは逆なのな。買い出しも兼ねているんだろ?まずは、マルシェに行こうぜ。今、丁度うまいリンゴが入ってる。まあ、いい物の吟味はジョンがいるから問題ないけどよ。」
ヌン!任せてヌ!
リンゴか…前に作ってもらったアップルパイ…だったか。あれをまた作ってくれるのかな。
「それにしても…」
『あの王子に会いたいだろう?見ての通り美青年だし、生まれも申し分ない。それに、武勇に優れた優しい男だ。』
魔女と初めて出会った時、何故かやたらとロナルド王子とくっつく様に勧めてきたな。
さっき、抱き留められた感覚を思い出す。太陽の様に華やかで、温かみがあって、筋肉質な体には(子供っぽさを除けば)頼り甲斐があった。
深海で眠くなった時、いつも抱き締めてくれるドラルクの、冷たくて骨と皮ばかりの固い体とは、真逆だと思う。
普通の女性なら、選ぶのはロナルド王子の方だろうな。でも、私は…
「お~い、迷子になるなよ。」
「ヌヌイヌヌヌ、ヌッヌ。ヌッヌ。」
「あぁ、今行くぞ!」
彼らを追って、マルシェに向かう。
魔女のテーブルでしか見た事のない、美味しそうな料理や果物が色とりどりに屋台に並んで、目を楽しませてくれる。
珍しい果物や軽食をつまみながら、彼らと賑やかな雑踏を歩いているのが楽しくて、私はさっきまでの疑問を忘れてしまった。
「これは、これは。お初にお目にかかります、カズサ王。」
「お初に…ククク、ご挨拶だな。まぁ、魔女殿も息災で何より。」
「何の事やら…。さぁ、こちらへ。暗いのでお気をつけ下さいまし。」
シュルリと音を立てて、8本の足が床を這う。その彼の後を俺が通るたびに、壁に据えられた発光物質を使った照明が仄暗い灯りを灯していく。彼らは夜目が効くので、本当は必要あるまい。
『妹が通うから、つけたのか。』
通りすがりに、微かに開いていた部屋をチラリと覗く。アコヤ貝のベッド、真珠で飾られたシャンデリア、そして、凍った陸の花が飾られた部屋だ。
メンダコの彼は、おそらく狭くて暗い壺の様な部屋を愛用するはず。
これも、妹の為という事は察しがついた。
ここは、光の届かない深海にある岩場の一角。
多くの者達を誑かし、魂や肉を喰らうと悪名高い、魔女ドラルクの住まい。
その反面で、彼の魔術・医学・薬学の知識は確かなもので、魔術師・医師としての評判も名高いのだ…問題は、『あくまで』真っ当な契約を結べるか…それが、ここに来る者の命運を決める。
本人の意志の強さと知恵が、全てを決める。
「難儀でしたな、サンゴ礁で疫病が流行っているとの事で。」
「それだ。サンゴ礁は、我々の生活の要だ。どんな事があっても、守らなければならん。」
どうぞ、と招かれた俺は客間に通された。武骨な岩で作られたテーブルには、あの時、妹が抱えていたものと同じクッキーが並んでいる。
「陸の茶菓子でございます。王様のお口に合いますやら。」
フードの下で光る赤い瞳を覗く…警戒する必要はなさそうだ。
ここに来る前に調査させて貰ったが、この男にとって料理は純然たる趣味だという。だから、料理に混ぜ物をする危険性がないのだ。
「ふむ。これは、美味いな。」
甘さは控えめだが、サクサクした、それでいて風味のよいバターの香り…この辺りは魔術のなせる技だな。うちの料理人が、陸の食べ物を調理しようとしても、そのままの味を再現できまい。
「それは、光栄ですな。」
ふと、魔女の顔が綻んだ。その手には、小瓶と契約書が握られている。俺がクッキーを食べている間に、依頼した薬を取ってきたのだろう。
だとすると、調剤室はそこか…そして。
「あぁ、これはたいしたものだ…妹が夢中になる訳だよ。」
魔女が席について、手に持っていたものを並べた。その顔には、何も変化もない。
「なんのお話…がっ!?」
それらが手から離れた瞬間、身を乗り出した俺は魔女の首を掴んで吊り下げた。もう片方の手で、薬と契約書を懐に入れる。
これで、決定権はこちらにある。あと、必要なものは妹の契約書だけだ。
「ゲホッ!!ああ゛っ…!?」
「お初に…ではない。おひさしぶり、だなぁ?ぷにぷに?」
「…っ!!」
ジタバタと暴れるが、どうにもなるまい。彼が生まれつき、不治の病を抱えている事は有名だ。
枯れ木の様な手で俺の手を引っ掻いても、8本の足を巻き付けても…この程度の力では、何の障害にもならない。
「9年も経って、こうして会うとはな。それほど、ヒナイチが恋しかったか?まぁ、うちの妹ちゃんは美人さんだし?それにあんなに間近で歌を聞かされては、無理もない。」
「ぐっ!!…うぅ…。」
そのまま、調剤室に向かう。俺がここに来た理由は、いくつかある。
1つ目は、サンゴ礁で流行っている疫病の治療薬を調剤して貰う為。
2つ目は、妹への干渉に対する牽制。
3つめは…
「そう…いつからだったかな、魔女殿。これまでも、陸に興味を持った者達は多々いる。だが、我々は交流する事なく、住み分けをしてきたのだ。体の作りが違うしな。しかし…あんたなら出来る。陸の者を海で生活できる体に変える事も、そのまた逆も…。」
調剤室に入った瞬間、魔女の目に焦りが出てきた。
彼の秘密がこの部屋にある。
病に蝕まれているはずの彼が、今も生きながらえ、あまつさえ、交易目的で陸にさえ、足を延ばせている秘密が。
「陸に移住する者達を悪いとは言わんよ。だが、ここ近年、あんたが…特に人魚達を陸に興味を持つ様に仕向け、誑かし始めた理由は…これだ!!」
俺は魔女を床に叩きつけると、目の前の厳重に封をされた木箱を尾鰭で蹴り破る。
中から転がり出てきたのは…
「…いい気はせんものだ。随分と喰ったらしいな、もう残り少ない。この肉は、あんたの生命線。だから、陸に興味を持った妹に、声をかけたんだな?」
氷漬けにされた同胞の下半身の肉…正確には、その切れ端だ。
「ご、ゴホッ!!何が悪い、彼らの同意の上だ。捨てて行ったものを使って、何が…。」
「完全な自分の意志ならな…陸へ行ってから、後悔している者もいよう。望郷の念というやつだ。特にヒナイチは、卑しくも一国の王女。そうそう、勝手に行かせる訳にはいかんよ。もう19歳だ…そろそろ、将来を決めなければいかんのでね。」
「…っ!!」
餌の少ない深海に生きる者達は、執念深い。一度、手にした獲物は離さない。
たとえ、それが自分の死と繋がるとしても…だ。
今の魔女の目には、それがある。
厄介な事に『今は』もう『ただの餌』として見ている訳ではないのだ。
そこには、幼いヒナイチが聞かせた歌声による『魅惑』、人魚の肉が持つ『薬効への執着』…何より『男としての情念』が、感じられる。
「妙だとは思っていたんだ。ヒナイチはこういう話をすると、元々嫌そうな顔をした…が、最近は異常だ。本気で目くじらを立てて、ごねる様になった…意中の相手がいるのは、察しがついていたさ。パトロールの時間も長いし、帰って来たあいつからは、さっきのお菓子とシンナーに似た匂いがする。メンダコの匂いだ、あんたの…おっと。」
俺は、咄嗟に距離を取った。さっきまでいた床が、グズグズと溶けていく。
「王様…私をなめないで頂きたい。伊達に、脛に傷がある連中と取引してきた訳はないのですよ。」
「らしいな…急に、ブツブツ口元が動いてたのでな。その様子では、ヒナイチと交わした契約書を返すつもりはないらしい。」
「お姫様は、私のもの。髪の毛一本だって返すものか。あの子も、私といたいと言ったんですよ?」
そう、何より厄介なのは…今やお互いが本気なのだ。考えようによっては、だからこそ、こちらにも動きようがあるかもしれない。
「魔女ドラルク、俺と契約を結ばんか?」
「契約…ですか。内容によっては。」
契約の言葉を聞いた瞬間、魔女の気配が驚くほど静かになった。
冷徹な兄だと言われるかもしれんが、俺は俺で母国を守る為に考えがある。妹の将来も、俺自身の命も交渉のカードにする、その覚悟はあるんでね。
「妹が他国に嫁入る事に関しては、当分据え置きにしてやろう。公然と毎日、ここに通わせよう。この契約の結果によっては、俺をお義兄様と呼ばせてやっても構わんぞ?」
「…。」
さぁ、ここからが正念場だ。
この魔女のヒナイチへの『想い』が、ただの執着なのか、愛情を伴ったものかどうか…試させて貰おう。
ロナルド王子、買い出しもこれでOKだヌ。それに、今回はドラルク様に頼まれていたサンプルもちゃんと揃ってたヌね。ありがとうヌ。
「へへへ、俺だってよ。やれば、ギリギリじゃなくちゃんと期日通りに揃えられるんだぜ…って言いたいけど。サンズ姫が確認作業を手伝ってくれたんだよ。そうじゃなきゃ、また、ドラルクに嫌味を言われるところだった。」
あとは、兵士達に頼んで、ジョン達が選んだ食料とか商品とか、俺が依頼されてあいつに頼まれていたサンプルとかを、指定の海域に投入するだけだ。
「今日は、観光案内もしてくれてありがとう。それに、楽しみだな!お前に案内して貰った市で食べた料理も美味しかったが、その材料で、ドラルクがさらに美味しい料理を作ってくれるんだ!」
「あ~、分かる。あいつ、飯だけは美味いんだよ。それにしても、俺も結構食うけどよ、ヒナイチも大食いだよな。ドラ公なんか、食が細くってガリガリだもんよ。」
それにしても、変な奴だよな。スカートが履き慣れてないってふらついてた割には、マルシェに並んでたものにいちいち目をキラキラさせてさ。
初めて見た、初めて食べたってはしゃいでた。鍛錬ばかりしてたって言ってたけど、実は箱入りのお嬢さんなのかな。
「ドラルクは、体が弱いからな。代わりに色んな事を知ってるぞ。」
「それな。最終的に、口では勝てないんだよなぁ。」
いつの間にか、俺達は打ち解けていたんだ。なんつ~か、こいつは妹と年が近いせいなのかな。もう一人妹がいたら、こんな感じかなって思ったりするんだ。
それに、どっかで会った気がすんだよ。いつだっけな…。
「なぁ、あんた。どっかで…」
ロナルドくん、お見送りはここまででいいヌ。それじゃあ、また…
「おうよ。そういえば、連絡先を渡しておくぜ。ちょっと、俺の身辺も変わるかもしれなくってな。」
「どうしたんだ?」
うん、ちょっと照れ臭いな。不安もあるけど…。
「ほら、俺さ。命の恩人のサンズ姫と結婚しただろ?兄貴が、サンガ国との国境近くの領地を分けてくれるっていうんだよ。共同でこのシンヨコ王国とサンガ国を守ってくれって、さ。」
「すごいじゃないか。おめでとう。」
かっこいいヌ!ロナルド王子も一城の主ヌね。じゃあ、これからここを中継に寄る様にしておくヌよ。
「…どうしたんだ?それにしては、浮かない顔だな。」
ヒナイチが、こっちを覗き込んで来る。
無邪気な緑の目…何でだろうな。兄貴達には言えなかった弱音を言ってしまってもいいかなぁ、なんて思ったんだ。
「あ~、なんだ。それまでさ、俺って真ん中っ子だろ?両親が亡くなってからも、カッコよくて、女性にモテるのに謙虚で、政務もバリバリにこなしながら、俺達を育ててくれた兄貴に頼りっぱなしだった訳よ。」
「…。」
「今まで、兄貴に頼ればなんとかなるよなぁ、って生きてきた俺だけど。領地を貰うとなると、そこの皆の事を考えなきゃならないし、俺は頭悪いし、ずっとつるんできた騎士団の連中と、遊びに行ったり出来ないかもだし。」
あぁ、何言ってるんだろな。わやわやして、纏まってないや。
「ずっと育ってきたあの城から出る事があるなんて、思ってなかったっていうか。それが、不安…って言えばいいのか…ん?」
くしゃり、と両側から頭を撫でられた。一つは、小さなジョンの手。もう一つは、妹みたいに思い始めていた女の子の手。
大丈夫ヌよ。ロナルドくんは、本当は出来る人ヌから。
「会った事はないが、サンズ姫もいるんだろう?さっき、いつも遅くなっていた、頼まれたサンプル整理も手伝ってくれて、期日前に出来たって言ってたじゃないか。」
…単純なのかな。なんか領地経営も出来る気がしてきたから、不思議だぜ。
「あんがとな。ジョン、ヒナイチ。また、来いよ。今度は、サンズ姫にも会ってくれるか?」
「勿論だ。それに、ありがとう。それに、今、ロナルド王子の話を聞いて、私も少し考える気になった。」
ニッと笑うヒナイチを見て、俺は首を傾げる。こいつも悩みでもあったのかな。
「何だ、そりゃ?」
「私も下の子だからな、将来とか考えずに呑気にきたって話だ。でも、いつまでもお試し期間でいられないものな!」
お試し期間…?変な事を言う奴だな。
じゃあね、ロナルドくん。今度は、ドラルク様も一緒に来るヌ。
「今日はありがとう。またな!」
そう言って、一人と一匹は城門を出て帰って行った。
赤い夕暮れに溶け込む様に、あいつらの姿が消えていくのを、俺はぼんやり見つめていた。
『クワア!!』
「わっ?何だ、ドラルクが連絡用に使ってるウミガラスじゃねえか。今頃、どうした?」
肩に乗って来たウミガラスの足には、例の如く手紙が括りつけられている。
俺がそれを解くと、ウミガラスは海岸の方に飛んで行ってしまった。
「何だ?ドラルクの奴。今度は何だって?」
『親愛なるロナルド王子へ
本日は、姪の面倒をみてくれて感謝する。私の身辺にも変化があって、頻繁にそちらに顔を出す事が増えそうだ。
現時点では未定な事が多いので、詳細は言えない。おそらく、後日、兄のヒヨシ王から話を聞いて貰う事になると思う。
仮に私達が何者であったとしても、これまでと変わらぬつき合いを望んでいる。 ドラルク』
あぁ、うっかりやってしまったですよ。憧れのあの人と結婚できたとはいえ、浮かれてしまってたですね。
だから、サンズちゃんは祖国に一時帰国したのです。嫁入り道具の『五色に輝く石の御鉢』を取りに。
「サンちゃん、もう帰るの?ゆっくりしていけばいいのに。」
「ええ。嫁入り道具を忘れてきたので、帰ってきただけですよ。ロナルド王子が寂しがると心配なので、帰ります。」
「ねえ。ほんと聞いた時、おばちゃん達感激しちゃったわ!憧れの人と結ばれるってあるのね~。お土産に兵糧丸、持っておゆき。」
「遠慮しないで。ほら、道中お食べ!」
え~ん、ポケットが兵糧丸だらけでもう入らないです~。
「おお、久しぶりじゃん。サン…」
「もう入らね~って言って…あれ?お前は…。」
聞き覚えのある嗄れ声。目の前にいたのは…
「おひさしぶり!ワシだ、蓬莱島の仙人よ。遊びにきたぞ。ここの土産屋で売っとる饅頭は美味いからな。」
「仙人?前会った時は、蓬莱島の神って言ったじゃねーですか。」
「まぁ、偉そうならなんでもいいわい。今度は、蓬莱島の仏って名乗ろうか。」
相変わらず、適当なじいさんですよ。しかし、神でも仙人でも仏でも…この男が、サンガ国近海にある孤島…蓬莱島に住まう、強大な力を持った人外である事は確かなのです。
「まぁ、疫病が猛威を振るったうちを救ってくれたのは、認めるですよ。島自体は近所なのに、ほんと~に、めんどくせー所に住みやがって、苦労したですよ!その節は、ありがと~ございました!!」
「艱難辛苦の末にって、王道じゃん?簡単に会える所には住まんよ。うちに来れたのは、お前だけだっけ。お見事、さすが王女様!」
そうでした。この男を呼ぶ為に供物を背負った、精鋭を募ったくノ一集団で、蓬莱島の崖を登って、谷を越えて…最後までたどり着けたのは、優秀なサンズちゃんだけでした。
あれは、死ぬかと思ったですよ。それぐらい、とんでもねー所に住んでいやがったのです。
「そっそ。だから、儂をもっと尊敬するように!あと、今年のお布施はもっと進呈するように。」
「お布施?供物じゃねーですか?」
「…っぽければ、何でもいいの。」
そう。見た目は、長い白髪を垂らして、立派な髭を蓄えた、絵に描いたよーな神様とかその辺りの姿です。
黙っていれば頭を下げる者もいるのでしょうが、喋り方はこんな調子で、「ワシをもっと畏怖って!」と言っても、威厳なんかない訳です。
「今日は何をしに来たですか?饅頭食べに来やがったです?」
「それもあるがな。お前が一時帰国する事は知っておったから、婚姻祝いの品を渡しにな。ほれ。」
そう言って、あいつが差し出した手には、二つの小さな宝貝が光っていました。
「これ…。」
「そう。縁起物だからな。うちの軒先で営巣していた燕の子安貝よ。採れたてほやほや。大事に飾っておくのもよし!亭主となった…あー、ロナルド王子と、褥で砕いて煎じて飲んでもよし。若いし、新婚さんだし。」
「にゃ~、恥ずかしい事言うな~!ちくしょ~、どうもありがとうございました!!」
そうです。普通の子安貝でも、安産、子孫繁栄のお守りで縁起物ものなのです。それが、不老不死伝説で有名な、蓬莱島の燕の巣から採れた子安貝をくれるというの事は…まぁ、そういう意味もあるのです。
「別にイヤらしい意味でもないぞ。サンガ国の跡継ぎはお前だけ。ロナルド王子との間に生まれた子供を一人、こちらにやって継がせる必要があろうよ。」
「よけーなお世話ですよ!ロナルド王子とでしたら、百人でもほしーですけど!今は、一緒にいれるだけで満足なんです!」
「やれやれ、純愛よのう。さて、と。」
そう言って、蓬莱島の仙人は雲に乗ります。もう帰る気でしょうか。
「あ、待ちやがれです!折角だから、また疫病が起こった時の為に、万能薬の配合を教えやがれです!」
「だ~め。そんじょそこらに、ホイホイ教えたら有難みないじゃん?当時、来たのは本気で異常事態だったからよ。それに…。」
そこで、仙人はクスリと笑いました。
「あの当時、お前さんに材料を集めさせた。多少の察しはついおろう?その子安貝もその一つ。うちの金の庭木に成っておる紫の玉と、その木に住んでおる火ネズミの血、深海に住まう竜の鱗。そして、仕上げは…。」
その赤い瞳は、サンズちゃんが背負っている箱に向けられます。
そうです。仏様が使っていたという、この石の鉢が最後仕上げに必要なのです。これで、最後混ぜ合わせないと、ただの毒薬になってしまいます。
「簡単に言うなです。あの時、たまたま件の竜がうちで観光してたから、貰えただけだろーが!仕方ないから、自分達でも、っぽい物を集めて、っぽい配合で調剤したけど、結局、出来たのは使えねー毒薬ですよ。黙って、教えろって…にゃ~~~!!」
フル無視して、あのヤローが帰っていきます。どうしようもないですね。
そりゃ、一応、自然の摂理に反するとか、平等でないといけないとか…あのじーさんにあるかは、怪しいですが…簡単には教えてくれないでしょう。
「蓬莱島で採れた燕の子安貝か…。」
小さなその貝を手に転がします。
2つくれたという事は、もう一つはその時の為にとっておけとか?
それはないか。たまたまでしょう。
「さて、帰りますか。ロナルド王子、待ってて下さいね。」
好きな人と一緒にいられて、さらにその人の子供も欲しい、というのは多くの女性の望みだと思います。
サンズちゃんもそう思いますです。さっき言った百人は言い過ぎですが、ロナルド王子の子供は可愛いし、カッコいいに違いでしょうね。そりゃ……にゃッ、なんでもないです!
2つあるから、誰か他の人にあげてもいいか…そう思って、大事にハンカチに包んで、サンズちゃんは懐にしまいました。
蓬莱島の仙人が、こうなるのを知っていて、2つもくれたのかは、不明です。
その時のサンズちゃんには、これをあげて、その想いを叶えてやりたいと、本気で願う女性が現れるとは、思っていなかったのです。
そいつはロナルド王子を助けてくれた恩人で、そいつの願いはひたむきで…サンズちゃんも同じ状況なら、ロナルド王子を助ける為に、迷いなくやったと思います。
ただ…彼女の思い人は、ロナルド王子の友人というか、腐れ縁の様な間柄の人外でして。
その正体は、魔女とかいう胡散臭い事を生業としています。体は虚弱なガリヒョロで、やらかしてきた事はとんでもねー悪党だと、思っています。
はっきり言って、お料理上手以外は誉められないし、あいつの男の趣味は理解出来ないと思っています。
そんな化け物を命がけで愛していて、サンズちゃんに変なあだ名をつけて懐いてくる…人ならざる親友が出来るとは…当時のサンズちゃんには、思いもしていなかったのでした。