湊メイン•ほのぼの
@lianmiso
カレー………
老若男女問わず人気のある料理。
野菜、そして肉のみならずシーフード等具材もトッピングも自由。温泉卵にカツ、チーズ、生卵。選択肢は多く頭を悩ませる。
食べ物だけではない。生薬、現代で言うスパイスが大量に組み合わされたカレーは脳機能の活性化等あらゆる効果が期待できる。
カレー粉からカレールーへ時代と共に変貌していくカレーはもはや印国とは別物。軍から店。そして家庭へ。
今やカレーは日本に、いや、世界になくてはならないものなのだ。働くみんなにだってカレーは大人気。金曜日は出来ればカレー。
東風八百万事務所でも暗黙の了解であった。
今日の料理当番は雨辻湊。
壱樹から譲ってもらった真っ白な割烹着を身につけ、お玉を握りしめる。
みんなが美味しく食べられるカレーを作るのだ。
◇
「カレーの好みが知りたい?そりゃまたどうして俺に」
「壱樹さんの作るカレー………好き、だから」
指をもじもじさせる湊を抱き上げ、壱樹はぐるぐると湊と一緒に回った。湊がきゃっきゃと喜ぶ。力持ちの壱樹に掛かればまだ小学生5年生の湊の体など軽いものだ。1周、2周、3週周り、壱樹は湊を地面に下ろす。
「俺はカレーに蜂蜜入れんの好きだぜ!」
「蜂蜜1瓶入れますよねぇ。大体300gってところでしょうか。舌、壊れているんじゃないですかぁ?」
気づけば流しの側に霧凍が腕を組んで立っていた。
「いたのかよ」
「うるさいんですものぉ。割れ物や刃物があるのに台所で暴れるなんて馬鹿ですねぇ」
「ちゃんと気はつけているって!蜂蜜も1人の時だけ!あんな量、みんなの分には入れてねぇよ!お前こそ甘口の時、スプーン進んでるだろ。甘い方が好きなんじゃねぇのか」
「糖分は頭に必要なんですよぉ。おや、失礼いたしましたぁ。貴方、日常的に頭を使ってないからわからないですよねぇ」
「なんだと!?」
「そんなこと、より」
「そんなことより!?」
いつもの言い合いに湊が割って入る。小さい声ながら壱樹と霧凍の間に体ごと滑らせる湊に壱樹は大声を上げ、霧凍は無表情ながら眼鏡の上げ下げをし、湊を凝視する。
「今日はカレーです」
「あぁ、金曜だもんな」
「いつもと、違う感じで、作りたいんです」
湊の決意は固かった。
「じゃあ、みんなの好みでも聞くか!」
◇
たまたま本土東響支店に来ていた理央と柳にカレーの好みを尋ねると、理央は嬉しそうに答えた。
「カレーの好みか!私は中辛だがガラムマサラを掛けるな!発汗作用がある。冷え性の改善だな。胃も元気にするし、食欲も増す」
「嬉しいからって買っても、ガラムマサラ1ダースは買い過ぎだろ。料理も下手くそな奴がそんなに買ってどうすんだ。オメーは勢いで行動しすぎなんだよ。くたばれ」
「くたばれとは言い過ぎだ!反省したまえ!」
「そういや理央の手料理食ったことはねぇなぁ」
壱樹が理央に師事していた時、大体外食だった。料理当番になると何処かのお惣菜になる。たまにデパ地下のグラム売りのお洒落な惣菜も食卓に並び、霧凍が箸を動かしつつ、不機嫌そうに飯を口に運んでいた。柳が理央の脇腹に軽いパンチを入れる。
「やめとけやめとけカレーがなんでコールタールみたいに黒くなるんだよ辛いか酸っぱいか甘いかの刺激と焦げの苦味で舌に纏わりついて取れないもげるような不味さ。肉は食いちぎれなくて獣臭くて何肉かわかんねぇし一口食った雪宗は幻覚を見て床の上でのたうち回った挙句……」
「肉は×××産だ!」
「だから何処だよ!」
胸を張る理央に間髪入れずに柳が突っ込んだ。肉の産地が聞き取れない。こうなると野菜もどうだかわからない。
「その割に柳は残さないよな」
「…………食材が可哀想だろ。料理人が違えばもっと美味い飯になっただろうに」
「理央さん、絶対台所に立たないでくださいねぇ」
頭の中で電卓を叩く。彼女が台所に立てばどれほどの食材が無駄になるだろうか。今度からはあまり口を出さないようにと霧凍は眉間を押さえる。
「柳さんはどうなんですぅ?」
「あァ!?」
霧凍に問われて見かけからは想像できないドスの効いた声を上げた柳が3人をねめつける。
「カレーの好みだァ?俺はなんでも食うね。こだわりなんてねぇよ」
「その割には外に行くと、甘口を食べているよね。最近」
ノートにさらさらとペンを走らせる湊が口に出せば、柳がプルプルと震え出す。
「うるせぇなぁ!歳が発覚してから味覚まで引き摺られてんだよ!忌々しい!」
怒鳴り散らす柳はいつものことだ。生暖かい視線を向ける壱樹と気の毒そうな視線を向ける霧凍に対しての照れ隠し。湊はさらさらとメモを続ける。
「トッピングは?」
「………チーズ。まろやかになるから」
親友に観念する。
【理央さん:中辛、ガラムマサラ】、【柳:甘口、チーズ】とノートに記入する。
「じゃあ、次に行くか!」
「待ってください。僕もいますよ?」
開きっぱなしの扉からひょっこりと顔を見せたのは雪宗だ。理央と柳の前にどっさりと書類を置く。山のような始末書だ。壱樹の顔が思わず歪む。一体この3人何をしたというのか。
「壱樹さん、湊くん。即刻離れましょう。どうせ甘口にフルーツジャム1瓶トッピングでしょう?聞くだけ無駄ですよぉ」
「それほど僕のことを理解しているなんて嬉しいですね」
無言で雪宗を押し退け、霧凍は先に部屋を出た。
「1瓶の人多いなぁ。蜂蜜も1瓶入れる人もいるんだ」
「馬鹿舌が他にいるのか。誰だ?」
「壱樹さん」
湊と柳の会話など壱樹の耳には入らない。ジャムへの興味が逸樹を突き動かす。
「ジャムは何ジャムだ?」
「リンゴンやブルーベリー、圧倒的に多いのは林檎ですね」
「リンゴン………林檎好きなのか?」
壱樹の問いに答えず、にこにこと雪宗は笑ったままだ。
「まーた意地悪しやがって。リンゴンベリージャム。こけももだよ」
見かねた柳が助け舟。
「へぇ、おしゃれだなぁ。北欧じゃミートボールにジャム乗せるし」
「雪宗はナンにでもジャムをつける」
壱樹と理央どっちにツッコミを入れるか思案し、柳は面倒くさくて放棄した。頭お花畑と脳みそ燃やしている奴だ。どう突っ込んでもダメージが跳ね返ってくる。
「君らがおみやげでくれるからじゃないですかぁ。壁一面を棚にしていますが全部ジャムですよぉ。骨董品を飾る余裕もない。柳くんは一定の時期にジャムを渡してくるから溜まるばかり」
「前の依頼人から林檎が今もめっちゃ送られてくるの、オメーも知ってるだろが。骨董品は減らせ」
「今度1瓶くれなー!」
「林檎はお前んちにいつも届けてる」
「ええ!?俺んちにも!?」
「腐らせたら勿体ねーだろ」
林檎は壱樹の好物で馴染み深い。
一定の時期になると壱樹の姉はアップルティーやコンポート、アップルパイをやたら作ってご近所さんにも届けていた。柳から貰った林檎だったのか。
「それでもお前の作ったジャムが欲しいからさ。よろしく」
「………物好きめ。で?湊、カレーのトッピングについてなんで聞いて回ってんだよ」
【雪宗さん:甘口、ジャム(特別・特にリンゴン・日本語でこけもも。後で調べる)】と書いていた湊が柳に声掛けられて顔を上げる。
「実は―――」
◇
多喜の前にカレーが置かれた。
「今日はカレーか」
もう一つ。横に缶が置かれる。ガネーシャが描かれた不思議な缶だ。真鍮のような色で掌サイズ。調味料なのはわかった。
「あ、それ。理央から貰ったガラムマサラ七味なんだわ」
マジマジと妙な缶を見つめていた多喜に声掛けたのは壱樹だ。霧凍と湊の席にカレーを置くと、多喜の横にニコニコとやってくる。
「辛さが欲しい時に理央が掛けているんだと」
事情を話して理央が湊に投げたのがこれだった。「気にするな!たまには刺激が欲しい時だってあるさ」と親指立てた。彼女は今もまだ始末書を書いている。
「きちんと七味屋さんで売られていたのだから安心してくれ」
「言われてみれば七味もスパイスだねぇ。和製ガラムマサラといえばそうだ」
「多喜、外で食う時は辛口だろ。ここじゃルーの調整は難しいけど、これを掛ければ辛くなるんじゃねぇかな」
「嬉しいけど、どうしてそれを………」
「湊が気づいた」
前に一緒にデパートに行った時に見られていたか。良く見ている、いや、成長している。
「そうか………」
「辛口食べれるようになったら、一緒に食べたいだってよ」
「楽しみのような、寂しいような」
「わかる、わかる。俺としちゃ甘口派が減っちまうと寂しいんだけどな」
「あ、真似したね」
多喜に指摘され、悪戯成功!!と笑いながら壱樹は椅子にどっかりと座る。
程なくして湊が霧凍を引き摺るようにして連れてきた。
全員、席に着くと手を合わせる。
「いただきます」
今日はカレー。
冷めないうちに召し上がれ。