急に寒くなってきた時期に思いついたお話です。
ドラルクさんに教えてもらって、小鳥の編みぐるみを作っていたヒナイチくん。出来た小鳥は…あの夏出会った、懐かしい『何か』になっていた。ドラルクさんは、それ竜と言い張るけれど?
皆でラーメンを食べて、うとうと懐かしい夢を見るヒナイチくんのシーンを追加しました。
2023/10/23に上げました。
@kw42431393
「ただいまー、何やってるんだ。お前達。」
「ああ、ロナルドくん。おかえり。」
「ロナルド、お邪魔してるぞ。」
「ヌヌヌリ。」
俺が依頼人との打ち合わせから、事務所に帰ってくると、同居人達が楽しそうにワイワイしていた。
何だろうな、周りに散らかっているのは毛糸と編み針だ。
「編み物か…マフラーでも編むのか?」
「フフ、皆お揃いのを編むよ。ヒナイチくんには、編みぐるみを教えているところさ。」
うんうん、唸りながら編み針を動かすヒナイチにドラルクが笑いかける。
つくづく『お前はこいつのお袋かよ』と、つっこんでやりたくなるな。
「ふーん、どれどれ。」
「まだ、途中だ。見ないでくれ。」
目の前に開いているページには、小鳥の編みぐるみが載っていた。
毛糸は紫…ね。そう思って、チラリとドラ公を見ると、頬を染めてプイッと目を逸らしてしまった。
隣でジョンもため息をついてる。長いつき合いだが、こういう所は未だにドン引きするぜ。
「えっと、こう…」
必死なヒナイチに何も言わずに、呆れていると、スマホの着信音が鳴った。
「もしもし、ヒナイチだ。ああ、半田か。…うむ、分かった。これから署に戻る。」
携帯を切ったヒナイチは、編みかけのぬいぐるみを持って床下に戻ってしまう。
これから、また署に戻るんだろうな。
「…。」
そして、手元の作業に戻るドラルクの顔は…なんとも表現しづらかった。
何だかなあ…。
「仕事なんだから、仕方ないだろ。」
「喧しい!何も言ってないったら!」
つくづくこういう所は面倒臭い奴だと思う。
「うーん。」
何度首を傾げても、どうにかなるものでもないのだが…私は昨日から編んでいた編みぐるみをくるくると回す。
「これ、どうしてこうなったんだ?」
署から戻ってからも、ドラルクに教えて貰った通りに、本に従って編んだ…はずなんだ。はずなんだけど。
「よお、ヒナイチ。出来たのか…なんだ、これ。ナメクジ?」
「う、うるさい!」
所謂、ヌイッターで『どうしてこうなった』タグ付きで上がっている…あれだ。
嘴にあたるはずの場所を、黄色に変え忘れたのは認めるが…頭の飾り羽は耳か二つの角に、足を付け忘れて地面にペタッと転がってしまう。
ナメクジと言われても仕方なかった。
「うー、途中まではうまくいってたのにな。」
「もう、あいつに編んで貰えよ。その方が確実だろ?」
そういう問題じゃないんだ。
時々、なんというか…料理でも裁縫でも女らしい事が出来ない事実に、もやっとする事があってな。
定期的に、ドラルクに教えて貰ったりしている訳だ。
「うんうん、私を頼るとは。さすが、ヒナイチくん。見る目があるよ、いつでも声をかけてくれ給えよ!」
そう言って、あいつも上機嫌になるし、私も割と楽しかったりする訳で。
それに…
「何故だろうな、何だか懐かしい気がしてだな。ほどきたくないんだ。」
紫色で、口が尖ってて、お腹が白くて、角が二つあって、のちのちしてる…
「何だ、竜じゃないか。」
「ヌュウ?」
急に後ろから聞こえた声に、私とロナルドが飛び上がる。覗き込んでくる主従の手には、買い物袋があった。
チラリと覗いているのは、チャーシューだった。そういえば、夜食にラーメンが食べたいと、ロナルドがリクエストしたんだっけ?
「竜だ?このビチビチしたのが?」
酷い言いぶりだが…うん、製作者もそれで頭を抱えているのだから、何も言うまい。
「来年が辰年だし、紫だしね。ね?そうでしょ、ヒナイチくん?」
「紫関係ないだろ?」
「あります~。この子は、私が竜に変身した姿をイメージして編ん…スナッ!?」
確かに、来年は辰年だが。
う~ん、何かがひっかかって…。
『我が血に宿る竜よ』
『ハムとチャーシューの区別もつかん系ガキめ』
「どうしたの?ヒナイチくんも食べるでしょ?」
キッチンから聞こえるドラルクの声と漂うラーメンの匂いに、思考が乱される。
まあ、いいか。食べてから考えよう。
「ああ!頂こう!」
「あと、その編みぐるみ貸しておくれ。後で、直してあげるよ。」
「ん…そうだな。」
なんだろう、さっきから断片的に思い出す声…お前とよく似ている気がするから。
「どうした?ヒナイチ、ナメクジでいいのか?」
「ナメクジちゃうわ、竜だって言ってるでしょが!」
「ヌーン?」
手の中の編みぐるみを覗き込む。
そうだな、やっぱりそうしよう。
「いい…ここまでしたんだから。この竜の面倒は、最後まで見なきゃな。」
それはそうとして。
編みぐるみを竜だと、私が言ったので…皆でラーメンを食べている時に、勝ち誇ってドヤ顔をしたドラルクが、ロナルドのチョップで塵になるのは、また別の話だ。
『兄さん、行ってきます。』
『何だ、もう日が暮れるぞ。あんまり、遠くはやめておけ。』
昨日の今日だけど、早い内に『ビチビチ』に礼を言いたくて。
お前がいなければ、血を吸われていたんだ、って。
助けてくれてありがとう、って。
拾ったのは私だから、私が飼ってやる。一緒に暮らそうって。
昨日、兄さんに肩車されて帰った道を逆に辿る。
走って、走って…チスイモリモドキが退治された場所は、霧も何もなかった。
昨日、一緒に出鱈目に歩き回った道を辿る。
あれ…かな?
『お~い!お前、あの時のビチビチだろ!?』
細くて黒い影に向かって叫ぶ。その影は振り向いて…
「…くん、ヒナイチくん。ここで寝ると風邪を引くよ。床下で寝なさいよ。」
優しい声に揺さぶられて目が覚める。
さっき、ラーメンを食べてお腹いっぱいになってうとうと寝てしまっていたらしい。
「どうしたの?なんかいい夢?」
フフっと、笑いながら、細い指で口元を拭われた。恥ずかしいな、涎を垂らしていたんだ。
「ん…なんだろう。忘れてしまったな。」
なんだろう、届きそうで届かない。もどかしいものが胸に沸いて…。
「さ、この竜を持ってお戻り。大事に最後まで面倒見てあげてね。」
「うん…座布団を縫ってくれたのか。ピッタリだな。」
「この竜、私に似てデリケートだと思うから。フカフカの座布団に座らせてあげようかと。」
いちいち、自分を重ねるドラルクに苦笑する。
でも、見れば見るほど似ている気がするな。実は、意識してたのかな、まさかな。
「じゃあ、行こうか。お前に似たぬいぐるみ達も待っているぞ。これからも、よろしくな。」
指先で頭を撫でる。鳥のはずが竜になった編みぐるみは、赤い座布団の上で誇らしそうに私を見上げていた。