@DangeSSReunioN
「知ってる知ってる?『開かずの武道場』」
「知ってる知ってる、『薔薇の決闘』でしょ」
希望崎学園でまことしやかに囁かれる噂がある。
「今はもう使われていない武道場に、何者かが出入りしている形跡があるらしいとか?」
「行われているのは、どうやら『決闘』らしいとか?」
当然、信憑性はない。
七不思議にも数えられないような、つまらない噂の一つだ。
「ちょっといいかい?君たち。その話、詳しく教えてくれよ」
――だが、何事にも物好きというのはいるものだ。
煉瓦積。
彼は希望崎学園の事件や事故を専門とする記者である。
人は、誰もが魔人になるわけではない。
そして、希望崎に起こる事件や事故の記事は、特に非魔人に高く売れるのである。
安全圏で味わう危険な非日常は、きっと、非常に甘美なのだろう。
――――――
「……ここか」
先ほどの女生徒に聞いたところ、『武道場』の管轄は『柳』という生物学教師に一任されているらしい。
私は、彼がいつも入り浸っているという理科準備室の扉を叩いた。
「ふぁい」
気の抜けた返事が響く。私は些か不安を感じながらも、努めて明るく挨拶をした。
「どうもーっ!わたくし、校長先生から希望崎の宣伝を任されております、大橋と申します!
今日柳先生のインタビューを予定していたと思うんですけれども!」
人の良さそうな笑顔を創り、嘘八百を並べ立てる。本名はもう知れ渡っており、馬鹿正直に名乗るとだいたい追い出されてしまうのだ。
「あー、はいはい。ちょっとお待ちくださいね……」
しばらくすると、無精髭を生やした痩せぎすの男が顔を出す。くたびれた中年、という風情だ。
「えーと、今日だったかな………。というか、そんな話聞いてたかな……」
「簡単な質問ばかりですので!お時間は取らせませんとも」
やや渋る様子の柳は、なにやらモゴモゴと口の中で呟いた。しかし、最終的には「どうぞ」と言って私を理科準備室に通してくれた。
希望崎でネタを探っていると同業者に言うと、大抵の場合、引かれるか馬鹿にされる。だが実際の現場は、案外こんなものだ。
危険な目になど、遭った試しがない。
――――――
「へぇへぇ、煉瓦さん……それは大変ですねぇ」
「そうなんです……。記事は安く買い叩かれるようになって……。生活も厳しいし、とにかく、ゴシップでも捏造でも、ネタを掴まないと、って」
私は目の前の男に、涙ながらに身の上を語る。
――あれ、俺は、何をしていたんだっけ。
「分かりますよぉ。もっと聞かせてください。もっと」
この男の声を聞くうちに、頭が、ボーッとして……。
「あれもこれも全て、あいつが悪いんです。あいつが……。あいつと関わってから、俺の人生は変わってしまった……」
「深く、もっと深く……」
「殺したい、あいつを殺したいんです。もう我慢できない。……殺す。殺してやる――!」
俺の心を憎しみが支配していく。
「良いでしょう――ならば、殺しなさい。あなたの欲望の通りに。聞きたいとおっしゃってましたね?……『薔薇の決闘』について」
柳がおぞましい笑みを浮かべる。だが、俺にとっては、天使の微笑みに見えた。
――――――
「単純なものですねぇ」
柳が、スキップしながら校舎を去っていく煉瓦を見下ろす。
柳の能力、『暗い夜からの脱出』は、ストレスを増大させる能力だ。誰かへの憎しみを増幅させれば、当然に対象は、ストレス源の排除に動く。
「プルス……君のための見せ物を、ひとつ献上するよ……!さあ、美しいかどうかはわからないが……君は、質より量!そうだろう?」
夕日に染まる理科準備室には、いつの間にか儚げな美少年が微笑んでいた。
「君には僕以外がいることも知っている……でも、僕が君を、一番に楽しませるよ」
彼らは、ただの仕掛け人。
『薔薇の決闘』の、舞台装置。
“役者”の君たちには、関係のないことだ。