続いている反転ドラヒナのお話です。この話の、ご真祖様とお嬢ルドくんのシーン(近づいてくる最後のピース https://privatter.net/p/10651252)から直接続いております。
どの世界線でも、孫と祖父・ロナルドくんとヘルシングは似ていると思うので、反転真ミナの関係も無理矢理から始まった事、ヘルシングが両種族が共生する時代を築く為に、ご真祖様と友人になった事、になっております。そして、捏造しかない設定にご注意下さい。
竜に変身したドラルクさんが、ヒナイチくんを乗せて城に帰るシーンを加筆しました。
2023/10/30に上げました。
@kw42431393
『信じてくれないの?私は、ミナと対等でありたい。ずっと、そう思っていたのに。』
『…君はそのつもりだろうな。そのつもりで、いつか僕を吸血鬼にすると言っていたんだよな。でも、今の君には無理なんだ。鏡に映らないから、見せられないけど。その目は、対等な相手に向けたものじゃない。』
そう言う君の顔色は、ますます私達に近くなっていく。
まだ間に合う、竜の血族の真祖である私なら。
君を吸血鬼に出来る。母親としてだけでなく、同胞としてこちらの世界に永遠に留めておける。
君だって、最近、私を『嫌い』だと言わないじゃないか。
だから、意志を無視して、死にゆく君の首筋に牙を突き立てる。あとは、私の血を打ち込むだけ。
『吸血鬼になっても、僕と君は対等になれない。僕も君と対等になりたかった。だから…』
全部、吸ってくれ…対等どころか、神様すら僕達を離す事は出来なくなる。
その言葉に打たれた私は、自分の血を打ち込まなかった。虫の息の君の血を全て吸い尽くした。
その時の姿は、恐らくこの世で最も美しいもので、500年経った今でも鮮明に思い出せる。
『ごめんな、これが僕の呪いだ。僕から誇りと自由を奪った君への。最強の夜の子は、永遠に僕のモノだ…いや、僕自身だ。もう君には、誰も襲う事は出来ないはずだ。』
ニイと口角を上げたその顔は、何故か私によく似ている。そう思って見ていると、後ろで生まれて間もない息子が泣き出した。
残酷無比な串刺し公と吸血鬼殺しである彼女との間に生まれた、ドラウスと名付けたダンピール…当時の我が子への認識は、その程度だった。
成長してどれほど素晴らしい力を見せてくれるのか、という興味しか…当時の私は持っていなかった。
そのはずだったけど…
『ドラウス、お腹が空いたのか?待っててくれ、お母様が今…』
そう言って、黙ってしまったミナの瞼を閉じさせた。慌てて、私は泣き止まない息子を抱き上げる。
突き上げる衝動のまま、柔らかい赤子に頬擦りをした。そんな気を起こしたのは、この時が初めてだった。
『おい、誰か!』
『ひっ!!×××××様!お坊ちゃまの…』
『そうだ。ドラウスの乳母は、どこだ!?早く連れて来い!』
その時、急に彼女から言われていたお小言が脳裏に浮かんだ。
『お前は強面だし、最近まで恐怖政治をしていた元独裁者だ。せめて、人を怖がらせない言葉遣いをしてみたらどうだ?素の喋り方も、唐突で端的過ぎてどうかと思うけど、皆に対しては高圧的過ぎるぞ。』
『吸血鬼には、畏怖欲がある。やらないよ。これだって、以前思わず素が出た時に、ミナが笑ってくれたからしてるだけ。』
『君は、領主だろ?怖がらせてどうするんだ。僕限定じゃなく、皆にも優しくしろ。』
恐怖政治を辞めたのは、君が嬉しそうな顔をしたからだ。言葉遣いだって、ミナの怯えた顔より笑った顔が見たかったから。
ただ、その一心だった。君がいなくなったなら、どうでもいい。
そのはずだけど。
『…来い?…連れて来て…欲しい…で…す?』
『え…は、はい。お待ちください…ませ。』
彼女の血を吸って、私と彼女は一人となった。いつしか、私の人格は変わっていった。
退屈しのぎに誰かを襲おうとしても、どこかで『やめろ!』という君の声が聞こえる気がした。
怯えている相手を見ると、振り上げた手を止める様になった。
相手を怖がらせない様に努力をしていると、彼女の呆れた様な笑い声が聞こえた気がして…。
相手を怖がらせない様に試行錯誤している間に、身に沁みついて…今の性格になった。
だから、ドラウスもドラルクも本当の私を知らない。
私がかつて退屈なだけで、他国まで飛んで行って同胞も人間も虐殺して、喰らい尽くして、それを止めに来た勇気ある女性に執着して…嬲り尽くして、子供まで産ませた最低な男だと思いもしていない。
実を言えば、孫の問題行動に若い頃の自分の影を見たけれども、幸い、彼は不死身ではなかった。
いつか限度がくるはずだから、放っておいた。
それから、どれだけ経ったっけ…。
『はじめまして、竜大公。』
眼鏡をかけた恰幅のいい中年の男性…初めて出来た私のマイフレンド。
品よく笑って、手を差し出してくれた勇気ある紳士。
『ハワユー!よく来てくれました、歓迎シマース!座って、座って!今、イギリスから取り寄せた、いい紅茶を…』
『はい、頂きましょう。ところで、×××××さん。さっきから、無理しなくていいんですよ。』
思わず、ずっと被って来た仮面が剥がれる。かつて恐れられた串刺し公の顔に戻っていたと思う。
なのに、彼の顔は穏やかだった。
『ふうん…どういう意味?』
『私は、貴方と友人になりたくて来たのです。私は全ての吸血鬼と友人になりたい、それには最強最悪の貴方から始めるのが一番だ。貴方が今私を殺そうとしても、恐ろしくありません。』
『そう。こんな風…にっ!?』
竜に変化させた鋭い右手を振り下ろす。しかし、彼は何でもない様に躱してみせた。
舞踏会で女性をエスコートするかの様に、軽やかに優雅に。
『そういう野蛮な事は辞めましょう?』
『そうだね。アポを取ってまで、私に会いに来たのは何故だっけ?』
『貴方と友人になりたいから、です!そして…』
彼は、そこで屈託なく笑う。
二つの種族が共生する時代の礎を築く為に、貴方達に協力して欲しい。その契約を取り付ける為に来ました…と。
「さすが、ヘルシング様ですわ。そのお時代は、今とは比べ物にならないぐらい、お吸血鬼さん達と私達の関係は、酷かったと聞いておりますもの。」
目の前の青年が、紅茶に口をつける。日本の新横浜からやってきた、吸血鬼退治人。
東欧をヒッチハイクして語学研修をしている男。
私に怯えずに、この喋り方が作ったものと見抜いた、どこかマイフレンドに似ている男性…なのかな。
変な喋り方をするね。
「そ。実は、その当時の私は別に親人間派ではなかった。ドラウスは、狭間の子だった時期もあったから。ミラは、吸血鬼が生きていくには人間と関わる必要性があると、考えていたから…そういう理由で、両種族の関係調整に奔走してたけど。私は、別に熱心じゃなかった。」
その二人にしても、愛息子が不死身でない事が分かってから、心配で心配で。
今や、ほぼそちらの問題には関知していない。
孫は甘やかされ過ぎてグレちゃって、反人間派の同胞とヤンチャばかりしている。
私は私で、真面目な息子に丸投げして遊びまわっていた。
誉められたものではなかったよね。
「さっきも言ったけど、君はマイフレンドに似てる。変な喋り方だけど。ロナルドくんは、男じゃないの?」
「まぁ、変とはお失礼ですわ。私はお嬢です!」
「ふ~ん、昔から?」
「さぁ?そこは覚えておりませんの。いつの間にか、この様なお感じでしたわ。」
頬に手を当てて、首を傾げる姿は上品だった。おネエはよく聞くけど…まぁ、人それぞれだし。
私のミナも当時としては珍しい『僕っ子』だった。
白い羊膜を被って生まれてきた吸血鬼殺しとして、抜きんでた戦闘力の持ち主として、周りは期待をしていたけれども、そこはいい目で見られていなかったらしい。
「でも、職業柄良かったと思いますわ。女性の方のお気持ちも多少は察しもつきますし、男性にはご遠慮するお内容でも、私には心安く、ご相談して頂けます。」
そうかもしれない。だからこそ、これから私が相談する内容もしやすいかもしれない。
「ねえ、ロナルドくん。私は君が気に入った。君の望みを叶えてあげたい。」
「それは光栄ですわ。」
「君は、世界中の吸血鬼と人間が共生する時代を築きたい…そう聞いている。私なら出来るよ。」
それを聞いた時、彼の眼付が変わった。当時のアルミニウスにも同じ言葉をかけた。
彼の返事は…
『ありがとう。でも、それは丁重にお断りします。』
「ありがとうございます。でも、それは丁重にお断りしますわ。」
にっこり笑った青年の顔に、かつての友人の影を見る。
ああ、やはりそうだ。
彼なら孫を頼める。
初めての友人になって貰えるかもしれない…あるいは、ドラルクも彼を気に入るだろう。
ドラルク。皆、首を傾げるだろうが…お前は、若い頃の私とよく似ている。
だから、ドラウスから聞いている吸血鬼対策課のお嬢さんに…私がミナにしたのと同じ事をしているはずだ。
お前はそのお嬢さんを心から愛していて、彼女を危険から守る為に、駕籠の中に閉じ込めて、彼女に自分を好きになってもらう為に奔走している…つもりなのだろう?
「竜大公様。貴方と契約し、一言『人間と仲良くしろ』とお号令をかけて頂ければ、皆様、そのおカリスマに従うでしょう。ご自分のお意志を曲げてでも…仮に、反吸血鬼派の人間達にお虐殺されても。」
『…私が、望むのはそうではありません。その齟齬を埋めるのが、擦り合わせをする為の、話し合いなのです。』
「『時間がかかっても構いません。私が生きている間に実現出来なくても、次の誰かがしてくれる。お互いが納得した上で、共生の時代を作らなければ意味がありません。✕✕✕✕✕、貴方達には、私達が同じテーブルに着く機会を作って頂きたい。双方の犠牲者が少なく済む為の情報提供や、好んで事件を起こす者達の更正プログラムの確立に、ご協力頂きたいのです。』」
このやり方は、時間がかかる。それでも、反人間派の勢力は激減し、せいぜい事件があっても、小競り合いか地域的なテロリズムまで縮小した。私がアルミニウスと出来たのは、そこまでだった。
「ところで、竜大公様。貴方が私に頼みたい事とは、何でしょう?」
「ウッフフフ、さっきの言葉で確信したよ。ロナルドくん。君なら…いや、私が頼みたい。」
背を屈めて、青空の様な瞳を覗き込む。
その瞳には、迷いがないから。
「新横浜にいる、私の孫とその監視員の女性に、会ってあげてくれる?」
思ったより早く済んだな
ため息をついて、私はもう一つの任務に向かう道を歩く。道すがら、向かう先に連絡を入れた。
無機質なコール音が、何故か心地よい。
さっき、下等吸血鬼の駆除と避難させていた市民を帰して来たところだ。
本当はもっと時間がかかる予定だったのだが…裏で動いているはずの高等吸血鬼達の姿はなかった。
仲間割れや離脱した者がいたのかもしれない。
『もしもし。ヒナイチくんかね?』
「ああ、ドラルク。今から、そちらに向かう。思ったより、早く終わったんだ。」
「それは、何より。」
背後から降ってくる、低い声に振り返る。
そこには、大量の買い物袋を念動力で浮かせたドラルクの姿があった。いつも肩にいるマジロの姿はなかった。
そういえば、今日はフットサルの試合で出かけると聞いていたな。
「わっ、お前。人が悪いぞ。」
「君が遅い予定だったから、買い出しに来ていたのだよ。一緒に帰ろう。」
携帯を懐に仕舞いながら、笑う顔は妙にはしゃいだ子供の様にも見えて…私は、彼のこの顔が嫌いではない。
「帰ろうではない!私は、仕事で行くんだ!」
だが、素直でない性格でふいっと顔を逸らしてしまう。
実質、ほぼ寮に戻ってない。
「そろそろ『ただいま』と言っておくれ」と言われるが…それを認めるのは、あの事件に同意した事の様に思われて、無理矢理、夜の世界に引きずり込まれそうに思われて…私にとっては、恐怖だった。
「フフ、怪我もなさそうだ。」
「うむ。裏で動いているはずの実行部隊の連中が、いなかったのでな。荒事も少なかったのだ。」
「クックック…そうだろうね。」
そうだろうね、とは引っ掛かる言い方だ。『いなかった事』を知っていたかのような。
「あと、その目立つ格好をなんとかしろ。時々、周りの視線が痛い。せめて、人目につかない様にして帰るとか、考えないのか。」
「分かった、道を変えよう。それにしても酷い事を…。今ある食材の9割は、君のお腹に収まる為に、買った物だというのに。」
裏道に向かう彼を追う。
血の濃い彼はこれらを食べないし、ウェイトコントロールをしているジョンも、たいした量を食べない。
胃袋を掴まれているのは図星だ。返す言葉がない。
「う、うう…分かっているが。お前は、元反人間派に属していた危険度Aの吸血鬼、という自覚があるのか?」
「あるとも。だから…」
ぐいっと腰を引き寄せられる。ふわりと、お香の様な匂いが鼻腔をつく。
無理矢理から始まったとはいえ、慣らされた体は、こんな時でも次を期待して…疼くのが、情けなかった。
「よ、よせ!人前で…あんっ…!?」
「そう、人目がなくなるのを待っていた。君の勤務査定に響くと困るからね?」
チュッとリップ音と共に、唇に湿った感触がする。慣れた様に侵入してくる舌を受け入れる。
自分からは返さないのが、喜んでいないと示すのが、誇りを奪ったお前への反抗だ。
「ふっ、く…んんっ!」
クチュと音を立てて、それはやっといなくなる。
息を整えて見上げると、ドラルクは妙に安心した様な顔をしていた。
「…本当に無事で何よりだ。さあ、帰ろう?」
「…お前の城に『帰る』のではない、あくま任務で『行く』んだ。いつ、お前が人間に害を及ぼす側に戻るか分からないから。」
ビキビキと音を立てて、私を抱えた手が鱗で覆われたモノに変わる。
バサリと大きな翼の音が鳴ったと思ったら、私達は夜空を舞っていた。
『こうして乗せるのは、ジョン以外では、君が初めてだよ。』
そう言ったのは、いつの事だっただろう。
竜に変身したドラルクの背中から見下ろす、この街は美しくて…大勢の人達の行き交う姿が、見える。
この風景を守る為に、吸血鬼対策課に入ったんだ。
時々、ドラルクに空の散歩に誘われて、この風景を見下ろす度、私はそう決意を新たにする。
「よかったよ、疲れた顔をしていたのでね。君のその顔を見るのは、楽しい。」
「うん、ありが…」
「ん?何だね?」
「疲れたのは、誰のせいだと…思って。」
疲れたのは、昨夜のこいつがしつこかったのもある。思わず、『ありがとう』と言いかけた言葉を飲み込んだ。
「お前は、あの後棺桶で眠ればいいが、私は仕事があるんだ。」
「だからだよ、すまないね。私は、君に対して自制出来ないらしい。お詫びを込めて、城に帰ったら、特別腕を振るわせて貰うよ。」
「そうしてくれ…この景色も見せてくれたんだ。許してやる。」
ドラルク自身は、私を慰めるつもりでこうしているらしい。
私を一番傷つけている男が、妙な気遣いをする。しかも、それを理解していない。
種が違うから仕方ないのだ。しかし、その認識の違いからくる溝は大きかった。
それが、当時の私を恐怖させ、憎みながらも、彼から離れがたくしていたのだと思っている。
「ところで、半田くんから聞いていないかね?」
「何の話だ?」
「退治人ロナルドが、近々帰国するらしい。」
全ての吸血鬼と友人になるのが夢だという、変わった男の事か。
彼が退治人と吸対の仲立ちをしていた頃は、問題解決がスムーズで、この町の治安は、今より良かったと聞いている。
「楽しみだね…これで。」
姿の変わった彼は、そこでニイと笑う。冷や汗が背を伝うのが、分かった。
人ならざる者から逃げない選択をしたとはいえ、未だにこれは慣れないものだ。
「…君が心置きなく、私の元に来れるかもしれない。」