人魚姫ドラヒナのお話で、このお話から少し時間が経ったお話です。(初めまして?/いいえ、お久しぶり! https://privatter.net/p/10687923)
カズサ王とタコルクさんが新たな契約を結び、その関係で人魚姫みっぴきの関係にも変化が生じます。そして、ロナルド王子と会話した事で、無邪気なヒナイチ姫の心境に変化が生じ、一気に成長していきます。
今回は、カズサ王とドラルクさんが、あの後どんな事をしていたのか、という舞台裏ですね。
陸と海を繋げる計画に、深海も影響しない訳がないので、遅ればせながらドラウスさんにも出てきて貰いました。捏造設定で、ドラウスさんは下半身がサメタイプの姿で、変身するとミツクリザメになって貰います(アンテナっぽい強い深海魚が思い浮かばないので)。強大な魔力も有しているけど、最終的にはグーで解決するので、自身が生き延びる為に術を磨いてきた息子には魔力で追い抜かされている、設定です。
ミラさんは、下半身がダンボオクトパスになって貰いました。メンダコとはルーツが比較的近いし、最大1.8mの巨体に、捕食者としても割と強いみたいなので。強大な勢力と魔力を有した魔女です。
前の話に出ていた、深海に住まう竜はご真祖様です。ただ今、冬眠中なので深海は静かです。起きると、海底火山が噴火したり、嵐が起きたり、あちこちではしゃいで深海の者達の気苦労が絶えないので、皆起こさずにそっとしている、というイメージで。
ノースディン師匠は、下半身がラブカタイプになって貰おうかと思っています。元々、人間からこちらに来たもので、ロナルド王子と交易を始めた頃、弟子に苦言を呈してたりしてたんじゃないか、と思ったり。他に、強い捕食者が浮かばなかったのと、ちょっと陰湿そうな見た目で選んでます。ファンの方、すみません。
2023/11/04に上げました。
@kw42431393
どんなに身辺に変化があろうとも、決定的な何かがあるまで、日常は勝手にやってくるものだ。
決定的な何かはあったとしても、乗り越えればよい。元々…
「ドラルク、今日のおやつ…いや。」
「いらっしゃい、ヒナイチ姫。やっぱり、違和感あるよね?」
「おやつは?」が、もはや口癖になってしまったお姫様に笑いかける。
そう、これからは違うのだ。
「監視と護衛…に来たのでしょ。ここに来るのは、お仕事。カズサ王の直々の命令だもの。さぁ、アップルパイも焼けているよ。食べ終わったら、ちゃあ~んと私がプロジェクトを放って逃げ出さない様に、誰かに襲われない様に、監視と護衛をしておくれ。」
幼い頃から病魔と隣り合わせだったのだ、今更だとも…。
「先日、陸から帰ってきたら驚いたぞ。兄の破天荒さは、今更だがな。」
「その節は、お使いご苦労様。一海国王直々の依頼だったからね、手が離せなくて。でも、楽しんだからよかったでしょ?」
「うん!ロナルド王子と屋台を回ってな。これと同じお菓子も食べたぞ。でも、やっぱりお前が作った方が美味しいな!」
実は、多少不安はあったのだ。彼女を陸に行かせて、ロナルド王子に会わせるのは。
でも、最近サンズ姫と婚姻した既婚者だし、クソがつく程真面目な男だ。
本物の恩人が現れても、動揺はするがサンズ姫を捨てる真似はすまい。どちらかを側室にするなんて、考えもしないだろう。
それに、彼とはつき合いがあるので、女性の好みは知っていたのだ。
『真面目な奴だな。それに弟がいたら、こんな感じかなって思ったんだ。』
戻ってきたお姫様のその一言で、私も安心したのだ。
これから、カズサ王との契約の関係で、頻繁に私達はシンヨコ王国に姿を見せる。
そして、ロナルド王子と妃となったサンズ姫が、こちらにやって来る事も多くなる。
『今度、サンズ姫にも会ってくれって言われているんだ。聞けば、年もそんなに私と変わらない。楽しみだな!』
こんな調子だから、恋の鞘当てになりようもない。
丁度、サンズ姫が一時帰国している時期だったので、王子との顔合わせがよけいに上手くいったのだと思う。
『魔女ドラルク、俺と契約を結ばんか?』
カズサ王の含みのある笑顔を思い出す。勿論、一番の理由は、サンゴ礁で流行っている疫病の治療薬の調剤だったが、私の悪事を知った上で、乗り込んできたのだ。
人魚達を誑かして、陸へ行かせ、捨てて行った下半身の肉で生き長らえていた事。
あわよくば、王族のヒナイチ姫の肉を喰らおうとしていた事…情が移って出来なくなった現在、企んでいた事も。
『契約の結果次第では、俺をお義兄様と呼ばせてやっても構わんぞ?』
断れるはずがない。彼女が成人して他国に嫁入りする前に、なんとかこの体を治して、誰の目も届かぬ場所へ逃げようとまで思いつめていたのだ。
それが、堂々と娶る事が可能だという。従うしかない。
「惚れた弱みを盾にするなんて…酷いお義兄様だ。」
「おいしい、おいしい…魔女、何か言ったか?」
「…何でもないよ。」
カズサ王の持ち出した契約とは、彼が常々考えていた計画に、協力する事だった。
私は元々、魔力や薬の力を使って、陸の者をこちらで、海の者をあちらの世界で暮らせる様に体を作り変える事が出来た。『お試し用』として、24時間の時間制限付きのものもある。
『俺は、海と陸の国民が、自由に行き来できる様にしようと思う。閉鎖された俺達の文明は、いつか退化していくかもしれん。あるいは、人間達の文明が進歩し、こちらの世界に乗り込んで来るかもしれん。そうなってから揉めるより、いっそ早い段階で、親交を結んでおいた方がお互い面白いだろうと、考えていてな。とりあえず、人外達にも開放的なシンヨコ王国を窓口にする…あんたが誑かした同胞達も、かなりあの国に送り込んだらしいじゃないか?彼らの帰郷も叶うはずだ。』
今まで誰も考えなかった事業だ。
シンヨコ王国はヒヨシ王がやり手であるが、国民全体はのほほんとしており…チョロい所がある。
とはいえ、私はあくまで個人として、陸の珍しい食材や魔術・薬の材料となるサンプルを、深海の資源と交換していたのだ。
それを、誰もが出来る様にしようという。
『さぁ、魔女殿。どうする?あんたも命がかかってる、無理強いはせんぞ。』
誰もが行き来できるなら、無理に人間になる必要はない。人間も無理に人魚になる事もない。
これまでに人間から人魚にしてやった者も、彼らとの間に生まれた混血児達も少なからずいるのだが…彼らの肉は私の望む効果を持っていない事は、実験して知っていた。
だから、もう合法的に純粋な人魚の肉は手に入らない。持っている人魚の肉は、もう残り少ない。
これに慣れた今となっては、かつて自分で調剤して飲んでいた前の薬なんて気休めでしかない。
分かっている、自分の首を絞める事は。それでも…
『お引き受けしましょう…カズサ王』
私は、ヒナイチ姫を取った。ここを逃せば、もう彼女を手に入れるチャンスはなくなる。
だから、カズサ王の事業に協力する旨の契約書に、サインをした。
『やはり、そうきたか。これで契約成立だ。そして、ヒナイチはあんたの監視員、護衛として、毎日通わせよう。将来的には、夫婦となるんだ。色々、教えてやってくれ。』
教えてやってくれ…か。ますますもって、喰えない男だ。
私が亡くなってから、その技術が失われると意味がない。
だから、何も知らないヒナイチ姫に覚えさせようというのだろう。
そうと分かっていて、私がその契約を引き受けたのは、出口が見えてきたからだ。希望がない訳ではない。
ロナルド王子がサンズ姫と婚姻した事で、私もサンガ国に足を延ばしやすくなる。
そして、二人を結ぶきっかけを作ったのは私達だ。そこまで邪険に出来まい。
サンズ姫が一時帰国したのは、おっちょこちょいなあのお姫様が、嫁入り道具の国宝を忘れて来たからだ。そして、この前それを持って、シンヨコ王国に帰国してきた。
その国宝を借りる事が出来れば、私がサンガ国に行く事が、出来れば…。
「ドラルク、もう一つアップルパイ貰っていいか?」
「これこれ。ジョンとロナルド王子達の分を、残しておきなさいよ。」
無邪気な声で現実に戻される。いつもは、一人と一匹占めだったのだ。
ついあるだけ食べてしまう様になったのだろう。
「そっか、忘れてた。今日、ここに来るんだっけ?ジョンが、迎えに行ってるんだったな。」
「そうだよ。だから、少し浅い所に別宅を持たせて貰ったのだ。水深200mは、それでも彼には厳しいかもしれないけれども、本宅よりずっと体の負担も軽いはずさ。」
「そうだな。200m以上も水深が変わると、私の疲れも違うみたいだ。」
私の元々の住まいは、水深400m以上の険しい岩場にあった。浅い所が体に合わないというのもあるが、何より職業柄、敵を作りやすかったからだ。しかし、今の私はイナ海国専属に雇われている。
これまでしていた、後ろ暗い仕事はする必要がなくなる。
必要なものは揃えてもらえるし、そもそも、戦闘力がトップクラスのお姫様に守って貰える。
重要な物を取りに戻る以外、あの本宅に必要がなくなっていくだろう。
それに、本宅にいた頃だったら、そろそろ眠そうにするお姫様がまだ元気そうだ。これで、よかったのかもしれない。
「なぁ、魔女。」
アップルパイを食べたヒナイチ姫が私に呼びかける。
少し上目遣いで、何かを言いたげな幼い仕草に頭を撫でてやりたくなる。
「どうしたのかね?お姫様?」
何かあっただろうか。一応、カズサ王にはこれまでやってきた悪行を秘密にしてくれる様頼んであったはず。陸に行った人魚達には、私の名前を出せない様に魔法をかけてある。
バレているはずは、ないのだが。
「…うん。やっぱり、いい。今は忙しいもんな!」
「全然、大丈夫だとも。言ってご覧?」
「うん…お前と結んだ契約をな、新たに更新したいんだ。」
あぁ、忘れていた。
カズサ王と契約した内容には不安もあったが、彼女を手に入れられるという点で、浮かれてもいたのだろう。
「そうだね。毎日、私の元にお菓子を食べにくる様に…いう契約は無意味になる。うっかりしていたよ。」
「いや、そうじゃない。その契約は、そのまま置いててくれ。このプロジェクトが終わっても、私は…。」
それなら…知らないのかもしれない。
これがうまくいったら、深海の魔女の元に嫁入るという契約を結んでいる事を。
「…ロナルド王子と会ってな、私なりに決めた事があったんだ。でも、私が知らない所で色々進んでいて…それを後回しにするしかない、とは思うんだ。だから…後でいい。」
にっと笑った顔に迷いはなかった。
陸に行ってから、彼女は堂々とした気配を纏う様になり、さらに美しくなった気がする。
私が思っているよりずっと早く、この子は大人になるのかもしれない。
いつもローブの中で幸せそうに眠る、甘えた顔を思い出す。
それが変わってしまうのかもしれない。目を離した隙に、遠い所に行ってしまわないだろうか…ゾッとするものが、背筋を走った。
「…そう。」
「うん、でも。私が更新したいと思っている新しい契約と、お前の望みは、たぶん同じか近いはずだと、思ってる。だから、そんな顔をしないで…」
ロナルド王子、サンズ姫、こっちだヌ。暗いから気をつけてヌ。
『なんか、違和感あるなぁ。あいつが作った薬で、自由に息が出来るたってよ。制限時間付きだろ?普通に怖いわ。』
『水中で言うのも変ですが、ジメジメした所ですね。なんだか、不気味過ぎますよ。』
『人間に化けて来ていたから、俺も知らなかったんスけど。正体が、タコなんだそうですよ。どおりで、借金取りみたいな極悪面だとは思ったん…痛った!!ゴメンって、ジョン!貝で挟まないでくれよ!!』
『にゃー!ロナルド王子、大丈夫ですか!?』
玄関から、賑やかな声が聞こえてきた。
「あ、ロナルド王子。それにサンズニャン。」
「サンズニャン?」
「あぁ、彼女は本で見た猫みたいだろ?一昨日、顔合わせした時に仲良くなったんだ!!」
そう言って、ヒナイチ姫は尾鰭を振って彼らを迎えに行く。ゴボリ、と嬉しそうに泡の音が続いた。
私も溜息をついて、後を追う。
ちらりと、調剤室の箱の見る。残り少なくなった、命を繋ぐ人魚の肉が入った箱を…将来への不安はある。
近づいてくる死の恐怖も…それでも。
『いらっしゃい、ロナルド王子。サンズニャン。アップルパイが、あるぞ!』
『おー、ヒナイチ。人魚の姿は、初めて見るな。そっちのが、やっぱしっくりくるぜ。』
『こら、勝手に懐くなです!『いらっしゃい』って、実家かよ!サンズちゃん達は、ヒヨシ王の命令で来たですよ。』
『ヌフフフフ。ヌー、ヌッヌヌヌーヌ!』
「さて、私も行こうか。こんなに賑やかなお茶会は、生まれて初めてかも。いや、これから何度もあるのかな。」
そうだ、乗り越えればよい。
これまでやってきた様に。
ここまで来たのだ。今更、もう引けない。引く気もない。
望みが叶う見込みがある、今となっては。
「お父様、ご無沙汰しております。」
「ドラルク~、連絡くれて嬉しかったよ~!パパに頼みたい事って?」
猛スピードで玄関に飛び込んできたミツクリザメは、私の前で本来の姿を現す。がっしりとした体格に豊かな白髪を靡かせ、(息子がいなければ)精悍な顔つきに、威風を纏った佇まい。
深海に住まう竜のただ一人の息子で、私の実父に当たる人物だ。実家は深海でもかなりの領海を有しており、各地の領海の当主達との顔もきくのである。
今回の計画では、人間達が深海まで足を延ばしてくる事も増えるだろう。そして、私が個人的に交易に使っていたのとは、比べ物にならない程の資源と利益が動くのだ。無論…というより、閉鎖的な深海だ。有力者達からの反論は避けられまい。だから、その仲立ちを頼む必要があったのだ。
「はい、この度のイナ海国と大きな契約…イタタタ!ほどほどに願いますよ。」
サメ肌の父に頬ずりされて、ヒリヒリと全身が悲鳴を上げる。
元々、大恋愛の末にダンボオクトパスの女性との間に生まれたのが私だ。その上、病気持ちとあれば、子煩悩も無理は…いや少々困っているのだ。
私は、もう208歳だからね。確かに、魔女として売り出し中の頃は、実家におんぶに抱っこだったのは認めるけれども…今や、実家とは距離を置いている。
幼い頃から、自分の体を治したいという執着に取りつかれた私は、魔女として頭角を現し、今や、実家に頼らずとも、たいていの事は実行可能だ。むしろ、魔術の調剤に使う材料は、正攻法では手に入らないものが増えてきた。どうしても、後ろ暗い連中とのつき合いが多くなる。
実家に迷惑をかけない様に、シンヨコ王国に輸出する資源の採掘以外は、避けていたのだ。
でも、今回ばかりはそうはいかない。
「それは…確かに途方もない計画だ。お父様も努力はしてみるけれども、たぶん簡単にはいかないと思うよ。」
「特に、北海の氷笑卿は…ね。猛反対されるでしょう。」
「そんな言い方しないでやっておくれ。人間を毛嫌いする彼には、彼の事情があったのだよ。」
「お父様の魔力で、こちらに来たのでしたっけ。人間だった頃に何があったのか…どうでもよい事ですがね。」
「また、そんな事を。ノースは、お前が独り立ちしてからも、気にしているのだよ。特に、ロナルド王子とつき合う様になってから、行動範囲が増えたから。」
さっき言った氷笑卿…ノースディンは、私に魔術を教えた師匠だ。父の親友で、私とは叔父の様な間柄だが…
「彼とは、どうにも馬が合わない…というだけです。全ての領海の者達に、了承を得る必要はありません。でも、広ければ広い程いいのです。私達は問題なく、人間達と我々が行き来できるシステムを構築する事に徹します。お父様も、近々カズサ王との会合をお願いしますよ。」
最低限の打ち合わせだけをして、私は父と別れた。少しでも早く、この計画を終わらせて、治療薬の作成にかからなければ。
手に入る範囲の物も手に入れておかなければ…冬眠中のお祖父様の鱗を頂いて、私自身がサンガ国に行く事を考れば…サンズ姫から国宝も借りなければならない、その時の為には私自身、彼女とよしみを通じておいて…
「ドラルクや…。」
心配性の父は、まだ何か言いたそうだった。
『危なくなったら、いつでも帰ってきておくれ。お父様もミラさんも、お前の事は全面的に応援しているから。』
読心術を使うまでもない。そして、手持ちの人魚の肉が減っている事が分かると気を揉むに違いない。
「それでは、私はまだやる事がありますので。また、後日。」
だから、猶更冷たく、その心を振り払う様に、背中を向けた。
冬眠中のお祖父様に代わって、深海のパワーバランスを保ってくれているお父様に、元々私が住みやすい世界を築く為に、正道を進んで来られた貴方の顔に、これ以上泥を塗る訳にはいかない。
「お父様、お母様、待ってて下さい。今回の事で、今まで行ってきた悪事も清算してみせます。堂々と足を洗う事もできますし、心配の種も治して、可愛いお嫁さんを連れて…その時こそ、今までも分まで孝行させて頂きます。」
今思うと、私は浮かれていたのだと思う。
それに、知識としては知っていたが、私自身は、領地経営に携わる事なく生きてきた。
仮に、両方の世界の者達が行き来出来る体にする事は出来ても、その環境を作るのにどれだけの時間と労力がかかるのか、理解していない所があったのだ。
そのズレが、ここまで自分の首を絞める事になろうとは思っていなかったのだ。