グエスレ現パロ転生シリーズ③-1 スレッタからのメッセージに返信しないまま、一週間が経とうとしていた。かつての"約束"との間で揺れ動くグエルはーー。グエルside。
@CChacoru

スレッタからのメッセージに返信しないまま一週間。俺は学園で彼女から逃げ回っていた。
彼女は――当然だな、俺が突然態度を変えた訳を知りたがっていた。
はじめは教室。
次は生徒会室。
校門、下駄箱。
彼女の知る、学園のありとあらゆるところを待ち伏せされ、大声で名前を呼ばれ、俺は用があるだの今は無理だの、言い訳と呼べるかどうかも怪しい文句で彼女を周囲のクラスメイトに押し付け、接触を断とうと試みた。
その試みは今のところ功を奏していない。
それどころかお陰で噂になりつつある。
「彼女だのストーカーだの…」
眉間を揉んで下校チャイムとともに席を立つ。
幸い今回はまだ出待ちされていなかった。
俺の行動が彼女をストーカー呼ばわりさせていることに当然罪悪感はあった。だが、ならどうしろっていうんだ。
正直には話せない。
お前を守るため、お前と接触しない約束をしているなんて。
それに彼女の、真っ直ぐ心の中心を突いてくるような眼差しと対面すると、どうしようもなく心がざわつく。落ち着かなくなる。
自分でも分からない。
俺は逃げていた。
それは分かっていた。
更衣室でジャージに着替えた俺は、懇意にしている用務員から仕事を任され――否、半ば強引に奪いとり、名前も知らない植物の苗ポットの山を抱えて温室に向かった。
この学園には温室がある。
金は余るほどある学園だから、他の学び舎にはない変わった施設もたくさんあった。
もともと広い敷地を、わざと遠回りして、見つからないように目的地に向かう。
内心で自分を嘲笑う。
こんなところまで来て、何をやってるんだかな、俺は。
校舎から離れた敷地の端。
ガラスハウス式の温室が二つ、大きいものと小さいものが並んでいる。小さい方は園芸部のだ。俺の用はもう一つの大きな温室の方だった。間口は十メートルほど、両屋根で、一番高いところで五メートルはある。
中に入ると、しんとした空間が奥まで続いている。植物を植える囲いが四列、その内の二列はぐんと背の高いピンク色の花が丸々占拠していた。もう二列には何も植えられていない。丸裸の土だ。
花畑。
ピンクの花の植物は、背の高いものだと俺の身長を軽く超える。たくさんの花をつけて壁のようにそびえ立っている。お陰で俺の存在をすっぽり隠してしまう。
安心する。
ジジジジッ――…、と空調の音以外は何も聴こえない。誰もいない。
ここは授業で使う他は、学園行事や校内の美観のための花が育てられている所だ。わざわざ学園内で育てるとはかなり変わっているが、理事長の方針と趣味らしい。
普段の管理は学生ではなく、大人が行っていた。
俺は苗ポットをザッと段の横に置く。
土を摘んで指の腹で擦り合わせ、匂いを嗅いだ。
ここには何度か来ていた。
静けさも感触も、消してしまった世界の、あの日々を思い出すからか。
俺は道具を取ってくるとしゃがみ込んで、苗植えを始めた。
キィー…っと、突然温室の扉が開いた。
誰も来るはずがないと思っていた俺は驚いて目を向ける。
「スレッタ…!」
ズカズカとこちらに向かってくる。怒っている。
しゃがんでいる俺の横まで来ると、立ったまま、見下ろして話し始めた。声はわずかに震えていた。
「なんで、逃げるんですか」
ドキッとした。
「………お前には、関係ない」
「あの日の夜のこと、迷惑でしたか」
「そんなわけない!」
しまった。反射的に答えてしまっていた。迷惑だと言えばよかった。だがもう遅い。
俺の隣にしゃがみこんでくる。
「わけがあるなら、教えてほしいです」
「………」
「…ずるいです」
「…俺とは、関わらないほうがいい」
「そんなのイヤです」
「…ぐっ」
スレッタは肩にかけた鞄を下ろしガサゴソと中をあさり始めた。そして一枚の紙を取り出して見せてくる。
「私、生徒会に入ります」
「なっ…どうしてそれを」
生徒会役員の推薦状だった。この学園では生徒会に入るには推薦状が必要だ。推薦者は学園の生徒でいい。そして生徒会長の承認があれば晴れて役員になれる。
推薦者の欄にはラウダの名があった。
「ラウダに会ったのか」
驚いてたずねると、コクリと頷く。
スレッタが生徒会に入れば、当然俺は逃げられない。それどころか一緒にいる時間が長くなる。
なるほど。ラウダの差し金か。
「役員になるには生徒会長の承認が必要だ。俺が承認すると思うか」
今生徒会には俺一人しかいなかった。もっとも、俺が承認を蹴っているのに加えて、周囲もなんとなく遠慮していたからだが。一人でも問題ない。むしろ気が楽だ。
「ラウダさんが言ってました。グエルさんは、向き合えばちゃんと応えてくれる人だって」
「……っ」
スレッタは立ち上がると、まだ手を付けていない苗ポットのトレーを持ち上げて、俺とは違うもう一つの段の方へ下ろした。
「勝負、しませんか!」
視線に射抜かれる。
「今からこの苗を、どちらが早くたくさん植えられるか。私が勝ったら承認のサインを書いてください」
「俺が勝ったら?」
「えっと…それは」
「俺に金輪際近寄らない」
「ムリ、っです」
おい……。
「話にならない。勝負する気はない。だいたい、苗植えは――」
「だって、同じ学園の生徒じゃないですか。たとえ私の方から行かなくても、会うことはある、と思います」
「話しかけないだけでいい」
唇を噛んで泣くのを堪えるような表情で、スレッタは視線を下ろした。そんな顔をしないでくれ。ズキズキと胸が痛む。
「だいたい、なんでそこまで俺に構う?少し会っただけの……こんなにヒドい奴なのに」
「グエルさんはわけ、わかんないです」
以前にも聞いたことがあるような評価。
この世界でも変わらないのか。
「でも…!わかりたいんです」
「!」
「それに、少し会っただけじゃないです」
それはどういう意味だ?と聞こうとしたとき――
スレッタは工具箱から強引に道具を取りに来ようと歩み寄って来た。段差につまずいてバランスを崩す。
「スレッタ!」
「うわあおわわっ!!」
ガシッと全身を受け止めた。
大丈夫か、と喉まで出かかって、声が出なかった。
ふわり、と爽やかな花のような香りがして、
確かにここに在ると俺に証明するような、人肌のぬくもりを服越しに感じて、
はじめて触れたかもしれない、灼熱色の癖っ毛が頬に当たって、
頭で考えるより早く、
気がつけば俺は、彼女を強く抱きしめていた。
――スレッタsideへ続く――