みんト3参加作品の3作目です。
今書いている、人魚姫ドラヒナのお話になります。続き物なので分かりにくいと思います。捏造設定を読んでOKな方は、どうぞ。
人魚姫ドラヒナのお話は、こちらから読めます→https://privatter.net/category/59631
お菓子しか興味のない無邪気なヒナイチ姫への魔女ドラルクの執着、自分の体の治療を後回しにしてでも、契約を完遂しようとする理由の裏付け(というより、魔女さん視点の総集編)のお話になります。
捏造設定で、魔女に何かがあった時の引継ぎとして、ヒナイチ姫が魔術、薬学を習っております。こちらの、ヒナイチくんも『人ならざる者』なので、本来やりそうにない新米魔女としての一面を最後に追加しました。
@kw42431393
*捏造設定になります。
魔女ドラルク 別名、深海の魔女。深海でも強大な力を持つ一族を両親に持つメンダコ。生まれつき不治の病を患っており、自身を治す為に魔女となった。現在、人魚の肉を材料とした薬で、かろうじて生き延びている。体は弱いが、魔術、医術、薬学の知識はトップクラスで、料理は趣味。陸では商人ドラルクとして、シンヨコ王国と交易したり、ロナルド王子の退治仕事に同行して、材料を調達していた。ヒナイチ姫の肉を狙って接触したが、情が移って出来なくなった。現在、カズサ王の陸と海を繋げる計画の中心人物。
ヒナイチ姫 イナ海国の第一王女。自身が領海内をパトロールするほど、武勇に優れている。人魚の王族として濃い血を持ち、その肉は長命種のドラルクをも不老不死に出来る。ドラルクの作るお菓子に魅了され、毎日通う契約を結んでいた。現在は、兄の命令で、ドラルクの護衛、監視員、助手をしている。幼い頃、小さなメンダコに変身したドラルクが、ヨシキリザメに襲われている所を助けた事がある。
シャコガイジョン サンゴ礁を襲った嵐により、深海に流された稚貝が、魔女に拾われたのが今の姿。魔女ルクさんの使い魔で命を共有している。陸では、アルマジロに近い姿で行動している。主人の非人道的な姿や、契約に破れた者達の末路を見てきたので、冷静でドライな一面がある。
ロナルド王子 人外にも開放的なシンヨコ王国の第二王子。武勇に優れ、人間と人外のトラブル解決で名をあげている。嵐の晩に海に投げ出され、ヒナイチ姫に命を救われた。現在、サンズ姫と新婚さん。乱暴だが、お人よしで面倒見がいい。シンヨコ王国は迷惑行為をする人外が多いので、平等な態度で付き合う事ができる。ドラルクとは、腐れ縁の様な間柄。
サンズ姫 シンヨコ王国の隣国、サンガ国(女性の多くが、くノ一を生業としている)の王女。おっちょこちょいだが、自身も優れたくノ一。気絶していたロナルド王子の第一発見者で、後に彼と結ばれた。最近は、ヒナイチ姫に懐かれて困っている。火薬や薬学の見識が高いくノ一で、ドラルクが探している治療薬作成のキーマンの一人。
魔女ルクさんには、契約した者達を実験台にし、人魚達を誑かして肉を食らっていた等、後ろ暗い経歴があります。
陸に行った元人魚達、人間から人魚になった者達の中には、望郷の念に駆られた者も多い。
彼らへの救済措置、人外にも友好的なシンヨコ王国との同盟、交流、付随する経済効果も狙って、カズサ王が陸と海を繋げる計画を立てています。
中心人物には魔女ドラルク。協力者として指名されたのが、ヒナイチ姫とロナルド王子、サンズ姫になります。
この三人の心臓には、魔法のパスポートが埋め込まれており、自由に陸と海で行動可能です。
「なぁ、魔女。やっぱり、掟って従わないとダメなのかな。」
「一応ね。ケースバイケース…というのが、無難だけど。」
どうしたヌ、ヒナイチ姫?
目の前の赤毛の少女は、私の答えにむくれてみせる。頭のアンテナが、不満そうにブンブンと揺れた。
「来年、私は20になってしまうんだ。うちの掟では、成人を迎えた王女は、他国に嫁入りしなければならないんだって。考えたくないな、私は祖国を守りたいんだ。お前といるのが、楽しいんだ。だから、どこにも行きたくない。」
知ってはいたけれども、実際、本人の口からこの言葉が出ると、ぞっとする。
執行猶予は、貴女が20の誕生日を迎えるまで…それまでに何とかしなければ。
「方法は、あるよ。貴女の気持ち次第だとも。及ばずながら、深海の魔女ドラルクが、手を貸して進ぜよう。」
「本当か!!魔女!!」
頭を撫でてやると、沈んでいた貴女の顔に太陽の様な笑顔が戻った。
この笑顔は、私だけのモノだ。誰にもやるものか。
「勿論だとも。他国に行ったら、毎日私のお菓子を食べに来れないじゃないか。そういう契約を結んだよね?分かったね、契約を忘れてはいけないよ?」
「うん!」
チラリと懐に目をやる。彼女が初めて来た時に交わした、契約書。
紫に輝くその紙には、私と貴女のサインがある。我々にとって、契約は絶対だ。
特に、自身を守る力を持たないばかりに、魔女という後ろ暗い世界を選んだ我々にとって、それを破る事は、その世界から放逐される事を意味する。ケジメとして、粛清されるなんてザラだ。
だから、自身の命を失う事になっても、契約は必ず完遂する。
私もそうやって生きてきた、魔女の一人だ。
そんな私が、彼女を宥める為に『ケースバイケース』なんて…戯言にも程がある。思わず、自嘲的な笑みが漏れた。
「今日もご馳走様、魔女。また、明日も来るからな!」
「あぁ。お待ち、お姫様。」
帰ろうとするお姫様に、手を、8本の触手を、伸ばす。シュルシュルと、私の足は、貴女の肩を、腕を腰を、尾びれを拘束する。
タコの吸盤には、様々な感覚器が集まっている。だから、貴女がどんなに美味しい肉を持っているのか、分かってしまう。
ローブに隠れて分からないだろう?嘴が、早く早くと急かしているのを。
お菓子に釣られてサインをした貴女は、気づいていない。あの契約書の隅に書かれた一文に。
『対価は王女ヒナイチ…己自身。私は、『魔女と共にいたい、と言った時』、魔女のモノとなる事を誓います。』と深海の言葉で書かれた一文に。
貴女は、今日も言ったよね?
だから、ここで食べてしまっても契約違反にはならない。
誰かに盗られてしまうぐらいなら、今ここで!一切れ残らず、貴女を私の血肉に!
そうすれば、今度こそ長年の苦しみから、解放されるのだ。
この胸の痛みから。幼い頃から、迫ってくる死の恐怖から。
「魔女?」
「…ッ!!」
嫌そうな顔もせず、私のローブの中に納まっている、無邪気なお姫様はキョトンとした顔をしていて。さらに、嬉しそうに、骨と皮だけの私の胸にグリグリと頬ずりをした。
「ウフフ、魔女。やっぱり、お前はいい匂いだな!」
仄暗い本音は、貴女の笑顔に焼かれて散っていく。後ろめたくなって、私も貴女の赤毛に顔を埋める。
「うん…お姫様もいい匂い。お日様の様に温かいよ。」
額にそっと、口づけをする。明日も戻ってくる様に、逃げていかない様に、呪いを込めて。
「どうした、寂しいのか?そんな顔をするな。私は、明日も来るんだぞ?」
あぁ、来てくれないと困るのだよ。他所に行かれては困るのだよ。貴女は、私の大事な獲物。
獲物のままだったら…よかったのに。
「うん、寂しいよ。だから、明日もおいで。明後日もその先も、何か月後も何十年後も…永遠に私の元へ。」
貴女は忘れているけれど…9年前、貴女は小さなメンダコに変身していた私を手に乗せて、歌を聞かせてくれたよね?
人魚の歌声には、魅惑の力がある。耳元で聞かせてくれた、あの歌声は今も耳に残っているよ。
その瞬間から、私の心は貴女のものだ。だから、その責任は取って貰わないと。
だから、貴女の肉を私におくれ。そうすれば…
ズキリと胸に鈍痛がする。顔をしかめた私に気付いたジョンが、薬を取ってきてくれた。
ドラルク様、はい。持ってきたヌよ。
「魔女、大丈夫か?痛いのか?」
背中を撫でてくれる、柔らかい温かい少女の手。そっとその手を取って、頬ずりする。
この感触を失いたくない。私が、悪い魔女である事を悟られてはならない。
「ごめんね、心配させて。これを飲めば、よくなるから。」
あぁ、やはり駄目だ。死にたくない、恐ろしい。だから、この子の肉を…。
あぁ、やはり駄目だ。この子に、ケガなんてさせられない。だから、他に方法を…。
毎日、やって来る可愛い獲物を前に懊悩する。
殺さずに送り出した後、減っていく人魚の肉を前に懊悩する。
全てを天秤にかけて、私が出した結論は、カズサ王の提案した契約に同意する事だった。
陸に憧れて人間となった者達、海に憧れて人魚となった者達…かつて私と契約して、望みを叶えたはずの者達。
しかし、冷静になると、望郷の念に駆られる者も出てくる。
彼らへの救済措置、両種族の交流、発展を目的として、両方の国民が、自由に行き来できる様にする。
それが、カズサ王の立ち上げた計画だった。
私は、この陸と海を繋げる計画に協力する事にした。
その対価には、ヒナイチ姫を深海の魔女の元に嫁入りさせる、とあったからだ。
しかし、この計画が成功すれば、人魚は人間になる必要はない。人間も人魚になる必要はない。
陸に憧れた人魚達を誑かし、捨てていった下半身の肉を喰らって、生き永らえていた私にとって、これは致命傷と言ってよかった。
私は、ギリギリまで足掻いた。少しでも早く契約を完遂させて、お姫様を確保し、そして、自分の体を治そうとした。
しかし、長年の研究とロナルド王子とサンズ姫の婚姻によって、実行可能だったはずの治療薬を作成する事への僅かな希望も、とうとう潰えた。
今ある人魚の肉を食い尽くす方が、早かった。時間が、足りなかったのだ。
「なぁ、魔女。契約の完遂を後回しにしないか?ロナルド王子とサンズに協力して貰って、先に薬を作ろう?元気になってから、やればいいじゃないか。」
「頭がかてーんだよ!このタコ!自分の命だろうがよ!」
ヒナイチ姫とロナルド王子には、そう言われるけれども、先に結んだ契約を終わらせなければならないのだ。
もうすぐ、3月3日。貴女は、20になってしまう。
カズサ王も今更、妹を他所に嫁がせるとは思えないが…そこは、強迫観念になっているのだろう。タイムリミットに感じるのを、やめられない。
そして、私が貴女の隣に立つに為に、これまでやってきた悪事を、少しでも早く清算しなければ。
一番の理由は、我々にとって契約は絶対だ。自分の命を引き換えにしても、完遂させなければいけない。
体の弱い私は、魔術と薬学を武器に生きてきた私は、魔女の世界から放逐されては生きていけない。
間に合わずに病気で死ぬか、それとも、魔女のケジメとして粛清されるか、放逐されるか、その違いでしかないのだよ。
ごめんね、お姫様。貴女を若くして未亡人にしてしまう、私を許しておくれ。
私は、命より契約の完遂を優先する。
僅かな間でも、夫として貴女の隣に立つという望みだけでも、叶えさせておくれ。
「起きてくれ!魔女!聞こえるか!?とうとう、契約は完遂されたぞ!人間になった同胞も、人魚になった人間達も、故郷への移動を始めているんだ!」
聞きたかった貴女の声に、待ち望んでいたその宣言に…私は重い瞼を開いた。そうだ。その瞬間の為に、人魚の肉を喰い尽くし、寝たきりになってからも、生にしがみついていたのだった。
終わった、これで、やっと…。
ホッとすると、再び意識が落ちそうになる。だから、必死に目を擦る。少しの時間でも、待ち望んだ時間を味わいたくて。
「なぁ、魔女!これで、私は毎日ここに通う必要が、なくなったんだ!契約を更新してくれ!早く、サインを!!」
そう言って、貴女は私が教えた魔術で作った契約書を差し出してきた。
私が作った契約書と違い、貴女が作った契約書は、いつも暖かそうなオレンジ色に光っている。
目が霞んで、内容はよく見えない。確認する必要はない。どうでもよかった。
『お前の望みと、私が更新しようとしている新しい契約の内容は、たぶん同じか、近いものだと思っている。』
いつか言った、貴女のその言葉を信じているから。
「あ…あぁ。もち、ろんだ…とも。ぼ…いんで…いいか、ね?」
青い血が付いた手を、オレンジ色の光に伸ばす。契約書に触れた瞬間に、その紙は眩しい光を放って…
「魔女ドラルク。これで契約は完了だ。だから…」
「う、ん。さ、さよ…うなら。ひな…いちひめ。あい…」
愛していると伝える前に、柔らかい感触に塞がれた。温かい舌が、侵入してくる。
これが、最後の口づけになるだろう。だから、必死に私もそれに応えた。
お互いの舌を絡めながら、流れ込んでくる甘露を啜る。貪欲に、一滴も逃さぬ様に。
「ドラルク…飲んだな?全部…飲んだな?」
「…はぁ、はぁ…ぜ、ぜん…ぶ…?」
最後の力を振り絞って、絡めていた触手の違和感を確認する。
貴女の左手だけが妙に硬くて、冷たかった。いや、味が感じられなかった。
「こ、これ…?あぁ…。」
これは、貴女の手ではない。精巧に作られたカラクリ細工の手だ…もしかして、今、私が飲んだのは。
「クスクス、魔女。契約書は、ちゃんと読まないとダメじゃないか。」
鈴を転がす様な声に不穏な声色が混ざる…そうだ、忘れていた。
かつての無邪気で食いしん坊な人魚姫は、今や深海の魔女の一番弟子だったのだ。
「さよなら、なんてさせるもんか。どんなに惨い苦しみが待っていようとも、お前はもう死ぬ事さえ許されない。私と永遠に一緒にいるんだ…契約は絶対だ、いつもお前が言っていたじゃないか。」
ありがとう。私から、死の恐怖を奪ってくれて。どんなに苦しくても、貴女といられるならば何でもない。
新たな魔女の誕生を祝福して…その義手に口づけを落とす。そのまま、私の意識は落ちていった。
「少し眠れ。生き返ったら、早速クッキーを焼いて貰うぞ。永遠に私の為に、クッキーを焼き続けてくれ。」