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花火(日本の夏、クラーケンの夏)

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2015-10-08 20:18:58

メイガスソウル夏の掲示板イベントの、花火スレッドのまとめノベルです。
整理用にこちらに掲載

 
 
 渡部星羅はカクテルグラスに口をつけ、緊張を紛らわそうと白濁した水面を見つめた。スノーホワイト。ノンアルコールのカクテルとのことなのだが、まだ高校生の彼女からすると、それは大人の味がした。
「見て、星羅さま。すごく綺麗ですわ」
 隣りで、鈴を転がすような声で少女が言う。御門森鈴蘭、一つ年下の、知り合ったばかりの友人だ。
 何のことを言っているのだろう、と彼女の顔を見れば、鈴蘭はニコリと微笑んだ。彼女の視線を追った星羅は、すぐに言葉の意味を理解した。
 彼女たちの目前には、空が広がっていた。
 海岸線に向かって濃い青から淡い桃色へ。グラデーションをかけて、広がるそれは夕暮れの光景だった。
 ──美しい夕焼けでも眺めていてください。と、英国貴族は言った。そうしているうちに、すぐに夜になりますから。
 星羅はそんな言葉を思い出して、くすりと笑った。
 だって、彼女と鈴蘭を誘った当人──エドウィン・コートダイクは酒に酔い、すぐ傍のカウチに横になって眠っていたのだから。
 彼の言うことは正しかった。星羅がカクテルグラスの中身を飲み乾すころには夜のとばりが降ていた。花火師の不愛想な初老の男性は──名前を聞いても、結局最後まで名乗ってくれなかった──待ってましたとばかりに腰を上げて、魔法陣の上で準備を始めた。

「皆さま、お待たせいたしました」
「この無人島で一夜を過ごしていただく皆さまに、少しでも楽しんでいただこうと花火を用意いたしました」

 鈴蘭が口火を切り、星羅が後をついだ。マイクを通して流れる二人のウグイス嬢の声に、会場の者たちが皆、こちらに注目する。
「コートダイク卿の魔法陣の結界により、花火を真下からご覧いただけますが」
「大きな音にはくれぐれもお気を付けください」
「打ち上げの時には耳を塞いでいただいて──」
 
 と、鈴蘭が言い終わる前に、最初の爆発音が鳴った。
 ひゅるひゅるという花火玉が飛ぶ音が聞こえ、それが砂浜に集まったメイガスたちの上空で炸裂した。夜空の漆黒を背景に、ひときわ明るいブルーの輝きを放った花火は八方に葉を広げるように長く大きな尾を引きながら飛散していく。
 藍色をした葉はやがて丸く円を描くように下方へと落ちていった。

「浅倉業さま作成の《藍椰子》でございます」

 大きな音に驚きつつも、絶妙なタイミングでシャッターを切ったのは笹川カナタだ。
「綺麗な藍色ですね。抑えた色あいが素敵です」
 彼女は自身のオーパーツでもあるカメラを構え、花火の飛沫をファインダー越しに追った。
「すごいすごい!」
 花火をつくった本人である業も、嬉しそうに手を叩いて花火を見た。それは頭上から降り注ぐが、魔法の力であるからか、不思議と飛沫を浴びても熱くなかった。
 最後の藍色の光が消えようとした時、また上空で大きな音が轟いた。
 今度は一気に細い光の筋が飛び出した。それは頭上で孤を描くようになった後、雨のように地面へと向かう。明るいオレンジ色のそれは、しだれ柳のようにメイガスたちの間へと優しく降り注いだ。

「笹川カナタさまの《柑子柳(こうじやなぎ)》でございます」

「可愛らしい色ですね」
 脚本には無かったが、思わずマイクを通して感想を呟く星羅。カナタは思わず、自身の目でそれに見とれてしまいシャッターを切り損ねてしまった。
「……星が落ちてきたみたいだな」
「よせよ」
 隣りにいた南雲邑次にそんなことを囁かれ、飯砂和弥は短いため息をついた。
「そういうのは俺に言うことじゃねえだろ」
「いや、俺たちの花火、色が地味だったかなと思ってさ」
「そりゃねえよ」
 イズナは落ちてきた光を捕まえるように手に握り込んで、笑った。
「スケールが違うさ、たぶんな」
 そこで比較的音の小さな爆発音が鳴った。まだ柳が空に残っているところに重なるようにして次の花火が花弁を広げたのだ。

「こちらは私、御門森鈴蘭と渡部星羅さまとで作成いたしました《露草香る白柳》です」

 五号玉のささやかな柳が、空でカナタのオレンジ色と入れ替わるように夜空を彩る。その絶妙なタイミングに布川信吾は思わず「おおっ!」と若者らしく声を上げた。本城雄大などは「うお、色が綺麗だよ、キレイ!」と喜んだように手を打っている。
 その脇で羽井橘灰和などは、大人な雰囲気を漂わせながらただ口端を綻ばせるだけだ。前髪を焦がした御門森菫は、隣りにいたルチル・レマンドに、自分の妹が作った花火だと誇らしげに話している。鈴蘭だから、白、なのだと。
「素敵ですね。みんなでつくると、色が混ざってすごく素敵です」
「やっぱり花火はいいなあ。ぼくたちのは失敗しちゃったけど」
「そうですね、でも、僕たちのもけっこう綺麗でしたよね──」
 と、ルチルは続けて言ったのだが、その声を次の爆発音がかき消してしまった。
 ドォン! とひときわ大きな音は、メイガスたちがいる地面を揺らせた。
 無理もない。上空で炸裂したのは、今までで一番大きな四尺玉だったからだ。メイガスたちから見えなくなるほど高い地点で炸裂した大きな塊は、閃光と共にたくさんの光を夜空に散らした。
 夜空を彩ったのは、色を抑えたグリーンの大輪の花だ。それがきらきらと輝く尾を引きながら、段々と銀色に変わっていく。それは小さな銀色の龍にも見える。
 どの位置から見ても、美しい真円を描くその形は、菊の花。
 それは、これぞ花火といった堂々とした姿だった。

「南雲邑次さま、飯砂和弥さまお二人作の《青碧菊と銀龍》でございます」

「お二人は大変苦労なさりながら、この花火を完成させたとか」
「本当に大きくて華やかです……!」
 鈴蘭が言うのに、星羅は口元を押さえ感激したように空を見上げている。見とれてしまったのに慌てて手元の原稿に戻る。
「皆さま、耳の方はご無事でございますか? これから大きな花火が続きますのでお気を付けくださいませ」
 上空を見上げ、満足そうに頷くイズナ。無言で邑次とハイタッチする。
「……ほんとうに。大きな音でしたね」
 そう呟いたのは、アナウンサー席のすぐそばで観ていたアルヴェイラ・クォーツだ。用意された席を動くなと言われ、花火を眺めていた彼女は、視線を横に移す。呼びかけたのだが返事は無く、カウチに寝そべったエドウィンは気持ちよさそうに寝返りを打っただけだった。
 くす、とほほ笑むアルヴェイラ。きっといい夢を──もしかすると、この花火を夢の中で見ているのかもしれない。眠っているエドウィンはとても幸せそうな横顔を見せていた。
「あー……」
 そのエドウィンの様子を見ていた白川吉船は、ぶるぶると首を振った。半ば慌てたように目線を躍らせて、あらぬ方を見る。
「? どうかしましたか」
 不思議そうに尋ねるアルヴェイラに、吉船は何でもない何でもないと二度繰り返した。さすがの彼も言えなかった。彼はエドウィンの夢を覗き見て、彼が裸の美しい女とベッドの中にいる光景を見てしまったのだ。昔の恋人の夢だろうと推測はついたが、ベッドシーンを見たなどと、特にアルヴェイラにはとても言えない。
「なんです?」
 彼の態度がおかしくて、アルヴェイラは身を乗り出した。
 その時だ。次の轟音が鳴り響いた。
「あっ、見て。俺の花火──」
 当然、作った本人の声もかき消すほどの大音量で、花火は上空で炸裂した。
 無数のレモンイエローの光が飛び出す。だが邑次とイズナの花火とは違って、尾を引かずに飛び散った星は同時に大きな新円を描いて夜空に咲いた。大きな大きな牡丹である。
 わあっ、と吉船は歓声を上げた。

「白川吉船さま制作《淡黄牡丹》でございます」

「白川さまは四尺玉を二つも作成されたとか」
「素晴らしいですわね」
 星羅のアナウンスに鈴蘭が相槌を打つように言う。
「……熱ッ、アチチッ!」
 そんな爽やかな彼女たちの声を、上空で聞いていた者がいた。我らがヒーロー、ジャスティス・ジャッジメンだ。
 彼はうっかり花火を作ってみたものの。それが過去に自分を手酷い目に遭わせてくれた魔法陣であったことに驚き、とりあえず慌てて退いていたのだった。
 そして彼は様子を見に戻ってきた。ものすごく大きな音がしたからだ。すわ、クラーケンが復活したか、と焦った彼を迎え撃ったのは、レモンイエロー色の牡丹花火だった。
「すげぇー、やっぱデカいやつは違うな」
 上空でそんなことが起こっているとは露知らず、結城冴は明るい笑顔で花火を楽しんでいた。あまりの大きな音に驚く子犬──ルディ・サーベラスを抱きながら、頭を振る。
「先生もくれば良かったのに、こんな間近でなかなか見れるもんじゃないぜ?」
 ワンッ、と同意するようにルディが吠える。冴は嬉しそうに犬の頭をわしわしと撫でた。
 その二人をシルエットにするように、今度はエメラルドグリーンの光が砂浜を包み込む。
 見上げると、牡丹の花と重ねるように次の花火が閃いたところだった。
 緑の美しい宝石の色をした星が、大きく飛んでいく。尾を引くそれは菊の花を形作っていくように丸く、夜空へと光を伸ばしていった。

「アルヴェイラ・クォーツさまの《翡翠菊》でございます」

「まあ……」
 魔法を込めた当人であるアルヴェイラは言葉を失ったように、花開く空を見上げた。近くで見ると、これほどまでにダイナミックなものなのか。次々に光が生まれ、消えていく。
 すべての光を追いたくて、彼女は視線を上へ下へ動かした。そのまま、隣りのカウチに寝そべる人物の腕に手を触れ、これを見た方がいいとばかりに揺り動かす。
「エドウィンさん、見てください。花火が……」
 その彼女の声をかき消すように、次の轟音が鳴った。フィニッシュのために、花火師が間を開けずに最後の花火に点火していたのだ。
 エメラルドグリーンに重なるように、藤色を中心とした紫から桃色の世界が広がっていく。小割である。小さな花火たちが、次々に夜空のあちこちで咲いていった。立て続けに鳴る炸裂音に、誰かがキャッと悲鳴を上げた。
「たまやー!」
「かぎやー!」
「やおやー!」
「くさやー!」
 奇妙なアイマスクを付けた謎の二人組が飛び跳ねるようにして、叫んだ。アルヴェイラはそれが古来からの花火の掛け声だということを知らず、何かの呪文かと思ってしまった。
 奥様&執事としか名乗らない彼らの姿が、黒い影となって浮かび上がる。その背後に数えきれないほどの花が咲いていく。夜空は夜と思えないほどの輝きに包まれた。
 音、そして音。
 その音の間に、メイガスたちの笑顔があった。
「本当に綺麗……」
 エドウィンも──この場をつくろうとした張本人も目を覚まして、その光景を見ていた。アルヴェイラは彼が呟いたのを聞いて振り向いた。彼の青い瞳に輝く光の点が映り込んでいる。
 不思議と、いつもとまったく違う表情をしているように見えた。気にはなったものの、アルヴェイラはただ安堵したように、年上の友人の姿を眺めた。
 夜空には溢れんばかりの光がある。まるで夜を追いやってしまったかのような。
 エドウィンは、心からこの花火を楽しんでいるのだろう。アルヴェイラは、ただそう思っただけだった。


Fin..


──────────────
花火を作って爆発させてくださったみなさま、完成させてくださったみなさま。
ありがとうございました。

※種明かし。けっこう単純なのでした。

【前の数字】
1 菊
2 牡丹
3 柳
4 小割
5 椰子
6 創作系(ハートだの蝶だの)

【後ろの数字】
1 尺玉は爆発
2 完成
3 完成
4 四尺玉は爆発
5 四尺玉は爆発
6 どの玉作っても大爆発


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ふゆしろカナエ
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