@DangeSSReunioN
キャラクター名
鷲羽怜悧(わしう れいり)
プロフィール
ウルフカットの黒髪が似合う女生徒。
家の事情で、少年のように振る舞っている。一人称は「僕」。
不遜な態度と古風な言葉遣いから、性別はともかく実年齢まで間違われることが多い。
内心気にしている。嫌いな言葉は「サラブレッド」。
能力名
夜は無邪気な赤の女王
能力内容
動物使役能力。
鷲羽怜悧に対する「好意的かつ劣位」の感情を抱くことが発動条件。「好意的かつ劣位」とは、飼い犬が主に忠誠を誓ったり、SMの下僕が女王様の言いなりになってでも興味を惹きたいというような感情。
鷲羽怜悧は、対象となった動物に「200%のパフォーマンス」を発揮させることができる。
犬は己の限界を越えた速度で走り、猫は未来予知じみた反射神経を見せる。
但し、あくまで「本来の能力の出力を上げる」のであって、「もともと出来なかったことができる」ようにはならない。
魚に空を飛ばせたり、猿に念動力をもたせるようなことはできない、ということ。
また、「200%のパフォーマンス」を発揮した動物は、普段の数倍の疲労に見舞われる。
プロローグ
野犬は、群れない。
少なくとも、人々が想像するような徒党を形成しない。
「ラップタイムが落ちているぞ、アーノルド」
犬の祖は、掟や序列に縛られていたという。だが、コンクリートが自然を切り拓いて、生存が競争になると、形ばかりの上下関係は意味を為さなくなった。
しかし、それでも。
アーノルドは、野良犬たちのボスだった。
生まれながら、恵まれた体格があった。
自分からは決して吠えない、風格も備えていた。
この雄についていけば、もしや。
日々を競争に生きるならず者にも、そう思わせる才覚があった。
「あと五周、残っている」
だが、王の才覚とは、なにか。
一匹、また一匹と舎弟が増え、群れを統べる術を覚えて。
いつからか、アーノルドはそれを考えるようになった。
徒党を組もうと、勝利を得ようと、安寧は約束されたものではない。
付き従っていた犬たちも、少しずつ酔いから醒めていく。
「まだ、休むには早いだろう」
老犬となったアーノルドの耳に、ささやくような声が届く。
過去に思いを馳せていた視線が、ゆっくり上を向いた。
そこにいるのは、彼にとっての王―――孤高の若狼を思わせる、ヒトの少女だ。
同種の個体と比べれば、体躯は華奢で、顔立ちも幼い。
骨幹を支える筋など、雛鳥のようだ。
四肢の細さといったら、己が本気で噛み砕けばひとたまりもないだろう。
だが、それでもその少女は、
鷲羽怜悧は、アーノルドの王だった。
玉座を追放され、傷つき、疲弊し、石下の虫を喰らう。
あの惨めな地獄から掬い上げてくれた、大恩の主。
手ずから傷に触れ、その衣を汚した。
呆れるほどに辛抱強く、己を迎えてくれた。
その主が、命じている。
「走れ。立ち上がって、走れ」
犬の寿命は、およそ十余年。
だが、神経を尖らせ、僅かばかりの糧を喰らう、野犬の命は、殊に短い。
それでも、主に拾われて、五年は生きた。
無為に流れた年月ではない。
野犬の王として、ならず者の群れを従えた日々よりも。
王の番犬として、彼女に仕えた日々の方がずっと輝かしく、誇りに満ちていた。
今は。
老いが目を曇らせ、病が足を震わせ。
かつてのように雄々しく吠え猛り、野を駆けることもままならない。
これで、幕切れか。
下るばかりの余生を悟ったとき、アーノルドは奇妙な充足感を感じていた。
番犬の役を解かれ、清潔な布を身体に巻いて、一日の大半を寝床で過ごす。
未覚醒のまま朝を迎え、鈍痛に呻いて夜に覚める。
食事は水っぽく、屋外に出ることもなくなった。
それでも、不満はなかった。
心残りがあるとすれば、主を残して逝くことばかり―――
そんな余生を、王は許さなかった。
「死ぬまで、だ。アーノルド、伏して死ぬな。追いつかれるように、死んではダメだ」
夜のトラックに、柔らかな声が反響する。
大音声と言うほど、張り上げたわけでもない。
しかし、あたりの静けさが、それを演説のように響かせていた。
ぜぃ、ぜぃ、と、己の息切れさえ煩いのに。
小さな王の小さな声は、驚くほど鼓膜に浸透する。
それは、身体を打つ長鞭だ。
言を解さずとも、声に宿る感情は伝わってくる。
“否やは許さぬ”、と。
既に、肺が潰れていた。
呼吸のたび、血の味がする唾液が逆流した。
無様な足取りで、地面と擦った肉球が裂け。
鼻の粘膜は乾き、もはや涙も流れない。
「どうした、立てないのか」
それでも、主の声を聞くと、アーノルドは奮わずにいられなかった。
「僕の番犬としての矜持は、その程度か」
今の己には、わかる。
王の才覚とは、民を動かす力の総量だ。
暴力であれ、人徳であれ。
熱意であれ、功利であれ。
その王のためならば、と、どれだけ民を突き動かすことが出来るか。
例えば、その忠義を証明するために、命を賭すことは出来るか。
彼女は、それを証明するチャンスをくれた。
老いさらばえた重臣の、残り少ない命に。
だが、ああくそ、
力を込めた先から、抜けていきやがる。
「……立てないか」
王が、眼の前に跪く。
やめろ、やめてくれ。
己のために、膝に土を付けるような無様を。
美しい指で、土埃と汗に塗れた毛並みを整えようなど。
アンタにそんな真似をさせるために、己は生きたわけじゃない―――!
「お前の主は、その程度の器か」
違う。
違う!
「証明してくれ」
ぶるり、と、筋肉が震える。
数年ぶりに吠えた喉が裂け、血の混じった涎が飛び散った。
アーノルドは、再び走り出した。
夜の帳が下りた陸上トラックで、ただ一人に見守られて。
いつのまにか、老いや病いは忘れていた。
空気の冷たさ、視界の霞み、軋む骨、爆発する心臓の鼓動。
すべてを忘れて、若さに任せて野を走った、野犬の王として生きた日々を思い出して、心地よく向かい風を切り裂いた。速さも、ゴールも、歓喜も求めず。ただ走るという行為のみを追及して。忘我の中に、なおも走り続けて、
アーノルドは、死んだ。
絶命してもなお、その身体は走り続けた。
◆◇◆
遡れば、大陸の右道方士の家系――
西洋錬金術が「巨万の富を為す賢者の石」の生成を命題に掲げたのに対し、東洋錬丹術は「不老不死へと至る神仙」への昇格を悲願に据えた。その数千年の研鑽の中、傍流がある定義に辿り着く。
遥か時を越えて、人々に語られる、物語の主人公たち。
大衆に認知され、記憶の中に凍結され、若さを失わず、全盛を生き続ける。
不老にして不朽。往年にして現役。
それは、悲願の成就ではないだろうか。
殊に、童話に語られる日ノ本の武者―――桃太郎、金太郎、浦島太郎。
彼らの共通点は、いずれも秀でた“
即ち、この極東の地で。
物語の英雄となる条件とは、「獣を意のままに操る異能」ではないだろうか。
かくして、「未来の物語の主人公」を生み出すべく、
鷲羽怜悧は、その当代末裔である。
(…………迷走も甚だしい)
早い話が、英雄を輩出すれば「うちの家系は◯◯太郎の子孫なんですよ!」と、末代までコスって繁栄できる、という目論見だ。当然、能力の遺伝的相続は、今のところ認められていないが…
偶然にも、鷲羽家には同系統の能力者が多く誕生している。
先祖代々の執念の為せる技か、環境的な要因か。
或いは、何者かの能力の影響か、
「……だからね、怜悧。君の振る舞いは、鷲羽の家訓に反している」
なんだっていい。答えはシンプルだ。
要するに、己が文字通り、百獣の王となればいい。
「訓練中の事故でした。己の不徳の致すところです」
紋切り型な詫び言に、父親は何度目か、深いため息を吐いた。
「アーノルドを、故意に死なせたね」
「尊厳のある最期を見届けました」
何と言われようと、揺らぐつもりはない。
鷲羽怜悧の能力は、己の父親―――当代当主・鷲羽温良よりも秀でている。
その存在を軽んじるつもりはない。
かといって、その意向に阿り、己の信条を曲げるつもりもない。
優れたものに、劣るものは付き従う。自然の摂理のはずだ。
「お前自身はそれで満足かもしれない。もしかしたら、アーノルドも」
なにより、愛犬の最期に口を挟まれることは、我慢ならなかった。
「でもね、老犬を無理やり走らせるというのは、世間的には虐待と……」
「好きに言わせておけばいい」
アーノルドは、己の下でよく生きた。思い込みではない。
鷲羽怜悧の魔人能力―――『夜は無慈悲な赤の女王』には、発動条件がある。
それは、相手の感情を首紐として手繰る、支配の力だ。
敬意、恋慕、畏怖。どれだっていい。
鷲羽怜悧を上に見た、劣位の好感を抱いた相手を、己の配下とする。
アーノルドは、己に忠誠を誓ったまま死を迎えた。
一方通行の虐待ではないという、なによりの証左だ。
「彼は老いていた。残りの余生を、少しでも平穏に……」
だから、その最期に、最大限の褒美を与えた。
弱者の都合で、とやかく言われてたまるものか。
「守るべき主を守れず、与えられるばかりの無為な余生が、平穏?」
愛犬の死で、気が立っていた。
そうかもしれない。
常ならば口八丁で、なし崩し的に父親を黙らせられる。
だから、そうした。
しかし、その日は、いつもより少し、己の語気も荒く、
「老いと病いに侵され、身体が言うことを聞かなくなって、死に追いつかれるのを待つ日々を、平穏に過ごせ、と」「いや、怜悧、あのね」「事情を知らぬものは、虐待と謗るでしょう。競走馬だって、ヒトの都合で走らされ、足を折れば殺すじゃないか」「うん、もう少し、こっちの話」
「尊厳ある死を与えることも、管理する側の責任だ! 僕は、あいつの声の中に混じる諦観を毎日のように聞いたのに、 」
「―――ただ、お前が。愛犬が老いて朽ちるのを、耐えられなかっただけだ!」
ドン、と、部屋が吠えた。
いや、そう感じただけだ。
自身の身体が跳ねたせいで。
「 ぁ、 」
雷に撃たれた、という表現が、ぴたりとふさわしい。
この日は、口論の行く末が違っていた。
「一介の魔人に過ぎないのなら、気が済むまでエゴを貫きなさい」
「あっ、 僕と、アーノルドは、 」
「だが、お前が鷲羽家の息女を名乗るのなら」
ぐ、と、喉に刃を押し当てたような、有無を言わさぬプレッシャー。
腹底に響く、怒気を孕んだ、大人の男の低い声。
冷や汗が背を伝う。おかしい、と、鷲羽怜悧は自問する。
父といえど、当主といえど。本質は、“己より劣る能力者”だ。
なのに、僅かでも気圧された。
言葉を途絶えさせぬよう、必死に繕おうとするが、
「 僕、……僕は、……ぉっ、 」
いつもなら淀みなく言葉を紡ぐ唇が、麻痺している。
肺が役目を忘れたかのように、呼吸が浅い。
端的に言うなら。
この日、鷲羽怜悧は―――生まれて初めて、父親に叱られた。
「大衆の評価を軽んじるものに、鷲羽の跡継ぎは託さない」
そして、萎縮した。
百獣の王などと、口が裂けても言えないほど。挙げ句、
「……っ、跡継ぎになれないのは、女だからでしょ、……」
それまで、ただの一度も。
言葉にせず、決してするまい、と決めていた。
そんなコンプレックスさえ、口をついて飛び出した。
「違う。例え、男児だろうと……」
「……っ」
口を塞ぐ。
父はただ短く否定したが、後の言葉は耳に入ってこなかった。
古い家柄、男社会も染み付いている。
血縁者すら、面と向かって吐き捨てた。女に跡目は務まらぬ、と。
温良の妻は、怜悧を産んで命を落とした。側室は迎えず、他に世継ぎはいない。
それを知った日から、怜悧は少年のように振る舞った。
声が高くなったので、喉を潰した。
胸が膨らんだので、毎朝欠かさず晒を巻いた。
一人称を改め、言葉遣いを改めて。
厠と風呂以外では、男の中に混じって過ごした。
消去法で選ばせてたまるか。
男だろうと、女だろうと、鷲羽の次代は、怜悧こそ。
そう認めさせるはずの積み重ねを、たった今、台無しにしてしまった。
追い詰められて、自身がその言い訳に縋ってしまった。
これほどの、恥辱はない。
「大衆に好かれる『未来の物語の英雄』は、鷲羽の悲願だ。お前は、古い世迷い言のように思っているが」
後悔と羞恥から、頬が真っ赤に燃える。
「その信条は、苛烈すぎる。剥き身の刃のようだ。鋭すぎる刃を、人は名剣と呼ばない」
もはや、何も言い返せない。これ以上は、恥の上塗りだ。
百獣の女王、鷲羽怜悧にとって。
それは初めて体験する、己の弱さを指摘されるという屈辱だった。
「己に寄り添う、新たな鞘を見つけなさい」
「アーノルドの、『代わり』ということですか」
父は、応も否も返さない。
どう受け取るかも、こちらに委ねている。
それをもって、次代にふさわしいか、見極めるということだ。
涙目を見せぬよう、深々と頭を下げて、父の部屋を出る。
どすどす、と、畳敷の廊下を踏み鳴らして。
悔しい。
悔しい、恥ずかしい、悔しい……!
この屈辱、どう晴らす?
決まっている。
能力を活かすため、あらゆる動物の飼育知識、人心掌握を学んできた。
己に興味を抱かぬ朴念仁も、軽蔑の眼差しを送る敵対者も、懐柔し尽くしてきた。
……いや、正確には。
“ただ一人の魔人を除いて”、思うままに懐柔してきた。
唯一人、王になびかぬ叛逆者。
「……あいつを、下僕として、従えることが出来たなら」
この才覚、認めざるを得ないだろう。