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中百舌鳥百代(なかもず・ももよ)

全体公開 4677文字
2024-02-18 20:35:42

キャラクター名
中百舌鳥百代(なかもず・ももよ)



プロフィール
 大学生、19歳
 希望先学園高等部の出身
 身長173cm、体重57Kg
 適当に伸ばした黒髪を適当にまとめ、服もオーバーサイズ気味、なんとなくだらしない雰囲気を持つ
 四肢が長く、豊満である
 のんびり屋で掴みどころがなく、「楽しそうだから」で始めていつの間にかやめてしまう
 辞めていない数少ないものの中にあるボクシングが、現在の彼女を語る中で最もわかりやすいものである



能力名
気功変動(クリメイト・リクエスト)



能力内容
 力の流れを知覚する能力
 見たものの運動エネルギーの流れや大きさを見ることで相手がどこに動きたいかを知ることなどができる
 また、人の流れを見続けたことで彼女自身自身の力の流れを正確に把握、操作することができるようになった
 中百舌鳥百代に限っては物理的に不可能でない体の動きを最大限に行えるわけである



プロローグ
 綿毛が種を飛ばすように、飛んでいくような人がいます。
 あちらやこちらに飛んでいって、戻ってくるかも分かりません。
 あの人はどこに行くのでしょうか。
 私たちは人間だから、飛んだ先で咲くことなんで出来ないはずなのに。

***

「果たし状って本当にあるんだね」
「噂だと思っていましたけどねぇ」

 柳は、一人の女性と相対していた。
 中百舌鳥百代、元希望崎学園の生徒にして現在は大学生。
 果たし状が来たということで、武道場を管理する柳に話を聞きに来たという。

(妙だ)

 しばらく話してしてみて、柳は違和感を覚えている。
 『暗い夜からの脱出』
 その能力を行使することで柳は決闘に向かう人間を増やしていた。
 ストレスを増幅させるために言葉を操り、人間の意識のより深い部分を引きずり出す。
 この社会でストレスを感じない人間などいない、柳はそれをよく理解している。
 ……はずなのだが。

(ストレスを感じていない……?)

 果たし状を出した相手、日常のこと、あらゆるアプローチを試しても、彼女の中のストレスが膨らむ気配がない。

(そんなことは無いはずだ)

 その通りだ。
 中百舌鳥百代にもストレスというものはある。
 しかしそれは長期的なものでは無い。
 自分の中にある怒りやモヤモヤとした感情はいつだって解決してきた。
 そして何よりも。

「ねぇ先生」
「?」
「私になにかしてるけれど、やめた方がいいよ」

 冷や汗が、背を伝う。

「なんの事かな……
「私は気を見られるんだけど、先生の中で何かが強くなってるよ」

 中百舌鳥が立ち上がる。
 それと同時に感じたものは、威圧感。
 体から何かが立ちのぼるような、破裂する前の風船のような、強い力の解放の予感。
 一触即発。
 戦闘の予感。
 先程まで感じなかったはずの怒りが強烈なまでに膨れ上がっている。

「なーんて」
……
「先生が何か仕掛けたのかと思ったけど、この果し状自体はあの子の意志っぽいね」

 それが分かったのならいいや、と言い残して部屋から出ていく中百舌鳥。
 柳はそれを止めることはしなかったし、出来なかった。
 彼の目的は彼女と敵対することでは無いし、あの様子なら彼女は決闘するだろうから。

「中百舌鳥百代……

 スマートフォンに触れ、操作する。
 中百舌鳥百代。
 彼女の名前を調べればいくつもの情報が現れて、その一つを柳の指がタップした。
 それはある動画で、ボクシングの試合を記録したもの。
 中百舌鳥百代、彼女を表すものの一つ、ボクシング。
 液晶の中の彼女は忙しなく足を動かしていた。
 ステップワーク、というよりは踊るようにリズムを刻んでいる風に見える。
 中百舌鳥百代は自由だった。
 ぐにゃりと歪むようにパンチを避けたり、挑発的なまでに無造作に拳を放ったりする。
 それなのに、彼女は勝つ。

……天才、か」

 ある人はその才能の正体は相手の動く先に拳を置くような天性の当て感という。
 ある人はその才能の正体は超人的なバネや柔軟性によるパンチ力という。
 ある人はその才能の正体は圧倒的な動体視力によるディフェンス力という。
 しかしそれらはどれも否。
 柳自身、それを理解したのはつい先程だ。
 魔人能力。
 気功変動、と彼女が呼ぶ能力は『気の探知』
 力の流れを把握する能力と言い替えてもいい。
 故に、相手の動きたい場所を把握することができるし、どこからどう攻撃をしたいのかが見えてくる。
 当然、それを見た上で判断して対応するのはほかでもない彼女の技術だ。
 そして目に見える以上の効果が彼女の立ち振る舞いにはある。
 真剣に努力を重ねたからこそ、相手は混乱する。
 天衣無縫、自由奔放、型を持たないような行動に論理があるように感じてしまう。
 ボクシングの枠の外で遊ぶような彼女は相手のこれまでを嘲笑ってしまう。
 本人にその気はなくてもだ。
 
 ―――試合は終盤。
 スウェーバックを多用し相手の攻撃をかわしていた中百舌鳥がコーナーに詰められる。
 後ろに下がることは出来ない。
 体を前に倒すダッキングによる防御も可能だが、それだけでかいくぐれるほど相手も甘くはないだろう。

『うおああああ!』  

 声が上がる。
 それに反比例するように下がったのは中百舌鳥の腕。
 誘っている。
 分かっていても、相手は打つ。
 乱打、だが。

(攻撃は左右から)

 右の拳を振り切って、その次にまた右の拳を振る者は少ないだろう。
 後ろに下がれなくても、どの順番で来るかが見えるのならば問題は無い……と、彼女は言う。

「っ!」

 左拳一閃。
 まともに腹に打ち込まれた相手がひるんで、中百舌鳥が位置を入れ替える。
 他人の気の流れを見ることで、彼女は自分自身の気の流れを直感的に知覚し、その流れを操るようになった。
 気とは流体のような力の流れ、それを自由に操作できるのなら、その打撃はもっともっと重くなる。
 有利不利は逆転し―――
 美し過ぎるほどの右ストレートで、試合は終わった。
 勝ったのは中百舌鳥百代だった。
 まだ動画の時間は残っているが、柳は動画を見るのをやめた。
 大事なのは彼女の経歴や才能を知ることではなく、彼女が決闘を行うことなのだから。

(大方、昔に試合をした相手とでもやるんだろう……

 彼女は、何も話さなかったのだから。

***

 夜、乾いた音が部屋に響く。
 その音に続いて、金属の擦れる音と息遣い。

……

 中百舌鳥百代のトレーニング時間は不規則だ。
 それすら、人は彼女の天才性の表れと見る。
 ただ彼女は自分のタイミングで鍛えているのに過ぎないのに。
 彼女は誰よりもハードに鍛えているだけなのに。

……はーっ」

 サンドバッグを叩き続ける。
 試合中に見せたような無軌道な行動は見えない。
 打ち込む、打ち込む、打ち込む。
 揺れるサンドバッグの動きに合わせて、何度も叩く。
 彼女の打撃は気の流れを扱うことによる、最大効率の体重移動による重い打撃だ。
 それを支えるのは魔術でも能力でもない、足の位置であった。
 踊るようなフットワークやステップ、スイッチによる足の入れ替え、しかしどれだけ激しく動いても足の位置は常に教科書に載せられるほどに正しいのだ。
 戦いにおいて、魔法のような奇跡など起きはしない。
 不運な偶然と淡々とした事実が組み合わさるだけだ。
 故に、天才と呼ばれる人間でも先人の足跡を辿る他ない。
 型破りは型を知るからこそのものだ。

……

 誰も知らない、天才の肩書きに隠れた彼女を。
 誰も知らない、彼女を支える努力というものを。
 努力はどんな才能にも勝る。

……ま、今日はこんなもんかな」

 足元に汗で水たまりが出来たころ、彼女はグローブを外した。

(決闘ねぇ……

 シャワー室のドアを開け、無造作に服を投げ捨てた。
 蛇口をひねり湯で汗を流せば、彼女の思考もまた流れていく。

(受けないわけには、いかないよねぇ)

 果たし状という重々しい手紙も、彼女からすれば友人からの手紙であった。
 横手筋切先。
 中百舌鳥百代の後輩で、友人で、そして『倒してしまった人』

……

 彼女と戦ってからいつも思う。
 『自分はなぜ、戦うのか』
 ボクシングをしているからか、それとももっと別のモノを求めてきたのか。
 中百舌鳥百代は飽き性だ。
 今まで楽しそうだからと色々なことを始めた。
 バスケットボール、ブレイクダンス、書道、陸上競技、ギター、山登り……
 そのどれでも彼女はすぐに適応したし、競技であれば一定以上の結果を残してきた。
 なのに、今もボクシングを続けている。
 五輪選手にでもなりたいのかと、自分で自分に思ってしまうほどには珍しいことであった。

『中百舌鳥殿はどうして戦うのでござるか』

 かつて、彼女に聞かれたことだ。
 それに対して中百舌鳥はこう返した。

『きっかけはいつも楽しそうだからで、続ける理由はいつも競い合いたいなんだ』

 競い合う、比べ合う。
 自分と誰か、あるいは何かの力がぶつかってそこに何かが生まれてくる。
 そんなものが好きなのだ。
 だが『なにで』は問わない。
 だからこそ、彼女はいつだって自分の遊び場を変えてきた。
 なのに、いまはなぜ。

……待ってたのかもね」

 思わず、そう口にしていた。
 剣を極めんとしていた彼女を倒してしまったから。
 彼女がまた自分の前に立ちはだかった時に、自分がボクサーであり続けられるように。
 ……おそらく、彼女がボクシングを続けるのはそれだけではないのだろう。
 しかし、この心に残る後悔は真実であった。

『拙者は中百舌鳥殿にとって足らぬ相手でござったか?』

 いつかの声が耳の中に響く。
 足りない相手などではなかった。
 むしろ、自分こそが足りぬ相手だと思った。
 彼女は自分と対峙し、全力で戦っていたはずだ。
 それなのに『自分は命を燃やさなかった』
 何も知らぬ他人はそれを彼女の天才性ゆえだと考えるだろう。
 だが彼女は自分を天才などとは思わない。
 才能など、彼女は自覚しないし考えない。
 そんなものは荷物なのだ。
 自分がいま感じたもの、自分の心の中から沸き立つものが全てなのだ。
 評価も、成果も、結果と共についてくるものなどに中百舌鳥は構わない。
 飄々として掴みどころがない彼女。
 しかしその中にも芯はある。
 徹底不変の志である。

「うん、遊びぼう。切先と」

 もう一度、戦うのだ。
 横手筋と、今度こそ己の力を出し切るために。
 彼女がまた立ち上がるのを中百舌鳥は待った。
 きっと彼女も待ったことだろう。
 自分がもう一度挑む機会というものを。
 それに応えよう。
 荷物は持たず、いつものように。

……もうちょっと練習していこうかな」

***

 私は空を飛ぶように、簡単に地面を蹴りあげる。
 綿毛が空を飛ぶように、どこまで軽やかに進んでく。
 どこに行っても構わない。
 私がそこにいることが、私が表すことだから。

 それでもあなたが待つのなら、私は必ず戻りましょう。
 あなたの前で咲くために。


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