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横手筋切先

全体公開 5730文字
2024-02-18 20:37:42

キャラクター名
横手筋切先



プロフィール
剣の道を征く女の子。猫っぽい細目。
のほほんとして見えるが中身は直情型。
伸ばしたぱっつん前髪と、うなじあたりで結ったおかっぱ長髪がトレードマーク。
いつも紺色の剣道着を着ている。
一人称は「拙者」、ござる口調で喋る。
剣道部の後輩から『猫目先輩』『猫目凛先輩』と呼ばれ親しまれているが、本名とかすりもしない上、そもそも剣道部ですらない。

古流剣術『猫目流』を伝承する家の生まれ。
才能があり、さらに腕を磨いているため、そこそこ強い。校内で用心棒の真似事をして日銭を稼いでいる。
古流にとらわれない若さがある一方、流派の奥義を真に理解できない青さも併せ持つ。
性格はバカだが真面目で頑固。思い込んだら一直線。意固地。

仲の良かった友人にコテンパンに敗北し、これを契機と復讐のため腕を磨いた。
「体一刀に任せれば、猫のしなやかさ柳の影の如し」なる猫目流の奥義を体得するため全てを捨て、遂に到達点に至る。

※猫目流について
江戸中期の剣豪、猫目柳影斎が興した流派。
猫のように動き、影のように切るといわれる。柔剛一体の剣理を説き、横手筋家に脈々と受け継がれてきた。
当代継承者である父曰く、切先はやや剛の気が勝ちすぎるとのこと。



能力名
邪道正道



能力内容
切先の魔人能力。あえて剣の道を外れることで、剣の道を極めた分身を出現させる能力。
平たく言えば二回攻撃。
切先にとって「そんなものは剣士にあるまじき行為だ」と思える行動をとる間、彼女に重なるように分身が現れる。分身は猫目流を極めた理想像でありながら並行世界に存在する彼女自身である。
猫目流にあるまじき邪道を行う罪悪感を制約としているため、切先は先ず剣を捨て斧を極めることを心に誓った。
無尽八方斧刃と名付けた技は八つのハンドアックスをお手玉のように無限に投擲し続けることで間隙なく攻撃する邪道中の邪道である。だが切先は斧の道を極めることで同時に剣の道を極めるに至っており、ここにさらに達人の剣術が加わる。
殺人、強盗、女犯、剣を極めるためあらゆる外道に身をやつす際、ただ己の剣を汚すことへの罪悪感がある。その動機は実のところただ底知れぬ好奇心である。



プロローグ
 今は昔、猫目伝兵衛という者あり。
 自ら剣の達者を称し、信濃国に稽古場を開きて分限なく習わせたり。
 ある時、山立ちが子らを勾引しが、伝兵衛雁山に入りて悉くこれを討ち果たせり。
 みな伝兵衛を義とす。伝兵衛自ら柳影斎と称す。
 これ猫目流の所以なり。



 まだもう少し歯が立つと信じていた。
 始祖柳影斎のように強いとまではいかないが、猫目流を伝える家に生まれ、3歳から剣を振るってきた。たとえ魔人だろうと、自分の実力ならあるいは紙一重で匹敵できると思っていた。

 だが、全霊を込めた太刀筋はあっさり避けられ、気がつけば拙者は地面に転がっていた。
 後で気づいたことだが、彼女は拙者の間合いを即座に悟り、避けざま顎に一撃を加えたらしい。
 猫目流にも見切りの技巧は存在する。それゆえに彼女の空間認識能力と反射神経の高さは理解していたつもりだった。だからこそ、見切りの困難な絶妙な距離感から高速無比の剣を撃ち込んだ。断言できるが、魔人だろうと余人では対応できない。
 それでも、彼女の実力には遠く及ばなかった。百代殿の実力には。



 中百舌鳥百代。
 仲の良い友だった。少なくとも拙者はそう思っていた。
 今でも無二の存在だと信じている。彼女にとってもそうなのかは知らないが。
 学年は向こうの方が上だが、交友関係は広くとも他者と深い付き合いのない拙者にとって、心からの友人と呼べる数少ない人だった。
 戦闘スタイルはボクシングということは知っていたが、それ以上のことは知らなかった。なにぶん隙がないのだ。まともに敵う人は少なく、それゆえ実力の全貌は推し量り難かった。

 何事にも才能に恵まれている人だ。だがそれゆえか熱し易く冷め易い。
 拙者が知っているだけでもボクシング以外に徒競走、フェンシング、水泳、将棋、チェス、アマチュア無線、果ては瓶ビールの王冠集めにまで手を出しておられた。
 だが、いつもある程度の所まで上達しては、あっさりとその道を捨てられた。
 そもそも百代殿と出会ったのも、そういったよくわからない趣味を、拙者がいつも鍛錬している学内の武道場で勝手にし始めたことがきっかけだ。ボクシングをしていると知ったのは仲良くなってからだ。
 未成年なのにビール瓶をどうやって仕入れたのかが気になってしかたなかったが、百代殿があらゆる行為に手を出す傍ら、拙者はただひたすらに剣を振るった。
 そういう何気ない時間が好きだった。
 生まれてこの方、剣しかなく、他に何もない拙者にとって、多趣味に色々なことをする百代殿は、何か気が置けない、幼い頃からの知己に思えた。

 だが、百代殿はそれでもボクシングだけはやめなかった。
 何より尊敬していたのはそういうところだった。
 天然なのか立ち会う相手に対して少々煽りの強い御仁であるが、ボクシングそのものへの姿勢は真摯だった。
 道は違えど、同じ武に生きる者として才あるものがその道に拘ることに、強く感情移入していたのだ。
 たとえそれが勘違いだったとしても、拙者にはそう考えるしかない。

 百代殿を想う時、彼女の表情はいつもどこか寂しげだ。
 その気持ちは拙者にも理解できた。
 生まれた時から何もない。だから目の前に提示された猫目流というわかりやすい目標に縋った。
 道を行けば、ただその生命の空虚を埋められると思って剣の腕を磨いた。
 拙者が剣を振るうとき、拙者は百代殿と同じ空虚さを共有していた。
 拙者の空虚が百代殿の存在で埋まったように、拙者なら百代殿の心を満たせると信じて疑わなかった。

 魔人でありながらボクシングで才を発揮する百代殿と、非魔人でありながら剣術を極めんとする拙者。二人の存在は学内でも一目置かれ、拙者は満更でもなかった。
 修業の傍らで始めた用心棒稼業で名を上げた拙者は、百代殿と並び称されることになんら疑いをもたなかったのでござる。

 キャラ付けで始めたござる口調が心の中にまで侵食し始め人として危機感を持ち始めた頃、応援のため魔人ボクシングの試合を観戦に行った。

 その折、相手選手をノックアウトする百代殿の姿を目にした。
 否、目にしてしまったのだ。
 思えば百代殿のボクシングを見ること自体はあっても、真剣勝負でのそれを見るのは初めてだった。
 魔人能力を持った人間同士が本気でお互いを殴り合う。時には命を落とす危険すらある。
 だがその姿は想像していたよりあまりにも美しかった。
 面白いからボクシングをするのだと話していたが、成程、確かに本人がそう言うのも納得できる戦いぶりだった。

 戦いを見た直後、拙者も彼女と是非手合わせを願いたいと申し出た。
 武芸者として一度立ち会いたいと申し出た。
 剣と拳闘。道は違えども同じ目標を持つ者同士。以前から一度立ち会ってみたかったのだと理由を話した。
 彼女は二つ返事で了承した。
 拙者は真剣を用いるが構わぬか?と問うと、百代殿は武器を用いても面白くないと答えられた。
 いつもは軽くかわす煽りも、この時ばかりは耐え難く辛辣に思えた。

 そして拙者は……あっけなく敗北したでござる。



 敗北したことは恥ではない。
 何より悔しかったのは、拙者が百代殿を何一つ満足させられなかったことにござる。
 それは剣一筋に生きたものにとって、己の剣が無価値とされたのに等しい。拙者が百代殿の心の空虚を満たせぬなどと言うことがあろうか。あの立ち会いで、拙者の剣はその全てを否定されたのでござる。
 剣は拙者にとって全てでござった。

 百代殿の動きは、拙者が今まで見たどんな動きとも違っていた。
 その速さ、その機微。
 つまり百代殿は、あの時まで拙者に真の実力を見せたことなどなかったのでござる。
 拙者にとっての真実は、ただ甘く見られていたという気持ちのみ。

 猫目柳影斎の剣は義でござる。
 ゆえに拙者も同じところを目指した。

 だがあの時より、ただ百代殿に勝つだけが目標になった。
 あの御仁に勝つには常人の剣では敵わぬ。
 なら、拙者も魔人となろう。

 強くなるためなら、全てを捨てられる。
 全てはただあの御仁を満足させるため。
 そのためなら拙者、この剣すら捨てられるでござる。
 


 あれから時間が経った。

 学内の食堂は白昼だというのに人気が少ない。
 人払いがなされた空間には、拙者と数人のゴロつきがいるのみ。

 だが元は15人いた連中もすでに半数が肉塊となって床に転がっている。
 生きているのは7人。

 日熊党といったか。校内の不良集団で、武道場を根城にするため女子剣道部への嫌がらせを繰り返し行なっていた反社会勢力にござる。

「おうおう俺たちは昼飯を食いに来たってえのによお。なんだこの時代錯誤な格好をした侍の姉ちゃんは」

「おのれらの女子剣道部へのたびたびの嫌がらせをやめてもらおうと思ってな。だが殺してしまった方が早いと考え、こうした次第。お主たちの蛮行には他の生徒たちも怖がっているでな」

「ほざけええええ」

 もちろんこれは口実に過ぎぬ。
 実はといえばこれはただの腕試しと言ったところにござった。

 日熊党の面々が一斉に抜刀した。

 と、同時に拙者もすでに斧を二丁抜き払っていた。
 拙者、この頃は剣道着の上に外套を羽織り、髪を伸ばして暗器の如く八丁の手斧を忍ばせてござる。
 日頃よりそのようなことしているため、背は167センチだったのが172センチまで伸び、肩幅は成人男子と相違ないほどにござる。これはこれでようござるよ。

「ぎゃあああああ」

 さて抜き払いざま男二人の胴を薙ぎ、右の斧を投擲しながら左の斧でさらなる追撃を受けとめてござる。

「不知火真拳っ」

 男は口から白い粘糸のようなものを吐き出したが、次の瞬間には投擲した斧が後頭部に突き刺さって絶命していた。

 さらに拙者は二丁の斧を投擲し、また懐から二丁の斧を投擲し、さらにもう二丁を投擲してござる。

「できるだけ逃げ惑ってほしい。そのほうが拙者の行いをより濃く認識できるでな」

 やはり悪人だろうが善人だろうが、殺したとて何も感じぬ。
 もとより拙者に倫理観などなかったのか。あれ以来拙者の何かが壊れてしまったのか。

 今や拙者は逃げ惑う残り5人の男たちの間合いを見切りながら、お手玉のように斧を投擲していた。
 無尽八方斧刃と名付けたこの斧術は連続して斧を投擲し続けることで絶え間なく斬撃を浴びせる。

 ふと少し早い春の陽気が訪れた。生暖かい血が顔にかかったのでござる。

「もはやこれまでえええ」

 男の一人が捨て身の覚悟で飛び込んできた。飛来した斧を足で受け止めると、蹴り上げるように男を逆袈裟に切って捨てた。

「忍法肉水路」

 今しがた逆袈裟にした男の背から別の男が飛び出した。
 おそらくは他人の肉体に自分自身を潜航させる類の能力と見た。
 この男は拙者の八丁の斧を冷静に観察しながら、しにゆく仲間たちの陰で密かに反撃の機会を狙っていたのだ。

 次の瞬間、男は頭から真っ二つになっていた。

 邪道正道。拙者が剣の道に外れた行為に及ぶ時、並行世界における「剣の道を極めた拙者」が分身として現れる。
 八丁の斧を掻い潜ったとしても、剣の達人である拙者の影によって斬られてしまう。この殺人術を破ったものは未だかつていない。

 分身は言葉を発することなくこちらを見つめる。
 その視線の意味に興味はない。ただ、これ以上剣を汚せば、己の心はどこまで堕ちるのかという興味はある。

 さっきまでゴロつきだったものを踏みつけながら、拙者は食堂を後にした。



「あの、猫目先輩。日熊党の連中を退治していただいて本当にありがとうございました」

 日熊党を全員殺したと女子剣道部に報告しに戻った際、女生徒から礼の言葉を言われた。
 聞けば彼女は日熊党の頭目から言い寄られていたらしい。確かに見た目は麗らかな美人だ。
 だが、言葉とは裏腹にその態度からは拙者への恐怖が滲み出ていた。

「いや何、ただ拙者は腕試しをしたまでのこと。お主が気に病むことではござらんよ」

「本当にあの連中にはみんな困ってて」

「ふふ、足が竦んでござるよ。そんなに拙者の返り血が怖いでござるか?」

「いえそんな、そんなことは」

 退く女生徒との間合いを詰め、拙者はその肩に手を載せる。

「人を切ると剛直が鎮まらぬでな。拙者の昂りの相手をしてくれぬか」



 他の女を掻き抱くとき、拙者は常に百代殿の顔を想い浮かべる。
 なぜに立ち会いの時、あんな悲しそうな表情をして去っていかれたのか。
 拙者ではダメだったのか。
 あの時の表情が頭から離れない。いつもどこか寂しそうな表情をしていた貴方が、いつもとかわらぬ顔で去っていったのが許せない。

「百代殿……今生の願いにござる。せめて拙者の左目を潰してくださらぬか。さすれば貴方は拙者の体に言えぬ傷となって残り申す」

 拙者はそう言った。
 だが貴方はその提案を断った。
 ゆえに、拙者は自分で目を潰そうとしたでござる。
 それを止めたのは百代殿でござるよ。
 だがそれで良かった。

「これで百代殿は拙者に消えぬ傷をつけた張本人!復讐相手にござる!その素っ首洗って待っておれい」

 あの時のことを思い出して、拙者は呟く。
 なぜに拙者ではダメだったのか。
 ではなぜ、あんな名前も知らない対戦相手には笑っていたのか。
 なぜに拙者ではダメだったのか。

「次こそは必ず貴方を満足させてみせるでござるよ♡」


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