@DangeSSReunioN
キャラクター名
白羽 智禽(しらは ともとり)
プロフィール
希望崎学園高等部に通う男子学生。
赤く染めたモヒカン刈りとカッチリ着込んだ白ランが特徴的。
周囲からは不良と思われており実際に学生同士の喧嘩を繰り返している。
一方で他に目立った非行の様子はない。
校内の他の不良学生とは距離を置いている。
雨の日に捨て猫を拾ったとか、溺れている犬を助けたとか、飼育小屋の兎に餌を与えているのを目撃したと証言する者もいる。
実際のところ、彼の精神は荒んでいる。
正義感や道徳心には乏しく態度は悪い。
飲酒・喫煙・万引きなどの行為に手を出さないのは単に興味がないだけである。
希望崎学園の不良学生の中には法には触れようとしない彼のことをチキンと呼ぶ者もいる。
彼がそうなったのは小学生の時の出来事が原因だ。
飼育小屋で飼っていた鶏が殺された。
それが飼育委員だった彼の仕業だという濡れ衣を着せられたのだ。
彼に因縁があるとすれば、鶏を殺した真犯人、あるいは彼の弁明に聞く耳持たなかった教師や生徒たちとのわだかまりだろうか。
あるいは喧嘩に明け暮れる日々の中では彼が加害者の立場になったこともあるだろう。
動物、特に鶏は今でも好きなようである。
能力名
ホップ・ステップ・ドロップ
能力内容
目視した物を時速389kmで墜落させる能力。
対象は完全に空中にある物に限定され、例えばビルの屋上にロープで繋がれたアドバルーンの様に間接的にでも地上に接している物体には効果がない。
移動方向には多少のコントロールが効く。しかしあくまでも落下させる能力であり、60度までの角度をつけるのが限界。
体の自由を奪う能力ではなく、相手が空中での制動手段を備えていた場合、どのような形での落下になるかはその手段と競うことになる。
とはいえ魔人能力として時速389kmの初速が約束されており、通常のパラシュートなどでは強度や減速のための距離が不足すると思われる。
プロローグ
秋も終わりかけたその日、六年一組の終わりの会はひどく長引いていた。
日暮れの早い時節とはいえ、クラスの児童全員が居残る教室の中に橙色の日が差し込んでいるのはなんとも見慣れない光景だった。
飼育小屋の鶏が一羽殺された。
その日の朝、予定外に開催された全校集会で知らされた事実である。
白羽智禽の心の内は悲しみと怒りで満たされて他の何かを考えるどころではなかった。
だから、担任の先生が終わりの会の始まりに口にした「何か知っていることがあれば話してほしい」、「誰かが正直に話すまで帰ってはいけない」という言葉の不自然さに対してはまるで頭が回っていなかった。
まるで鶏を殺した犯人か、それが誰かを知る者がこの教室の中にいると確信しているようではないか。
生徒たちはみな黙り込んでいた。普段の様に内緒話をしようとする者は一人もなかった。
それが全く許されない重圧を皆がひしひしと感じていた。
それでも疑いの眼差しに気づいた数人の生徒は不満げな気配を顔いっぱいに表していた。
鶏の死を悼む者も決して智禽だけではなかった。
そして鶏そのものに興味を持たない大多数の生徒たちでさえ、一向に終わる気配のない終わりの会の原因となっている鶏殺しの犯人に対してはじりじりと苛立ちを募らせていた。
飼育委員として平等に愛を注ごうと努めていた智禽にとって、死んだ鶏は最愛の一羽というわけではなかった。
智禽の個人的な好みで言えば、最も素晴らしい鶏というのは炎が暗闇に溶けたような赤茶色の羽と薄いオーロラを纏ったような光沢の黒羽とを持つ赤笹のレグホーンである。
死んだのは同じレグホーン種ではあるが、白い羽装の鶏だった。
その羽色はどんなに世話をしてやってもすぐに汚れて雪のような純白とはならなかったし、体格も痩せ気味で風格に欠けていた。飼育小屋の鶏の中では取るに足らない一羽に過ぎなかった。
それでも殺されていいはずがなかった。
窓から照らす夕空の反射光と天井に備わる蛍光灯の冷光が、教室中の影を小さく押し込めていた。光はただ暗がりを奪うだけで、秋の空気に熱を与えることはないのだった。
智禽はぶるりと身震いした。寒さのせいだけではない。
彼の中で湧き上がる怒りが悲しみを上回ろうとしていた。
あいつを殺したのは誰だ!
そう叫んでやろうかとも思った。いや、まさに叫ぼうとした。その瞬間のことだった。
「昨日」
その小さな呟きが、本人すら気づかないうちに智禽の口を止めていた。
「昨日、飼育小屋の鍵を持っていたのは智禽だった」
事実ではある。
飼育委員の智禽は昨日も飼育小屋で役目を果たした。そして鍵を返し忘れ、今日の朝一番に小屋の様子を見に行った。
鶏が死んでいるのを見つけたのも他ならぬ智禽だったのだ。
「そうだよ、智禽が鍵を持っていた」
「昨日から今日までずっとだ」
そうだそうだと口々に同意の声が上がり始めた。
どれが誰の声だったか智禽にはもうわからなかった。
思いもよらないことだった。
もっとも疑わしい者が白羽智禽だという事を、白羽智禽だけはまるで気づいていなかった。
完全にあり得ないことだった。
「俺がやるわけないだろう!」
そう叫んでやりたかった。
いや、今度は確かに叫んだはずだった。
その叫びは誰にも届いていないようだった。
彼の弁護をしようとする者はただの一人もいなかった。
➷➷➷
冷たい雨がぽつぽつと降り始めていた。
乾燥した季節の草木には天の恵みとなるが、傘を持たないただの人間にはたまったものではない。
「やっべ! 降ってきた! やっべえぜ!」
「マジ寒いんだけど! ウケる!」
そこかしこで走り回る若者たちは、そういう意味ではただの人間とは言い難いのかもしれない。
なにも彼らの中に魔人が紛れ込んでいるからというのではない。
彼らは単純に若かった。
無闇に夢と希望にあふれ、活力と元気を持て余していた。
ただの人間などではなく、未来に大きな可能性を秘めた高校生という人種である。
無論、その心の内は決して明るいばかりではない。
秘密、悩み、不安。そういうものも確かにある。
むしろ精神が摩耗して苦悩に麻痺する有様には未だ至っていない彼らは、それらに切実に向き合って傷つくことも多いのだろう。
彼らがこの雨の中でも笑っていられるのは、胸に秘めた熱さが彼らの肉体さえ守っているからなのか。それともより暗く冷たいものがこの世にはあると知っているからか。
どの道、彼らにとっては不意の雨などなんでもなかった。
そして、そうではない生き物もいる。
「ひでえやつもいるもんだぜ」
赤く染まったトサカに似た髪がぶるぶると揺れた。
ここにも一人、高校生が傘もささずに立っていた。
足元に視線を落とし、大げさに首を振って見せる。
上部を切り開かれた段ボール箱の中に一匹の猫がいた。
灰色の濡れた毛がぺったりと体に張り付き、やせ細った体を一層弱々しく見せていた。
声を上げることもせず、しょぼくれた顔で見上げている。
半月のような黄色い瞳がその高校生をじっと見つめ続けていた。
「へっ」
彼は息を噴き出して目をそらした。
そうしてその場に座り込んで、段ボール箱を引き裂いた。
彼はそのまま真横の位置から改めて猫に視線を合わせた。
「ガンつけはお前の勝ちだな」
彼は、白羽智禽は、そっと猫を抱き上げた。
白ランが汚れることなど気にも留めなかった。
傷つけないように、怯えさせないように。
それだけを考えていた。
そして、一年後――。
そこには、綺麗な赤い首輪と白いハーネスにリードをつけ、灰色の毛を艶めかせ、どっしりとした体で公園を走り回るその猫の姿があった!
「あ゛あ゛ぁん、み゛い゛ぢゃんがわいいいい!」
「ん゛な゛あ゛あぁぁぁ! フカーッ!」
リードをしっかり持ちながらも不気味な声を上げて追い回す白羽智禽!
足を止め振り返り歯をむき出して威嚇するみいちゃん!
そこにはかつての弱々しさの欠片もなかった!
「んーん、走るの止めたから捕まっちゃったねえ♡ 怒った顔も可愛いぞ♡」
智禽はみいちゃんの隙を見逃さず、魔人特有の俊敏さを発揮して抱き上げていた。
恐るべき早業である。
「ゴロゴロ……」
みいちゃんもまた捕まった瞬間には思考を切り替え即座に脱力していた。
もう動くのめんどくさいから帰りはこいつに家まで連れてってもらうぜの構えである。
そういうふてぶてしさがこの猫にはあった。
「スゥーッ、さて、ハァーッ、遊びには飽きたか、スゥーッ、そろそろ帰るか、ハァーッ」
智禽は抱え上げたみいちゃんの腹を自身の顔に押し付けて深呼吸しながらゆっくりと帰り支度を始めた。
手荷物は布製だが頑丈なキャリーバッグである。
不必要に時間をかけてバッグを開き、緩慢な動作でみいちゃんを顔から放し、そっと優しい手つきでキャリーに収めた。
みいちゃんとの外出時、移動にはキャリーを使い、外で遊ぶ時はハーネスとリードをつけて決して眼を離さない。
そういう理性がかろうじてこの男にもあった。
そうしてキャリー片手に公園を立ち去ろうとしたまさにその時!
「おうおうおう、そのトサカ頭に気取った白ラン、チキンってのはテメェだなぁ~?」
現れたのは弊衣破帽の大柄な男子高校生。
いわゆるバンカラが擦り切れたマントをばさりとはためかせ智禽の行く手を遮るように立ちはだかったではないか!
「俺からそう名乗った覚えはねえよ」
智禽はキャリーを手にしたままだ。拳は固めずガンを飛ばして相手の出方を窺った。互いの間には十歩ほどの距離がある。バンカラにとっては既に攻撃可能な距離か、それとも……。
智禽がバンカラを観察する間にバンカラもまた探るような視線で智禽の全身を眺めまわした。智禽はチキンと名乗った覚えはないと言った。それが意味することはつまり……。
「じゃあ人違いかぁ~」
軽く頭を下げながら歩道の端によるバンカラ! 単純なのだ!
「いや俺が名乗ってないだけでそう呼ばれることはあるが……」
智禽は即座に訂正した。
喧嘩を繰り返す中で不良として名を上げつつあり、また恨みも買っているという自覚はある。
ここでチキンと呼ばれる男が自身であると認めれば即座に一戦交えることになるのは百も承知。
それでもあえて智禽は名乗った。
「俺が白羽智禽だ。俺と喧嘩しに来たんだろ?」
「! そうか、やはりテメェがチキン! ならばここで『薔薇の決闘』だぁ~!」
バンカラが大声を上げながら蝙蝠の如くマントを広げる!
するとなんということか!
広がるマントの裏地から薔薇の切り花が雨あられのように飛び出し智禽めがけて殺到したではないか!
「俺の魔人能力『高貴にして華麗なる薔薇の園遊会』は無尽蔵に薔薇を生み出す力!『薔薇の決闘』においては絶対無敵だぁ~!」
明らかに『薔薇の決闘』を誤解している!『薔薇の決闘』の情報の多くは噂という形式で広まっている。人伝に語られる中では内容に尾ひれがつくこともあり、時にはこのような奇妙な勘違いをしている者も生み出してしまうのだ!
しかしこのバンカラがいかなる思い違いをしていようと薔薇の棘の殺傷力には関係なし!
まともに受ければ智禽は全身が薔薇ガーデニングされ美しくも哀れな鶏トピアリーとなることは必至!
だが智禽は不動! 回避も防御もせずに薔薇の嵐をじっと見据えた!
そして次の瞬間、耳をつんざく破砕音と共に歩道のアスファルトが砕け散った!
「……俺の能力は知らずに来たのか?」
舞い上がった土煙が風に散らされた後、そこには無傷の智禽が立っていた。
アスファルトの崩壊はバンカラの薔薇によるものだがそれは両者の中間地点でのこと。
全ての薔薇が智禽に届く前に地へと叩き落されたのだ。
当然その事態を引き起こしたのは智禽の能力。空中の存在を目視のみで墜落させる『ホップ・ステップ・ドロップ』の力だ。
「お前の能力、効かないぜ」
そう静かに宣言した智禽はみいちゃんの入ったキャリーをそっと降ろし、みいちゃんのおやつである舟形の減塩鰹節を手にしてべろりと舐めた。主にみいちゃんが一度噛んだ痕が残る部分を重点的に舐めた。
さておき鰹節とは言わずもがな鉄と同等の強度を持つ凶器食品である。
「ええい、拳でやってやらぁ~!」
対してバンカラは声を張り上げ、無手のままで挑みかかった。
その行いは匹夫の勇の一言で片づけることもできるのだろう。
能力は役に立たず、武器も持たず。今やバンカラは取るに足らない小物でしかない。
そして智禽は取るに足らない生き物を蔑むことも侮ることもない。
決着がつくまでに長い時間はかからなかった。
➷➷➷
「この俺が薔薇使いでもない奴に負けるとはな……」
仰向けに倒れたバンカラの顔は腫れと傷とで歪んでいたが、その表情には晴れやかさが感じられた。
「願いを言えよ、チキン。できる限りは叶えてやらぁ。『薔薇の決闘』のルールだからな」
智禽は自身が噂に聞いた『薔薇の決闘』とバンカラが口にするそれとの間に乖離があることをうっすらと察していた。薔薇使いという意味不明の言葉の中に幾ばくかの誇りがあるのだということも。
「……なら、質問に答えろ」
わずかな逡巡の後、智禽は願いを口にした。バンカラの誤解を正すことに意味はないのだと思った。
「俺を狙った理由はなんだ」
「ああ、お前はそれなりに名が知られてるし他の誰かと組んでるわけでもねぇ。俺から挑んでも恥にならねぇし、もし勝っても仇討ちだなんだで連戦になることもねぇだろ。要は戦いやすかった」
「それだけか。俺自身に因縁があったわけじゃないのか? 俺の姿を見て思うことは?」
「因縁なんてねぇよ。お前の恰好は、さぁな、よくわからんがトサカも白ランも似合ってるぜ」
「俺が初等部にいた頃、学校で飼っていた鶏が死んだ。それについては知っているか」
「いや、俺は高等部から編入したからな。有名な話なのか?」
「編入してきてやることが喧嘩かよ……質問は終わりだ。じゃあな」
「あ、おい」
バンカラは勝者が立ち去っていく足音を聞いた。
身を起こそうとしたが痛む体はいう事を聞かず、小さな呻きが漏れただけだった。
足音は立ち止まることなく徐々に小さくなり、町の騒めきの中に消えていった。
➷➷➷
かつて一羽の鶏が死んだ。
大多数の人々にとっては遠い昔の事件である。
小学生の時分にあった不愉快な思い出の一つである。
少なくとも一人、それを過去にはしていない者がいる。
彼に向けられた眼差しと、取るに足らない鶏の死を。