こちらは「創作男女CP」の作品です。
「もしかしたらチョコレートくれたりしたのかな」
かつて愛した女性に会いたいダイタロスの話。
傾向:ファンタジー/恋愛/甘め/切ない/すれ違い/死別/長命種
創作「俺達に明日はある-リストウッツのマフィア達-」の作品です。
@ginichi_sakura
【登場人物解説】
ダイタロス:リストウッツを拠点にするマフィア。イカロスの相棒。臆病で奥手かつ、自分の立場で好きは言えなかった。
イカロス :リストウッツを拠点にするマフィア。ダイタロスの相棒。昔から今までダイタロスと二人で過ごしている。
キミ :ダイタロスが振った女性。別の人と幸せになったが、死ぬまでダイタロスも愛していて――
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「今日はバレンタインなんだってさ」
キミに語りかけると、手に持った花束が風に揺れる。
まだ少し肌寒くて、厚着せずに出て来たのを少し後悔した。
「俺はすっかり忘れてたけど……貰ってるの見るとちょっといいなーと思ったりするんだ」
花束を胸の前に持ち直して、綺麗なまま持って来ることが出来たのを確認する。
「ってもしかすると、キミは行事自体を知らないかも知れないんだよね。一部の地域で流行ったチョコレートのお祭りみたいなものなんだけどさ。自分へのご褒美に買うもよし、友人へ送るもよし。みたいな楽しいイベントでね」
ゴォッ、と強い風が吹いたので花びらが飛んでしまわないように手の平で抑えながら続ける。
「それから、愛しい人への愛の告白をするのもいいんだ」
ポケットの中から、小さな箱を取り出す。
今の季節にしか咲かない花と、真っ白に赤いリボンがついた箱をそっと墓の上に置いた。
「……君が生きてたらさ。もしかしたらチョコレートくれたりとかしたのかな」
そこは随分前に亡くなっている、自分を好きだと言ってくれた人の眠る場所だった。
◆
それは、さかのぼること数十分前。
「チョコレートを貰った」
――と、長年連れ立った相棒のイカロスが職場で言ってきた。
なんで俺には無いんだ、と思いながら。
しばらくすると頭の中では別の事がぐるぐると回り始めていた。
並んで歩く職場からの帰り道。
嬉しそうにするイカロスを横目に、あとで出かけようと心に決めた。
チョコの自慢をして来た相棒に、ラーメンとチャーハンを奢らせ腹を満たすと席を立った。
「あれ、早くない? 何か用事?」
「ちょっとこのまま出かけて来るだけだよ。お前も一人で中身見たいだろ、チョコ」
「……うん。今回のは、ちょっと」
少しだけ俯いて、嬉しそうに頬を染める。
そんな顔あんまり見たことないんだよなぁ。
という仲間としての悔しさはあるけど、どうしようもないことはある。
「優しい相棒はお出かけしてくるワケよ」
「えっと、ありがと……」
「どういたしまして。帰るときは連絡するし、結構遠出するからゆっくりな」
「ウン」
普段は世間に疲れ切ったジジィが滲みだしているというのに。
少年みたいな眩しい目をしているのだから羨ましい。
「じゃな~」
「気を付けてね」
「おー」
軽く手を振りながら店を出ると、黙って商店街の方へと歩き出す。
まず、花束を買う為に花屋へ。
季節に合わせたものを見繕って貰い、真っすぐ目的地に向かうはずだった。
「……ああ、小さいのもあるんだ」
通り過ぎようとしていた店のショーウィンドウから、小さな贈り物用のチョコがあるのが見えた。
相棒は興味があるようだったけど、俺は腹周りを気にしているので見ないようにしてきたから知らなかった。
花束を持って入るのははばかられたけれど、折角だからと小さな箱を一つ買った。
何度も通った道を、けれど時と共に少しずつ変わっている景色を見ながら歩き続ける。
もう随分と経ったのだから、忘れなければいけないのかもしれない。
何より彼女は結婚していたし、明確に俺の事は諦めている。
あの頃からもう裏の世界で生きる悪い奴で、それでいて寿命に終わりがあるのかもわかっていない「長命種」。
告白を受けたとて一緒に居られる期限は短い。
だから、あの時既に一緒にいた同じ長命種のイカロスと生きるのを選んだ。
そうでなくても、何度も、沢山の、向けられた好意を断って来た。
泣き崩れてしまう人もいた、そのまま逃げて二度と会えない人もいた。
頬を叩いて怒りをあらわにする人もいた。
――「俺は長命種だから、一緒にいるのは無理だよ」
嘘じゃないし、これ以上の理由はない。
好きだろうと一緒に行くことなんかどうせできない。
元々俺自身が後ろ向きな性格をしているのもあって、前向きにとらえることは出来なかった。
そんな中で、たった一人だけ。
俺の唇を勝手に奪った女性が居た。
どんな存在であるかを理解して、それでも好きでいてくれて、だからこそ諦めてくれた。
一緒に行くことは選ばず、彼女自身の幸せを勝ち取ったのも見届けた。
結婚式に呼ばれた時は断ろうかと思ったけれど、今では行ってよかったと思う。
亡くなるまでの彼女にとっての長い時間、俺にとっての短い間。
彼女は俺を――いや。俺だけじゃなく相棒も人間扱いしてくれたのがうれしくて。
今も、あの時一緒に行く道を選んでいたら、を時々考えてしまう。
どうせ臆病で勇気のない俺は選ぶことのない道だろうけど。
それでも君と、一緒に居られたなら。
そんな夢を見たりするほど、胸に深く刻まれている。
考え事をしていたら墓の前に着いた。
語りかけながら花とチョコレートを供えて、瞼を閉じて彼女の姿を思い描く。
どれだけ思い出そうとしても、いつも笑顔で優しい顔をしている。
きっとそれだけずっと穏やかに、関わってくれていたからだろう。
「……そろそろ行くよ。チョコレートは溶けてしまうから、悪いけど持って帰る」
花束は放っておいても魔法でしばらくすれば自然に帰っていく。
箱を手に取って、俺は一体何をしているんだと我に返る。
「じゃあ、また」
ポケットに箱を仕舞って、また街に向かって歩き出す。
この場所は癒されるけれど、それと一緒に虚しさが胸にいつもこみあげてくる。
自分の意気地なさが嫌になるけれど、こればっかりは今から何を思っても覆らない。
今日は相方が居ないから、胸を借りて泣くこともできない。
幸いここまでの道はあまり人が多くない。
声をなるべく抑えて、零れてくる涙をぬぐいながらゆっくり歩いて帰った。
チョコレートは出す気になれずに、ポケットに入れたままだった。
◆
その日の夜。
夢の中でも、彼女は俺に笑いかけていた。
手には俺が渡したチョコレートの箱が握られていて、あまりの都合の良さに卒倒しそうになる。
何とか踏ん張って格好を一応つけると、彼女がふふふと笑った。
多分、今の一連の動揺が全部バレている。
ゆっくりと歩み寄ってきて、箱が差し出される。
受け取れとでもいうのだろうか、自分で買ってきた物を?
「……貰ってくれないんですか?」
「自分で、買ってきたやつだから……」
「……なるほど?」
そういうと彼女はおもむろに赤いリボンを解いて箱を開けた。
気もそぞろだったので金額も中身もよく確認していなかったのにそこで気づいた。
それは金箔が乗った、綺麗な光沢の濃いめ黒に近い色合いのチョコレートだった。
思ってたより美味しそうなチョコだ。
なんて考えていると目の前でつまみあげて、俺の前に差し出された。
「……これならどうでしょう」
「何が?」
「買ったのは貴方ですけど、これなら私から直接あげたことに」
「……え、っと……」
「しましょう? これで。私はチョコレートを買えないですし」
「それは……ッ!?」
仕方ない事じゃないかな、と続けようとした口にチョコを押し付けられた。
勿体ないので落とさないように咥えながら、慣れた動作で黒い手袋を外してはみ出た部分を持つ。
歯を立てればパキッと軽い音がして中から若干酒の風味のするとろりとした塊が溢れそうになる。
零さないように口の中に放り込んで、行儀が悪いと思いながら。
でも勿体なく思えて、手についたチョコレートも丁寧に舐めとった。
「……急すぎるよ」
「夢に出てくるのって大変なんですよ?」
「そう、なの?」
「そうなんです」
ふふふ、と笑うと彼女が目の前で手についたチョコをペロ、と舐めた。
あ、俺のチョコ食べて貰えた。
何となく脱力してふ、と笑いかけると彼女は次に俺に抱き着いてきた。
一応、俺は今マフィアで、裏社会も生きてきてるのになんでこんなに油断してるんだろう。
されるがままに抱きかれた状態で、彼女は俺の顔を見つめてくる。
「そういえばこうするのは初めてかもしれませんね」
「……キスぐらいしかした事ないからね」
「はい。だから沢山、花束を届けてくれてるの嬉しいですよ」
「そ、っか」
届いている――という夢を俺は見ている。
そんな都合のいい夢を見ている。
泣き出しそうになると、手を一生懸命伸ばして俺の頭を撫でてくれた。
「……な、に?」
「よく頑張ってますね」
「それはちょっと、よくわからないかなぁ……」
「ずっと見ていたので。誉めてあげたかったんです。誉めてくれる人も身近にいるでしょうけど」
「あいつ全然褒めてくれないよ、俺の事」
「貴方の居ない所で褒めてますよ」
「うっそぉ……」
会話をしながら目の縁に貯めた雫がこぼれそうになる。
せめて、君の前では格好いい俺で居たい。
格好悪い姿を見せたくない。
あれだけ帰りに泣いていて何を考えているんだろう。
冷静な気持ちと、そうなり切れない感情で頭がぐちゃぐちゃになる。
そもそもぐちゃぐちゃだからキミの夢を見ているのかもしれない。
頬が濡れる感触と同じぐらいに、また頭を撫でてくれていた。
「……格好いいですよ」
「今は違うと思うなぁ」
「泣かないでいようとしてるのが、えらいです」
「……俺のが昔から年上で、これからどんどん年齢が開いていくのに、ははは」
「そうですね。でもずっと、私は見てますよ」
「ウン、そっかァ……ッ」
止めようがない、溢れてしまう。
言いたい事も沢山ある、出来るなら触れたい、でも出来ない。
俺の手は汚れていて、沢山傷つけて来て、綺麗なままの誰かを求めるなんて夢でも出来ない。
彼女の身体が宙に浮かび始めて、俺をもう一度抱きしめた。
ああ、やっぱり俺は一緒には行けない。
せめて情けない声を上げないようにして、静かに泣きながら優しく微笑む彼女を見送った。
直後に身体が大きく揺れて、目の前には相棒が居た。
「ねぇ、ダイタロスってば! 大丈夫!?」
「……ぁ、ああ……」
夢のせいか顔は涙に濡れていて、自分でもびっくりした。
泣いてるのに気づいて、起こしてくれたんだろう。
「夢の中で攻撃とか受けてない?」
「……はは、受けてねぇよ……。ありがとうな」
「それはいいけど……」
「大丈夫。大丈夫だよ……ッ」
なんて夢だ、と思いながらしばらく涙が止まらなくて、その間ずっとイカロスは黙って隣に座っていてくれた。
きっと自分も眠いだろうに、こういうところが「楽だな」と思ってしまうのだ。
再びゆっくり眠りに落ちて、夕方までぐっすりと二人で眠った。
◆
夜、ふと思い出して食べてなかったチョコレートを食べようとポケットの中を探った。
「え、あれ……?」
リボンは解けて、蓋は開いていて――中身はすでになかった。
イカロスに聞いてみても、「中身がそもそも何なのかとか覚えてない」と言われた。
心当たりは他に一つしかなくて。
でもそれはあまりにも、都合が良いとも思った。
けど、俺は。
「会いに来るのが大変」だと言っていたので、本当に来てくれたのではないかと思うことにした。
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あとがき
以前漫画に登場した女性とダイタロスのファンタジーなお話。
決して結ばれることはない二人ではあるんですが、お互いを大事にしていました。
ちなみにですが、女性のパートナーはダイタロスを愛していることも了承して結婚しました。
……全員が納得していれば、恋愛はそれでいいんじゃないかな、と創作では思います。
以前女性が登場した漫画はこちら。
▼創作漫画「それでも俺達は」
https://www.pixiv.net/artworks/107660587
そしてダイタロスとイカロスが登場する他のお話はリンクからどうぞ。
▼「俺達に明日はある」作品ページ
https://ginirosakura.wixsite.com/mechanicalcherry/oreasu