みずいこ
なんでイコさんはモテたいの?という話深堀
関西弁非ネイティブのため口調は勘と変換機頼り
@a_yuuzora
助けたはずの小さい女の子に泣かれたことがある。11歳の頃だ。
庭の外から低く恫喝するような声と弱弱しく泣きそうな声が聞こえ、慌てて外に飛び出すと小学校低学年くらいの女子を中学生くらいの男子が3人で取り囲んでいるのが見えた。年始だったからすぐにお年玉狙いのカツアゲだと察しがついた。祖父から常々「力は誇示するためではなく守るために使え」と教えられていたから、生駒は素振り用の木刀を掴んで表に飛び出して不良どもをめちゃくちゃに打ち据えて追い払った。それが正しいことだと思っていたので。
逃げる不良たちの背が見えなくなったあと、大丈夫か怪我はないかと問おうとして女の子の方に向き直ると、彼女はヒッとおびえたように後退りぼろぼろと涙をこぼした。不良に取り囲まれていたときよりも更に恐怖に凍った表情をしているように見えた。
別に褒められたかったわけでも感謝されたかったわけでもない。ただ、小さい女の子にとって自分は恐怖の対象なのだということに幼い生駒はひどくショックを受けたのだった。
「ってことがあってん」
さらっと明かされた悲しい思い出に、水上はなんと返せばいいかわからない。
モテたいと言う割に、なにかにつけ「俺はそんなことしたらアカン顔やん」と女子から距離をとろうとする生駒の態度を不思議に思って質問した結果がこのありさまだった。
守ろうとした子に怯えられて泣かれる。当時小学生の少年にはちょっとしたトラウマものの体験だ。普段の振る舞いからして今でもすこしそれを引きずっているだろうに、いわば人助けのために遥々三門までやってきて剣をふるっているのだから、その高潔さが眩しくすら感じられる。
「しかもその後じいちゃんに木刀で人殴ったことめっちゃ怒られるし、オカンにもそういうときは大人呼べって怒られるし、散々やった」
「大人の立場ならそらそう言いますわ」
「せやなあ、でも当時はそこまで頭回らへんかってん。ガキやったから」
「いやでも人助けしようとしてたんやから偉いやないですか。俺もそんくらいの歳んときに女子に泣かれたことありますけど、割と理不尽ゆうか八つ当たりみたいなもんやったんで」
ざっくりいうと「顔しか知らない年下の女子に手作りのお菓子を渡されて、受け取り拒否したら盛大に泣かれて教師まで巻き込んでめちゃくちゃ詰られた」という出来事だ。確かに断り方にデリカシーはなかったかもしれないが小学生男児にそんなもん求めるなと今でも思っているし、その件からしばらく女子の群れも教師という生き物も嫌いになった。
――という苦い思い出を一瞬だけ脳裏によぎらせ、口には出さず眉根をわずかに顰めた。
「それって事情聞いていいやつ?」
「聞いてほしくないやつです」
イコさんに引かれたくないんで。あんたが今度のバレンタイン、手作りチョコ配る側にまわろうとしてること知ってんすよ。あのときと今とじゃ状況が全く違うけど、万が一にも貰えないなんてことになるとか本当に嫌なんで。
とは言わず、そっと自分から話題を離した。
「まあ女の子はよぉわかれへんことで泣くし、こっちもどないしたらええか分からんくなるよな。仲良うしたいんやけどな……ビビられると寂しいねんなぁ」
「言ってることが、優しいのに人間に恐れられる悲しきモンスターや」
「俺、モンスターやったかもしれへん」
「冗談のつもりやったのに真に受けてもーた。いや流石にモンスターいうほどイコさん怖ないですから! 現に友達多いでしょ」
「……せやな!」
大元はバレンタインが近づくにつれ生駒のモテたい欲があがっていくのが流石に気になって水上が話を振ってみた、というところだったのだが、なんで生駒が怪物という話になっているのか。唯一無二のスゴ技を気軽に連発できるという点においては怪物と言えなくもないが、それは置いといて。
水上は話を戻す。
「じゃあイコさんの『モテたい』って『恋人欲しい』とはちょっとちゃうんです?」
「恋人なぁ、欲しいは欲しいけど現状ムズくない?」
「というと」
「俺らスカウトされて三門来てんやから任務優先せなならんやろ? そういうこと理解してくれる相手なんが第一条件やんか。デートで外おるときに緊急呼び出しなんてあったらこちらも申し訳ないしなあ。おうちデート♡ってのもめっちゃ興味あんねんけど本部に一般人連れ込めんし」
「そもそも寮は女子禁制すよ」
「あっ、せやったな。っていうか俺今でも結構忙しいねん。任務もやけどランク戦やったりログ観たりしとったらあっという間に時間過ぎて、気が付いたらレポートの締切と隊長業務の報告書の締切来とったりして」
「いつの間にか俺がリマインダーしてますからね」
「それはほんま、ほんっっっまに助かっとる!」
「しかも何故か俺がイコさんのレポート手伝ってますからね。俺、一応まだ高校生なんすけど」
「そこに関してはまことに申し訳ない。ほんまにありがとう!俺の救世主! ボーダー屈指のかしこ!」
「大袈裟におだてても大したもん出ませんよ。――で、まとめると『モテたい』は女の子からも慕われる人気者になりたいくらいの意で、恋人云々は環境的にも時間的にも今はちょっと厳しそうやな、って理解で合ってます?」
「まあ、そんなとこやな」
ふむ、と水上はのんびりと頭を回転させながら頬杖をつき、しばらくしてにやりと口角を上げた。
「ところでイコさん」
「ん?」
「ボーダーへの理解があって、急な呼び出しにも怒らなくて、おうちデート♡にも支障がなくて、一緒に過ごす時間は十分とれて、忙しいイコさんのスケ管もレポートの手伝いもできて、更にイコさんのことが大大大好きで恋人募集中なら是非立候補したいって奴に心当たりあるんですけど、興味あります?」