タビコさんの誕生日企画「#こむわが」に参加させて頂いた、ヴェンタビのお話です。
タビコさんに、〇〇で出汁を取った水炊きをリクエストされたヴェントルー。「自分で盗ってくる」という彼女の言葉に、不本意ながらも起こした行動とは?
誕生日なので、「泊まっていけ」と甘えた彼女に「ふざけるな!またな。」と返す大鴉。彼女がうたた寝している間に、こっそりプレゼントを残していくシーンを追加しました。
2024/11/11に上げました。
@kw42431393
「タビコ、明日は何が食べたいのだ?」
「うん?お前から聞いてくるとは珍しいな。」
忘れておるのか、とぼけておるのか…どちらであろう。
この小娘は、自分の性癖に関する事以外は、恐ろしくズボラだ。
まだ、自分の年も忘れる程に、生きておるとも思えんが…明日は、こやつの誕生日なのだ。
我が輩から聞いてやるのは、癪だ。それに、奴の事だ。
当日になって、『今日は、私の誕生日だ。ご馳走を頼む。』とでも、また言い出す可能性もある。
また…だと?そうよ、去年やられた手よ。だから、今年はかかってやる訳には、いかぬ。
『キイー!!先に言わんか!ケーキの材料を買いに行かねばならぬであろうが!!』
『フフ、それでも行ってくれるんだろう?大鴉?』
分かっておって、黙っておったに違いない。洗濯を切り上げて、スーパーに行く我が輩を見て、ニヤニヤ笑っておったのだから。
「そうだな、水炊きが食べたいな。いい出汁で頼む。」
「水炊き…そんな簡単なものでよいのか?」
「そんな…はないだろう。いい出汁が出るく…」
「やめんか!!それ以上、言うでない!!」
「構わんぞ。自分で盗ってくるから、それで作ってくれ。」
そう言って、また今宵も騒がしい、馬鹿しか住民票が取れないらしい街へと、飛び出していった。
「自分で盗ってくるから…か。」
不本意だ。小娘に顎で使われる様になって久しい。だから、今更驚く事でもない。
それでも、不本意だ。
「どこの馬の骨とも知れぬ同胞の靴下で、水炊きを作れと言うのか。」
…いや、我が輩も毒されておるな。そもそも、靴下は昆布ではないだろう。
それで調理する方の身にもなれ、と怒鳴る方がまともなはずだ。
不本意だ。翼の血族の当主である我が輩が、何故そんな要望を聞いてやらればならない。
我が輩に屈辱を与えた小娘。いつかは、それを晴らしてやる為に、共にいるだけだ。
いつかは、一滴残らず吸い尽くして…
『お前が作った料理が一番美味い。明日もまた頼む。』
無表情な顔が、フッと笑う瞬間を思い出す。
自然に甘えた様なその仕草…奴がそれをするのは、我が輩だけなのだ。
長命の我々にとって、退屈が何より苦痛だ。
奴は、我が輩を苦痛から解放してくれる…家族。
不本意だが、明日は奴の生まれた日だ…だから。
「いや、今、何を考えた。我が輩もイカれておるわ。」
自分の足を見る。
不本意だ、今考えた事を実行に移すのは、屈辱を上塗りしている様なもの。
「ありがとう。やはり、お前のが一番美味いな。」
ただ、その言葉を聞きたいだけ…。
「なんだ、リクエストを聞いてくれたのか。」
「ば、ば、馬鹿を言え!靴下を置いてこい!ちゃんと手を洗ってから、座らんか!!」
着替えてテーブルに座ったタビコの前に、ポン酢と器を置いてやる。
正直見るに耐えぬので、家事の続きをする振りをして、我が輩は席を立つ。
背後で、微かにスンスンと鼻を鳴らす音と咀嚼する音が聞こえた。
「なぁ、ヴェントルー。お前の靴下は、私にとって特別だ。だから、本当は…」
その続きは、聞きたくない。
聞いてしまえば、我が輩達は今まで通りでいられなくなる。
それに、我が輩が貴様の誕生日に、『他の同胞から盗った靴下で作った、水炊きを食べさせたくない』だけなのだ。
「…誕生日おめでとう、タビコ。後で、ケーキも持って来てやろうぞ。」
だから、何かを言いかけた言葉の先手を取る。
それに、今はタビコの顔をまともに見る勇気がない。あれがよいとは、本音では思っておらん。
「ありがとう、今までで一番美味しい水炊きだ。」
「…そ、そう…か。ゆっくり…く、食え。」
だが、その一言にどこかで満足している自身がいる。
不本意ながら、その笑顔を見れただけで…今宵はそれで充分だ。
「ではな。我が輩は、もう帰るぞ。」
あいつに作って貰ったケーキも平らげて、ソファでうたた寝していた私は、ヴェントルーの言葉に、目を覚ます。
時計を見ると、とっくに日付を股越えていた。
たまには、甘えてもいいだろう?大鴉…だって、誕生日だったんだから。
「泊まっていってくれないのか?寝ていて言い忘れたが、プレゼントを貰ってないぞ?」
『泊まっていけ』と、いつも言うのは冗談だ。だが、今回ばかりは本気半分で言ってみる。
無表情だ、何を考えているか分からない、人間の変態だと言われている私だが、相応に寂しさを感じる時ぐらいはあるのだぞ?さぁ、どうでる、大鴉?
「ふざけるな!帰るぞ!!」
吊り上がった目、赤面して怒った顔…変わらないな。
少しガッカリ…でもないのだ。分からないとでも思っているのか?
「…またな、タビコ。」
そう、今日もお前はそう言ってくれるんだ。寂しいのは、ほんの少しの間だけ…お前が戻ってくる頃には、私は『お前が知っている私』に戻っているのだろう。
窓から飛びだって行ったお前を見送って、私は、彼がブラシをかけてくれた『仕事に着る』コートをめくる。
裏地一面に、貼り付けた靴下達…その中に新しい靴下が混ざっている事に、私が気付かない訳がない。
その靴下から、艶々とした黒くて細いものが覗いている事に、気づかない訳がない。
「フフ、ありがとう。ヴェントルー。」
起きるには、まだ早い。だから、私はそのコートを纏って再び眠りにつく。
大鴉がくれた黒い羽根…これから、これが私から寂しさを奪い、心地よい眠りもくれるのだろう。