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たとえ不本意でも。

全体公開 ドラヒナ以外のお話 1 4 2348文字
2024-03-06 16:29:08

タビコさんの誕生日企画「#こむわが」に参加させて頂いた、ヴェンタビのお話です。
タビコさんに、〇〇で出汁を取った水炊きをリクエストされたヴェントルー。「自分で盗ってくる」という彼女の言葉に、不本意ながらも起こした行動とは?
誕生日なので、「泊まっていけ」と甘えた彼女に「ふざけるな!またな。」と返す大鴉。彼女がうたた寝している間に、こっそりプレゼントを残していくシーンを追加しました。
2024/11/11に上げました。

Posted by @kw42431393

 「タビコ、明日は何が食べたいのだ?」
 「うん?お前から聞いてくるとは珍しいな。」

 忘れておるのか、とぼけておるのかどちらであろう。
 この小娘は、自分の性癖に関する事以外は、恐ろしくズボラだ。
 まだ、自分の年も忘れる程に、生きておるとも思えんが明日は、こやつの誕生日なのだ。
 我が輩から聞いてやるのは、癪だ。それに、奴の事だ。
 当日になって、『今日は、私の誕生日だ。ご馳走を頼む。』とでも、また言い出す可能性もある。
 まただと?そうよ、去年やられた手よ。だから、今年はかかってやる訳には、いかぬ。

 『キイー!!先に言わんか!ケーキの材料を買いに行かねばならぬであろうが!!』
 『フフ、それでも行ってくれるんだろう?大鴉?』

 分かっておって、黙っておったに違いない。洗濯を切り上げて、スーパーに行く我が輩を見て、ニヤニヤ笑っておったのだから。

 「そうだな、水炊きが食べたいな。いい出汁で頼む。」
 「水炊きそんな簡単なものでよいのか?」
 「そんなはないだろう。いい出汁が出るく
 「やめんか!!それ以上、言うでない!!」
 「構わんぞ。自分で盗ってくるから、それで作ってくれ。」
 そう言って、また今宵も騒がしい、馬鹿しか住民票が取れないらしい街へと、飛び出していった。



 「自分で盗ってくるからか。」
 不本意だ。小娘に顎で使われる様になって久しい。だから、今更驚く事でもない。
 それでも、不本意だ。
 「どこの馬の骨とも知れぬ同胞の靴下で、水炊きを作れと言うのか。」
 いや、我が輩も毒されておるな。そもそも、靴下は昆布ではないだろう。
 それで調理する方の身にもなれ、と怒鳴る方がまともなはずだ。

 不本意だ。翼の血族の当主である我が輩が、何故そんな要望を聞いてやらればならない。
 我が輩に屈辱を与えた小娘。いつかは、それを晴らしてやる為に、共にいるだけだ。
 いつかは、一滴残らず吸い尽くして

 『お前が作った料理が一番美味い。明日もまた頼む。』

 無表情な顔が、フッと笑う瞬間を思い出す。
 自然に甘えた様なその仕草奴がそれをするのは、我が輩だけなのだ。
 長命の我々にとって、退屈が何より苦痛だ。
 奴は、我が輩を苦痛から解放してくれる家族。
 不本意だが、明日は奴の生まれた日だだから。

 「いや、今、何を考えた。我が輩もイカれておるわ。」
 自分の足を見る。
 不本意だ、今考えた事を実行に移すのは、屈辱を上塗りしている様なもの。

 「ありがとう。やはり、お前のが一番美味いな。」

 ただ、その言葉を聞きたいだけ



 「なんだ、リクエストを聞いてくれたのか。」
 「ば、ば、馬鹿を言え!靴下を置いてこい!ちゃんと手を洗ってから、座らんか!!」
 着替えてテーブルに座ったタビコの前に、ポン酢と器を置いてやる。
 正直見るに耐えぬので、家事の続きをする振りをして、我が輩は席を立つ。
 背後で、微かにスンスンと鼻を鳴らす音と咀嚼する音が聞こえた。

 「なぁ、ヴェントルー。お前の靴下は、私にとって特別だ。だから、本当は

 その続きは、聞きたくない。
 聞いてしまえば、我が輩達は今まで通りでいられなくなる。
 それに、我が輩が貴様の誕生日に、『他の同胞から盗った靴下で作った、水炊きを食べさせたくない』だけなのだ。

 「誕生日おめでとう、タビコ。後で、ケーキも持って来てやろうぞ。」

 だから、何かを言いかけた言葉の先手を取る。
 それに、今はタビコの顔をまともに見る勇気がない。あれがよいとは、本音では思っておらん。
 「ありがとう、今までで一番美味しい水炊きだ。」
 「そ、そうか。ゆっくりく、食え。」

 だが、その一言にどこかで満足している自身がいる。
 不本意ながら、その笑顔を見れただけで今宵はそれで充分だ。



 「ではな。我が輩は、もう帰るぞ。」
 あいつに作って貰ったケーキも平らげて、ソファでうたた寝していた私は、ヴェントルーの言葉に、目を覚ます。
 時計を見ると、とっくに日付を股越えていた。
 たまには、甘えてもいいだろう?大鴉だって、誕生日だったんだから。
 「泊まっていってくれないのか?寝ていて言い忘れたが、プレゼントを貰ってないぞ?」
 『泊まっていけ』と、いつも言うのは冗談だ。だが、今回ばかりは本気半分で言ってみる。
 無表情だ、何を考えているか分からない、人間の変態だと言われている私だが、相応に寂しさを感じる時ぐらいはあるのだぞ?さぁ、どうでる、大鴉?
 「ふざけるな!帰るぞ!!」
 吊り上がった目、赤面して怒った顔変わらないな。
 少しガッカリでもないのだ。分からないとでも思っているのか?
 「またな、タビコ。」
 そう、今日もお前はそう言ってくれるんだ。寂しいのは、ほんの少しの間だけお前が戻ってくる頃には、私は『お前が知っている私』に戻っているのだろう。

 窓から飛びだって行ったお前を見送って、私は、彼がブラシをかけてくれた『仕事に着る』コートをめくる。
 裏地一面に、貼り付けた靴下達その中に新しい靴下が混ざっている事に、私が気付かない訳がない。
 その靴下から、艶々とした黒くて細いものが覗いている事に、気づかない訳がない。

 「フフ、ありがとう。ヴェントルー。」

 起きるには、まだ早い。だから、私はそのコートを纏って再び眠りにつく。
 大鴉がくれた黒い羽根これから、これが私から寂しさを奪い、心地よい眠りもくれるのだろう。

 
 
 


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